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非日常なスクールライフ〜ようこそ魔術部へ〜  作者: 波羅月
第0章  新たな出会い
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第5話『最初のテスト』

 時刻は午前11時。

 入学式も終わり、無事にロングホームルームも終わり、俺たちは皆帰路についた。

 俺は今、莉奈と大地と帰っている。


 あの時のテスト宣告。入学早々テストがあるのは当たり前なんだろうが、明日という厳しい状況に置かれた俺は悩み所であった。

 テストの話以外は普通の連絡だった。なのに、『テスト』の三文字だけ、小学校の頃とは別物のオーラを感じとれた。



「テストか~」


「大変だな~」


「気楽にいこうぜ」



 俺と莉奈がぼやく中、一人悠々としている奴が隣に居た。



「お前だけだよ。そんなに余裕なの」


「そうか?」


「そうよ」



 全然大地は小学校の頃から変わっていない。


 こいつは昔から、テストや何や言われても怯えず、100点を取り続けていた。しかも今みたいに結構余裕そうに。羨ましい限りだ。



「中学校のテストって順位が出るそうだから、お前のこの学校での実力がわかんじゃねぇか?」


「上位くらいはいけるだろ」


「やめてその余裕発言。自分が惨めに思えてくる」



 大地のあまりの余裕ぶりに、俺は少しばかり恐ろしさを覚えた。

 そして同時に「下位に落ちて痛い目をみやがれ」とも思った。……叶うことはないだろう。


 かくなる上は……



「なぁ大地。勉強教えてくれないか?」


「あ、私も」



 頼み込んで、自分の得点を上げるよう努めてもらうしかない!



「いいよ」


「「よし!」」



 やはりこいつは話が分かる奴だ。え、話をややこしくするって? 気にしない!


