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この星空がキレイなのはなぜと、キミが問うから(6)

「律ぅ―っ。こんなこと頼んで、本っ当にごめん、このプリントの、ここと、ここを、切っちゃってくれる?」

印刷物が複数枚一度に裁断できる大きな事務用カッターを片手に倉庫に駆け込み、乱れた呼吸のまま、らしくない乱雑さで目当てのプリントが入ったファイルを探し出すと、そのまま小百合は律に願い出た。

「え?りっちゃん、そのカッター、重いですよね?」

律はごく自然にさっと小百合の手からカッターを奪うと、詳細を尋ねるでもなく、すぐに空きスペースを確保。小さな日本刀がくっついたようなカッターの刃を所定の位置にセットし、裁断作業に入る準備を始めた。

「律、あの、、、。」

倉庫内で過去の授業配布物類に関する取り決めがすごく厳しいことは、偉そうに今日の作業前にいたばかりなのに。

「大丈夫です。これはりっちゃんが必要なこと、なんでしょう?」

「あ、、、、。」

「組織としてどうかな、と思わないでもないですが。りっちゃんを信じますし、りっちゃんを信じる決断をする自分、誇れます。あとでしっかり説明してくれればいいんで。急いでるんでしょう?行ってください。」

力強く目を見ながら小百合を急かす律に、涙が浮かびそうになる。

「ありがとう。後でちゃんと説明するから!!」

そのまま倉庫を後にすると今度は教務室に飛び込み、高校生クラス担当責任者の職員でもある夏観を探す。そろそろ教務室には戻ってきているはず。が、こういう時に限って、夏観が見当たらない。

焦る小百合の側に熊守がスッと距離をつめ、それはそれは小さな声で囁いた。

「許可する。思うように、やればいい。」

「え、、、、?」

「いいよ。俺のクビじゃ、安くて賄えないかもしれんが。お姫様の窮地を救うためなら、むしろ名誉。」

「あ、、、すみませ、、、」

「すみませんじゃなくて、ありがとう、だろ、こういう時は。後でちゃんと説明はしろよ。取り敢えず、行ってこい。」

どうしてこうも、皆、小百合に甘いのだろう。組織としては、全然ダメじゃないか。

「たっちゃん。声小さくなければカッコイイのに。。。」

「うるせぇ、さっさと行け。」

照れの代わりに湧き上がる天邪鬼な悪態に苦笑いしながら、小百合はもう一度倉庫に飛び込んだ。

 と、始業開始のチャイムが無情にも鳴り響く。

「はい、りっちゃん。仕上がってます。教室は、302。佳哉よしやさんのところ、目指してください。今日出勤した時に確認しましたから、確かですよ。この先生、チャイム鳴ってからエレベーター捕まえに行くんで、走れば充分間に合います。3階でまだよかったですね。」

手際良く、律が小百合にプリントを手渡す。いびつなサイズになった紙の束を扱いやすいようにまとめるという、嬉しい気遣いのおまけ付きで。

教室に関しては、なぜそんなことまで確認してたのかは、この際は聞かない。

「ありがとう。」

「りっちゃん、仕上がり確認は、、、」

「大丈夫、信じてる!」

叫ぶように返すと、倉庫の扉を蹴破る勢いで小百合は駆け出した。

3階まで一気に駆け上がる。302が、階段から近くてよかった。

教室の扉の前で待機して講師を待つ佳哉の姿を見つけると、その横に並ぶ。佳哉が驚いて目を丸くした。小百合が乱れている息を整える間なく、エレベーターホールから講師が教室に向かってくる。

「こちら、先ほどご相談しました本日1限目の資料となります。」

息が切れないように一気に捲し立てて、押し付けるように件のプリントを手渡すと、なぜか1枚の紙が渡された。

既視感に駆られる。

なんとなく、見たくない。受け取りたくない。だって、そう、これは何か、、、原本のよう。

「本当に間に合ったんだ。ありがとう。ではこれを、信頼してキミに預けるから。2限目開始までにお願いね。」

講師は言いたいことを一方的に言うだけ言うと小百合たちの反応を伺うでもなく教室へと吸いこまれ、パタンと乾いた音を立てて教室の扉が閉まった。

「、、、、は?」

虚しく響いた小百合の声に、その場で固まる佳哉。

「(印刷機壊れてるから印刷は無理って伝えたのに印刷しろとか)どういうこと?!」

「(担当チュータでもない小百合に教材プリント原本預けるとか)どういうこと?!」

二人の声が、虚しい旋律を奏でて重なった。


 始まったのは、地獄の第二ラウンド。


 小百合はその足で教務室に移動し、半分呆け状態の佳哉も巻き込んで、そもそもの発端となった印刷室での珍事を熊守に報告。「よく今日分の配布数が揃ったな」という熊守と「よくウチのクラスの印刷物のこと覚えていたよね」と変に感心する佳哉に、「配布物の残りと表現するには差し支えるほど異常な数が全教材分倉庫に揃っていたから、なんとなく記憶に残ってた」と説明。数がある程度揃わなければそもそもこんな無茶な提案もしていないという言い訳も添えて、小百合自身の意地をなんとか隠し。

 過去のプリントを教材として今年使用した旨の記録を熊守に頼んだ際に、改めて講師から渡された原本を見せると、二人からは露骨に嫌そうにされ。小百合だって、逃げていいなら逃げたいミッションだ。印刷機の修理を試みる間だけは原本を預かってもらい、同時に、機能不全に陥っている印刷機に関し翌日の故障修理依頼を出し。

 続いて倉庫に何度目かわからない駆け込みをして同じような説明を律宛にしたところ、律は呆れながら納得。ただ、印刷機の不具合の原因が紙詰まりでありそうならば、作業は二人でやったほうがいいと言い出して結局二人掛かりで印刷機の回復作業に取り掛かり。実際、重いインクドラムを引っ張り出したり、複雑な給紙部分に手を入れて詰まっているものを取り出すには、二人は最低限必要だった作業で。

 なんとか原本を印刷するところまで漕ぎ着けた時には、もう1時限終了間際。立派にヨレヨレ、且つ、こぎったない装いに仕上がってしまったのを、焼け石に水というのを承知で出来るだけきれいにして、1限目終了のチャイム音を無我の境地で迎えた。


 そして今、印刷物を件の講師にようやっと渡し終えたところで、まさかの地獄の第三ラウンド開始か?という状況。開始なぞ、させてなるものか。

こんなのんびり更新なのに評価をくださった方。ありがとうございました。励みになります。

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