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非日常なスクールライフ〜ようこそ魔術部へ〜  作者: 波羅月
第0章  新たな出会い
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第8話『空白の一席』

 入学から早くも半月が経とうとしていた。一応クラスの皆とは一通り馴染むこともでき、順調に学校生活を送っている。

 学校の構図はまだ全ては覚えきれてないが、それでも最初よりはわかってきた。


 だが、そんな俺には1つ気になることがあった。



「柊君……は今日も欠席か」



 健康観察の点呼で、先生のため息混じりの寂しそうな声が聴こえる。これを聞いた時、皆の顔は少しだけ暗くなる。


 そう、これが俺の悩み。出席番号27番の“柊”という人が、学校に来ないということだ。


 いわゆる不登校。理由は恐らく『過去にイジメられ、学校が怖い』、『病気を他人に見られたくない』などというような、身体的、精神的、心理的なことが多いと聞く。

 確かにこんなことなら、俺も学校には行きたくない。ずっと家に居た方がマシである。


 だがどうしても、柊君には学校に来てもらいたい。でないと、俺の気が晴れないのだ。


 ただの自己満かもしれない。

 でも俺は彼と一度も顔を合わせたことがないのだ。彼は中学生になってから一度として学校には来ていないと思うし、入学式でも部活動紹介でも、1-1の27番の席に誰かがいることはなかった。


 なので俺は、彼の身の上話も何も知らない。


 だからこそ、彼とは話がしたい。

 俺の『まだクラスメートと馴染めてない感』を無くすために。コミュ障を治すために中学では頑張ってんだから!






 俺は山本先生に話を訊くことにした。

 プライバシーだとか言われればそれまでだが、それでもクラスメートは気になるというものだ。ましてや半月もいないし。


 俺は健康観察が終わり、更には朝の会が終わったのを見計らい、山本先生の元へ向かった。



「先生!」



 教室から出ようとしてた先生を、大きな声で引き留める。先生は振り返り、こちらを見た。



「何ですか、三浦君?」


「あの……先生に訊きたいことがあります」



 内容が内容なだけに俺の声のトーンは落ちる。先生も重要な話だと思ったのか、向こうに行こうとする姿勢を止め、俺を見据えてきた。



「柊君のことなんですが……」



 濁しても無駄だと思った俺は、内容はストレートに伝える。だから先生にも言いたいことは伝わっただろう。



「『どうして学校に来ないのか』かね?」


「はい」



 先生は穏やかな顔を崩さずに言った。それを見ると、あまり深刻過ぎる理由ではないのだろうかと考えてしまった。

 だが先生は衝撃の一言を俺に告げた。



「柊君はね……病気なんだ」


「……」



 病気……。そっちの線で来たか。

 イジメの方であれば精神的な問題だから、解決できないこともない。

 だが病気ともなると、例えどんなに学校に行きたかろうと行くことはできない。

 しかもこの線となると、大半が“大きな”病気を持っているのだろう。そうなると全員が困る。特別学級に……という話も出てくることだろう。それで事が済むのなら良いのだが、現状は甘くないようだ。



