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非日常なスクールライフ〜ようこそ魔術部へ〜  作者: 波羅月
第0章  新たな出会い
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第3話『入学試験』

 何事もなく、ただ不意に目が覚めた。


 その時、ヒンヤリとした感じを俺の触覚が感じとる。

 これは……コンクリート製の床か。どうやら、今まで寝ていたらしい。


 俺は急いで起き上がり、周りを確認する。



「教、室……?」



 そこは小学校にもあるような普通の広さの教室だった。黒板、タイルの床……大して変わった所のない、普通の。強いて違うことを言うなら、机、椅子が無いことか。まぁでも正直、そういう教室だと思えばどうだっていいのだが。


 さて、一体何が起こったのか。

 ちなみに、俺の隣には大地と莉奈は居ない。完全に1人である。


 あの時……山本に連れられ、ドームの中に入った後だ。何かで眠らされて……?

 あれは山本が悪いという解釈でいいのか? 状況が全く掴めない。



『あ、あ、聞こえるかな? 晴登君』


「!?」



 いきなりチャイムから声がしてきた。あまりに驚いた俺は反射的に、黒板の右上に取り付けられたチャイムを見る。

 俺の名前を知っていて、この声は……山本か。



『君の予想通り、僕は山本だ。手荒な真似をしてすまなかった』



 手荒な真似、とは俺たちを眠らせたことだろう。

 それよりもなぜ俺の考えている事がわかった? どこからか監視カメラ的な何かで、俺の姿を監視しているのだろうか?



『ゴホン。では、状況を説明しよう。』



 そんな混乱する俺をそっちのけに、一つ咳払いをした山本は話し始めた。



『まずここは日城中学校のとある一教室だ』



 良かった。場所は移されていないようだ。しかし安堵した俺に、山本が信じ難い言葉を放つ。



『そして君にはあるゲームをしてもらう』


「へ!?」



 ん!? どういうことだ!?

 焦った俺は、マヌケな声を出して驚いた。

 意味が全然わからん……。なぜこの状況でゲームが始まるのだろうか?



『ルールは単純。時計を見てくれたまえ』



 悩む俺を余所に、山本は淡々とした慣れた口調で話していく。

 俺は山本の言う通り、壁に掛かる時計を凝視した。そしてあることに気づかされる。



『そう。お察しの通り、入学式まであと15分だ』



 入学式の開始予定は8時30分だったはずだ。そして俺が学校に来たのが7時だったから……。



「俺は1時間以上寝てたのか……」



 そう俺は納得する。にしても、よくこの時間に目覚められたな。少しでも起きるのが遅かったら、入学式に間に合わなかったぞ。

 ……いやいや、そんな事はどうでもいい。今は山本の話を最後まで聞こう。



『話を戻そう。君には残り15分の間に、入学式会場である体育館に来てもらいたい』



 え……? 俺は拍子抜けした。

 なぜなら難題を繰り出されると思っていたのに、随分と簡単なお題が示されたからだ。



『簡単だと思ったろう? だが、よく考えてみるんだ。君はこの学校の体育館はまだ見ていないし、場所も知らない。さらにこの敷地の広さだ。単純だが中々難しいぞ』



 そういうことか……。

 うっすらと山本の意図が読めた。確かに俺はこの学校の地形は全然わかんない。だから建物探しでも一苦労、って訳だな。ゲームとしては一応成り立っている。



『君がもし15分以内に体育館に来れず、入学式に間に合わなくなったら、君の入学は許可しない』


「は!?」



 その言葉には、俺はたまらず声をあげて驚いた。

 待て待て、いくらなんでも横暴過ぎやしないか!? 義務教育って何だっけ!?



