表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
非日常なスクールライフ〜ようこそ魔術部へ〜  作者: 波羅月
第0章  新たな出会い
9/98

第7話『体育の時間』


タッタッタッタ……


ダン!!



「「おぉ~!」」



 周りから感嘆の声が漏れる。理由は単純。あるものを凄いと思ったからだ。



「凄いな、大地」


「そうか?」



 駆け寄ってきた俺に、汗を拭きながら大地は答える。

 だが謙遜こそしているものの、実はこいつはさっき12段の跳び箱を跳んだのだ。素人の俺たちから見れば、凄いと思う。まぁこいつも素人なんだが。



「運動はできるよな、お前」


「悪いが勉強もできるぞ」


「コノヤロー……」



 正直に誉めたのだが、言い方が悪かったせいかそう返される。

 何でこいつは何でもできる奴なんだ。

 馬鹿なこととかたまにするし、子供っぽいし、天然なところあるし、方向音痴なのに、何で基本の能力(スペック)が高いんだよ!



「まさか僻んでるんですか、晴登君?」



 しかもちょっとウザい要素あるし。

 何だよこいつのキャラ……。天然なのに天才って何? どこのマンガのキャラですか? もうやだ……。



「まぁ冗談だけど」


「冗談じゃなかったらぶっ飛ばしてたよ」


「怒るな怒るな」



 俺が怒った口調で言うと、大地はヘラヘラとしながらも謝ってきた。

 それでも少し怒りが収まらず、次なる言葉を放とうとした俺に声が飛んできた。



「三浦君、君の番だよ」


「えっ!?」



 そう言ったのは俺のクラスの担任である山本先生。

 ちなみに『俺の番』というのも、今俺たちは体育の授業を受けており、それで跳び箱をやっているのだ。ただそれは男子だけであり、女子は別の所で何かをしてるらしい。

 この体育の目的は、先生曰く「生徒の基礎体力を見たい」ということなので、女子も運動関係の何かしらをしているんだろうけど。


 ということで、俺は急いで跳び箱を見据えるように正面に立つ。



「じゃあ行くよ」



 先生のホイッスルの音を合図に走り始める。

 俺は大地ほど運動が出来る訳でもないので、跳ぶのは7段にしている。これが平凡なのかそうではないのかは知らないけど、これは跳べないといけない気がする。


 遂に跳び箱の真正面まで来た俺は少し跳ね、踏切板を両足で強く踏みつけた。もちろんそれで終わる訳でもないので、跳び箱に手をつき、跳ぶ準備を終えた俺は、勢いよく跳び上がり、跳び箱を……跳んだ。



「よし!……ってわっ!?」



 だが勢いをつけすぎた俺の体は、跳び箱を跳んだ直後にバランスを取ることができなくなっていた。

 マズい。このままでは頭から落ちる!


 跳び終わって着地するまでのコンマ数秒の間に、俺はできる限り安全な体勢になった。



「くっ……!」



 俺は必死の思いで脚を伸ばした。すると……



ズザザザァ



 マットから響く不格好な着地の音。そして……



ゴチン



「痛っ!!」



 マットからはみ出て軽く床に頭をぶつけ、悲痛な声を洩らす俺。


 骨折等の怪我は免れたが、クラスの男子に変な痴態を晒してしまった。



「ん~。晴登君は8段はいけるんじゃないか?」


「そんな気がします……」



 相変わらず寝転がったまま天を仰ぐ俺に、先生は言った。

 確かに勢いが良かったってことは、もう少し上はいけるってことだもんね。とりあえず生きてて良かった。



「じゃあ三浦君も終わったし、皆さん次に行きましょうか」


「「??」」



 ふと放たれた山本の言葉は俺たちの動きを止めた。

 当たり前だ。誰もが「今日は跳び箱の授業だ」と思っていたのだから。



「次ってどこですか?」



 皆を代表して俺が訊く。すると山本は穏やかな顔で返した。



「言ったじゃないですか、君たちの基礎体力を知りたいって。跳び箱だけじゃ分かんないでしょう?」


「それはそうですけど……」


「大丈夫。もういっそ、体力テストとでも思えば楽になるかもね」



 体力テスト、か。先生はやることが大きいな。たかが基礎体力確認なのに……。

 俺の運動能力の無さを改めて知るのはごめんだよ……。



「四の五の言っても変わりませんよ? とりあえずついてきてください」



 無理だ。この人には逆らえない……。






「着いたよ」


「先生……」



 俺は目の前の光景に戦慄した。

 言ってやれ。このおかしな先生に!



「これ、どう見ても“ロッククライム”ですよね!?」



 俺らクラスの男子の前に現れたのは、テレビでよく見る“壁に色とりどりの石が組み込まれているやつ”だった。つまり登るやつ。



「まさか登れとか言いませんよね……」


「言わないと話が進まないんですけどね」



 もうヤダ! 勘弁してくれ!

 何で中学生がロッククライムなんかしなきゃいけないの!? おかしいよ!

 これで何の能力がわかるって言うんだ!



「では大地君、やってもらえるかな?」


「良いですよ」



 大地が引き受けた以上、俺たちはやらなければならなくなった。裏切り者め……。

 もうダメだ。諦めよう。腹を括るとはこのことだろう。



「じゃあ行きますよ」



 いつの間にか命綱を取り付けた大地。

 先生に確認をとり、今にも登れそうな状況だった。



「はい。気をつけて」


「よしっ!」


「……」



 大地、お前本当はやったことあるだろ。どうしてそんなにヒョイヒョイ登れるの? 運動ができるって言っても限度はあるよね?!


