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非日常なスクールライフ〜ようこそ魔術部へ〜  作者: 波羅月
第4章  夏色溢れる林間学校
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第78話『夏のはじまり』

 夏休み。

 それは誰もが心躍らせる、魅惑の休暇。そして子供にとって、最高の思い出の1ページになる期間だ。夏祭り、海水浴、スイカ割り……楽しみを例に挙げるとキリがない。


 そしてここにも、そんな夏休みを心待ちにしている者たちがいた。



「なぁ晴登、聞いたか? 林間学校の話」


「え? いや、聞いてないけど。あるの?」



 その話題が出たのは、水泳の授業の自由時間の時だ。プールに揺蕩っていた晴登に、大地が嬉々とした様子で言う。



「あるある。先輩が言ってたんだ。1年生は夏休みの間に、2泊3日で自由参加の林間学校があるって」


「これまた盛大な行事だなぁ」



 またイベントかと、考えるだけで既に気疲れするが、しかし夏休みなんだから、イベントがあるのも当然といえば当然だ。よく考えると、今回は学校関係の行事だから、さすがに魔術云々が絡むことはないのではないか。

 これは久々にゆっくりできそうな機会の予感。



「もちろん行くよな?」


「当たり前だ!」


「お前ならそう言うと思ったぜ」



 そうとわかれば、晴登は単純だった。最近物騒なことに巻き込まれ続けて、ようやく手に入る日常だ。エンジョイせずしてどうする。

 大地のニカッとした笑顔につられ、晴登も笑みを返した。



「なになに〜? 2人でニヤニヤしちゃって〜」


「何の話してるの?」



 すると、その様子を見た莉奈と結月が声をかけてきた。

 大地は2人にも同じ質問をする。



「林間学校の話だよ。2人は行くの?」


「あぁそれね。私はもちろん行くよ!」



 予想通りだが、莉奈は行く気満々だ。

 というか、逆に行きたくない人なんているのだろうか。こんなに楽しそうな行事なのに。



「結月ちゃんは?」


「リンカンガッコウ……が何かはわかんないけど、ハルトは行くの?」


「え、行くけど……」


「じゃあボクも行く!」


「おぉ、ブレないねぇ」



 これもおおよそ予想はできていたが、それ以前に何だか気恥しい。大地も莉奈もニヤニヤとこちらを見つめてくる。

 全く、結月はもう少し考えて発言して欲しい。



「それじゃこのメンツは参加決定だな。他の奴らにも訊いてみよっと」


「あ、じゃあ俺も……」



 大地がそう言ったから、晴登も個人的に気になる人に訊いてみることにする。






「林間学校? 行く訳ねぇだろ。めんどくせぇ」



 いた。林間学校に行きたがらない人がここにいた。もっとも、これに関しても予測のついたことだ。プールサイドに腰を下ろしている彼、蓮がこういったキラキラとした行事に参加したがるはずがないと。

 あ、これは別に馬鹿にしている訳ではない。そういう人もいるだろう。



「いいじゃん、暁君も行こうよ。ね?」


「何だよ、行きたい奴らで勝手に行けばいいだろ。自由参加なんだろ? だったら参加しない権利も俺にはあるはずだ」


「そうだけどさー」



 無理強いは良くないとわかっているが、やっぱり友達と行事を楽しみたいと思うのだから仕方ない。特に蓮とはこれからも関わりが多いだろうから、もっと親睦を深めるチャンスでもある。