「私もね、柊君を見たことはないんだ」


「えっ!? どうしてですか?」


「彼は人と会うのを拒んでいるんだ」



 俺が察しがついた。

 病気は表面上に出てるんだ、と。恐らく、顔、手、脚……皆の目につく部位にだろう。

 どこの時代でも、そういう人が学校でイジメられるのは明白である。そしてまた学校には来なくなる。一度学校に来てしまえば、彼にはそんな悪循環が起こってしまうのだろう。



「私は何度も彼の自宅へ赴いた。だが結果は門前払い。一片の姿さえ見せてはくれなかった」



 俺は黙って先生の話を聞き続けた。



「電話だってしたさ。でも声だって聞くことはできないし、そもそも誰も出ない。あの家には誰も住んでいないのかと言えるほど」



 だったら居ないのでは?と話の腰を折りたくもなったが、明らかに場違いな台詞なので自重しておく。

 話を聞く限りでは柊君の精神問題が原因だと思う。彼に「学校に行きたい」、もしくは「行ってみたい」などと思わせれば解決するはずだ。



「策はないんですか……?」


「彼が自分で決めない限りは……」



 どうやら先生も辛い立場のようだ。本来なら自分で何とかしないといけないのに、方法が一切ないのだから。



「柊君の親は……?」


「2人とも、柊君を置いてどこかに行ってしまったらしい」


「えぇっ!?」



 これは驚く以外他ない。両親がどこかに行ってしまったということもだし、さらに中学生に入ったばっかの同級生の子が、一人暮らしをしていると言われたのだから。



「えぇ……大丈夫なんですか、それ?」


「両親の行方は不明だが、色々手は打っているようだ」



 色々、というのが気になるが、一番の問題はそこではない。柊君の学校嫌い……いや、人嫌いをどうにかしなくてはならない。



「先生。俺が柊君の家に行ってみてもいいですか?」


「えっ?」



 先生が意外そうな顔をする。なぜか俺も。

 どうしてそんな言葉が口から出たのだろうか。人と関わることが苦手な俺から……。けど、今さら引き下がれない。



「住所わかりますよね? お願いします。今日の放課後に行ってきます」


「……」



 俺は口から次々と出てくる言葉を止めることはできなかった。けどそれは、俺の意志だったということだろう。

 一方、先生は個人情報を教えていいものかと悩んでいる様に見えた。



「……わかった。この際仕方ない。ただし私も一緒に行かせてもらう。それで良いね?」


「はい!」



 何だかんだで約束してしまった。

 だが不思議と後悔の念はない。早く行きたいとウズウズするくらいだ。

 こうなった以上、何としても説得してやる!







「……まだかな」



 俺は独りでに呟く。

 今は放課後で皆は下校中。その中でただ一人俺は校門に立っていた。理由としては、先生が待っているからである。だが先生も仕事を途中で切り上げなければならない以上、少し遅れるそうだ。

 待っている間、大地たちから「何してんだ?」と声を掛けられたが、適当にはぐらかしておいた。本当のことを言うと、何か面倒そうだったし。



「おーい!」


「先生!」



 誰かが俺を呼んだ。

 声のした方を見ると、山本先生が職員玄関から手を振りながらこちらに向かってきているところだった。

服装はスーツのままだが、どことなく表情が和らいでいる。



「いやー、待たせたね」


「大丈夫です」



 端から見ればデートの待ち合わせの時の会話に聴こえるかもしれないが、そんなことは決してない。


 ……ということはさておき、俺は先生の車の助手席に乗せてもらった。

 柊君の家はそこまで遠くはないらしいのだが、歩いていくには時間が掛かるそうだ。



「晴登君、今回の目的は……」


「柊君の説得、ですよね」



 先生の言葉を先取りして俺が言う。

 何か任務みたいでワクワクしてきたな。もちろん、目指すは“任務完了ミッションコンプリート”だけどね。



「それじゃあ行くよ。シートベルトはしたかな?」


「もちろんです!」



 任務開始(ミッションスタート)だ!







「着いたよ」


「はい」



 俺と先生は車を降りた。

 目の前に見えたのはマンションだった。ぱっと見、5階以上はある。先生は迷わず中に入っていった。何度も来たことがある証拠だ。


 その後は階段を上がることもなく、着いたのは1階廊下の一番奥、『107』と書かれた扉の前で先生は止まった。



「ここだよ」


「……はい」



 俺はゆっくりインターホンに指を伸ばす。

 ……正直何を話そうかとかまとまってないし、そもそも出てくれるかわからない。だけどその時は外からでも言ってやろう。「学校は楽しい」と。



ピンポーン



 静かに音が響いた。家の中に居るのなら聴こえるはずだ。

 さぁどう出るのか……?



「……何も聴こえないですね」


「……物音一つしませんね」



 うん、まぁ予想通りだ。

 物音がしない辺り、きっと宅急便だろうと郵便だろうと出そうにないな。ドアスコープからこちらを見ることさえしないようだ。



「もう一回押しますか?」


「やむを得ませんね」



ピンポーン



「……やっぱりダメでしたか」


「俺がやってやります」



 あまり玄関前に長居はしたくない。伝えることだけ伝えてとっとと帰らねば。


 俺は大きく息を吸った。そして思ってることをこの口から──



「何の用ですか?」


「うわぉっ!?」



 俺はたまらず尻餅をつく。

 当たり前だ。ドアのすぐ向こうから声が聴こえてきたのだから。音なんて全くなかったのに。

 たぶん、柊君だ。その声は弱々しく、どこか幼かった。



「何の用ですか、先生? しかも生徒まで連れて」



 柊君は話を続けた。

 察するに、先生の存在は認知してるようだ。



「丁度良かった、柊君。今日こそ話をしたい」


「断ります。僕は他人と関わりたくありません」



 先生は柊君と話せたことにはノータッチで話そうとし始めた。

 ただ気になるのがどうして話し掛けたんだ? 先生の話だと声も聴かせてくれなかったらしいし。もしや俺のおかげ……? いや、期待しないでおこう。



「先生は君を放っとけない」


「騙されません。もう二度と酷い目には遭いたくない」



 騙された? 二度と? もしかしなくても昔に何かあったのか?


 よく考えよう。

 まず、彼は一人で自宅に居る。つまりは命に関わる病気ではない……?

 そして、声を掛けた。体調は普通。

 それで『酷い目』。イジメ……ってことは見た目に異常?


