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非日常なスクールライフ〜ようこそ魔術部へ〜  作者: 波羅月
第0章  新たな出会い
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第16話『まとめ役』


「さて、君達の入学から1ヶ月が経ちました。そろそろ学校にも馴れてきたと思います。なので、少し遅れましたが委員会決めをしたいと思います」



 5月1日の朝の時間。山本先生の快活の声が朝一で響いた。前触れなどなく、唐突に。



「ですが委員会を決める前に、まず"学級委員"を決めたいと思います。1クラス、男子1人、女子1人です」



 先生はそう続けた。


 学級委員。それは、クラスのリーダーに当たる存在。

 そういやまだ決まってなかったな。今まで先生がまとめてくれてたけど、やっぱり自分たちでやれってことか。



「さて、まずは立候補で決めたいと思います。誰かやりたい人はいませんか?」



 先生がクラスの皆に問い掛ける。

 だが案の定、誰も手を挙げる者はいなかった。俺だって挙げない。挙げたくもない。

 何せ学級委員といえば、先生からの頼み事やクラスの面倒事などを一番初めに引き受けなければならない。"雑用係"といっても過言ではないだろう。

 だからこういう仕事は、大体どのクラスにも1人は居るであろう真面目な人に押しつければ問題ないのだ。これは決して酷いことじゃない。適材適所というやつだ。うん。



「誰も居ませんか? では、推薦で決めましょうか。意見のある人は手を挙げてください」



 全員を見回しながらそう言う先生。

 これは少しマズいな。推薦といえば、いくら推薦された人が否定しようと、大人数の意見で押し返されかねない、危ない手段だ。しかも一旦推薦されてしまえば、みんなそれに便乗して推薦するからその事態は免れない。

 頼むから、俺にだけは推薦してくれるなよ……!



「はい」


「柊君、どうぞ」


「三浦君が良いと思います」


「んふっ」



 最初に登校してきた時のように、フードを被った柊君が言った。

 てか待て、どうして俺なんだよ!? 少し変な声出ちゃったじゃん!



「理由を聞かせて下さい」


「三浦君は誰とでも話せるし、何より人徳があると思うからです」


「ごはっ」



 いやいやないから! そんなのないから! しかも話せてるように見えてるかもだけど、まだまだコミュ障だから!


マズい。このままだと学級委員をやる羽目になる。何とかしないと……。



「三浦君、どうですか?」



 先生が訊いてくる。

 ここは一か八か。みんなが推薦を募る前に「やらない」と言えば、それで事が済む可能性がない訳ではない。

 よし、いける!



「いや、俺には少し荷が……」


「そうですか? 私は向いてると思うのですが」



 ちょっと待って!? 先生がそれを言ったらダメだ! 発言力考えて!


 こうなったら……



「いやいや、とんでもないです! もっと他に向いてる人が……鳴守君とか?!」


「え、俺!?」



 大地が驚いた声を上げる。たぶん、自分に振られるなんて思ってもなかっただろう。

 だが今回は、俺の盾になってもらう!



