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非日常なスクールライフ〜ようこそ魔術部へ〜  作者: 波羅月
第4章  夏色溢れる林間学校
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第90話『優菜の想い』

 

「ねぇ、今どこ歩いてるんだろ?」


「皆目見当もつきません。まるで樹海ですね」



 雨で湿った地面を踏みしめながら、晴登と優菜は森林をかき分けながら進んでいた。目的地は知っている場所ないし開けた所だ。とにかく誰かに見つけて貰わなくてはいけない。

 しかし、中々目立った場所には辿り着かず、似たような景色の中を延々と歩いている。



「そうだ、晴登君の力で崖を登ることはできないんですか?」


「残念だけど、それはちょっとできないかな。それにまだ魔力が回復しきってないから、仮にできても途中で落ちるかもしれない」


「そうですか……。さすがに都合が良すぎましたね……」



 晴登の答えを聞いて、優菜はがっくりと肩を落とす。

 こんな事態に陥るくらいなら、多少無理をしてでも飛ぶ練習をしておくべきだった。自分の不甲斐なさに腹が立つ。いやでも落ちたら怖いし……


 会話が滞り、黙々と2人は前進する。何か話題はないかと晴登が考えていると、先に優菜が口を開いた。



「あの晴登君、また1つ訊いていいですか?」


「こ、今度は何かな……?」



 その言葉に晴登は身構える。さっきからの彼女の質問を鑑みると、きっと普通の質問や提案には留まらない。



「今日の花火の時って、予定ありますか……?」


「え……?」



 優菜が顔を覗き込みながら訊いてくる。この質問にはどういう意図があるのだろう。昨日聞いた「花火の噂」というワードが頭を過ぎるが、それと何か関係があるのだろうか。

 だが何にせよ、晴登には先約がいる。それは伝えないと。



「ある、けど……」


「……やっぱりですか。相手は結月ちゃんですか?」


「何で知ってるの!?」


「むしろなぜわからないと思ったんですか……」



 優菜が呆れたようにため息をつく。その後、ふと何かに気づいたような表情をして、こちらを見た。



「もしかして、晴登君は噂のことを知らないんですか?」


「う、うん。皆言ってるけど、内容は聞きそびれちゃって……」


「なるほど。だからそんなに驚いたんですね」



 優菜は納得したように頷く。しかし、晴登はまだ納得していない。毎回いいタイミングで噂の内容を知らずじまいなのだ。そろそろ気になって仕方ない。



「それで、どうして本当にわかったの?」


「噂の内容を知らないのであれば、その疑問も当然ですよね。花火の噂というのはですね、『花火を2人きりで見た男女のペアは結ばれる』というものなのです」


「……へぇ」


「思ったより驚かないんですね」


「いや、なんか思ったより普通で拍子抜けしたというか……」



 この学校のことだから、そんなベタな内容じゃないだろうと思っていたのだが、まさか本当に恋愛系だなんて。元々その可能性も考えていたために、リアクションなどとれる訳もなく。



「では晴登君は、そんな曰く付きの花火を結月ちゃんと一緒に見ることに何も感じないんですか?」


「え? ……あっ!」



 ところが優菜の言葉を理解すると同時に、みるみる内に晴登の顔が真っ赤に染まる。可能性として考えていた噂の内容が真実となった今、これまでの皆の言動が繋がった。つまり、班員の男子が告白しろと言ったのもこういう理由で……



「てことは結月が誘ったのって……!」


「ようやくわかりましたか。随分と鈍感なんですね、晴登君は」



 そうか。結月は初めから"そのつもり"だったのだ。噂の内容を隠した理由は……よくわからないけど、驚かせたかったから、とかかな?



「どうしよ……」


「何を今更迷ってるんですか? 晴登君は結月ちゃんのことをどう想ってるんです?」


「え、それ……は……」



 幾度となく聞いた質問だ。だが、答えは未だに定まらない。一体どうすれば正解なのか。そもそも正解なんてあるのか。……わからない。



「……」



 悩む晴登の横顔を眺めながら、優菜の表情も険しくなる。彼女が何を考えているのかなんて、彼は知る由もないのだが。




 そんな無言の時間がしばらく続いた後だった。



「ハルトー!!」


「「!?」」



 突然、どこかから結月の声が聴こえてきた。しかもそれだけではない。続けて聞き覚えのある先生の声も聴こえてくる。



「結月ー!!」


「こっちでーす!!」



 晴登と優菜は即座に呼びかけに応える。救助が来たのだ。こんなに早く出会えるなんて、実に幸運である。


 互いに呼びかけ合い、徐々に距離を詰めていく。そしてついに……



「結月!」


「あ、ハルト!」



 木の陰から出てきた結月と目が合うと、彼女は表情を明るく輝かせて駆け寄ってくる。そしてその勢いのまま、晴登の胸に飛び込んだ。



「良かったぁ〜生きてたよぉ〜!!」



 涙をぼろぼろと零しながら、結月は晴登を強く抱き締める。

 本来であれば、生きていることすら奇跡な事故だったのだ。彼女の心配ももっともだろう。晴登は結月を安心させるために、優しく頭を撫でてあげる。



「心配かけてごめん」


「ううん、無事で良かった。ユウナも無事で良かったよ」


「はい、晴登君のおかげで。それに救助を呼んで下さって助かりました、結月ちゃん」


「ボクはできる限りのことをしただけだよ」



 結月は涙を拭いながら、にっこりと笑いかける。晴登と優菜はそれに笑みで返した。

 それにしても、もう救助が来たということは、先程の大雨が降っていた中で結月は助けを呼びに行ってくれたということになるだろうか。本当にそうならば、感謝してもしきれない。



