表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
非日常なスクールライフ〜ようこそ魔術部へ〜  作者: 波羅月
第4章  夏色溢れる林間学校
92/98

第86話『キャンプの夜』

 肝試し騒動も終わり、いよいよ就寝時間となった。晴登たち1組3班は1つのテントの中で、5人で顔を突き合わすようにして寝袋に入っている。しかし天井から吊るされたランプには、未だ仄かな明かりが灯っていた。



「もう寝れる気しないんだが」


「同感」



 というのも、騒動の終わりに山本の唐突な怪談を聞いてしまったせいで、就寝時間を超えても全員恐怖で眠れなくなってしまっていたのだ。夏の夜で暑いはずなのに、何だかむしろ寒気がする。



「な、なんか楽しい話題にしようぜ。ほら、明日ってスタンプラリーだろ?」


「もう山の中歩きたくない……」


「あぁっ! 柊君が!」



 自分の嗅いだ匂いがまさか線香の匂いとも思わず、狐太郎は先程から恐怖とショックで打ちのめされていた。可哀想だが、何もかける言葉が見当たらない。



「そういえばスタンプラリーって、メンバーは班員じゃなくてもいいんだってな?」


「そうだね。3人から10人までの間で、自由に組んでいいんだって」



 ここで話がまた変わった。

 会話の通り、スタンプラリーではメンバーは班員に限らない。要は自分の仲の良い人たちと自由に組めるのだ。

 班のままでやった方がイベントとしては正しいと思うのだが、自由に組める方が気が楽だから、晴登的には特に申し分はない。



「ちなみにそれって……男女は関係ないのか?」


「ないと思うけど、それがどうかしたの?」


「え!? い、いやぁ別に……?!」



 晴登が訊き返すと、その班員はやけに慌てる。別に仲の良い女子と行くことに何ら問題はないはずだが、どうしてそこまで焦る必要があるのか。



「なんだなんだ? 恋バナか? 確かにキャンプの夜っつったらそれもアリだな!」


「そういうもの?」


「知らん! 俺に訊くな!」



 もう1人の班員の言葉を聞いて晴登が蓮に訊くと、彼は勢いよく断ってきた。何か嫌な思い出でもあるのだろうか。

 それにしても恋バナか。思えばしたことがなかったかもしれない。好きな人なんて今までいなかったし。



「おいおい、誰が狙いだ? 言いふらさないから言ってみろよ」


「いや、それは……!」


「ここまで来て日和んなよ。言えば、明日に協力してやらんこともないぞ?」


「う……」



 班員の男子2人が話を進めていく中、晴登たちは置いてけぼりだ。狐太郎は未だに震えてるし、蓮に至っては寝ようとしている。

 そんな時、渋っていた彼はついに口を開いた。



「……その、2組の戸部 優菜さんだよ」


「えっ」



 突然知っている名が出てきたので、晴登は思わず声を出して反応してしまう。

 しかし納得はできる。晴登から見ても優菜は可愛いと思うし、人気もあるからだ。



「あちゃ〜、そりゃ高望みだろ」


「うっせ、わかってるよそんなことは。でも可能性がない訳じゃないだろ」


「いや〜どうだろうな〜」



 その名前を聞いて、もう1人の男子はやれやれと首を振っている。だが確かにまだ諦めるには早いだろう。



「戸部さんなら友達だけど」


「……マジで? 何で? 学級委員繋がり的な?」


「いや、普通に」


「なんだよ、三浦ってコミュ障かと思ってたけど、結構プレイボーイじゃんかよ!」


「えぇ……」



 コミュ障という評価は間違ってはいないが、プレイボーイという評価はやめて欲しい。そんな大層な者じゃない。そういうのは大地みたいなタイプのことを言うんじゃないのか。



「そりゃ三浦には彼女がいるしな」


「全くだぜ。羨ましい奴め」


「え、彼女なんていないけど……」


「は!? だったらお前、結月ちゃんは何なんだよ! もう嫁ってか!? 彼女通り越してるってか!?」


「ちょ、ちょっと落ち着いて!」



 事実を言ったら、なぜか怒られてしまった。確かに結月とは同じ屋根の下で共に暮らしているとはいえ、さすがに嫁でもないし、そもそも彼女でもない。友達以上家族未満の存在である。