 ……まぁここまでは既に考えが行っている。後は……どうするか。

 先生に堂々と俺が行くとか何とか言ったしな~。良い方向に進展してほしいが……。


 とりあえず今は先生に任せよう。大抵のことなら山本先生はできる。会話できる以上、何とかなりそうだが……。



「……君が過去に何があったか教えてくれるか?」


「そうやって僕の同情を買うつもりですか? 言っておきますが、僕は学校には行きません。義務教育なんて知りませんよ」



 うわぁ……。完全に嫌っちゃってるよ。何とかなるの、これ?



「ではどうしてそんなに学校が嫌いなんだ?」


「……イジメですよ。僕の見た目をネタに」



 ふむ。やっぱりか。

 病気で見た目に異常……蕁麻疹とかか? いや、そんな軽い感じじゃなさそうだ。



「先生たちだって僕を見れば、絶対に変な扱いをする。僕はこの見た目のせいで、存在を貶された。人から避けられた。守ってくれる人も居なかった!」



 あれ? 意外と語り出したぞ? やっぱ話してみるものなのか?


……てか、あれ? 『守ってくれる人がいない』? それって──



「君の両親は……逃げたのかい?」


「その通りです」



 ……マジかよ。

 柊君を置いてどっかに逃げた理由。それは柊君の近くに居れなかったから、か。

 異常な姿をする子供の親と思われたくない……ってか。もう近くで関わりたくない。だから行方を眩ませた。でも罪悪感があり、支給はする。

 これが全てか。なんて薄情な親だ。



「僕は外にも出れない。この見た目のせいで気味悪がられるのは明白なんだ。そして……」


「そんなことはない」



 柊君の言葉を先生が遮った。



「私のクラスは君を変に扱うことはない。絶対に君をクラスメートとして迎えてくれる」



 先生は『絶対に』を特に強調して言った。

 うん。どんな見た目だろうと俺は差別はしないぞ!



「だから一度来てみないか? 一度でいいんだ」


「……」



 迷ってる……のか?

 だが良いチャンスだ。このままいけば柊君が復帰できるんじゃないか!?



「……やっぱり無理です。僕は他人と関わりたくない」


「そこまでだ、柊君!」


「え?」



 先生が急に大きな声で……ん? 俺の声じゃん。まさか、また口が勝手に…!?



「君は一人じゃない。俺がいる!」


「は……?」



 何言ってんだ俺!?

 そりゃ、見ず知らずの人に仲間だなんて言われたら挙動不審になっちゃうだろうが!


 だが俺の口は止まらない。



「俺は君と仲良くなりたい! 例え君が病気だとしても! 俺は友達が欲しいんだ!」



 自分で言ってるのに、すごい恥ずかしいんだけど。

 でも、この際洗いざらい言ってやろう。



「学校は楽しいよ。俺は君の味方だ。明日から学校に来てくれないか?」


「……」



 柊君は答えなかった。


 俺は先生に告げた。



「先生、行きましょう」


「え、いいのかい?」


「言うことは言いましたから。後は彼自身です…」



 俺は振り返ることもなくマンションを出た。先生は何か言いたげだったが、何も言ってくることはなかった。



 そのまま俺は先生に送って貰い、自宅に帰った。



 そして翌日を迎えた。







「えっと……では出てきて下さい」



 まるで転校生が来たかのような状況だが、決してそうではない。

 なんと俺の説得の甲斐あってか、柊君が学校に来たのだ!

 もちろん、皆は俺の奮闘を知らないのだが。


 先生に促された柊君は、教室の前のドアから入ってきた。

 だが、その姿には違和感があった。なんと茶色のパーカーを着ており、フードを被っていたのだ。

しかも他にも驚くことがあり、なんと柊君は美少年と呼べる……いや、下手すれば美少女と呼ばれそうなほど幼く可愛らしい顔立ちをしていた。見た限りその顔に異常はない。

 体は制服とパーカーで隠れているため、肌は見えない。つまりは、今の柊君はどう見ても“普通”なのだ。



「自己紹介は自分でできるよね?」


「……柊……狐太郎です」



 か細い声で話す柊君。

 そして直後、恥ずかしいからか、着ているパーカーのフードを深く被り直す。

 おかしい。では彼は何に異常があり、学校を拒んでいたのだろうか? 見た目というのは間違いないはずなのだが……。



 ──ふと、開けていた窓から風が吹いてきた。草木がざわめく。

 まぁまぁ強い風だなと思い、改めて前を見た俺は目を疑った。


 そこに見えたのは、風でフードが脱げた柊君とざわめき出すクラスの皆の姿だった。


 いや、問題はそこじゃない。



 柊君の“頭に"耳があった。茶色くピンと立っていて──まるで狐の様な。


 直後その耳がピクンと動いたかと思うと、柊君は涙を流し始める。


 誰一人現状が理解できない1-1で、ただただ幼い泣き声が響いた。



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