「ね、ねぇハルト、ちょっと痛いんだけど……」


「え!? あ、ごめん!」



 結月に指摘されて、晴登は慌てて彼女を抱き締めていた手を離す。感謝していたら、つい力が入ってしまっていたらしい。



「あ、でももう少し堪能したかったかも……」


「結月ちゃん、晴登君も困ってますし、その辺にしておきましょう」


「むぅ、残念だなぁ」



 口ではそう言いつつも、結月はすぐに笑顔に戻る。この切り替えの早さは見習いたいものだ。



「感動の再会はもういいかい? とにかく無事で良かったよ、三浦君、戸部さん」


「「山本先生」」



 結月と一緒に捜索に来ていた先生の内の1人は山本だった。彼もまたにこやかな笑みを浮かべている。



「崖から落ちたと聞いた時は肝を冷やしたよ。怪我はないのかい?」


「え、まぁいちお──」


「いえ、私は手首を捻挫しているようです。後は枝で引っかけた傷が何ヶ所か。晴登君も似たような感じです」


「ふむ。では戻ったらすぐに手当をしようか」


「はい」



 山本の問いに晴登が答えようとすると、それを遮るように優菜が答えた。

 しかし、その内容は晴登には初耳なもので、すぐに彼女に小声で尋ねる。



「え、捻挫してたの?! 知らなかったんだけど……」


「嘘に決まっているじゃないですか。崖から落ちて無傷なんて、普通に考えて怪しいですから」


「あ、確かに……」



 彼女の言う通り、死人が出るレベルの事故から無傷で生還したというのはあまりに非現実的すぎる。怪我はしたものの、偶然助かったという体で話を進めた方がいいだろう。



「それじゃあ戻るよ」


「「「はい」」」



 山本の指示に従い、晴登たち3人は行動を始めた。







「三浦君! 無事だったんだね!」


「本当に良かったぜ……!」


「優菜ちゃ〜ん!」



 現在の時刻は17時半。先生に連れられて旅館まで戻ってきた晴登と優菜は、すぐさま狐太郎と大地と莉奈に囲まれる。本気で心配したのだろう。今にも泣きそうな雰囲気だ。



「俺は信じてたぞ」


「暁君」


「……やっぱすげぇよ、お前」


「まさか。運が良かっただけだよ」



 一方蓮はいつも通りの態度だ。ここまで堂々とされると、逆に心配して欲しいとも思う。



 ──本当に、今回は運が良かっただけだ。



 着地直後に魔力が尽きたとなると、魔術を使い始めたタイミングはギリギリだったということになる。少しでも早ければ、着地より先に魔力が切れて地面に直撃し、逆に遅くても今度は木に直撃していた。初めての高さにぶっつけ本番で、よく上手くいったものだ。



「それにしても、何で助かったんだろうな?」


「っ……!」



 そんな大地の質問が聞こえて、晴登の肩がビクッと跳ねる。その疑問はもっともだ。だが、魔術を使ったなどと言えるはずもない。



「き、木がクッションになったのかな〜?」


「それよく聞くけど、ホントにありえるんだな」



 晴登の苦し紛れの答えに、大地はふむふむと頷く。もしかして納得したのか? こんな適当な理由で。でも好都合だから、そういうことにしておこう。



「それでは、三浦君と戸部さんは医務室へ向かって下さい」


「「わかりました」」



 話の辻褄を合わせるため、晴登たち2人は実際に医務室に行くことにする。捻挫はしていないが、着地の衝撃で擦りむいた所はあるから、それで誤魔化せるだろう。ひとまずこの問題は解決だ。


 ──だが晴登はこの時、もう一つの問題を完全に失念していたのだった。






 医務室で軽く手当をした晴登と優菜は、旅館のロビーにいる大地たちの元へと戻ってきた。そろそろ夕食の時間ということで、昨日と同じ調理場へと一緒に向かうために待っていて貰ったのだ。ついでに言うと、スタンプラリーの顛末も聞きたかったりする。

