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非日常なスクールライフ〜ようこそ魔術部へ〜  作者: 波羅月
第4章  夏色溢れる林間学校
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第87話『スタンプラリー』

 林間学校が2日目を迎えた。今日もいい天気で、雲一つない快晴だ。逆に言うと、燦々と照りつける太陽の光を遮るものが何もないから、夏らしい暑さが晴登たちを襲う。



「あっついな〜」


「この天気で山を歩き回るのか……」


「一苦労しそうだね……」



 朝食を終え、本日のメインイベント、『スタンプラリー』の集合場所である、とある山の麓へと集まった晴登と蓮と狐太郎。今は班員と別れて、3人で集まっている。



「結局聞き逃しちゃったな……」



 そんな中、晴登は密かにため息をつく。

 何を聞き逃したかというと、ずばり昨日の恋バナの続きのことだ。今日がその花火の日だというのに、結局噂の内容も何をすればいいのかも詳しく聞けなかった。あの班員の男子とはスタンプラリーで別行動することになっているから、訊くタイミングが全然ないというのに。



「なぁ、スタンプラリーのチームってどうするんだ?」


「え? あぁ……どうしよっか。俺たち3人だけだと寂しいから、結月とか莉奈とか大地とか誘いたいかな。それでいい?」


「はいよ。お好きにどうぞ」


「僕も三浦君に任せるよ」


「ありがとう2人とも」



 承諾が得られたので、晴登は辺りを見回してそのメンバーを探す。まだ誰とも組んでいなければよいが……



「おーいハルトー!」


「あ、結月。えっと、お、おはよう……」


「うん、おはよ〜……って、何で目そらすの?」


「あ、いや、何でもない!」



 突然の結月の登場に、昨日の恋バナが頭を過ぎった晴登は、つい挙動不審になってしまう。ダメだ、今は昨日のことは忘れた方がいい。



「それより今日のスタンプラリーだけどさ──」


「いいよ! 組もう!」


「即答!? まだ何も言ってないのに……いや、合ってるけども。でも良かった。それと莉奈知らない?」


「リナならボクと組んでるから、すぐ来ると思うよ。あ、ほら」



 結月はそう言って自分が来た方向を振り返ると、確かにこちらに向かって走ってくる莉奈の姿が見えた。



「もう結月ちゃんったら、いきなり走らないでよ〜」


「ごめんごめん、ハルトが見えたからつい」


「昨日あんな話しておいて、よく平然としていられるね……」


「あんな話?」


「ううん、何でもない!」



 莉奈が何やら気になる言い方をするが、晴登には教えて貰えないようだ。女子トークというやつだろうか。うん、わからん。

 そして、相変わらず結月の一言が気恥ずかしい。



「それで、どうせ晴登は私と結月ちゃんと組むんでしょ?」


「え、何でわかったの……?」


「いや流れ的にわかるでしょ。それで後は……大地を探してる感じ?」


「お前はエスパーか」


「だーかーらー、晴登の考えてることなんてお見通しなの」


「ぐっ……」



 何か言い返してやりたいところだが、図星すぎてぐうの音も出ない。ふざけてるようで、時々察しが良いのが莉奈のずるい所だ。


 しかし、中々大地が見つからない。組んでくれると思っていたが、自意識過剰だっただろうか。それだと少し恥ずかしいのだが……



「お、いたいた。晴登ー」


「あ、大地。探してたんだよ」


「そうだと思ったよ。悪いな、連れて来るのに手間取っちまって」


「連れて来る……?」



 ようやく出会えた大地が、何やら意味深な一言を放つ。晴登が疑問に思っていると、大地の背後から彼女は現れた。



「どうも、またお会いしましたね」


「戸部さん!?」



 にっこりと微笑む優菜がそこにはいた。







「それでは、今からスタンプラリーの説明を始めます」



 集合時間が過ぎ、皆がグループに分かれて整列した前方で山本が説明を始めた。


 それにしても驚いた。まさか優菜とまで組むことになるとは。

 昨日もそうだが、最近大地と優菜の仲がやけに良い気がする。水着を買いに行った日、2人で帰っている時に何かあったのだろうか。まぁ、考えてもわからないのだが。


 ……あ、そうなると班員の男子には申し訳ないことしたな。後で謝っておこう。何となく。



