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非日常なスクールライフ〜ようこそ魔術部へ〜  作者: 波羅月
第0章  新たな出会い
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第9話『一人じゃない』

 騒然とする1-1のクラス。誰もが目の前の者の姿に驚きを隠せない。

 そしてその前に立つ者はメソメソと涙を流していた。



「え、えっと……」



 先生が困惑した表情を見せる。それを見る限り、先生も病気の詳細は知らなかったようだ。

 声をかけようにも、目の前に起こった出来事が突飛過ぎて誰もが考えを張り巡らせた。



「うっ……ぐすっ……」



 いまだに泣き止む様子はない柊君。彼には一体どういう秘密があるのだろうか。

 というか秘密と言っても、もう既に一部は頭の上で露になっているのだが。



「柊、君……」



 俺が小さいながらも声を絞りだして彼を呼ぶ。

 するとその声に気づいたのか、彼はこちらをじっくりと見据えてきた。

 その目は怒りと悲しみが混ざったように見えた。



「やっぱり……僕は……」



 柊君はうつむき、そう呟いた。

 彼の頭上ではションボリとする耳が姿を見せていた。


 そうか。彼の引き籠りの根元はアレだったのか。

アレのせいで、イジメられるなどとその身に余る哀しみを受けたんだ。

 学校に来たのは、アレを何とか隠し通すのが条件と考えるべきだ。でないと彼が自宅から出ることはないと言い切れる。


 俺と先生は、誰も君を変に扱わないと柊君に言った。俺はそれは事実だと信じてるし、クラスの皆も信じてる。

 だけど、アレが晒された以上、この後に彼がどうなるか、どんな扱いを受けるかなんて俺にはわからない。

 でもやらなきゃいけないことは、彼をこのクラスに引き留めること。クラスの皆と仲良くさせること。


 だから彼をどうにかフォローせねばいけない。大方、彼の説明をクラスの皆に、といった所か。

 よし。俺が柊君を守らないと!



「ひいら──」



「可愛い……!」



 俺が一言言おうとした瞬間に、誰かの唐突な声で遮断される。

 驚いた俺がその言葉の真意を探ろうとすると、次々と言葉が1-1で飛び交った。



「可愛い!」

「何あれヤバい!」

「あれってケモ耳とか言うやつじゃない?!」

「ホントに小動物みたい!」

「柊君、可愛い!!」



「「は??」」



 俺や男子の誰もが開いた口が塞がらなかった。

 何が起こったのかと察する前にクラスは賑やかになり、もはやお祭り状態となった。


 時間を掛け、ようやく理解した俺は何とも言えない表情を表に出す。

 今教室で起こったのは、女子たちの柊君に対する称賛の嵐だった。主にプラスの方向で……。


 その後も女子たちは収まることなく、むしろヒートアップしていった。



「ねぇねぇその耳触って良い?」

「モフモフしてそう!」

「ピクッってして可愛い~!」

「てか柊君が可愛い!」

「家で飼いたいくらいかも!」



 いつの間にか、クラスの大半の女子は席を立ち、前へと出てきて柊君の周辺に集まっていた。

 いつしか柊君の涙は止まり、なんだか照れてるように見えてきた。

 今まで経験したことのない、新鮮な気分なのだろう。


 状況に納得した。やっぱり、クラスの皆は優しい人なのだ。

 このクラスではイジメなんて起こり得ない。救われたね、柊君。


 俺は柊君に近づきこう言った。



「言ったでしょ? 君を変に扱う人はいないって」


「……うん」



 彼はくすりと笑いながらそう返した。

 

 ・・・うん、確かに可愛らしい。







 お祭り騒ぎの開始から30分。未だに止む気配はない。

 そろそろ授業の時間に差し支えが出そうなんだが……まぁ良いんじゃないかな。先生も止めることはしなかった。


 だが今は、先程よりも盛り上がっている気がする。



「うっ……」


「「きゃあー!!」」



 クラスの女子たちが黄色い声を上げる。

 なぜなら柊君には“尻尾”も生えていたことが判明したのだ。

 彼女らはそれを見て、さっきより一層可愛いだの何だの興奮しているようだ。



 事は5分前に遡る。



 なんやかんや騒いでいたクラスの女子たちが、柊君に「パーカーを脱いで」と頼んだのが始まりだ。もちろん本人は「これ以上何かあったら今度こそ嫌われる」と思ってか、頑なに拒否していた。

 だが女子たちが強制的に脱衣を行ったため、彼の尻尾が眼前へと晒されたのだ。

 ちなみに尻尾も狐のようであった。



 彼の今の状況を説明するなら『ハーレム』と言うべきか。クラスの大半の女子が柊君に群がっているのだから。

 何か周囲の男子の目が冷たくなっている気がするが、まぁイジメに発展することはないだろう。……たぶん。



「あの、そろそろ離して貰えると嬉しいのですが……」



 女子にもみくちゃにされながら柊君がそう言った。さすがに彼にもこの状況がキツいのだろうか。その気持ちよくわかる。入学式の俺もそうだったから。



「皆さん、続きは後にしましょうか。そろそろ1限が始まります」



 先生が柊君に助け船を出した。

 まぁ“後に”と言ったので、休み時間がどうなることやら……。







 案の定、どの休み時間も女子の騒ぎが落ち着くことはなかった。むしろ、ひどくなったと言うべきだろう。

 そして、安定して柊君が可愛がられる。俺は憎たらしいとは思わないけど、やはり他の男子の目が……。


 だが、昼休みは違った。柊君が逃げたのだ。

 無論、女子は逃げるとは思っていなかったらしく、柊君が教室から飛び出た後もずっとあたふたとしていた。


 しかし俺はいち早く、彼を追いかけた。






「柊君!」



 俺は彼を呼び止めた。

 すると彼はこちらを驚いた表情で振り向いたかと思うと、またも逃げ出そうとした。が、すぐさまその足は止まる。

 何せここは屋上。たった1つの出入り口の扉の前には、俺が立ち塞がっているのだから。



「君はあの時の……。何の用ですか?」



 あの時ほどムスッとした声ではなかったが、柔和な様子でもなかった。



「どうして逃げたの? 楽しそうだったじゃん」


「確かに楽しかったし、変な扱いも受けてないけど……“特別扱い”みたいな感じが少し……」



 そうか。彼は俺らの横に立ちたいんだ。外れた特別な所に居るのではなくて。

 そう思うと、彼の望みがわかったような気がした。



「柊君、言ったろ? 俺は君の味方だって」


「それがどうし──」


「だったら俺らは友達じゃないか」


「!!」



 この表情。やはりか。

 彼は守ってくれる人が欲しかったのと同時に、自分の横に居てくれる人、つまりは『友達』が欲しかったんだ。



「あれは少し大袈裟だったかも知れないけど、皆は君を歓迎してるんだ」


「うん……」


「だからね……君は一人じゃないんだよ」


「……っ!」



 俺がそう告げると、柊君は戸惑った表情をした。けどそれは次第に、安心したような表情へと変わる。



「だからさ、戻ろう?」


「……そうだね」



 俺の呼び掛けに、柊君は笑顔でそう返した。


 まぁこの後に、また女子がお祭り騒ぎとなったのは言うまでもないが。



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