「これが落ち着いていられるか!」


「なぁ、夜なんだからもう少し静かにしてくれ……。それと、冗談に聞こえるがこいつの言ってることは本当だぞ」


「なん……だと……!?」



 つい声を荒げた男子に、蓮が眠そうにしながら言った。

 すると彼は、信じられないといった表情で晴登を見つめる。その視線はまるで、何かを訴えかけているようだった。



「はぁ……あのな、三浦」


「な、何?」


「お前バカだろ」


「え!?」



 唐突なバカ呼ばわりに、晴登もつい声を上げてしまう。だが彼は冷静に、かつ呆れたように言葉を続ける。



「結月ちゃんはどこから誰がどう見ても、お前に惚れてんの。それくらい気づいてるよな?」


「う……ま、まぁ」


「だったらさ、何で受け入れてやんねぇの? 事情があるのか知らないけど、あんな可愛い子を断る理由はないだろ? このままじゃ彼女が報われなくて可哀想だぜ」


「……っ」



 彼の言う通りだ。結月の好意は嬉しいし、断る理由なんてあるはずない。それでも受け入れないのは、単純に晴登に自信がないからだ。


 本音を言えば、結月とそういう関係になりたくない訳じゃない。彼女といるととても楽しいし、心も踊る。

 ただ、怖いのだ。今の関係からどのように変化するのかが。経験がなくてわからないからこそ、躊躇ってしまう。もしかしたら、かえって気まずくなってしまうかもしれない。それが悩みなのだ。どうすればいいのやら──



「お前だってさ、結月ちゃんのこと好きなんだろ?」


「……っ!?」


「何驚いてんだよ。隠してるつもりだったのか? それくらい見てりゃわかるわ。元から、お前に拒否権なんてないんだよ! わかったらとっととくっつけ!」


「えぇ!?」



 熱が入ったのか、再び声を大きくする男子。何とも強引な人だ。初めて会った時はこんな人だとは思わなかったのに、付き合いを深めると変わるもんだな。何だかそれが嬉しい気もする自分もいるのだが。

