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非日常なスクールライフ〜ようこそ魔術部へ〜  作者: 波羅月
第0章  新たな出会い
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第11話『初めての部活動』

 キーンコーンカーンコーン



「よっしゃ終わりだ! 晴登、部活行くぞ!」


「俺とお前は違う部活だろうが」


「まぁまぁ、それでもだよ」



 下校のチャイムが鳴り響き、皆が急にソワソワとし始める。なぜなら、ついに今日から1年生の部活動が始まるからだ。

 そのせいか、大地が異様に元気が良い。



「サッカー部ってどんなのだろう……!」


「結局サッカー部なんだな」


「当たり前だ! 俺はサッカー一筋だ!」


「はいはい」



 恍惚とした表情でウキウキしている大地に口出ししてみるも、軽く弾かれてしまう。こいつそんなにサッカー好きだったのか、と思い直してしまう。



「ちょっと2人だけで行かないでよ?」



 不意に横から聞き慣れた声が聞こえてくる。無論、俺たちに向けて。ふと横を見ると、少し寂しげな顔をする莉奈が居た。



「まず2人で行こうともしてねぇよ」



 慰めようとした訳ではないが事実を莉奈に伝える。

 するとまたいつもの笑顔に戻った。



「裏切ったのか晴登!?」


「知るか!」



 だが今度は大地が訳のわからないことを言い始める。おいおい、俺は一緒に行くとは一言も言ってないぞ?


 そんな俺の想いは届かず、大地が一人芝居を続ける。



「はぁ……」



 既に毎日が色々あって手一杯なのに、こんな茶番に付き合わされてたら俺の体は持たねぇぞ。無視してさっさと行こう。



「あ! ちょっと晴登待てよ!」


「置いてかないで~」



 後ろから大地と莉奈の声が聞こえるが無視無視!






「ふぅ……行ったか」



 ようやく撒けた。

 いや正確には、あいつらは部活に向かったってだけか。

 大地はサッカー部だからグラウンド、莉奈は水泳部だからプールサイドか。


 でもって俺が……



『魔術室』



 別の校舎の1階にある、黒幕の掛かった怪しい教室の前に立っていた。

 今となっては少し後悔してる。あの時つい興味が湧いてしまって、魔術部に勢いで入部申請してしまったのだ。







 あの時──魔術部の紹介の時、俺は突然魔法陣の上に召喚され、困惑していた。



「え……!?」


「驚いたかね?」



 驚いた、なんてレベルではない。究極に驚いている。

 ツッコみどころが多すぎて困惑して、何も喋れなくなっている俺だが、状況だけは理解した。


 この部がさっき使った魔法陣。あれは本物の魔術だったのだ。



「これが我ら魔術部だ!」


「「「「………」」」」



 あまりの出来事に生徒たちは全員声を失う。

 そりゃそうだ。いきなりの衝撃が襲い、ようやく無くなったと思えば近くに居た奴がステージの上へと瞬間移動してるんだからな。


 こちとら目を開けたら生徒が見渡せたから、心底ビビったつーの。しかも体育座りのまま移動してたから、今もその状態でなんか恥ずかしいし…。


 でも、この部は……凄い!







「失礼しま~す……」



 回想を終えた俺はドアを開き、弱々しい声で部屋の中に呼びかける。

 だが、返事が返ってこない。教室も電気が点いておらず暗いし、まだ誰も来てないのだろうか。


 とりあえず待つことにした。






「「失礼しまーす」」


「!」



 10分ほど待ち、少々退屈していた頃にようやく部員らしき人たちの声が響いた。

 少し驚いた俺はテンパりながらも挨拶をした。



「こ、こんにちは!」


「ん? あ、新入生か! よろしく!」



 会話……とまでは言わないが、一応挨拶をすることはできた。優しそうな男の先輩たちだ。



「今年は新入生が来て良かったよ~」


「え、それって……?」



 先輩がそう口走るのを、俺は聞き逃さなかった。それはつまり……



「ウチは毎年部員が少ないんだよな」


「不気味、だとか、怖い、とかいう理由でな」



 ……確かにその通りだ。

 もしこんな部活が大人気だったら、さすがに生徒たちの精神を疑いたい。俺の精神状況は知らんが……。



「でも今年だって少なそうだな」


「今回のは結構いいアピールになったと思ったんだがな……。部長の案、破れたり」



 後から知った話だが、ステージに立って話していたあの人がやっぱり魔術部の部長だったそうだ。でもって才能があったんだとか。何の才能かは知らないけど……。



「新入生で他に入ってくれた人はわかる?」



 俺以外にってことか? 誰がどの部活に入った、とか把握はしてないからな……。



「すいません。わからないです……」



 お役に立てず申し訳ありません……。

 

 それよりもこんな雑談で過ごしちゃってていいの? 部活動という部活動を何もしていない訳だが……。



「この部は主に何をするんですか?」



 俺は内容について訊いてみた。部活動紹介の時は言わなかったし、まずそれどころじゃなかったもん。普段の活動ってどんなことしてるのかな?