 そんな俺の気を知る訳もなく、大地は10m程あった壁を難なく登ってしまった。素人なのに。非常におかしい。



「それでは皆も順番にやりましょう」



 悪魔の一声が掛かった。






「はい。では次に行きましょう」


「ぜぇ……ぜぇ……」



 キツい。3mも行けなかった……。てか、そもそも次の石に手が届かないし。

 しかもこれで終わりではなく、まだ何かをやるようだ。いやもうダメ、やられる。



「大丈夫か晴登?」


「無理……」



 もはや大地の優しさにも対応できない。

 どんだけ疲れてんだよ俺。普段運動はしないからな……。



「着きました」



 無駄に広大な学校を歩き回り、今度着いた場所は──



「普通にグラウンドですね」


「はい。今度は50m走です。簡単でしょう?」



 難易度は下がったが、既にモチベが下がっているため、やる気を駆り立てられない。皆も同じ気分だろう。1人を除いて。



「では出席番号順に4人ずつやります。出席番号が早い順に並んで下さい」



 出席番号が早い4人がスタートにつく。全員疲れきった表情をしている。



「始めますよ。よーい──ドン!」



 先生がピストルを鳴らすと4人は走り出した。

 全員走り方が何だかぎこちないが、それでもゴールへと走っている。



ピッピッピッ



 先生が持っているストップウォッチを3回鳴らす。3人がゴールしたようだ。大体8秒はかかったかな・・・って、



「ぜぇ……ぜぇ……」


「「えぇ!!?」」



 えっとあれは……暁君だっけ!? 何でまだ30m地点にいるの!? つか今にも倒れそうなんだけど!?


……はっ! そういえば、



『暁君、4段失敗……』


『暁君、結果1m……』



……って先生が今までの競技で呟いていた!!


てことは……



「暁君ってさ、絶対運動苦手だよね」


「苦手って次元じゃないだろ」



 大地と話してその結論に至った。

 彼は頭は良いが、運動がてんでダメなのか。

 だったら、大地は勉強も運動もできるし、その点万能だな。

 完璧そうな暁君にもそんな弱点があったとは……。



「暁君、13秒53……」



 何か先生が呟いているけど、よく聞こえなかったな。

 でもたぶん、クラスで最下位のタイムであることは間違いない。可哀想に、暁君。



「じゃあドンドン行くよ」



 先生が言った。

 もう次の4人はスタートの構えをしていた。



「よーい──ドン!」



 スタートの合図が響いた。






「……てことがあったんだ」


「へぇ~。大変だったね、男子」


「大変ってレベルじゃねぇよ。死にそうになったんだから」


「家にずっと引き籠っているからだよ」


「ぐうの音も出ねぇ……」



 俺は今帰路についている。そして今日の体育の出来事を莉奈に話しているところだ。

 ちなみに女子は別の先生の指導の元、体育を行っていたそうだが、なんと体操をずっとやっていたそうだ。しかも俺らの体育よりも数倍楽そうなのを。



「晴登ったらすぐ疲れてよ~」


「お前が特別なんだよ。最後まで涼しい顔しやがって」


「だって簡単だったもん」



 あの50m走が終わっても、いくつか競技があった。鉄棒だったり幅跳びだったり、終いには砲丸投げをさせられた。骨が折れるかと思ったけどね……。

 クラス男子は大地以外、早く終わらないかと強く願っていたはずだ。

 しかし大地だけはやはり、全てを完璧と言えるほどに達成していた。おかげで先生から数々の称賛の言葉を貰っている。



「にしても暁君がね~」



 俺が今日発見した事実だ。

 『暁君は運動ができない』

 非常に失礼な物言いであるかもしれないが、アレはどう見ても驚く。

 だってあんなクールな人が、汗水垂らして不格好な走りを見せていたのだ。……ちょっと面白かった。



「で、晴登はどうだったの?」


「え?」


「すぐ疲れたってのはわかったけど、結果はどうだったの?」


「えぇ……」



 結果というのは、今回クラス男子が行った競技の結果を元に先生が作成した体力データのことだ。

 一人一人ランク付けがされており、最低のEランクから最高のAランクまである。

 もちろん大地はAであった。



「ねぇ~、晴登は?」


「……C」



 恥ずかしい。もう埋まりたい。

 ちなみにCというのは平均の値である。つまり、俺はまたも“平均”だったのだ……。



「晴登ってホント普通だよね~」


「わざと言ってるかは知らないけど、傷つくから止めて……」


「晴登ってホント普通だよな~」


「お前はわざとだろ!」



 莉奈と大地が交互に俺をいじってくる。

 関わってもらえることに悪い気はしないのだが、せめて題材を変えてほしい。ホントにヘコんでるから……。



「まぁでも……」


「?」


「それが晴登だよね」


「だな」


「お前ら……!」



 不意な言葉に俺は感動し涙を出しそうになる。こんな俺でも、彼らは受け入れてくれるのだ。

 あぁ、やっぱりこいつらが友達で良かった。



「……とか言ったら晴登泣いちゃうかな?」


「どうだろうな?」



 だけど……やっぱりウザい!!



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