『もちろん、間に合えば普通に入学式に参加だ』


「し、質問をいいですか?」



 俺は落ち着くことも兼ねて、ここでいくつか質問をしようと試みた。もし山本がこちらを監視しているなら、質問を聞いているだろう。



『いいよ』



 ほら、案の定こちらの様子は向こうに丸分かりの様だ。許可したのがその証拠だ。俺は質問を口にする。



「なぜこんなことを?」


『入学試験、と言ったらいいかな。君がこの学校への入学を賭けた試験(ゲーム)さ』


「何で俺1人だけですか?」


『選ばれたんだよ。皆の中から』



 ダメだ。理解できない。

 入学試験なら平等にするべきだろうし、そもそも“選ばれた”って……?



『とにもかくにも、君には時間が無い。このゲームの意味は、君が体育館に着けばわかることさ。では健闘を祈るよ』



 そう言い残して山本の声は途絶えた。つまり試験(ゲーム)開始ということなんだろうが……。


 いや、考えるのはよそう。今は体育館に向かうのが最優先だ。






ガラッ



 とりあえず俺は教室のドアを開け、まずは廊下に出た。が、俺の足は即座に止まった。



「嘘だろ……」



 そこで俺が見たのは……一体何mあるのだろうか、何に使うのかもよくわからない位の長い長い廊下だった。小学校の頃の廊下の2倍はある気がする。


 そして俺は、今自分が廊下の端に居ることがわかった。



「しかも向こうまで行くしかないのか……」



 なんと不便なことだろう。俺の周りには階段などは無く、ただ幅3m程の廊下が続くだけだったのだ。階段があるとすれば、恐らく向こう側。



「……行くか。もう1分くらい経っただろうし」



 体育館は外にあるはず。だからまずはこの校舎を出る必要があるのだ。ここで足踏みをしてはいられない。


 俺は一歩を踏み出した。というか全速力で走った。

ここで「廊下を走るな」なんて無粋なことは言わないで欲しい。こっちだって必死なのだから。

 俺は他の教室には目もくれず、ただ黙々と廊下の反対側へと向かった。


 きっとそこには階段がある……そう信じて。






 ──だが、結果は残酷なものだった。



「何で階段が無いんだよ!?」



 まさかの廊下のどこにも階段が見当たらないということに、俺はキレて叫んだ。

 せっかくここまで階段があると信じて走ったのに、結果がこれとは……。きっつ……。



「まさか、教室の中か?」



 にわかに信じ難いが、もしかするとどこかの教室の中に階段やら梯子やらがあるのかもしれない。というか、それしか可能性がない。

 となると、また今の道のりを遡って、その上教室を一つ一つ調べ上げなければならないのか。そんなことしてたら、すぐに時間なんて経ってしまう。



『困っている様だね、晴登君』


「うぉっ!?」



 思考を巡らせていると、またもや急に山本の声が廊下のチャイムから大音量で聴こえ、俺は飛び上がる程に驚く。

 あぁ、廊下って音が響くんだなと、どうでもいいことを考えてしまった。



『このままだと時間がないから、君にヒントを与えよう』



 ヒント? 試験の割には随分と良心的じゃないか。めちゃくちゃ欲しい。早く下さい。



『君はこの階に階段があると思っているだろ?』



 図星だ。よく見ている。



『実はこの階、というかこの校舎だけ階段ではなく、エレベーターを使って階を移動するんだ』



 学校にエレベーターだと? これは予想外だった。

 しかし、そうだとしても、俺には疑問が残る。



「だったらどこにエレベーターがあるんですか? 少なくとも、俺は見ていませんが……」


『廊下の電気のスイッチはわかるかい? まずはそこに行ってみよう』




「ここですね」


『うん。では、上に行きたいなら上の、下に行きたいなら下のボタンを長押ししてごらん』



 なんだそのゲームみたいな押し方。

 えっと、まずは外に出るから下だな。そう思って俺は、下のボタンを長く押した。すると──



「うわっ!?」


『ふふっ、驚いたかな』



 俺が驚くのも無理はない。なぜなら、電気のスイッチの隣、何も無いただの壁だと思っていた場所から、突然エレベーターの扉らしきものが浮かび出て、しかも開いたからだ。というかエレベーターだ。一体どんな原理なのだろう。



