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第4話 魔王の呪い

 翌朝、アレスはエルフの集落を発つ準備をしていた。昨日はアレスの準備の手伝いをしながら彼の話を聞き続けていたルカは、今日は腕によりをかけた朝食を振る舞った。両親からは良い目で見られていないのは分かっていたが、それでもルカは最後までアレスに笑顔を見せてくれた。


「……ありがとう。短い時間だったけど、君との思い出は忘れないよ」


「それはこっちもです。あなたから聞いた話は忘れません。私はいつかこの村を出て、またあなたに会いにいきます」


 ルカとの再会の約束を取り付けると、アレスは名残惜しそうに家を出ていく。その後もルカはまだアレスについていき、村の出口まで彼を見送った。


「……またね!」


 村から出ていくアレスに、ルカは最後の言葉をかける。またいつか再会できると信じている彼女の顔は晴れやかであり、アレスもいつか必ずまた会えると、根拠もなくそう思っていた。


「……それじゃあ、またな」


 ルカに別れを告げ、アレスはその場から去る。ルカはそんなアレスの姿が見えなくなるまで、ずっと手を振り続けていた。……その時!


ドゴォンッ!!!


「……何!? 今の音……森で何かが!?」


 エルフの集落の方から、鳴り響く轟音。何かが起こった事に気づいたルカは、すぐに音の発生源と思われる森の方角に向かう。


 そこで彼女が見たのは、自分を中心にできているクレーター型の大穴の中で立つ、魔族の男だった。


(……何? あの大穴は、もしかしてあいつが開けたの!?)


 目の前の衝撃的な光景にルカが腰を抜かしている中、異変を察知した村の戦士達が現場に駆けつける。


「貴様、魔族の者か! 我らの森に一体何の用だ!」


「用? えーと、そうだ、人探しだよ、人探し」


 穴を囲むようにして弓を構えるエルフ達に動じることなく、男は聞かれた通り自分の要件を告げた。


「人探し!? 一体誰を探しているというのだ!」


「……えーと、あれだ、魔王様に楯突いたやつだよ。そんで……ヤベッ、人間だったかエルフだったかわすれちまった」


 男はしばらく頭を抱えて考え込んでいたが、やがて開き直ったかのような顔をエルフ達に見せる。


「……ま、全員殺せばいいか」


「奴は敵だ! 射てぇーっ!!!」


 号令とともに、エルフの弓による一斉射撃がはじまる。しかし、男はそれを意にも介せず、逆に殴りかかってきた。


「グゥッ!」


 狙われたエルフは紙一重でその攻撃を避けるが、その拳からは直線上に進む衝撃波が発せられ、その先にある森の木々をなぎ倒していく。


「なっ……! 我らの森に、よくもっ!」


「お前が攻撃を避けたのがいけないんじゃないか? 自分で攻撃を受けるか、避けてお前らが大好きな森が壊されるか、どっちか選べよ」


「……この外道め! 射てぇーっ!!!」


 エルフ達は再び一斉射撃を行うが、まるで効いていない。男は薄ら笑いを浮かべ続けながら、森へと視線を移す。


「魔族なんだから外道で結構。それが俺達の正々堂々だ」


 男はエルフを刺激するかのように、森の破壊行動をはじめた。


「オラァッ!!! お尋ね者さんよぉっ! 多分どっかに隠れてるんだろぉっ!!!」


 探しているアレスを誘い出すために、森を破壊する男。森を守るため、エルフ達はひたすら矢を放ち続けるが、必死の攻撃も中々通らない。


「……やめてよ……」


 それを見ていたルカは、とうとう我慢の限界を迎えて、男と森の間に立ちふさがる。


「止めて! 私達の誇りを、これ以上壊さないでよ!!!」


「誇りなら、ちゃんと手前の力で壊されないよう努力してくれよ?」


 ルカに向かって、男は容赦なく拳を振り落とそうとする。もう駄目だと、思わず目を瞑った彼女が再び目を開けた時に見えたものは……盾だった。


「……盾? これは……」


「……なんだと、そんな馬鹿な!? この俺の一撃を受けてビクリともしないなんて……!」


「……当たり前だ。魔王の一撃も防いだ俺の盾が、お前ごときに破れるはずがない」


 男とルカの前に、轟音を聞いて戻ってきたアレスが姿を現す。彼は男とルカとの間に盾を召喚して彼女を守った後、男に向かって力一杯殴りかかった。


「ぶべらっ!?」


 アレスに顔面を殴られた男は、そのままはるか遠くへと勢いよく飛んで行き、木にぶつかってようやく止まった。


(……魔窟をぶっ壊した時と同じだ! 特別な力は何も使っていないのに、とにかく威力が凄まじい! これは呪いを克服したことで得た力か!? ……よく分からんが、これは間違いなく俺自身の力だ!)


 さらなる追撃を行うため、男が飛んでいった方向へと向かうアレス。その背後から、ルカの声が飛んでくる。


「アレス! これ以上森を傷つけないで! この森はエルフ達の誇りそのものなんだ!」


(……森を傷つけるな、か。それじゃあ……)


 アレスは男を掴み上げると、そのまま痛烈なアッパーを加え、空中へと吹き飛ばす。男はついにダメージの限界を迎え、空中で跡形もなく四散した。


「……こんな回答でどうだ?」


「……満点だよ。ありがとう、アレスさん」


 彼に感謝の言葉を告げたのはルカだけではない。エルフの戦士達は、みなアレスに頭を下げてその意を示し、彼らの代表として首長であるルカの父親が謝辞を述べる。


「……本当にありがとう。我らの祖先が作り上げた、我らの誇りである森を守ってくれて。そしてすまなかった。人間というだけで君を邪険に扱ってしまって」


「……気にしないで下さい。森を守りたいというのも、他種族との交流を拒むことも、等しくエルフの文化です。それに人間がどうこう言うつもりはありません」


「……そうか。ならば我らも、君が尊重してくれた我らの文化を守ろう。……ただし、君は例外だ。みな、この戦士に祝福を!」


 首長の声をきっかけに、エルフ達からはアレスへの感謝の声が次々とかけられる。そんな他のエルフ達とは違い、ルカはアレスに対して憧れや羨望にも近い眼差しを向けていた。


(……凄いや、アレスさんは。私、憧れちゃうかも……いや、ついていきたいな、あの人に)


 しかし、歓声を上げるエルフ達は気づいていなかった。そもそも、外敵を退けた彼さえいなければ、その外敵はここまでやって来なかったことに。






「……そうか、リッキーがやられたか。よし、では手はず通りに次の刺客を送れ」


「かしこまりました。しかし、なぜそのように戦力を分割して投入するのですか? ジュノー様が望むのなら、私自ら部下を率いて奴を殺しにいってもよいですし、なにより……」


「我自ら手を下せばすぐ終わる、と言いたいのか?」


「……はい。なにかお考えがあるのですか?」


「……呪いは、まだ解けていないのだよ。奴が行く先々で我らが刺客を送り、その地を蹂躙する。それを繰り返していれば、奴は嫌でも気づくだろう……自分は周りに不幸を撒き散らすだけの、歩く災厄だとな」


「……なるほど。それが奴にかけられた、新たな“呪い”ですか……クク、流石はジュノー様」


「魔王の呪いは永遠に続く。貴様か我、どちらかが死ぬまでな」

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