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その体で感じて(3)

 「あの、、弟がいつもお世話に。。。」

オトウト、、、、?

それは、なんだかんだと3限目の裏、教務室で雑務を片付けていた昼シフトのチューターの3人が、そろそろ各自が担当の教室に上がろうとなった時のこと。聞き慣れない単語と、窓口で囁かれただけにも関わらずやけに教務室まで通る声に、打ち合わせ準備をしていた夜シフトまでをも含めたチューター全員が「?」という表情を浮かべて、自習室の受付窓口に視線を投げ、そのまま固まった。

 すらっとした長身に、鍛えられた細身の体躯、それでいてたおやかさのある、不思議な存在感。男性とも、女性とも思える、けれど確かに言えるのは、何か強烈な美人。

「!!!!!!」

瞬間、小百合が着ていたジャケットを来訪者の顔に投げつけ、面談用個室の1つの空きを視界の隅で確認。ジャケットが顔面着地を決めた頃には、受付窓口の横の扉から教務室を飛び出した小百合が来訪者の腕を掴んでそのまま面談室に駆け込み、当該人物を押し込んで脅迫、ではなく強気の姿勢で告げた。

「私がいいと言うまで、そこから出てこないでください!!いいですね!!!」

その後ろでは暁史が「使用中」のタグを面談室に不自然なほどの自然さで掲げ、警備員に扉の前で待機するよう指示。その後、小百合と暁史は二人でしれっと教務室に戻った。

「大丈夫、誰も認識していないと思います、深くキャップ被ってくれてたんで。」

歩夢が即座に状況を報告。

見渡しても校舎エントランス付近は、いつもの賑やかさのまま。異分子を見つけたというような、特段の騒ぎはない。

「びっくりしました。りっちゃんにもしもの場合の対処法を聞いてはいましたけど。実物はやっぱり、、、、。」

「歩夢、それ以上は、言っちゃダメ。」

「あ、はい。」

「歩夢がこの場所で件の人物に関して何かを言ったことに翼が気づいたら、また彼が心を閉ざしちゃうかもしれないから。」

だから今は我慢してね、ごめんね。けど、なんでこんなとこに登場してくれてんの、と小百合は文句を言いまくりつつ、何も見なかった、いい?何も見てないないのよ?と、ものすごい剣幕で夜シフトのチューターを脅し、

「教室上がるよー!!そっちは打ち合わせ始めてね!!」

と瞬時の切り替えを促して、この場を強制終了。やっと全員が忘れていた呼吸を取り戻した頃には、小百合たちはとっくに担当教室へ。

「とは言っても、、、こんな可能性があるとは聞いてたけど、、、実物のオーラ、、、やっぱり半端なかった。。。。」

思わずこぼしてしまった誰かの小さい小さい声は、いつもより大声で打ち合わせ開始を告げる夏観の声にしっかりかき消された。


 授業終了間際になりつつも無事に教室に到達し、「りっちゃん」の役をさくっと纏った小百合は、お疲れ様でしたぁと自身に気合を入れるようにいつも以上に声を張り上げた。今はとにかく、夜時間開講のクラスのために教室を早く空けなければならない。個人的に気になることより今は、お給料をもらっている以上は、仕事としてやるべきことに集中しなければ。

 毎度のことながら、慌ただしくも担当クラスの生徒の帰宅か自習室での自習を促していると、

「ねー、りっちゃーん。今日、ニッシー来てるんでしょう?」

「ん?ニッシー??」

「数学の先生!」

「あぁ、西橘にしたちばな先生ね。高卒クラスの補講のために、来校されてるよ。」

「やっぱりー。見にいきたーい。」

「あたしも。一度でいいから見てみたーい。」

「かっこいいんでしょう?講習会のパンフに写真ないから。。。」

「え、見にいく??行っちゃう?」

たちまち女子組に囲まれた。

「見に行くって。。。こら、先生はお仕事でいらしてるの。珍獣じゃないんだから。。。」

「だって、一度くらい見てみたいじゃん。」

ねーっと顔を見合わせる女子ズを見て、思わずため息。確かにニチタチは、珍獣みたいな存在には変わりないことを否定できないけど。

「りっちゃんも一緒に見に行こうよ。」

「これ。見に行こう、じゃありません。私はまだお仕事残ってるし。」

「えー。いいじゃん、一緒に行こうよー。講師室、一緒に入ってよー。」

「うちらだけで見に行くとか無理ー。」

「だよねー。お姉さんたち、怖いし。」

そうか、あの夜の蝶予備軍―小百合はこの際、そう呼ぶことにした−は高校生に既に認識されているのか。

「言いたいことはいっぱいあるけどね。まず、講師の先生は見世物ではありません。正直、世の中、もっと見ておく方がいい目の眼福は他にいっぱいいます、多分。うん、多分。」

面談室に押し込んだ厄介ごとがチラッと脳裏を過ぎり、小百合は自信がなくなってきた。

「え?例えば?りっちゃんは?どんな人??がいいの??いい人、いるの?」

高校生、無邪気に容赦ない。目がいつも以上にキラキラしている。この好奇心、英単語覚えにでも向けられたら、さぞかし暗記は捗るだろう。それに、もしここで適当だとしても小百合が何かを答えたら、当該人物は社会的に抹殺されるんだろうな、と『専属組』の笑顔をうっかり思い出して身がすくむ。

「そうね、また今度ね。ほら、次のクラスの生徒たち入ってくるから。早く帰るか、自習室で勉強していくか、どっちかにしなさい。」

ええっとむくれる生徒たちを追い立てる。

「今日、雨だから、帰りは風邪ひかないように気をつけるのよ。」

全く。本当にもう、要らん興味を高校生からも引き出しやがって。。。。

「あ、雨上がってるかも。傘忘れないようにね!!」

ため息と共に、それでも思うのは。

 ニシタチがあの強烈なキャラを全開にしてから、彼が出講する校舎では、恋愛ごとで成績が下がる生徒が男女ともにぐっと減ったのは事実なのだ。それを、何人の予備校関係者が気づいたのかは、知らないけれど。

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