「ルールは簡単です。この山の中にあるスタンプを多く集めたチームの優勝です」


「……ん?」



 頭を切り替えて、説明を聞こうと思った晴登は、早くも疑問符を浮かべた。なぜなら、知っているスタンプラリーのルールと大きく違っているからだ。

 普通スタンプラリーでは、スタンプを全部集めるのが前提のはずだろう。それなのに、多く集めるだとか、優勝だとか、そんなルールは聞いたことがない。何だか嫌な予感がする。



「山の中には、合計100個のスタンプを用意しています。それを制限時間内に、できるだけ集めるのです」


「ひゃっ……100!?」



 ほら出た。だが何かあるとわかっていても、やはり驚いてしまう。100個のスタンプラリーとか、全部集めさせる気があるのだろうか。途中で飽きてしまいそうだ。



「制限時間はこの後9時から17時までの8時間。昼食は12時からこの場所で配布しますので、各チーム取りに来てください。もちろん、昼食抜きで探すのも1つの作戦ですよ」



 そしてとんでもない制限時間の長さだ。普通、昼を跨ぐだろうか。やっぱりおかしい、この学校の行事は。



「範囲はこの山の麓から頂上まで全てです。範囲外との境界は目立つようにテープで示しているので、滅多なことがなければ外に出る心配はありません」


「ホントに大丈夫だろうな……」



 蓮が気にするのも無理はない。何せ昨日、消える通路という滅多なことが起こってしまっているのだ。ふとした拍子に範囲外に出てしまえば、それは遭難と相違ない。



「まぁ大丈夫だろ。気にすんなって」


「お前が一番の心配の種だよ……」



 相変わらず楽観的な大地に、晴登は嘆息する。今日は絶対に大地を先頭にはしないでおこう。



「そしてスタンプを100個ないし、一番多く集めたチームには、優勝賞品を用意しています。皆さん、ぜひ奮って頑張ってください」


「「「おおぉぉぉぉ!!!!!」」」



 優勝賞品と聞いた瞬間、生徒たちのボルテージがいきなり跳ね上がった。これは確かにテンションが上がる。

 しかし今の言い方だと、100個集めれば即優勝ということになる。仮に、多くのチームがスタンプを100個集めてしまったらどうするのだろうか。それとも、"そうならないための工夫"がされているというのか。



「何だかんだ、普通に面白そうじゃん」


「そうですね。普通のスタンプラリーよりは刺激がありそうです」



 莉奈と優菜がワクワクしながら言った。確かに、対戦形式というのは男子的にとても心が躍る。これは優勝目指して頑張るしかない。



「何て言ったって、このチームには成績トップ3が揃ってる!」


「だからどうした」


「あまり関係ないと思いますよ」


「俺もそう思う」


「あれぇ!?」



 優勝を確信して生まれたやる気が、その3人に一瞬で削がれる。いや、あまり関係ないというのは事実だけども。それでも、少しくらいは調子に乗ってもいいじゃないか。



「これで説明は終わりです。今は8時50分ですので、10分後にスタートします。スタンプラリーの用紙を受け取ったチームから、好きな場所に移動してください。もちろんスタートするまで、見つけてもスタンプを押してはいけませんよ?」


「「「はーい!」」」



 なるほど、開始場所は統一しないのか。統一してしまったら、皆が同じ所に行くから勝負にならないしね。



「じゃあ俺が用紙貰ってくるよ」


「お、ありがと大地。……それじゃあ、どこからスタートしようか?」


「できれば、スタンプを見つけている状態で開始したいですね」


「でも、すたんぷってどこにあるの?」


「それは探すしかないだろうよ。この学校のことだから、ただ置いてあるだけってことはないだろうな」


「隠されてたりするのかな?」


「え〜めんどくさいな〜」



 各々が思ったことを口に出す。いくら制限時間が8時間もあるとはいえ、100個もスタンプがあるのだ。隠されている可能性も視野に入れておいた方がいいだろう。


 おっと、周りのチームが動き始めた。とりあえず、まずはこの場所から動いた方が良さそうだ。



「それじゃあ大地が戻り次第、出発しようか」


「「了解!」」







「……あった」


「……あったな」



 大地が用紙を貰って来て、いざスタート場所を探そうと山に入って早5分。今晴登たちの目の前には、地面から膝くらいまでの高さの赤い直方体が鎮座している。そしてその上にはスタンプが置かれていた。



