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非日常なスクールライフ〜ようこそ魔術部へ〜  作者: 波羅月
第0章  新たな出会い
19/98

第15話『休日』

 4月がもう終わりを迎えようとしていた。

 この一月中に、友達がたくさんできたのは嬉しい。

 けど反面、魔術だったり、不登校で色々問題を持つ美少年だったりと、色々変なことがよく起こった。


 だからこうして、自宅の部屋のベッドでただ天井を仰ぐのは気楽で良い。



「魔術か……」



 掌を上へと伸ばし、それを見る俺。

 部長みたいに、この手から魔術を使えるのだろうか。


 俺はあの日のことを思い出す。







「えっ部長、ホントに俺らにもそれできるんですか?」


「まぁ確かにお前の風じゃ難しいかもな、あの威力は。暁のは攻撃用だからいけると思うけど」



 俺のはあまり攻撃向けではないということか。

どうせならズバーッとやったり、ドガァンってしたかったけどな……。



「そう落ち込むな三浦。こんな攻撃はできないかもしれないが、風には風のやり方ってもんがあるだろ?」


「それって何ですか?」


「さぁ?」


「えぇ……」



 つまり、自分で考えるしかないということか。火とか雷ならイメージはつくけど、風って何ができるんだ? 相手を吹き飛ばしたり、後は飛んだりとか?

 ……考えてみると、結構実用性が高そうだ。でもちょっと地味かな……。



「とにかく魔術を会得しさえすれば、後は自分で模索するといい。そのために、魔力の源作りを急がなきゃな」


「「はい!」」



 俺と暁君は揃って返事をする。体育祭までってことは……大体1ヶ月か。頑張ろう!







トントン



 不意と鳴ったノックの音に、俺の回想は途絶える。



「何だ智乃?」


「お兄ちゃん、ご飯だよ!」


「わかった」



 時計を見ると、既に12時を示していた。窓から空を見ると、太陽が真上で燦々と照っている。

 朝からずっと魔術のことを考えていたが、ここまで時間が経つのは早いものなのか。







 1階に降りてくると、智乃が食卓に昼飯を並べている最中だった。見たところインスタントのスパゲッティのようである。


 それよりも休日であれば、普段母さんが昼飯を作るのだが、なぜ今日は智乃なのだろうか?



「母さんは?」


「さっき父さんと出かけたよ。気づかなかったの?」


「え? まぁ……」



 予想外の智乃の返答に少々戸惑う俺。てか父さんもいないのか、今。


 俺の両親は非常に仲が良い。そのせいか、よく2人で買い物やら何やら行くことが多い。主に休日は。今日も例外ではない。



「お兄ちゃん、あと卵焼きでも作ろうか?」


「いや、別にいいよ」



 智乃の問いに俺はNOで答える。

 スパゲッティに卵焼きはミスマッチな気がするからな……。



「え、良いじゃん。食べてよ」


「何でねばるんだ。わかった、食べるよ」


「ちょっと待っててね」



 別に智乃の卵焼きが不味い訳じゃないから、食べても何も問題ないのだが、ただミスマッチだと思う。







「できたよ~」


「お、綺麗だな」



 目の前に出されたのは、綺麗に整えられた卵焼きだった。黄色く輝くその姿は、中々の貫禄を醸し出していた。



「フォークよし、お茶よし。いただきます!」


「いただきます」



 智乃は俺の隣に座った。

 そういや智乃の卵焼きって懐かしいな。最後に食べたのは結構前になるのかな……。



「どれどれ?」



 俺は一口卵焼きを食べる。その瞬間頭に何かがビビッと来た。



「どう?」



 智乃が期待の表情でこちらを見てくる。俺は率直な感想を返した。



「メチャクチャ美味しいじゃん」



 そう言った途端、急に体が重くなった。

 体調が悪いからではない。ただ、智乃が俺に抱きついてきたのだった。



「……ってて。危ないだろ智乃」


「へへっ」



 あまりの勢いに椅子から転げ落ち、少々痛い目に遭う俺。

 だが智乃は、そんな俺の注意も笑顔で弾き飛ばした。



「早く飯食わせてくれよ」


「ごめんごめん」



 ようやく智乃が俺から離れ、自分の席に戻った。


 何か今日は、休日なのに疲れそうだ。







「あれ?」



 俺は目の前の光景に目を疑った。

 次第に、草木の独特な匂いが鼻をつく。



「草原?」



 俺はいつの間にか、草原の真ん中に立っていた。

 終わりなんか到底見えない。地平線の彼方まで続いている。

 見上げると空は雲に覆われており、太陽は隠されて見えなかった。



「何でこんなとこに……。誰か、いないのか……?」



 俺は問いかける。だが周りに人の姿は無く、返ってくるのはそよ風の感触のみ。花と草が一面に広がり、俺だけが異端な存在だった。



「マジかよ……」



 どうしてこうなったのだろうか。

 先程まで智乃と昼食を食べて、そして自分の部屋に戻ってから……どうしたっけ。


 しかし、この風景だけは不思議と覚えている気がした。以前どこかで──



ガサッ



 ──!?