 という訳で、一度家に帰宅して昼食をとった後、俺の家に集まることになった。






「ただいま」


「あ、おかえりお兄ちゃん」



 俺が家に帰り着くと、玄関に智乃が立っていた。ランドセルを置きながら言ってくる辺り、小学生も今日は今時が帰宅時間なんだろう。


 おっと。忘れない内に……



「今から莉奈達と集まってテスト勉強するから」


「へぇ。中学ってもうテストがあるんだ」


「ああ。全く大変だよ」



 とりあえず俺は、智乃にリビングを空けとくよう伝え、二階にある自分の部屋に入った。






ピンポーン



「!?」



 いきなりのチャイムに対し、俺はベッドから跳ね起きる。

 いけない。今完全に、ベッドの上でウトウトと昼寝を始めそうになっていた。時計を見ると、午後1時を示している。



「お兄ちゃ~ん」


「おう!」



 1階から智乃の声が聞こえてくる。やっぱり莉奈か大地のどちらかが来たのだろう。


 俺は返事をしながら、急いで階段をかけ降りた。



「はいはい……」


「よっ!」

「どーもー!」


「うわっ!?……って何だ、2人で来たのか」



 俺が玄関のドアを開けた瞬間、大地と莉奈が雪崩込むように入ってきた。あまりの勢いに尻餅をつきそうになったが、何とか持ちこたえた。



「今ビックリする要素あった?」

「ないよな」


「いや待ておかしい」



 人ん家に入るならマナーってものがあるだろ。なぜそれに気づかないんだ? 普通はドアを開けた瞬間に飛び込んでは来ないよ。



「まぁ早く勉強やろうよ!」


「そうだぞ。お前が言い出したんだからな」


「はいはい。こっちだ」



 莉奈がいつにも増してノリノリなのは気になるが、大地の言い分が最もなので、まずは2人を連れてリビングに向かった。



「お! 整理されてるね~」


「あ、あぁ……」



 莉奈がリビングに入って早々言った。しかし、これには俺も驚いてる。

 だって、さっきまでもう少し散らかってた気がするんだが? 智乃が掃除してくれたのかな。



「このお菓子食っていいか?」


「えっと……いいぞ」



 今度は大地が、リビングの真ん中にあるテーブルの上の菓子類を指差しながら言った。


 このお菓子……いやテーブル自体さっきは無かった。

 やっぱり智乃のおかげか。あいつは面倒見が良かったり、気が利く所があったりと本当に出来の良い妹だ。


 ……と俺は涙を流しそうになる。いや本当にありがたい。



「さて、始めるぞ!」



 俺の一声で、3人のテスト勉強が始まった。






「ふぅ、終わった~!」



 大地の声がリビングに響いた。

 そう彼は、今回のテスト勉強の主であるワークをやりきったのだ。



「え、嘘!?」


「早すぎない!?」



 もちろん、その超人じみたスピードに、俺たちは感嘆の声をあげる。



「え? 1時間以上はかかったよ」



 しかし「え? 遅い方だよ?」みたいな反応をする大地に、俺は少々妬みの感情を覚える。



「いや、俺まだ半分なんだけど……」


「同じく……」



 俺たちの学力はいたって平凡。このスピードが当たり前なんだが、やはり早い奴がいると自分らが遅いと錯覚してしまうのだ。



「ん~? 何でだ? これって結構簡単だけど」


「お前にとってはな! そりゃ確かにこのワークは学校から貰った『小学校のまとめ』だけどさ! 俺らこの前まで小6だったからね!?」



 そうだよ! 俺らはこの前まで小6。つまり、さほど復習はできていないのだ。

 問題が基本問題ならまだ解けるが、意外と発展問題が多いので、俺と莉奈は苦戦している。


 まぁ、それらを悠々と解いた奴が目の前に居るんだが……。



「お前春休みとか勉強してたのか?」



 俺は大地に疑問をぶつけてみた。

 これだけ小学校のまとめができるんだ。きっと復習をしっかりやったんだよ、こいつは!


 俺はそうだと信じ、大地の返答を待った。



「いや全く」



 よし、排除しよう。最近マンガで見た“ドロップキック”とかいうヤツでもお見舞いしてやるか。



「わー待て待て、落ち着けって! 何か目が怖いって!」


「これが落ち着いていられるか!」



 俺の怒りの形相に焦ったのであろう、大地は即座に俺を宥めようとしてくる。



「いや、小学校の復習はしたよ、うん!……2時間ぐらい」


「お前、絶対そこ動くな──」



 そこまで言いかけた俺の言葉は、ドアが開く音で遮断された。何かと思い、俺と大地は同じタイミングでその方角を見る。



「お兄ちゃんたち、近所迷惑だよ」


「「……はい」」



 そこには「迷惑だ」と言わんばかりの……というか既にそう言った智乃の姿があった。

 そしてそう注意した直後、リビングから姿を消した。


 もちろん、この言葉を言われてもなお喧嘩を続けられる程、俺たちはヤンキー染みてない。ひとまずは喧嘩を止めてくれたことに感謝しておこう。



「2人とも情けないねぇ。智乃ちゃんに言われただけで喧嘩止めるとか、ビビり?」



 ふと、ドアとは正反対の方角から声が聞こえてきた。無論、このリビングに俺と大地以外は1人しか居ない。


 そう思って俺は振り向いたのだが、そこに見えた光景にさすがに口を開かざるを得なかった。



「人の許可も得ずにマンガを勝手に読む奴は、一度ビビりを経験してこい」


「え、何のことかな~?」



 俺の目の前に現れたのは、ソファに横たわりながら本棚に置いてあったマンガを勝手に読んでいる、莉奈の姿だった。

 あまりの状況についつい変な言い方をしてしまった。



「昔はよく読ませてもらったよ?」


「いや、勉強会なのに漫画を読むのはどうかと思う」


「だってコレ新巻だよ? 晴登買ったんでしょ?」


「まぁそうだが」


「晴登の家って色んなジャンルの漫画が揃ってるから、読み飽きないんだよ」


「俺ん家は図書館じゃねぇ!」



 なるほど、わかったぞ。

 なぜこいつがワクワクしていたのかが。こいつは……俺ん家に“マンガ”を読みに来やがったんだ!