 ……って、そんな感慨に耽っている場合じゃない。



「ちょうどいい機会だ。この林間学校中に告っちまえよ」


「え!? そんないきなり……」


「いきなりなもんか。向こうは毎日告ってるようなもんだろ。それを見せつけられる俺たちの気持ちを考えろ」


「いやわかんないけど……」



 何だか話がドンドンと進んでしまっているが、まだ晴登は心の整理ができていない。

 というか、なぜいつの間にか告白をする側になっているのか。告白を受け入れるかどうかの話じゃなかったのか。



「男なら、当たって砕けろだ!」


「この場合は砕けたらダメじゃない……?」


「いいのいいの。何事も経験だからな」



 まるで体験したかのように男子は言った。なるほど、言っていることは間違っていない気がする。でも告白なんてしたことないし……



「よし、そんなお前にいいことを教えてやる。実は林間学校の花火には──」


「おーい、まだ起きてるのか? もう就寝時間過ぎてるぞ。明かりもついてるし、周りの班に迷惑かけないよう、早く寝るんだぞ」


「うおっ、す、すみません……!」



 彼が何かを言いかけた時、テントの外から先生の声が聴こえてきた。言わずもがな、見回りの先生だろう。慌てて彼は謝り、晴登は明かりを消す。



「ちぇっ、いいとこだったのに」


「しょうがないよ。もう寝ようか」


「そうだな」



 先生に注意された手前、これ以上恋バナは続けられないだろう。いつまたヒートアップするかわからない。


 晴登は寝袋に収まり、隣を見やる。そこでは既に、蓮と狐太郎は眠りについていた。割と騒いでいた気がするが、よく起きなかったな。そんなに熟睡しているのだろうか。

 まぁ今日だけでも色々あったし、疲れていたのだろう。晴登自身も恐怖心はだいぶ薄れてきたから、今なら眠れそうだ。


 そういえば「花火」と言えば、結月も「花火の噂」とか言っていた気がする。もしかしたら彼が言いたかったことは、そのことなのだろうか。それなら気になるから、明日訊いてみるとしよう。



「俺、結局どうしたらいいんだろ……」



 密かに悩みを残したまま、晴登は目を瞑った。






 一方その頃、別のテントでは。



「ねぇねぇ、莉奈ちゃんって好きな人いないの?」


「え〜?」



 莉奈や結月がいる班、ここでも就寝時間になったにも拘わらず、恋バナが始まっていた。ちょうど今、班員の女子が莉奈に質問したところだ。



「男子と結構仲良いけど、誰か狙ってたりするの?」


「いやいやまさか〜」


「三浦君とか幼なじみなんでしょ? 何かないの?」


「ないない。あいつは弟みたいなもんだし。私はもっと歳上の人がタイプだもん」


「へ〜」



 莉奈が答えると、女子は納得しつつも少しだけ不満な顔をする。他に期待してた答えでもあったのだろう。残念ながら、そういった話は持ち合わせていない。



「それに、晴登はもう結月ちゃんのものだから、手を出したら怒られちゃう」


「べ、別に怒らないよ! ていうか、まだボクのものじゃないし……」


「"まだ"ってことは、今後そういう可能性もあるってことだよね!」


「え、あ、あくまで可能性の話だけど……」



 結月が呟くように言った言葉に、班員の女子が耳ざとく反応する。それに気圧されながらも、結月は一応肯定した。



「私ちょっと結月ちゃんの話聞きたいな。この際、プライベートな所まで」


「えぇ!?」


「いいじゃん。せっかく林間学校にまで来てるんだから、いつもとは違う話しようよ」



 女子はぐいぐいと結月に迫る。結月は困惑し、助けを求めようと莉奈の方に視線を送った。しかし、彼女もまたその話が気になるのか、ニヤニヤしたまま助け舟を出してくれない。



「はぁ、わかったよ……。何が訊きたいの?」


「ずばり、三浦君のどこに惚れたの?」



 ついに結月が根負けすると、女子は直球の質問をしてきた。彼女らにとって晴登にはこれといった特徴がないから、どこに好意を抱いたのか気になるところなのだ。



「うーん、優しいところかな」


「おーベタだねぇ」


「それに強くて」


「そ、そうなの?」


「いつもボクを守ってくれるんだ」


「彼って騎士か何か……?」



 結月が一つ一つ答えを挙げていくと、女子たちがドンドン訝しげな表情に変わってくる。決して間違ったことは言ってないのだが。

 それにしても「騎士」か。あながち、結月にとってはそうなのかもしれない。気分はさながらお姫様だ。一応本当に姫ではあったけども。



「とにかく、ボクはハルトの全部が好きだよ」


「乗り気じゃなかった割に、そこは言い切るのね。聞いてるこっちが恥ずかしくなるよ」



 結月の大胆な発言に、女子たちは圧倒される。しかしこれはいつも公言している訳だし、今さら隠すようなことでもない。というか、この気持ちだけは誤魔化したくはないのだ。



「じゃあさ、三浦君とどこまでいったの?」


「え、どこまでって?」


「とぼけないでよ。ほら、手繋いだりとか、キスしたりとか……」


「それならどっちもしたけど」


「え!? それなのにまだ付き合ってないの!? 順番おかしくない!?」


「そう言われても……」



 結月が正直に答えると、女子は呆れたように頭を振る。しかしこればっかりは、結月にはどうしようもない。晴登が受け入れてくれない限り、この中途半端な関係は続いていくだろう。