「鳴守君ですか」


「良いと思いますよ! 頭も良いし運動もできるし……まぁそれだけじゃなくても向いてると思います!」


「おい、晴登!?」



 ふと大地を見ると、こちらを困惑と微妙に怒った顔で見ていた。悪いな大地……。今度何か奢ってやるから……。



「……! 先生! 頭が良いってことなら、暁君はどうですか?!」


「はっ!?」



 今度は大地が暁君に振った。

 明らかに俺と同じことを繰り返そうとしてるな、大地め。

 無論、我関せずとよそ見していた暁君は「どうしてそうなった」という顔をしていた。



「頭が良い、とかの理由で決めたくはないですが、確かに一理……」


「せ、先生、待って下さい! 俺より柊の方が良いっすよ、絶対! こういう場で手を挙げて意見を言うというとか、そんな度胸のある人が向いてるんじゃないんすか?!」



 暁君が必死に、だが真っ当な理由と共に柊君に振った。

 いや、推薦が挙げた人に返ってくるって、どういう状況だよ? ある意味すげぇ。



「え……僕?」



 柊君がキョトンとした表情で周りを見渡す。何せ、彼の最初の発言からまだ1分と経っていない。事態の急展開についていけてないようだ。

 しかも、彼は誰かに“押しつける”という行動はできないだろうから、学級委員推薦騒動はこれで終わるはず。


 ……と、思っていたのだが。



「先生! 私学級委員やります!」

「ズルい! 私よ!」

「じゃあ間をとって私!」



 今度は女子たちが学級委員の座を巡り、争い始めた。

 この争いに勝ち、学級委員になった暁には、柊君と一緒に活動できる時間が増えると考えたのだろう。


 ……柊君、罪な男だなぁ。



「でも僕は……」



 さっきの堂々とした推薦はどこに行ったのか、急にひ弱な様子を見せる柊君。彼は元々アレな事情があるから、人前に出て目立つようなことはしたくないだろう。

 それを知る俺からすれば心は痛むが、まぁ人生経験って大事だと思うからね、うん。



「中々決まりませんね……。それでは、くじ引きで決めますか?」


「「「え~!?」」」



 男子も女子も先生の意見に不満の声を上げる。


 おっとそう来たか。だが確かにこの状況で、推薦で決まるとは到底思えない。となると、先生の意見が妥当と言えよう。



「ちょっと待って下さいね、今準備しますから」



 そう言って先生は、皆の了承を得ぬままくじ引きの準備を始めた。

 ふむ、俺が男子の学級委員として当たる確率は1/15。つまり、さっきの推薦よりも免れる確率は高い。いける! 学級委員をやらなくて済む!







「……と、思っていた時期が俺にもありました…」


「まぁそう落ち込むな晴登。運が悪かっただけだよ」



 くじを引くために全員が席を立ってわいわい騒ぐ中、大地の励ましは俺の頭に虚しく響くだけだった。

もはや、「自業自得」と言っても差し支えないかもしれない。


 結局、俺が男子学級委員になった。


 周りの反応は別に悪くはなかった。まぁ柊君を推す数名の女子はちょっと不満そうにしていたが、許容範囲だろう。“嫌われている”という雰囲気は感じ取れなかったので良しとする。



「何かすみません、三浦君……」


「いいよ柊君。これも運命だったんだ……」



 黒木部長のカッコつけがうつったのか、変な感じの言葉が出てしまった。

 でも事実だ。運命なんだよ、これ。吹っ切って、やるしかねぇよな。



「それで女子は?」



 俺が決まったってのはわかったが、女子学級委員は誰になったんだ。一緒に仕事する訳だし、仲良くやっていかないと……



「晴登ー! 私になったよ!」



 その声を聞き、声の主を察した俺は既にドッと疲れが来た気がした。


 よりにもよって、莉奈かよ……。



「あれ、晴登元気ない?」



 肩を落とす俺を見て、莉奈はそう訊いてきた。



「まぁな。相方が全然仕事しなさそうな奴だな、とか3回位思ったな」



 俺は皮肉を込めたセリフで返した。こいつ絶対仕事押しつけてきそう。



「なんだとコノヤロー!」


「痛っ!」



 案の定、俺の言葉に怒った莉奈が殴ってきた。しかもみぞおちだ。加減ってものを知らないのか。

 仮に殴るとしても、もう少し女子らしいパンチにしてくれ。危うく膝をつくとこだった。



「やったな! 殴ったってことはやり返してもいいんだな!」



 かなり痛がりながらそう警告する俺。傍から見たら正直ダサい。



「ふん、じゃあかかってきなさいよ!」



 莉奈がそう言い始めた。

 こいつ……明らかに宣戦布告した!?



「ふっ、良いだろう」



 その瞬間俺は、右手を動かした。







 先程からどれだけの時間が経っただろうか。


 委員会決めなんて忘れた俺と莉奈は、未だに格闘を続けていた。騒がしかった教室も、いつしかその様子を見守っている。



「ほーれ、こちょこちょこちょこちょ」


「うわ、晴登……ふふっ、ギブギブ! あははは!」



 床に転げながら莉奈の笑い声が響く。

 これぞ、秘技"くすぐり"。昔から横腹やら脇やら弱い莉奈には効果抜群だ。



「「………」」


「はははははっ!!」



 皆が唖然とした表情でこちらを見る中、俺は一切手を緩めなかった。

 そりゃあんだけ言われたら、例え女子相手でも意地でも勝ちたくなる。男らしくないとか言わないで欲しい。



「ちょっ……ひっ、晴登ギブ! ギブってば!」



 笑い泣きしながらギブアップを懇願してくる莉奈。気づけば、制服が若干はだけてきている。

 ……さすがにやりすぎたか? 人前でここまでするのは可哀想だから、そろそろやめるとするか。



「おい晴登、もういいんじゃないか?」



 そう思った直後、ようやく大地が止めに入ってきた。その顔は笑いを堪えている。絶対楽しんでたな。

 だが俺も気は済んだ。そろそろ莉奈が泣きそうだし、これ以上するといじめとか言われそうだ。



「そうだな。もういいか」


「私が何したって言うのよ……」


「いや先に殴ったのそっちだからな」



 両手で顔を覆って、肩を震わせる莉奈。

 すまん、お前は殴っただけだもんな。うん、悪いと思う。

 まぁ今度何か奢ってやるから。大地にも払わせる。



「……えっと、一悶着有りましたが、一応学級委員は決まりましたね。次は委員会を決めましょうか」



 結局、山本先生がそう締めた。

 困惑の表情は見せているものの、冷静さは保っていた。

 ご迷惑掛けて申し訳ないです。



 ……とまぁ朝っぱらから色々あったが、騒動から数時間、莉奈は口を利いてくれなかった。



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