 不意に後ろから足音がした。背筋に嫌な汗が流れる。

 少なくともさっきまでは人どころか、植物以外の生き物自体いなかった。それなのに、誰かが俺の後ろに急に現れた。これほど怖いことがあるだろうか。



『やぁ』


「っ!?」



 その存在は声をかけてきた。若い男の人の声だ。まるで優しく語りかけるかのような、穏やかな口調である。

 だが、俺は振り返ることができない。あまりの恐怖で、首が回ろうとしてくれないのだ。金縛りを受けているみたいに。



『ようやくか。待ちくたびれたよ』



 待ちくたびれた? 俺は誰とも会う約束なんてしていないはずだ。一体何を待っている? そもそもこいつは誰なのだ。



『今日は曇りみたいだね』



 曇り、確かにそうだ。空一帯は雲で席巻されている。

 でも、それがどうした。天気なんて関係ない。俺が気になることはただ1つ……



「誰、ですか……?」


『……』



 俺が声を振り絞って出した質問に、謎の人物は何も答えない。その瞬間、俺の中で恐怖心よりも好奇心が打ち克った。



「このっ……!」



 その瞬間金縛りが解け、俺は勢いで身体ごと振り返る。そしてその存在を視界に捉えた……はずだった。

 刹那、目の前の景色がぐにゃりと歪む。徐々に意識が遠のいていくのを感じた。



『明日は、晴れるといいね』


「待て……!」



 目が眩む中、歪んで原型を留めていないその影へと俺は手を伸ばす。しかし、その手が何かを掴むことはなかった。







「はぁ……」



 俺はベッドの上でボンヤリしていた。


 先程のは“夢”。それも入学式の日の朝に見たものと同じ景色の。そこまで思い出した。

 ただ1つ、違っていた。あの人は一体……。


 どうやら俺は昼食を食べた後、部屋で昼寝をしたようだった。その証拠に、窓の外は青空ではなく夕焼けが目立っている。



「もう夜なのか」



 時が経つのは早いものだ。どうせまた……



「お兄ちゃん、晩ご飯の時間だよ!」



 智乃がドアをこじ開け入ってきた。

 予想通り。全く、完全に見たことのある光景だ。こういうのを『デジャブ』と言うのだろうか?

 いや、どうでもいいや。



「今行くよ」



 俺はそう返し、すぐさま夕食を食べに1階に向かった。







 夕食を終えた俺と智乃は、ソファに座ってテレビを見ていた。今日は久しぶりに智乃と2人きりで過ごしたな。そのせいか彼女は一日中元気で、おかげでこっちは何もしてないのにクタクタだ。



「母さん達はまだなの?」


「帰りが遅くなる、って電話ならあったよ」



 子供2人を家に置いてどこまで行ってるんだよ。ホントに仲が良いな。良すぎるくらいだ。



「ねぇお兄ちゃん、一緒にお風呂入らない?」


「ぶっ!!」



 智乃の唐突な発言に思わず噴き出してしまう。

こんなことを言われるのは、ここ1年はなかったのだが……。



「お母さん達がいないから、ね?」


「い、いやいいよ。そんな歳じゃないし」



 可愛く訴えてくるも、俺にはそんな気もないので軽くあしらう。今さら妹と一緒にお風呂に入るなんて、恥ずかしいことこの上ない。



「お兄ちゃんのケチ」


「いやケチじゃないだろ」


「いいじゃんいいじゃん」


「いや、ダメだ」



 中々引き下がらない智乃。

 好かれているというのはとても嬉しいのだが、これでは……な。



「一緒には入らない。先に入るか後に入るか、どっちか選んでくれ」


「ぶぅ……じゃあ後で」


「了解」



 智乃は不満顔だが、これでいいのだ。うん。







「やっぱり風呂は落ち着くな~」



 湯船に浸かりながら、陽気にも鼻唄を歌う俺。日本人は入浴が好きというが、その気持ちはよくわかる。一日の疲れが一気に取れていく気分だ──



「お兄ちゃん!」


「うわぁお!?」



 突然、タオルを身にまとった智乃が乱入してくる。これは予想していなかった。なるほど。先に俺を入れたのはそういうためか。

 どうしたものか。追い出す……は、さすがに可哀想だろうか。かといってこのまま一緒に入るのも──



「では失礼」



 考えている間に入りやがった。俺の膝の間に入り込み、背中を預けてくる。妹とはいえ、やっぱり恥ずかしい。早くここから脱出しないと。



「あー逆上せたかも。そろそろあが──」


「どこ行くのお兄ちゃん?」



 手を、掴まれた。

 なぜだ。なぜそこまでして俺と風呂に入りたがる? なぜそんな寂しそうな目で俺を見る?

 もうダメだ。諦めろという神のお告げが聴こえた気がした。俺の負けだ。



 その後、普通に2人で入った。







 時刻は午後9時。

 こんな時間になっても帰ってこないウチの親。どうなっていやがる。帰りを待とうと、テレビを見て時間を潰しているというのに。



「ふわぁ。そろそろ寝るねお兄ちゃん」


「あぁ、おやすみ」



 あくびをしながらそう言う智乃。そして2階へ上がっていった。

 さっきの風呂といい、また何か仕掛けてくると踏んでいたが、杞憂だったようだ。



「俺も寝るか」



 テレビの前から立ち上がり、自分の部屋へと戻ることにした。もう母さん達は今日帰ってこないだろう。実際、そういうことは今までにもあった。だから言い切れる。


 階段を上がり、ドアノブに手を掛ける俺。

 油断は……しまくっていた。



「……」


「ぐぅ」



 こいつ……やりおった。まさかの俺のベッドに……。


 どうせまた選択肢はないんだろう。わかっている。

 ったく、一緒に寝てやるか。兄妹なんだから、別におかしいことじゃないし。



「もうちょい端っこで寝ろよな……」



 智乃を奥の方へ軽く追いやりながらベッドに入る俺。……温かいな。当たり前か。


 全く、最後まで手間をかけさせてくれる。これじゃ休めるものも休めない。


 はぁ……もう寝よ。どうせ今日限りだし。ふわぁ……。




 この後、智乃が抱きついてきたのは言うまでもない。



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