 そりゃそうだよ。“勉強よりスポーツ派”の莉奈が、勉強を楽しみにする訳がない。

 だがしかし、早くマンガを読むのを止めさせなければ、莉奈どころか俺のテスト勉強も捗らない!


 どうしたものか……ん? 待てよ?

 確かこいつは“勉強よりスポーツ派”の前に“花より団子派”じゃなかったか? そしてこいつにとっての『団子』とはすなわち……



「じゃあお前は休憩がてら漫画を読むということで、俺と大地はプリンでも食って休憩するわ」


「……! なるほど、良いな!」


「……!」



 よし食いついた! 見よ、あのキラキラとした目!

 莉奈は昔からスイーツ、その中でもプリンが大好きなのだ。つまり莉奈にとっての団子とはすなわち『プリン』なのだ!

 なので今回はそのプリンで釣って、勉強を捗らせようという作戦を実行する。我ながら良い作戦だ!

 大地も俺の意図に気づいたようで、話を合わせてくれている。都合が良い。



「お~? 冷蔵庫に丁度良い頃合いのプリンが3つあるな~? でも莉奈は漫画に夢中だから、俺が2つ食べようかな~?」


「な! 俺が2つ食べるっつーの!」


「……っ!」



 良い感じだな。この調子で最後に月並みのあの発言をすれば、こいつもやる気になるだろう。



「じゃあ大地、半分に分けようぜ? 1人1.5個分な?」


「……まぁいいだろう。その前に俺たちの1個分を先に食おうぜ?」


「それもそうだな」


「……」



 うっ……! ちょっと涙目になりやがった……!

 だが、ここで止めてはこいつは成長しない!……あれ、趣旨変わってね?



「…………」


「「!!」」



 何か不思議とウルウルが増加してる!? マズい、このままでは俺たちが負ける!



「(おい大地、どうするよ?)」


「(やっぱ食べさせてやるか?)」


「(いや、あいつにとってプリンは動力源だ。だったらそれで釣って勉強させないと!)」


「…………………」



 だーっ!! ウルウルの量がおかしいだろ!? もうほぼ泣いてんじゃん!

 くそっ、もう少し粘りたかったんだが……。



「じゃ、じゃあワークを最後までやったら、えー、その……プリンを1つ、譲ってもいいぞ?」


「わかった!!」



 はぁ……。何だこの晴れやかな目は。やる気に満ち溢れていやがる。マジでやる気だよこいつ。



「俺はあまりやる気がしないんだがな……」


「よし! せっかく莉奈ちゃんがやる気になった所だし、晴登も一緒に頑張れよ!」


「な!? 俺を巻き込むなよ!」



 大地よ、いきなり何を言い出すんだ!? 俺は別にやらなくても……。



「お前だって終わらせないと、明日のテストはヤバいぞ?」


「くっ……裏切ったな!」


「俺はとっくに終わってるんでな」



 ……ダメだ。俺が何を言おうと、正しいのは大地だ。結局、俺もワークを終わらせろってことか……。



「さぁ晴登、ちゃちゃっと終わらせるよ!」


「お、おう……」


「プリンはちゃんと残しといてやるよ~」



 現時刻は午後2時30分。俺と莉奈の長いテスト勉強(後半)が始まった。







 翌日──


「それでは、最初のテストを始めます。まずは国語です。昨日渡したワークをある程度やっていれば、少なからず解けるはずです。では、開始して下さい!」


「……この漢字、何だっけ?」







 午後の授業──


「皆さん、テストお疲れ様でした。テストの結果が全て出ましたので、解答用紙諸々配りたいと思います。それでは出席番号順に取りに来てください」



 ……早いな。どう考えても早いな。早すぎるな!?

