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8-1

久々の投稿。

 8-1.王烈(叔従父)



 冬の雪が解け、春の花が去り、夏の雲が見え始めた頃。

 俺は心を弾ませながら旅支度をしていた。ようやく潤玲が海に行けるのだ。


「水着に水鞠、陽射しよけの傘、薄手の羽織と氷菓子用の器は瑠璃にして、それから…」


「王烈、何を勘違いしているか知らんが、お前は連れて行かんぞ。あと仕事しろ」


 呆れたような視線を寄越す従兄に笑って答える。


「何を言う、潤玲が念願を果たすのだぞ?それを見届けなくして未来の夫が務まろうか!」


「少なくとも潤玲はお前の妻になる気はないし、俺も娘をお前にやる気はない。

 というか、何故一緒に行ける気になってるんだ?お前が建州に行くのを帝がお許しになるはずがなかろう」


 李遼は書簡に筆を滑らしながら、副官に指示を出す合間に再びこちらをチラリと見た。

 建州は帝都から東へ進んだ海に面した土地だ。俺は北方を守護する征北将軍の位を帝より賜っており、李遼もほぼ同じ役割を持つ鎮北将軍の位である。北方に赴くなら兎も角、東の地に訪れることはまず無い。


「俺とお前、片方だけならともかく、二人揃って帝都を留守にしてよいはずがあるまい」


「慎と翔を置いておけばいいだろう」


「あいつらはお前の配下であって皇室から官位を授かっていない。実質、翔と慎に命を下せるのは主であるお前と李家族長の俺だけだ。非常時に指示を下せる者が居なくてどうする」


「じゃあ遼が残れ。俺が潤玲を海に連れていく」


 今回、李遼が建州に行くことになったのは東海に出没した妖獣の討伐のためだ。潤玲は小姓代わりとしてそれに同行する形になっている。


 本来ならば東の守護を司る張威(ちょうかい)将軍が討伐するのが筋なのだが、張威将軍は海賊狩りで名を挙げた将であり妖獣退治の経験が少ない。そもそも東方には妖獣は殆ど生息していないため仕方のないことだ。

 すでに何隻もの船が妖獣によって沈められており、張威将軍が皇室へ妖獣退治の為の兵力要請を求めた。


 そこで白羽の矢が立ったのが李遼だった。李遼の雷神の加護は水様性の妖魔や妖獣に有効なため、千の兵を出すよりも李遼一人を送った方が確実なのだ。

 しかし氷神の加護も水様性の妖魔、妖獣に対して優位に立てる。ならば俺が代わりに行っても問題はない。


「問題だらけだろ。確かにお前の武勇は見事なものだが、俺や翔たちと比べれば劣る。

 しかもお前が最も能力を発揮できるのは兵を率いての殲滅戦。供は副官一人と身の回りの世話をする者しか許されておらんのだぞ」


「呵呵呵!俺とて武で身を立てた男、蛸だか烏賊だか知らんが一瞬で凍らせてやろうではないか!」


 胸を反らして笑うと、李遼は書簡を副官に渡しながら胡乱な目を俺に向けてため息を吐いた。


「お前がそこまで言うのであれば俺は何も言わん。だがお決めになるのは陛下だ。我を通したいなら陛下に奏上するすることだな」


「当然だ!陛下は俺のことを目にかけてくださっている、簡単にお許しになるだろう。俺が潤玲を輝ける海に連れていくことを!」


 そしてお前は帝都で留守番だ!

 呵呵呵と高笑いしながら俺は執務室を出ると護衛たちも慌てて俺に続いた。すぐに陛下に拝謁する許可を取るよう部下に指示を出しながら廊下を渡る。

 脳裏にはこれから起こるであろう未来の光景が浮かぶ。


 燦燦と降り注ぐ陽光。青い海に白い砂浜。

 清楚な水着を身に纏う、少し髪の伸びた少女。

 すらりと伸びた素足を晒して打ち寄せる波と戯れていた少女が振り返る。


『連れてきてくれてありがとうございます、烈おじ様』


 麦わら帽子を被り、黄金琥珀の瞳を潤ませて満面の笑みを俺に向ける潤玲。


「ククク……呵呵呵!待っていろよ潤玲、俺が必ずお前の望みを叶えようぞ!!」


 輝かしい未来へ向けて、俺は前進した。




「王烈将軍、今日も絶好調ですね」


「夏が近いせいか浮かれて頭のおかしさが増してきている。毎年ながら迷惑なことだ」


「あの興奮具合は氷神の加護の影響ですか?氷神は夏が近づくと解けて水神と混じり合い、外に出ようと解放的になるとか」


「お前の推測通りだ。普段から気を引き締めていれば然程影響は受けんのだが、今年の彼奴は特に緩みきっている。少しは弟を見習えばいいものを」


「なるほど……ところで前から気になっていたのですが、王烈将軍は何故、李遼将軍の執務室に私物を置いてらっしゃるのですか?」


「ん?ああ、あいつの執務室は実験器具やら女への贈り物で棚が埋まっているからな。だから溢れた普段使わない物は俺のところに置きにくる。こちらがどう思っているかなど、考えたこともないだろうよ」


「王烈将軍らしいですね」


「まったくあいつときたら……いつか全部まとめて捨ててやる」


「と言いつつ、王烈将軍が放り出していった行李や荷物を棚に仕舞って差し上げるところが、李遼将軍のお優しさですよね」


「ぬかせ。散らかされたままでは邪魔なだけだ」


 などという話を李遼とその副官がしていたことを、後ほど文官たちの立ち話を小耳に挟んで知ることになる。

 迷惑とは失礼な、と李遼がいない間にもっと荷物を増やしたのは、また別の話だ。

読みにくかったので、会話文は一行空けてみました。

役職名は実際に存在したものを使用していますが、この物語では役目は全く違うものになります。

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