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第10話 進め、進め

 魔族と竜によって襲われたヘーネンの街は、アレスの防護壁とルカの強い気持ちによって守られた。しかし、街への被害がゼロですんだわけではなかった。


「なぁ、冒険者さんよ。手伝ってくれるのはありがたいが……何も、全ての責任を背負わなくてもいいんだぞ?」


 今のアレスは、戦闘によって破壊された街の復興に従事していた。が、彼は意図しなかったものとはいえ、自分が壊してしまった街の姿に心を痛めていた。


「……いいえ、俺が壊したものは、全部俺が直します。それが、ケジメですから」


 街の人々は、アレスとルカが街を守ってくれたことを分かっていた。確かに街の一部は破壊されたが、二人がいなければ被害はこれだけではすまず、死人だって出ていたであろうことは理解していた。


 ……それでも、アレスは自分の力を恐れていた。


(壊れた街を見たとき、突然この力が恐ろしく感じた。そもそも、この力はどうやって手に入れた力だ? ……今思えば、昨日までの俺はガキみたいにはしゃいでただけだ。いくら望んでも手に入れられなかった力を、深く考えようとせずに)


 自分の腕をじっと見つめながら、アレスははじめてこの力を発揮した時を思い出す。魔窟を壊した時には既に自分は力を持っていた。しかし、その前の魔王との戦いでは自分にそんな力は無かった。


(つまり、力を手に入れたのはその間……そう、呪いに犯されていた時ぐらいしか思い当たらない!)


 いつの間にか、彼の腕は震えていた。


(じゃあ、この力は……呪いのお陰で、授かったようなものなのか……!?)






「……あの子を救えたのかな? 私……」


 ルカは病院で療養していた。既に脳震盪や破れた鼓膜は回復していたが、耳には痛々しい包帯が巻かれたままである。


(……あの竜、怯えているようにも見えた。あんなに大きかったのに、あの子はまだ子供だったのかな? いや、それとも……私が知らないだけで、元々竜は気の小さい種族なのか……)


 寝返りをうった後で小さく溜め息をつく。まるで自分に呆れているかのように。


(……知らない、か。ハハ、最初は竜のことを心配してたはずなのに、いつの間にか知識欲に変わってるよ。……でも、多分今はそれで良い。私はこの世界のことを知らなすぎるから。どんな理由であれ、知りたいと思えることに感謝しなくちゃ)


 ルカはベッドから上半身を起こして、竜が飛び去った方角を見た。


「王都で勉強すれば、竜の言葉とか分かるようになるかな? それならあなたの考えていることも分かるのに」






 それから一週間の間、アレスは街のためにフル回転しており、ルカはある程度回復して外出許可が降りると、竜との戦いで失った矢の補充などを行っていた。


 そして、ルカが退院したタイミングで街の復興にもメドがついたため、二人は次の目的地に向かうため街を出ることになった。


「一週間で退院できるとは……凄いな、ルカ」


「若いと自然回復力も高いからね。あ、若いと言っても人間とエルフじゃ若者の年齢が違うか。私は50歳だけど、流石にアレスさんは年下ですよね?」


「うん、一応まだ20代だよ。俺」


 190cm近いガタイを持つアレスと小柄で線の細いルカは、一見すると親子にも見えるが、実際はルカの方がずっと年上なのだ。いくら種族が違うといっても、年上からの敬語を当たり前のように受け入れている関係に、アレスは今更ながら少し違和感を覚えた。


「しかし、まだ街が復興途中だというのに、ルカの退院に合わせて街を出ていってもいいものか……」


「でも、この先の仕事は素人が手出しするよりも専門家に任せた方が良いって言われたんですよね?」


「だが、いらぬ気遣いをさせてしまった可能性も……」


 意図しなかったこととはいえ、自分が壊してしまった街への未練を残すアレス。まだ街を出るかどうかを決めかねている彼に対し、ルカは自分の知識欲を満たすため、まだ見ぬ王都への憧れを強めており、急かすような発言をしてしまう。


「……アレスさんが優しい人なのは分かりました。でも、あなたには一刻も早く王都に戻らなきゃいけない理由があるんじゃないんですか?」


「……!」


 そう。アレスには、確固たる目的があった。その目的のためならば、ちょっとやそっとの迷いや悩みは全て忘れられるほどの、会いたい人達が。


 ルカの言葉に心を動かされると同時に、アレスは彼女の言葉の意味にも薄々気づく。


「……ルカ、君が早く次へと向かいたいのも、あるのかい?」


「……かもしれない。……ごめんなさい」


「……いいよ、もうこの街は大丈夫だから……早く次に行こう」


 二人はその日の内に、街を出て南へと歩みを進めた。アレスは仲間と一刻も早く再会するため、ルカは自分の知識欲を満たしてくれる場所に向かうため、目的地である王都を目指すのであった。


(ヘーネンの街には、悪いことをした。次からは何とかして、力をセーブしなくちゃいけない……俺の力の犠牲者が出る前に……)






「……さて、明日から俺達はアピース山脈に入るわけなんだが、ルートは二つある」


「二つ?」


 ヘーネンの街を出た次の日の夜、森の中で野宿する二人は地図を広げながら作戦会議じみたことをしていた。パチパチと音を立てながら燃える焚き火をじっと見つめていたルカは、アレスが地図を開いた瞬間に目線をクイッと動かした。彼女は自分の知らない世界がたくさん書かれてある地図に興味津々なのである。


「一つ目はこのまままっすぐ山を越えるルート。山と山の間に一つだけある、比較的平坦な道を進む。もっとも、他の山と比べて平坦ってだけで、険しいことには変わりはない。そして一番の問題は……」


 アレスは、この山越えルートのど真ん中に向かって指を指す。


「途中にある“廃墟集落”だ」


「……なんか、凄い名前ですね。それで、一体どんな問題が……」


「ざっくり言うと、ここに昔あった廃墟になった集落が、盗賊やならず者の住処になってるんだ。(比較的)安全に山越えをするにはこの道を通るしかないから、やって来た人々を狙って盗賊が住み着いたんだ」


「……なるほど。で、もう一つのルートとは……」


「……山を迂回して進む」


 ルカの言葉を聞いて動かされたアレスの指は、山を避けて半円を描いた。


「ただ、お察しの通りこっちのルートはとにかく時間がかかる。まっすぐ進めば2日で山を越えられるだろうが、迂回すれば1週間以上はかかる」


「……なら、答えは一つでしょう? 多少危険だとしても、あなたは少しでも早く王都に戻らなきゃ」


「……君は、それに付き合わされてもいいのか?」


「……今更ですよ。そんなの」


 進むべき道は決まった。ならば、後は何があろうと押し通るだけだ。






「フンフンフ~ン♪ たっのしみ~♪」


 そう、何があろうとも。


「……どーやってイジメよっかな~♪」

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