「別に隠されてなかったな」


「だね。普通に見つかっちゃった」



 蓮と狐太郎が言った。確かに、この赤いスタンプ台は木の下に堂々と置かれている。まして道沿いだ。見逃す方がありえない。



「他のチームはいないし、ここからスタートでいいかな」


「「「了解!」」」



 皆の返事が重なり、結束力を感じた晴登は口角を上げる。何だろう、今すごくリーダーっぽいぞ。ちょっと嬉しい。



「それで、この後はどう進みますか?」


「あ、それは考えてなかった……」


「普通に山登ればいいんじゃないの?」


「それもそうか」



 優越感に浸っていた晴登に、早速優菜からの質問が飛ぶが、とりあえず結月の言う通り山を登ることにする。スタンプを集めつつ、山登りもできて一石二鳥という訳だ。勝負も大事だが、せっかくなら楽しんでやりたい。



「お、そろそろ始まるぞ」



 大地が腕時計を見ながら言った。いよいよ始まるのか。楽しみだ。



「5、4、3、2、1、0──」



 大地のカウントが0になると同時に、森中にブザー音が鳴り響いた。なるほど、こうやって知らせるのか。でもこれで気兼ねなくスタートできる。



「よし、まず1個目のスタンプ確保!」


「14って書いてるな。全部に番号が付いてる感じか」


「なるほど。なら14番の欄に押さないとな」



 晴登は手始めに、目の前のスタンプを用紙の14番の欄に押す。スタンプの模様は味気ないただの赤い丸で、特に意味はなさそうだ。

 それにしても、用紙に100個の欄があるのは実に圧巻である。これは本当に途方もない。



「それじゃ、登って行こうか。目標100個だ!」


「「「おー!」」」



 しかしそれでも100個を目指してしまうのは、やっぱり男子の性というものだろう。

 晴登一行はスタンプラリー兼ハイキングを開始したのだった。






 開始してから1時間が経った。思いの外スタンプは容易に見つかり、今のところそこまで苦労はしていない。ただ……



「1時間で集まったスタンプは10個……なるほど、こりゃ100個集めるのは厳しそうだ」



 大地の言う通り、このペースだと8時間でスタンプを100個集めるのは難しい。いくら見つけやすい場所にあるとはいえ、山の中でそれらを見つけるには多少の時間を要する。



「なら走って探す?」


「断る」


「暁君ならそう言うと思ってたよ」



 それならばと、短絡的な考えを晴登が冗談混じりに言うと、もちろん蓮に拒絶された。正直晴登自身も嫌である。山の中を駆け回るのはもう懲り懲りなのだ。

 それに、この日差しの中で走り回ろうものなら、熱中症とかの危険もある。



「別に全部集める必要はないんじゃない? この感じだと、どの班もコンプは無理だろうし」


「できる限り集めるしかないようです」


「やるしかない、だね!」



 女子3人が口々に言った。その通りだ。一にも二にも、晴登たちができることはスタンプを集めることだけ。実際に100個集めるのが無理だろうと、目標100個を変える訳にはいかない。



「よし、とりあえず次のスタンプを探さなきゃ──」


「ねぇ、あれ見て!」



 晴登が言いかけた途端、狐太郎が声を上げた。つられて彼の指差す方向を見てみると、確かにそこには赤いスタンプ台がある。



「いや待て、何の冗談だ」


「やっぱりそういうことしてくるんだな……」



 蓮と晴登だけじゃなく、この場の全員がその光景を見て嘆息する。


 ──なぜならそのスタンプ台は、高く聳える断崖の中央に位置していたからだ。


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