 山を登りながら、晴登は大地の話を聞いていた。



「優勝は頂上で会ったあのチームだ。スタンプを76個集めたらしい」


「頂上の3個のスタンプがなくても優勝したんだ……」


「そうそう。で、逆に俺たちは失格。まぁこれはしょうがないけどな」



 申し訳ない気持ちはあるが、緊急事態だったから致し方なし。もしあの事故がなければ優勝を狙えたかもしれないが、過ぎたことを考えても後の祭りだ。



「でもって優勝賞品なんだが、これが何とも言えないやつでな……」


「な、何だ……?」



 大地が苦笑いしながらもったいぶるので、晴登はドキドキしながら催促する。すると大地は徐に口を開いた。



「『今日の花火を特等席で見られる券』だと」


「それは……微妙だな」



 大地の言う通り、これは人を選ぶ賞品だった。花火を好きな人とかなら嬉しいだろうけど、あの男子たちが喜ぶかと言われると微妙なところである。

 すると大地は何かを思いついたように、ポンと手を叩いて言った。



「そうだ、"花火の噂"とか信じてるやつにはオススメかもな。ムード的な」


「あ、なるほど……って、あぁ!」


「うおっ!? どうした晴登、いきなり頭抱えて!?」



 ここに来て、ようやく重大なことを思い出した。皆と再会した喜びで完全に忘れてしまっていたのだ。花火というイベントがあることも、結月と約束を交わしていたことも。

 どうしよう、まだ告白するかどうかも決めてないのに。散々色んな人に口出しされたが、それでも踏ん切りはついていないのだ。



「ハルト」


「うわっ!? な、なに結月?」


「いや、頭抱えてたからどうしたのかなって……」


「何でもないよ! 何でも、ないんだ……」



 思い浮かべていた人物が突然目の前に現れて、晴登は必要以上に驚いた。頭を抱えていた原因は目の前にいるのだと、そんなことは言える訳もなく、晴登は顔を紅くしながら何とか誤魔化そうとする。

 それにしても、どうして結月はこうも平然としていられるのだろうか。噂の内容を知ってから、彼女を見る度に晴登はそわそわしっぱなしだというのに。


 すると、結月は晴登の耳に近づいて、小声で言った。



「今夜、花火が上がる時間になったら浜辺に来て」


「え……」



 彼女はそう言い残すと、晴登から離れていった。一方晴登は、脳の処理が追いつかず、呆けた顔でその後ろ姿を眺める。



 ──花火の上がる時間に、浜辺に来て。



 晴登は結月の言葉を反芻する。そしてようやく理解した。

 もしかしなくても、これが"呼び出し"というやつではないだろうか。マンガでは、告白する時は相手を空き教室や校舎裏といった、人気のない場所に呼び出すのが常である。つまり、結月は告白する気なのではないか。元々結月から花火に誘ってきた訳だし、噂の内容がアレなら、それはもう確定事項で……



「いや、早まるな。まだそうと決まった訳じゃ……!」



 そう口では零しつつも、もういい加減現実を見ろと、良心が頭の中で囁いているような気がした。もう、誤魔化すことはできないだろう。ついに、この曖昧な関係に決着をつけねばなるまい。



「俺は……」



 決断の時が、刻一刻と迫るのだった。






 ついにその時が来てしまった。

 花火が打ち上がるまで、あと15分。生徒たちは各々好きな場所で待機し、花火を今か今かと待ちわびている。とはいえ、わざわざ山を降りて浜辺で眺めようとする物好きは誰もいなかった。そう、1人を除いて。



「どうしよう……」



 浜辺で1人膝を抱えて座り込み、月光を反射して輝く水面を眺めながら、晴登は大きくため息をついた。結月に誘われてもなお、未だにどうすべきか答えは出せていない。夕食の時もそればかり考えてずっと上の空になってしまい、うんうんと悩んでいる内に今に至っている。

 誰もいないのは好都合だが、逆に一層緊張感は高まってしまう。


 とにかく落ち着け。結月が告白してくると仮定すると、まず晴登が告白する必要はなくなる。だから、何と答えるかに焦点を当てて考えればいい訳だ。

 だがもし、結月はただ一緒に花火を見たかっただけだったとしたら、その時は晴登が告白しなければならないのだろうか。いや、した方がいいのだろう。わかんないけど。ダメだ、全然落ち着けない──



「……っ!」



 その時、波の音に混じって後ろから砂を踏む音が聴こえた。どうやら早くも結月が来てしまったようだ。マズい、まだ考えがまとまっていないというのに。

 とにかく、最初に何と話しかけようか。そう考えながら、晴登は振り返ると──



「こんばんは、晴登君」


「え、優菜ちゃん!? 何で……?!」


「晴登君がここにいるとの情報を聞きまして、やって来た次第です」


「は、はぁ……」



 振り返ると、そこには結月ではなく優菜が立っていた。彼女はにっこりと微笑み、そのまま晴登の隣までやって来て座り込む。



「えっと、何の用……かな?」


「本当にわからないんですか? そうですね……色々答え方はあると思いますが、時間もないことですし、鈍感な晴登君には はっきり言った方が良さそうですね」



 優菜はそこでゆっくり深呼吸をすると、じっと晴登を見つめて言った。




「晴登君、あなたが好きです」




 夜風に揺られて、漣が鳴いた。


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