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第21話 SIDE 魔王

 ここは、世界のどこかにあるという漆黒の魔王城。この城の主である“呪いの魔王”、ジュノーは、側近の魔族、クロウとともに優雅なティータイムを楽しんでいた。


「……そろそろかな?」


「外の暴風……ウェンディですか」


 ジュノーがティーカップを机に置くと同時に、アピース山脈から戻ってきた女魔族、ウェンディが城のバルコニーに降り立ち、ニコニコしながらジュノーの部屋に入ってくる。


「ジュノー様。ただ今戻りました、ウェンディですよ」


「お前一人か。シュカはどうなった?」


「死んじゃいました。ちょっともったいなかったですね、久し振りの逸材かと思ったんですけど」


 笑顔を絶やさないまま、棒読み気味の軽い口調でウェンディは喋り続ける。


「いやー、それにしても思ったより強いですね、彼。私が口を引き裂くつもりでやった一撃が、ちょっとした切り傷程度で済んじゃうんですから」


「……ウェンディ、まだヤツは殺すなと言ったはずだが……」


「あら。私ったら、お気に入りの子を殺されてちょっとイラついてたかもしれませんね。……でも、ジュノー様がご執心になるくらいだし、口を裂いたくらいじゃ死なないでしょ?」


「……まあいい。ヤツはまだ生きて、ヤン・オーウェンに向かった。我々はその結果に対応するだけだ」


 ジュノーは隣のクロウに目配せすると、彼の意を察したクロウが対応策を話しはじめる。


「周知のことだとは思いますが、ヤン・オーウェンより先は人間の支配力が強まる土地。人間どもの警戒を掻い潜ってこの先に進むのは、中々難しいでしょう」


「有象無象のザコなら、確かにそうですねぇ……つまりここからはいよいよ、私達“四天王”が刺客となるんですね?」


「話が早くて助かりますよ。ジュノー様は次の襲撃で盾の男の心を折る、もしくは殺そうとしています。それが、次の刺客に求められる目的の一つですね」


「一つ……あらら、今回は複数の大きな目的があるんですねぇ」


「ええ、もう一つは……人間への宣戦布告です」


 そのクロウの言葉を聞いた時、ウェンディは思わずジュノーの方を見る。

 そのジュノーは目を閉じてじっくりと紅茶の味を楽しんでいる最中であり、そんなことで今更驚くなとも彼女に言っているようだった。


「……ってことは、“魔王同盟”の計画が順調に進んでいるってことですか?」


「ええ、今回の襲撃で盾の男の体と心を破壊しつつ、人間への大々的な宣戦布告とするのが、此度の刺客に求められる目的です」


「へぇ、なるほど。そりゃあ四天王が派遣されるわけですね……」


「ええ。私は同盟の件を任されているので動けませんので、他の三名から刺客を選ぼうというわけです」


 分厚い警備を掻い潜って人間世界に入り込んだ上で、アレスを倒しながら宣戦布告に相応しい大事件を起こす。そんなことが出来るのは数多いる魔族の中でも、魔王に匹敵する力を持つと言われる四天王の面々だけである。

 これだけなら非常に難しいミッションのようにも聞こえるが、ウェンディとクロウはこの程度は朝飯前だとしか思っていなかった。

 普通の魔族がどれだけ集まってもできないことを、たった一人で容易く成し遂げる。四天王とはそれだけ格が違う存在なのである。


「ラッキー、それじゃその大役は私が……」


「いや、ここは俺にやらせてくれよ」


 アレスへの刺客に立候補しようとして、ウェンディは腕を上げかけたが、それを男が後ろから掴んで強引に下げさせた。


「……バレンさん、横入りしないでもらえますか?」


「魔族が律儀に行列に並ぶわけないだろ? 空飛んでるうちに軽い脳ミソも飛んでっちゃったのかい?」


 バレンと呼ばれた男は笑顔でウェンディを煽りながら、ジュノーの前へと躍り出た。


「ジュノー様、次の刺客には俺をお選び下さい。ウェンディは盾の男とやらを既に見て、攻撃までしてるらしいじゃないですか。でも、俺はまだそいつを見たことが無い。これって不公平じゃないですか?」


「不公平って、バレンさん……」


「いや、確かにバレンの言う通りだな」


 ここまでしばらく黙っていたジュノーが、ようやく口を開いた。空になったティーカップを見るに、どうやらティータイムが一段落ついたからのようだ。


「我はこの任務、四天王の誰にやらせても完璧に遂行してくれると思っている。ならば、ここはまだヤツと出会っていないバレンを優先してやろうではないか」


 ジュノーに言われては、これ以上ウェンディも反論できない。仮にまだ反論するとしても、彼女に主張できるのは早い者勝ちという点ぐらいであり、たかがその程度でジュノーに逆らう気にはならなかった。


「……分かりました」


「悪いね、ウェンディ。君の分まで俺が頑張ってヤツを殺すからさ」


「はいはい、精々頑張ってくだせーな」


「そう拗ねるな、ウェンディ。埋め合わせに、お前には後で特別な仕事を与えてやろう」


「……本当ですか!?」


「ああ。ただし、そのためにはクロウとバレンが、各々の仕事を果たすことが必須だがな」


「よぉし、クロウさん、バレンさん、私のために頑張って下さいね!」


 ジュノーのフォローのお陰で少女らしい目の輝きを取り戻したウェンディが、クロウとバレンの肩をバシバシと叩く。

 もちろん、二人の反応は芳しくないが。


「……うわ、なんかやる気なくなってきた」


「私は、あなたのためではなくジュノー様のために頑張りますので」


「……フッ。お前達、遊んでいるのもそこまでだ。すぐに自分の仕事を果たしに行けい!」


「「はっ!!!」」


 ジュノーの号令を聞いたクロウとバレンは、すぐに魔王城を飛び出し、己の任務地へと向かって行ったのであった。


「……えっと。私、どうしよう?」


「……よし、お前の仕事はティーカップの片付けだ」


 二人が必死に自分の任務をこなしている間、結果的にウェンディはジュノーの側でほのぼのした日々を送ることになったのだった。

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