「行こうよ行こうよ〜」


「やめろ、プールに引きずり込もうとするな!」


「行こうって〜」


「わかった、わかったからそれ以上引っ張るな! 気持ち悪い!」


「酷い!?」



 晴登が甘えるように蓮の腕を引っ張っていたら、彼はようやく首肯した。その代償として、罵声を浴びせられた訳なのだが。

 確かに、男が男にそうしても誰得の絵面なのかわからない。ちょっぴり反省だ。



「柊君はどうするの?」


「え、僕?! えっと、行ってはみたいけど……」



 蓮と同じくプールサイドに座っていた狐太郎にも、晴登は声をかけた。彼は相も変わらずパーカーで顔を隠している。

 今の返答だと、行かない可能性の方が高そうだ。



「柊君も行こうよ。絶対楽しいって」


「うーん……」



 人と関わるのを極端に避けていた彼には、少し荷が重い話だろうか。しかしこの機会を逃すのは惜しい。集団生活に慣れるチャンスなのである。それがわかっている彼は、うんうんと唸り続けていた。



「だったら一緒に行動するからさ。ね?」


「……三浦君がそう言うなら」



 口から出まかせな提案だったが、何とか受け入れてくれたようだ。とはいえ、狐太郎ともっと会話する機会が欲しかったから、これはむしろ望ましい結果である。



「よっし!」



 晴登は勧誘が成功して、喜びに小さくガッツポーズをとるのだった。







「林間学校? そういやあったなそんなの」


「懐かしいわね〜」



 今日の授業も終わり、今は部活タイム。晴登は林間学校について、終夜たちに訊いていた。

 ちなみに、蓮や2年生の方々はもう既に帰ってしまったので、今は晴登に結月、終夜と緋翼の4人しかいない。



「それで、林間学校ってどんな感じなんですか?」


「どんなって言われても、海で遊んだり、山でスタンプラリーしたり、夜は肝試しとか花火があった記憶しかないが……」


「めちゃくちゃ面白そうじゃないですか! 楽しみだな〜」


「確かに、楽しいのは本当ね。ただ、ちょっとクセが強いけど……」



 晴登は、終夜の答えに目を輝かせてワクワクする。

 ただ一方で、苦笑いしている緋翼の言葉も気になった。この学校の行事にクセがあるのは、先日の肝試しの件を思い返すと納得するのだが、果たしてどんな風なのだろう。まさかまた異世界に行ったりしないだろうな。