『その扉は常に保護色を使うんだ』



 たった今50%解決された。


 たぶん、普段は保護色で隠れて見えないが、スイッチを押した時だけ浮かび上がり、仕事をする……といった所か。

 どう考えても不便だろ、これ。カッコイイけど。



『さて、ヒントはここまでだ。後は大丈夫だね? ではまた』



 そして山本からの放送が切られた。

 少なくとも、これで“移動”に関しては問題は無くなったと思う。

 だが“地形”に関しては全くわからないので、まだ大丈夫とは言い切れない。


 不安を抱いたまま、俺はエレベーターに乗り込んだ。


 この学校は奇怪すぎる、と思いながら。






 中身が何ら普通と変わりないエレベーターを降りた俺は、1階なのであろう校舎の中の景色を見渡す。廊下も一緒にエレベーターで降りてきたのかと思う程、1階の廊下も長かった。

だが今度は二階と違い、外に繋がるドアを見つけた。

 恐らくこれが玄関だろう。立派な見た目の割には靴箱が少ないから……職員玄関か?

 まぁいい。早く外に出よう。


 俺はドアを開け、外に逃げるように飛び出た。



「……わかんねぇな」



 やはり知らない校舎に隔離されていたようだ。地形が全然記憶に無い。

 先程、山本に案内された所であれば少しはわかったのだが……。これでは“学校案内”の意味がないじゃないか。


 俺はそう思いながら、歩みを進めた。



「どこかに地図とか無いのかよ……」



 学校といえば、校内マップなんかを示した看板がよく置かれている。しかし、見渡す限りそれは見当たらない。それを見れば目的地までは一発なのだが、探す時間が惜しい。

 かといって、しらみつぶしに進むのもあまりいい策とは言えない。何せ敷地が広大すぎる。そこら辺の学校とは比べ物にならない。おかげ様で、体育館なんて影も見えない。

 この規模で日本どころか、県ですら有名じゃないというのは不可思議な話だ。



「あと何分だ?」



 体感だがたぶん残り10分前後。まだ探す時間はある。

 俺は思考を張り巡らせ、体育館への道筋を考えた。


 まず、体育館は大きい。これは揺るがない事実のはずだ。この学校のことだから、普通よりもさらに大きいかもしれない。

 そして、外にある。これもわかる。・・・で、何だ?!


 まずい、これでは俺はこの学校に入学できない!