 何で午前中4時間でやったテストが午後でもう返ってくるんだよ!? 早すぎるよ! 採点スピードどうなってるの!?


 そんな俺をよそに、山本は次々とテストを返していく。



「清水さん」


「……! はい!」


「頑張ってね」


「はい!」



 少しテンションが高いようにも見える莉奈。

自信があったのか?

 確かにテスト勉強はしっかりやってたしな。ご褒美としてあげたプリンのために、だけど。



「鳴守君」


「はい」


「頑張ったね」


「ありがとうございます」



 大地の結果はどうだったんだろう。席が離れているため、確認ができない。でもやっぱり良いんだろうな。



「三浦君」


「は、はい」



 名前を呼ばれた俺は机を離れ、山本のもとへと向かう。やっぱり緊張するな~。



「はい、頑張ったね」


「ありがとうございます」



 よし。ちゃんと国語、算数、理科、社会の4教科分貰ったな。ちょっと見るの怖いな……。

 でもこういうのは『お楽しみ』とか言うし、とりあえず席に戻るか。


 そう思いながら席に俺が座ったと同時に、山本が話し出した。



「えー、今回は小学校のまとめというところであり、少々簡単だったかと思います。しかし、中には復習ができておらず、納得のいかない点数を取った人もいるのではないでしょうか。なので、、今ここで皆さんの合計点だけ、それぞれ発表します」


「「「「えーー!!??」」」」



 教室中が騒がしくなる。一体誰得のシステムだ。

 マジで勘弁してくれよ……。まだ結果は見てないけど勘弁してくれよ……。



「それじゃあ出席番号1番から発表します」



 1番の人からか。じゃあ俺は最後だということになるな。

 1番目の人、ご愁傷様です。あと俺も……。



「暁君、400点」


「ん?」



 へ? 先生今何て言った?

 えっと確か……テストは4教科。1つ100点満点。つまり、パーフェクトは100×4で400点。え……



「「「「えぇぇぇ!!!?」」」」



 先程と同じくらい皆が叫ぶ。無理もない。

 テストの合計点を発表すると言われ、「あぁ1番の人可哀想だな」と思っていたら、まさかのパーフェクトを叩き出しているのだから。


 暁君って一体どんな人だろうと思って1番の席を見るも、彼は外を眺めていて顔が見えなかった。く、余裕ってことか……。



「最初からパーフェクトだなんて、このクラスはやりますね。では次は2番の──」



 ははは。これは2番以降の人が可哀想なんだ。

 その証拠に、10番以内の人は他の人よりさらに険しい顔をしている。



「──次に清水さん、240点」



 莉奈か。えっと……1教科平均60点ってことか。……平均点以下じゃね? でもアイツにしては取れてる方か。やっぱテスト勉強した甲斐はあったんだな。



「──鳴守君、396点」


「「「「おぉーー!!」」」」



 そして大地の番が来たと思えばこの点数。

 もうヤダ、何あいつ。計算すれば、1教科ごとにマイナス1点ってことじゃん。

 秀才ってこういう場面で悠々とできるから良いな……。



「──じゃあ最後に三浦君、284点」



 ……1教科平均71点。キリが悪い上に平凡だな。何か虚しい。



「さて、皆の合計点を言いましたが、どうですか? 自分の実力がわかりましたか? ここで止めるのも何なので、学年での順位まで発表しちゃいましょうか?」



 それだけはやめてください、お願いします。



「……なんて冗談です。さすがにそれは酷ですよね。でもこれだけは言っておきましょうか。うちのクラスの中では暁君が学年1位、鳴守君が学年3位です」



 さっきの人と大地がトップクラス。当然と言えば当然か。けど、大地の上にもう1人いるってとんでもないな。



「じゃあこれで今日の授業は終わりです。皆さん、下校の準備をして下さい」



 ようやく、俺の記念すべき中学校生活最初の、長い長いテストの時間が終わった。



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