「すたんぷらりー? 何それ?」



 結月は見知らぬワードに疑問符を浮かべる。

 少なくとも、彼女が住む地域には"水泳"がなかったぐらいなのだ。知らなくても不思議ではない。



「じゃあそれは当日のお楽しみってことで。その方が面白いでしょ?」


「うん、そうだね!」



 満面の笑みを浮かべる結月に、晴登は無意識に微笑んだ。何度見てもいい笑顔である。



「けっ、いいよな〜夏休みがあるなんてよ」


「そういえば、3年生は今年は受験勉強なんですよね」


「あぁ、全く大変だぜ」



 今まで意識していなかったが、もう7月ともなると3年生は部活動引退の時期だ。終夜たちとこうして団欒することがなくなるのだと思うと、寂しいものがある。



「まぁ、まだ部活は引退しないんだけどな」


「え、しないんですか!?」


「魔術部の3年生の正式な引退は夏休みが終わってからなんだよ」


「そ、そうなんですか……」



 そんなに引退が遅くて、受験勉強は大丈夫なのだろうか。いや、そもそもなぜそんなに遅いんだ。もしかして、夏休み中に何か活動があるのだろうか。



「それでも、俺らは夏休み中は大体受験勉強だから、結局夏休みはないってこった。お前らも2年後はこうなってるぞ」


「うげぇ、そんなこと言わないでくださいよ。まだ1年生なんですから」


「はっはっは。なら今のうちに学校生活をエンジョイするんだな」



 終夜の快活な笑いに晴登は肩をすくめる。

 しまった、引退が遅い理由は訊くタイミングを失ってしまった。でもきっとそのうちわかるだろうから、今は気にしないことにしよう。



「あ、そういえば言い忘れてたが、お前ら水着を買っておいた方がいいぞ。海まで行ってスク水なんてダサいからな」


「あぁ〜そういえば」



 それは盲点だった。となると、スク水しか持ってないから買いに行く必要がある。大地にでも相談するとしようか。



「となると、結月も別の水着か……」


「何か言った? ハルト」


「あぁいや、何でもない!」



 その誤魔化しに結月は首を傾げているから、本当に晴登の呟きは聞こえていなかったのだろう。危なかった。

 さて、普段見るスク水の格好でも十分に魅力的な結月は、他の水着だと一体どんな風になるのだろうか。男の子的にとても気になる。



「三浦、あんまり浮かれすぎんなよ?」


「べ、別に浮かれてないですよ!」


「ホントか〜? まぁいいや。とりあえず、楽しんでくるといいさ。よし、今日は特にすることもないので、これで解散!」



 終夜の言葉で部活が締めくくられ、今日の学校生活は終わりを迎えた。







「えぇ〜海で遊べるの〜? いいないいな〜!」


「智乃はまた今度な」


「ズルい〜!」



 時は夕食を終えて、晴登が智乃に林間学校について話をしたところだ。彼女はぴょんぴょんとしながら嫉妬を顕わにしている。



「お兄ちゃんと海に行きたい〜! 結月お姉ちゃんだけズルい〜!」


「ごめんねチノ。でもこればっかりは仕方ないから」



 駄々をこねる智乃に結月は穏やかに対応する。だが、その表情が若干ドやってるように見えるのは気のせいだろうか。気のせいだと思いたい。



「くっ、こうなったら無理やりついて行くしか……」


「ダメだ。大人しくしてろ」


「ぶー」



 ぶーたれる智乃を見て、晴登はやれやれと嘆息する。

 友達との旅行ならまだしも、さすがに中学生の行事である林間学校に小学生の智乃を連れて行くことは不可能だ。こればっかりは我慢してもらう他ない。



「……お土産買ってこないと許さないからね」


「いや俺悪くないだろ。そもそも、林間学校にお土産とかあるのか……?」


「ふーんだ」



 代案に疑問を持つ晴登をよそに、智乃は立ち上がり、さっさとお風呂に向かってしまった。

 納得はしてくれたみたいだが、これはしばらく口を聞いてもらえなさそうな雰囲気だ。



「……チノは寂しがり屋だね」



 結月がポツリと呟いた。

 確かにそうかもしれない。両親がいつも外出しているから、智乃は常に晴登と共に過ごし、そして頼れる兄として慕ってきた。だから晴登がいない時、彼女がとても寂しがるのは想像に難くない。



「全くだ。これじゃ、 いつまで経っても独り立ちできそうにないな」


「ん、それだと困るなぁ。ボクとハルトの2人きりの生活ができなくなっちゃう」


「な……!?」



 いきなりの堂々たるプロポーズ。その不意打ちには、晴登も顔を真っ赤にして照れてしまう。

 しかし結月は、その様子に気づかないまま立ち上がって、



「さて、ボクもチノと一緒にお風呂に入ってこようかな。お姉ちゃんが機嫌をとってあげなきゃ」



 そう言い残すと、結月もまたお風呂へと向かっていってしまった。もうすっかり、智乃のお姉ちゃん気取りである。


 そして部屋に一人取り残された晴登は、大きくため息をついた。



「どうしたんだよ俺……」



 頬の熱が未だに引いてくれない。

 今までなら冷静に一蹴していたはずなのに、ここ最近やけに結月の言葉に過剰に反応してしまう。一体どうなってしまっているのだ。



「これがいわゆる……」



 そこまで呟きかけて、止める。この先を言うのは、何だかこっ恥ずかしい気がした。

 晴登は首を振り、頬を叩いて心を落ち着ける。とりあえず、別のことを考えて誤魔化そう。



「……あ、結月が行ったら逆効果じゃない?」



 そしてそう気づいたのは、風呂場から智乃の大声と結月の笑い声が聴こえてきた頃だった。




 ──夏休みまで、あと1週間。

 

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