「魔術の研究……とかか?」


「あるいは魔法……?」



 おっとこれはガチでした。ヤバい、この部活はホントにヤバいよ。ここの教室だけ世界観と言うか、何かが違う! 普通に『魔』を口走る時点でもう違う!



「えっと、部員は何人ですか?」



 ヤバいヤバいと言っても、入ってしまったものは仕方ない。とりあえずは情報を貰おう。



「俺たち2年生が4人、3年生が2人だ。後は新入生で+αだが……」



 予想よりも全然少ないじゃん。これじゃ部の存続が危うくないか? この先輩たちからは全く危機感を感じないが。






ガラッ



「やぁこんにちは、新入生たち! 歓迎するぜ!」


「わっ!?」



 俺は不意を突かれ倒れそうになるも、何とか堪える。

 元気に魔術室に入ってきたのは、部活動紹介の時に前で話していた部長だった。


 それにしても、部活動紹介の時とは比べ物にならないくらい、テンションが高くないか? クールな人かと思ったけど、もしかしたらユーモアの方が強い人なのかな。



「……ってあれ? 1人だけ? マジで?」


「みたいです」



 部員の答えを聞いて、部長が心底悲しそうな顔を見せる。そんなに欲しかったんだ、新入生。



「5人は来ると思ったんだけどな……」


「今日はたまたま来れなかったんじゃないですかね?」


「そうだといいけど」



 ものすごく新入生が気になる様子の部長。

 この場に俺さえ居なかったら、この人はどんな反応をしたんだろう。ちょっと気になるけど、可哀想だから止めておく。



「そ、それより今日は何をするんですか?」



 俺は今日の活動について訊く。まぁ最初だからということで予想は大体つくけど、その後少しくらいなら魔術部っぽいことはするんじゃないだろうか。



「うーん……」



 随分悩んでいるな。まさか決めてないのか? 予定を。

 まぁ真剣に考えてるご様子だから、待つとするか。



「じゃあ、あの時の魔法陣の説明なんてどうかな!」



 あれ~? どうしてそうなるの~? もしかして常識ってものがないのかこの人は!? いや、それとも俺が無かったのか!?



「先輩、普通は最初なら自己紹介をするもんですよ。このままじゃ俺たちは、この新入生の名前も知らずに過ごしていくことになりますよ?」



 ナイスフォローです2年生の先輩!

 その通りですよ! まぁ俺の場合は自己紹介を済ませないと気が楽にならないし、そもそも先輩の区別ができない!ってことですけど。



「あ、そっか。んじゃ自己紹介してもらえる? 新入り君」



 あぁ、この立派な部長は常識が無かったんだぁ……。良かった、俺が普通で。あ、やっぱ普通は嫌だけど。

……と一人芝居はさておき、もう自己紹介の時間に移ってしまった。この人は切り替えが早いタイプだな。



「三浦晴登です。よろしくお願いします」



 やった! 普通に自己紹介ができたぞ! 相手が先輩だからということがあってか、良い感じに緊張が抜けたのかもしれない。



「三浦か、よろしく! 俺は3年生で部長の黒木 終夜だ! これから頑張っていこうぜ!」



 堂々とした態度で自己紹介を終えた部長。これからは「部長」か「黒木先輩」と呼ぼうかな。



「じゃ話戻すぞ。あの魔法陣だが──」



 え!? 自己紹介終わり!? やっぱ切り替え早い!

 そこの2年生の名前知らないんだけど……。もう後で訊くか……。



「あの魔法陣が本物だというのはわかったね?」


「はい、もちろん」



 だって俺が体験したんだからな。未だに信じられない出来事だった。確かにその原理は気になるところだが……。



「実は俺は──魔術が使えるんだ」


「はい」


「あれ!? 思ったより反応薄い!?」



 キメ顔の部長に、俺は真顔で返事をする。

 すみません部長、思った通りのリアクションできなくて。だってそうだとしか思えなくて……。

 だが改めて聞いてみるとおかしな話だ。魔術を使える人が目の前に居ることを含め、色々非現実的だと思う。正直まだ完全に信じている訳ではない。



「その顔はまだ信じ切ってはないってことか。なら、他にも見せてやろう」



 部長はそう言うと手の平を上にして開き、その上にポケットから取り出した1枚の魔法陣の描かれた紙を置いた。そして先程の表情から一変、険しい顔つきをする。

 俺はその様子を黙って見ていた。



「はっ!」



 部長が一言放って力むと、驚くことに手の平の上の魔法陣から赤い小さな炎が浮かんだ。その炎はユラユラと意思を持ったように動く。

 部長はそれを俺の目の前へと持ってくる。その時にはもう、さっきのお茶らけた顔に戻っていた。



「どうよ!」



 ドヤ顔で俺の返答を待つ部長。

 彼の手の上にはライターもマッチも存在せず、紙1枚だけで火を灯したのだ。驚かない訳がない。


 けどこの時、俺の中にはもう1つの感情があった。



「お、俺もそれ覚えたいです!」



 憧れ。魔術という非現実的なモノを、この手で使ってみたいという、子供じみた欲望だ。

 部長はそれを聞き、ニッと笑みを浮かべたかと思うとこう言った。



「ようこそ、魔術部へ!」



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