私、成功しかしないので(3)
「ケイトも佳哉も、人遣い、荒いよね、、、?」
溢れる笑みを止められないまま、駆ける。
「しょうがないよね、女帝と女帝を守る騎士だもんねぇ。」
小百合が屋敷の中の最短ルートを考えながら独りごちると、やっと「どうでもいい」と言えるようになりつつある過去の景色が、小百合の瞼に鮮やかに蘇ってきた。
蔑称、黄金の鳥籠。心が壊れてしまった母親を解放する代わりに、小百合に用意されたこの屋敷の日々を、小百合を知らない人々はそう哀れんで愉しそうに嗤った。本家でもなく、分家でもなく、特殊な事情を抱えた者を住まわせ、密談場所に用いた屋敷。古くから続き、ありとあらゆる名前で擬態しながら続けられた捨てられるべき慣習。さほど古くない名前の1つは、サロン、だっただろうか。この場所がかつてどんな地だったか、知る人はまだ残っている。小百合自身知った上で受け入れたはずでも、その古くからの歴史を知れば知るほど憎悪だけがさらに募り、どうにか逃げ道を探して飽きる事なく脱走してみては強固なセキュリティに阻まれて連れ戻され、絶望を繰り返したあの日々。
ついに、この我が家のセキュリティのお陰で、まさか誰かを助けることができる日が来ようとは。人生は予測不可能とは、こういうことを言うのだろう。脱走常習犯となったお陰で否応なく仲良くならざるを得なかったセキュリティ担当部と警護部に自ら向かっていると言うこの状況が、これから何かをお願いしようとしている事実が、経た月日を感じさせる。
「お嬢様、こちらになります。」
少しばかりややこしい本人確認と虹彩チェックを済ませて目的地へ辿りつくと、何かを口にする前にモニターに映された資料がさゆりの視界一杯にひろがった。
「相変わらず、なのね。」
小百合の呟きに、ただそっと微笑みだけが返される。スマホなんてあからさまにモニターされているのだ。当然と言えば、当然か。
「送っておいて。」
どこにとは言わない。
「お手配済みです。ああ、流石にそのままお出になられては差し障ります。お着替えはこちらで。終わりましたらお車までどうぞ。」
流石に、そこまでは考えなかった。
「このままでもいいと思うんだけど。」
小百合は自らの服装をチェックする。何ら問題はないはずだ。いたって、普通。
「ええ。だからこそ、いささか、心許ないかと。」
微笑みの割には感じる圧のまま服を手渡され、小百合はため息をつく。時間が惜しいからだからね、と文句を言いつつ、渋々と従った。着替えるまできっと、外に出してくれないことくらいは、わかる。
勢いで車に飛び乗ると、初めて口にする行き先へ可能な限り早く着くようにお願いした。
「既に向かっております。」
渋ることなく了承されたことに思わず安堵し、ふっと肩の力が抜けた。知らないうちに緊張していたようだ。と、気づく。今日、こんな曖昧な私用で外に出ることに何1つ反対をされなかった。もしかして、監視されているだけじゃないのだろうか。いや、気のせいだろう。小百合は姿勢を正すと、考え事に没頭すべく窓の外を眺め始めた。
「相変わらず、漏れのないデータだよなぁ。で、何これ。おっそろしい精度の写真。」
ちょうどその頃、小百合のアカウントから情報を受け取った佳哉の口から抑えきれない独り言がこぼれた。小百合のアカウントから送られてきたこれらが、誰の手による者なのか分からないほど、付き合いは短くはない。
おかげで反駁材料としては、十分すぎるものが揃った。恵叶の作る放課後出席リストが完璧なことは前々から知っていた。どんなリストを作るかのベースを決める時に、あれこれ一緒に模索したのは自分だからだ。
ただ、小百合が用意した写真のデータは、想像をはるかに超えていた。車に乗り込んだ自分たち。車内での様子。途中、思いつきで寄り道したスーパーマーケット。家の門を潜った時、皆で食卓を囲んでいるとき。彼女の家を出るまでの随所の自分たちが、映されていた。彼女の家を恵叶とともに訪れた始めた時に監視カメラが各所にあると、行動全てが記録されるとは聞いていたが、ここまでとは。
小百合はしきりに恐縮していたけれど、街中でも今や監視カメラばかりなので今更気になりはしない。それにしても、もっとも驚いたのは自分たちの表情だ。4人でいる時、自分たちってこんな顔をしてるんだ。全っ然、悪くないじゃないか。普通なら見ることのできない貴重なものを見たような気がする。
盗撮されたような状態のはずの写真には、もしかして成長アルバムの代わりに撮っているんじゃないのかと思えてしまうほど、自然体で笑い合う自分たちが生き生きと映し出されていた。




