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姫勇者アナスタシア冒険譚  作者: 森林木
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姫様のいつもの昼下がり

ーーむかしむかしのおはなしです。せかいは、まものがたくさんあらわれて、ひとびとは、まいにちこわいおもいをしていました。そんななか、ひとりのゆうかんなけんしさまがドラゴンたいじにたびだったのです。ひとびとは、そのゆうかんなけんしさまを「ゆうしゃ」さまとよびました。ーー


アナスタシアは屋根の上に大の字になって寝転がり、空を眺めながら昔読んだ絵本の一節に思いを馳せた。

魔王、勇者、今でもアナスタシアの胸を熱くする言葉たちだ。

アナスタシアは空に向かってため息をつきながら、もう何度目かの独り言を吐き出す。


「はぁ……どうして女に産まれちゃったんだろ……」


勇者や冒険に憧れるアナスタシアにとって己が身の上は不本意極まりないのである。

栗色の艶々した髪、卵を逆さまにした様な輪郭にアーモンド型の双眸、ツンと高い鼻に瑞々しい唇。

誰もが羨むであろう容姿に加え、アナスタシアは姫と呼ばれる身分にある。

ユシアラン大陸の東部にある土壌豊かな小国「アイソル」の姫であるアナスタシアは国内外の少女たちの憧れなのである。

しかし、とうの本人ときたら、人々の羨望の眼差しを知らずか男に産まれなかったことに心底不満を抱いているのである。


「あーあ、男に産まれてさえいれば私もちゃんと剣術を教わってもっと強くなれるのに……。」


これももう何度も口に出してきた言葉である。

またもや深いため息をつくアナスタシアの耳に微かに自分を呼ぶ声が聞こえてくる。


「……様!……姫様!」


この声はプリシアか?声の主を探るアナスタシアに明瞭に呼び声が聞こえる。


「姫様!アナスタシア様!いらっしゃいませんか!?」


どうやら自室に侍女のプリシアが入って来たらしい。

もう勉学の時間か。

確か今日は舞踏だったか。

眉間に皺を寄せるアナスタシアではあるが決して勉学が嫌いな訳ではない。

世界各地を遊学している学者による探訪記を聞くことや、各地の歴史を学ぶ事は毎回胸踊る時間ではあるし、出来ることなら剣術や魔術だって学びたいのだ。

しかし父である国王は一人娘のアナスタシアに舞踏や芸術など花嫁修業のような事ばかり学ばせるのである。

当然何度も抗議はしたもののいつも


「ならんと言ったらならん!」


の国王の一声で終わってしまう。

そんなこんなで"正式には"剣術も魔術も教われないアナスタシアではあるが、その飽くなき探求心故か、はたまた諦めの悪さ故か、こっそり城内の研究室から魔術書を持ち出し独学で習得しようとしたり、近衛兵長のミアソフに頼んで秘密で剣術を教わったりしているのである。


「姫様!いらっしゃいませんか?」

「ここよ!今戻る!」


そう言うとアナスタシアは反動つけて立ち上がり屋根の際まで歩いていく。


「よっと!」


掛け声とともに屋根の縁を掴み、振り子の要領で自室に飛び込む。


「キャッ……も、もう姫様!?」


思わず小さい悲鳴をあげてしまうプリシア。

アナスタシアをやや恨めしげに見ながら抗議の声をあげる。


「姫様、また屋根の上なんかに登って。あれほど危ないことは控えて下さいませと申し上げたのに……」

「ごめん、ごめん。でもこんな晴れた日はあそこから街を眺めるのが気持ちよくてさ。それより私を探してたんでしょ?」

「あ、そうでした!姫様、舞踏のお時間です。もう先生もいらしてますよ。」

「はいはい、今行きますよーだ。」


そう言うとアナスタシアは軽くステップを踏みながら舞踏の練習場へと向かった。


「もう、姫様ったら……」


アナスタシアのささやかな皮肉に苦笑しながらも微笑ましく見送るプリシア。


「さて、お掃除しますか!」


気合いを入れ直しアナスタシアの自室の掃除に取りかかるプリシア。

窓際で羽休めしている小鳥に微笑みながらてきぱきと箒を振るうのであった。



コメントなど頂けると励みになります。必ず目は通させて頂きますので宜しくお願いいたします。

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