自由
「あなたが思うまま自由に書いてみて。」作文の授業でお決まりの言葉、でもその自由は先生の想像の範疇での話でしょ?想定外の内容を書けば「間違い」になる。
「好きな道に進めば良いのよ。」お母さんの優しい言葉、でもそのお金は誰が出すの?負担が掛から無いような選択肢を選ぶしかない。
多分きっと、私が唯一持てる自由は「死ぬ自由」なのだろう。学校の屋上、フェンスの内側から下を眺める。飛び降り自殺なんてありきたりだな。しかし三階建て程度の高さなら精々骨折がやっとだろう。頭から落ちれば即死にならないかな。そんな風に死に方に対して思いを巡らせていると、
「死ぬ勇気なんかないくせに。」知らない声だった。振り返ると、私よりも小柄で、神経質そうな眼鏡の青年が立っていた。
「あんた、誰?」純粋な疑問だった。先程の発言は腹が立つが、そもそも屋上は立入禁止の壁紙が張ってあって人が入り込む場所ではない。何故こんなところに。
「君なんかが僕の事知ったって意味がないだろ?」確かにその通りだ。しかし、何やら手紙らしきものを握っている所から察してしまう。そんな風に私が考えている間にもいそいそと靴を脱いでいる。脱いだ後しっかり揃えている所から育ちが良さそうだ。うん、これは間違いなく死のうとしているな。自殺の目撃者になるのは気分が良い事ではない。しかし、ここから跳ぼうとする彼を止める謂れは私にはない。
「この高さからの飛び降りは死ねないと思うけどな。」
「自殺志願者へのご忠告どうも。でもここから飛び降りようとするのは僕の自由だろ?」自由…確かにそうだ。さっきから勇気がない自由がないと、ないない否定されてばかりなのが腹立たしい。だから私は少しムキになって言い返す。
「自殺する自由があるなら、自殺される事を止める自由もあるでしょ。目の前で死なれても気分悪いし。」
「見知らぬ人の自殺を止めようとするほどの正義感があるのかと思ったよ。実際はもっと単純で安心した。」単純か。なんだか言葉にされてしまえばその通りなのかもしれない。今だって自由に対して感じることは不自由さだらけだ。それでも自分が思っているよりも自由って少しの勇気みたいなもので簡単に変わってしまうものなのかも。それじゃあ…
「自由ついでにさ、明日私が服買うのに付き合ってくれない?」勇気を出すことにした。
「いや明日も学校があるじゃん。というか、学校がなかったとしても死のうとしてる人間に掛ける言葉かよ。」
「死のうとしてる人間が明日の学校の事気にするの?あと誘うのは私の自由じゃん。学校なんてサボっちゃおうよ。」
「なんだよ急に元気になりやがって。」
「自由に生きることにしたんです。」きっとその「自由」の結果、私は怒られることになったり、迷惑を掛けることになるだろう。それでも今だけでも、少し先の未来に向けた自由を謳歌しても良いのかも知れない。
明日付き合ってもらうために、彼の自由を否定する勇気を出さなければいけないけど。