↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
高3H英語  作者: 鞠矢百合


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

52/95

聖女さま、異世界へようこそ(1)

 高卒クラス自習組のランチ後と重なる、土曜日の午後。チューター業務開始の10分前。

校舎は、いつも通り賑やか。チューターの一区画含め教務室全体も、その賑やかさを受けたように充分に慌しい。

 歩夢は、いつも通りに業務前の準備を進めていく。今日の配布物の確認、打ち合わせ用の書類の印刷、教室前に張り出す生徒への本日の連絡事項用紙への手書きのメッセージ。下っ端作業だとか文句をつけるまでもなく、見事な使いっ走り作業だ。自分がしなくても、別に何も言われないだろうし、あの二人からはむしろサービス残業ならぬサービス前業務しないでくれとまで言って貰えている。確かに、先輩方なら3分片手間で片付けてしまうような作業内容だけれど、これを自分でやるのとやらないのではその日の業務効率が俄然違うことに気づいてからは、率先して事前準備を行うようにしている。日を重ねて、先輩方が3分片手間で作業を終えることが可能な理由の1つは、過去に同じようにいろんな事前準備をして来たことだということにも気づいた。「そんな下っ端みたいな仕事」と馬鹿にして押し返して学ぶ機会を逸する前に、気づけてよかったとしみじみ思う。学びがあるからにはどんな仕事でもやるんだと、厳しく自分に問うて来たあの日の律には、感謝している。絶対に口になんてしないけど。

 ただ、今日は、、、チラッとチューターの区画の端を見る。腕組をして、片隅で私服で居心地悪そうにしているケイトがさっきから地味に気になっていた。本人に存在感があるので、背景に溶け込んでいるつもりの本人には悪いが、かなり異質で目立つのだ。高卒クラスの生徒も、チラチラとうざったい視線を投げている。

「あれ?大野さん、今日は、、、どんな、、、ご用事ですか?」

 意を決して、歩夢は口を開いた。正直、聞きにくい。というか、話しかけにくい。だって、あの美貌だ。しかも、あんな感じで黙っていると、凄みさえあって、怖いくらい。

 まだ、というかいつものことなのだけれど、小百合も、暁史も校舎内にはいない。

「あれ、私の苗字をちゃんと把握している後輩もいるのね?」

笑いながらケイトが返した。

「え?普通に皆さん、大野さんって呼んでません?」

「うーん、、、水曜も金曜も、名前で呼ばれることの方が多いからね。あんまり、他の曜日にバイトには入らないし。」

「そうなんですね。」

「相変わらず、、、小百合も暁史もギリギリすぎない?」

「いえ、いつものことですし。それに、そのおかげで学べることも多いので。」

「本当に、歩夢は根は真面目よねぇ。そのパッとみたチャラいキャラに騙されてる人は多いでしょうけど。。。」

教務室の扉が、突風が吹いたように開いた。

「あ、小百合、いい加減に時間に余裕持ちなさいよ!!!」

「え?ケイト??でも、、、暁史よりは早いじゃん!!」

「どんぐりの背比べでしかないわよ。」

「そんなぁ。。。」

ほぼ全力疾走で息も途切れ途切れ、しかもカバンから必要なものを取り出すとかジャケット着るとか、仕事のためにいろいろ準備しながら、それでも普通に会話している小百合に、よくあれだけのタスクを一度にこなすもんだなと、歩夢はいつも思う。

「私は、inだから!!!今日の暁史は、きっとon!!!」

「英語で言えばいいってもんでもないからね!!」

「で、どうしたの?」

あ、それ、聞きたかったこと。結局、歩夢には答えてくれなかった。

「このあいだの水曜チューターの時に、今週の土曜クラスでは『残酷な現実』のトークするって言ってたから。就活前に、もう一度、聞いておきたくて。」

「えー。そんなの、言ってくれたらいつでもケイト専用に話なんてするのに。」

「皆と一緒で聴く方がいいの。あと他にも何人か、もしかしたら聞きに来るかも。」

「おっけぇ。」

「夏観さんには、私か何人かが傍聴する許可を既にとってあるから。」

「わかったー。」

「じゃ、例の印刷物を、、、」

ケイトの言葉が遮られる。

、、、、っっっドン!!!

突風の次は、竜巻か。物凄い勢いで、何かが横切った。

「onって言うよりもう、ほとんど遅刻のレベルよ!!」

会話の邪魔をされたケイトの声がとがった。

ひゅうひゅうと音までさせて呼吸に必死な暁史からは、もはや返事さえない。加えて、顔色も悪い。道中、かなりの無茶をして来たのだろう。

「もうちょい早く来いな、本当に。」

流石の夏観さんも、苦笑しながら口を出した。

「りっちゃーん!勝ち誇った顔をしない。あなたも一緒ですからね。」

「はい。。。」

夏観の小言に軽く項垂れながらも、小百合が分厚い束の紙をケイトに渡す。

「印刷分、105部ある。必ず、105部回収よ?他に手伝わせていいから。」

「わかってる。」

慎重に頷くケイトの手元の束を気にしながら、歩夢は小百合に尋ねた。

「あれは、、、?」

「うーん。。。2限裏あたりで、こっそり律に聞いて?」

「え?なぜ、、、教えて貰えない感じですか?」

「ごめんね、今日のトークは、ちょっと色々あって。私の口から今この教務室の場で話すのには憚られるの。律も聞きに来るって言ってたし。今は、ゴメンね。」

なんだろう。なんか悔しい。

チラッと見えた束の紙から覗く文字に、歩夢はさらに訳がわからなくなった。

、、、、、、生命保険?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。