「なるほど、問題は三浦君の方か……」


「別にいいよ、そんなに焦らなくても。ボクは今のままでも十分楽しいから」


「見ている方がやきもきするのよ! 早くくっつけって!」


「えぇ……」



 なんと理不尽な理由だろうか。本人たちの意思をガン無視である。

 そりゃ確かに、晴登と恋人関係になれたとしたらとても嬉しいけど……。



「けどそれもこの林間学校までね。結月ちゃん、花火の噂は覚えてる?」


「あ、この前話してたことだね。一緒に見るよう約束したけど」


「相変わらずのその積極性は尊敬するよ。いい? これはチャンスなの。後は大人しく噂に踊らされなさいな!」


「わ、わかった」



 結月はとりあえず納得しながら、一方で花火の噂を思い出していた。その内容は決して難しいことでも突飛なことでもないが、真偽の保証も当然ない。あくまで噂は噂という訳だ。

 とはいえ、そうだとわかっていても、緊張してしまう自分がいるのだが。



「勝負は明日! 自信を持って!」


「頑張ってね、結月ちゃん」


「いい報告を期待してるよ」


「う、うん!」



 応援されて、結月は戸惑いながらも返事をする。

 要は明日の花火の時に、晴登に告白しろということらしい。確かに舞台が整えば、晴登もきっとはぐらかすことはせずに向き合ってくれるだろう。ここで彼が受け入れてくれるかどうかが全てだが、結果がどっちに転んでもきっと大丈夫。彼となら上手くやっていけるはずだ。



「それじゃもう寝ようか」


「そうだね」



 莉奈が明かりを消し、テントの中が真っ暗になる。寝袋に入った結月は、暗闇を眺めて明日に想いを馳せながら、静かに目を閉じた。






 またまたその頃、別のテントでは。



「それじゃ恋バナしようか!」


「唐突だね〜」


「だってだってキャンプなんだよ? 恋バナしないともったいなくない?」


「そんなことはないと思いますけど……」



 ここでも女子たちがやんややんやと騒いでいた。

 キャンプの夜というか、友達と集まって寝るとこういう展開になってしまうのは、もはや中学生の性なのかもしれない。



「いいじゃん優ちゃん、しようよ恋バナ」


「私そういうの慣れてないんですけど……」


「いいっていいって」



 グイグイと恋バナに誘う女子に対して、乗り気でないのは、優ちゃんこと優菜である。

 学年一のルックスを誇り、クラスの学級委員も務める優等生。初めは人から距離を置かれていたが、月日が経って、あだ名で呼ばれるくらいには周りに慕われるようになっていた。



「ずばり好きな人は?」


「結構直球ですね……」


「私知ってるんだよ? 今日海で優ちゃんが他のクラスのグループに交じって遊んでたこと。あの中に狙ってる男子でもいるんじゃないの?」



 女子はニヤニヤしながら優菜に訊く。学年一の美少女の恋バナとか、気にならない訳がないのだ。ここらでゴシップの1つでも掴んでおきたい。



「あの人じゃない? 運動も勉強もできるかっこいい人」


「あ〜、優ちゃんを誘ってた人か。結構イケメンだからお似合いじゃない?」


「それとも、あの可愛い男子かな?」


「ありえそう〜」



 優菜を除く女子たちがドンドンと話を進めていく。当の本人は置いてけぼりだ。


 しかし、女子の1人が極めつけに問うた。



「それで優ちゃん、実際のところどうなの? あの中に気になってる人がいるの?」



 女子たちが期待の眼差しで優菜を見つめる。どうやら、誤魔化しは効かなそうだ。



「そうですね──いますよ、気になってる人」



 そう言って優菜は、柔和な笑みを浮かべた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