どうしたものか…。






 ふと俺の頭に、過去の記憶が蘇った。



『なぁ晴登、お前どこの中学校に行くんだ?』



 小6の頃だ。席についていると、大地が声をかけてきた。



『え? あぁ・・・近いから日城中学校かな』


『お! 俺も同じだよ! 仲良くやろうぜ!』


『マジで? それは頼もしいな』



 親友と同じ中学校に行けると知り、あの時の俺は密かに安堵していた。



『2人とも、何話してるの?』


『よう莉奈ちゃん。今、晴登とどこの中学校行くか話してたんだよ』


『へー。で、2人ともどこに行くの?』


『俺も大地も日城中学校。お前は?』


『偶然だね。私もだよ。家から近いし』


『だよな』



 莉奈は俺の家の隣に住んでるんだから、そりゃ当然同じ中学校に行くだろう。何も不思議ではない。



『大体、他の中学校が遠いんだよね』


『でもウチの学校からのほとんどは、その他の中学校に行くみたいだぞ』


『は!? あいつらだって日城の方が近いだろ?』



 大地の言葉に俺は驚かざるを得ない。中学校なんてどこ行っても大差ないだろうから、近場にするのは当たり前じゃないのか。



『晴登晴登、違うんだよ。日城中学校には変な噂が多いから、皆が寄り付かないんだよ。だから行くのは私達だけかもしれないよ』


『へぇ~』


『「へぇ~」って、納得すんのかよ』



 初めて聞いた話だが、俺としては特に気にならない。なぜなら、



『中学校なんて新しい友達作る場だろ? 問題ないよ』


『ポジティブなのは良いけどさ、晴登ってコミュ障じゃなかったっけ?』


『それを言うなよ…』


『あ~。そういや友達を作るのが一足遅れてぼっちになりかけてたもんな。俺が話しかけてやらなきゃ、今頃どうなっていたことか…』


『あぁ! やめろ!』



 小学校1年生の頃、昔から人と話すのが苦手だった俺は、入学して早くも孤立しかけていた。そんな俺を救ったのが大地だった。彼は俺と正反対で友達も多く、俺の友達の大半は彼を仲介したと言っても過言ではない。大地には感謝しているが、その事実を受け止める度に正直切ない気持ちになった。



『大丈夫って。そういう人は晴登以外にもたくさんいるから。私たちが協力して晴登に友達を作ってあげるよ』


『こ、今度は俺1人でも大丈夫だし!』


『なら俺たちはいらないな』


『嘘ですごめんなさい』



 強がってみたが、彼らの手が借りられないと小1の二の舞になる気がしたので、ここは謝っておく。

 それを聞いて2人は笑い、莉奈が言った。



『じゃあ、中学校でも3人で居ようよ!』


『『『うん!!』』』






『3人で一緒に過ごす』


 些細なことだが、守ることが当たり前の約束だ。


 だから俺に“リタイア”なんて文字は無い! さぁ考えろ! この状況を脱する為に!



「……はっ!?」



 その時、俺は記憶の片隅にあったあることを思い出す。

 ついさっき、エレベーターに乗ったときのボタンに……“屋上”があったことを!


 高い所から見渡せば、恐らく体育館くらいなら見える! はず!



「よし!」



 俺はさっきの校舎に戻ることにした。

 近くには別の校舎があるが、山本の言い方的に移動が階段だと思われる。それならエレベーターの方が絶対に早い。

 それに、今違う校舎に行ったら絶対に迷う。だったら一度居た場所の方が、安心できるってもんだ。


 俺は願いを込めて、さっきの校舎の玄関に入った。






バタン



「着いた……」



 俺は屋上の真ん中に、一人ポツンと立っていた。陸地では感じられない心地よい風が顔を撫でる。


 あ、でもここで気になることが一つ。


『屋上は行ってもいいのか』?


 小学生の頃は「危険だから」という理由で、屋上には入れなかった。なので、今回“屋上”に来るというのは初めてだし、嬉しいのだが……。

 何だろう。もしダメだった時が怖い……。


 いやだが待て。山本が何も言ってこないから別に良いんじゃね? うん、きっとそうだ。大丈夫なんだよ。



「大丈夫大丈夫!」



 俺はそう言い聞かせながら、屋上の片っ端から外を眺めていった。

 この方法がダメだったら、もう次の手は無い。これは賭けなのだ。賭けるのは、俺の運命。


 だが神は、俺を見放さなかったようだ。



「アレは…!」



 校舎の影に隠れて一部しか見えないが、体育館らしきものの姿を俺の目は捉えた。

 それが本物だろうと偽物だろうと、『今すぐ行く』という選択肢しか残されてないだろう。


 そんな考えが巡る中、既に俺は無我夢中で駆け出していた。






「はぁっ……はぁっ……はぁ…」



 着いた。体育館らしき……いや、体育館の玄関に。

 先程の校舎からどれだけ走っただろうか。高校にあるような体育館よりも一回り大きい体育館が、今、俺の目の前にそびえ立っている。

 俺と同じ新入生であろう大勢の人影を、ガラスの扉の向こうに見る。



 正解だな。



「ふっ」



 あまりにもあっさりした結果に、ついつい鼻で笑ってしまう。

 随分簡単な試験(ゲーム)だったな、と思い返してみる。いや、山本のヒントが無ければ初めの廊下で詰んでたけれども、それはそれ。


 さて、早く行こうかな。あいつらとの約束もある訳だし。



 俺は勝ち誇った笑顔で扉に手を掛け、力一杯、扉を開いた。



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