最終話① ハッピーエンドの■
……ゆっくりと瞼を開く。
しばらくの間、目の焦点が合わないが、ぼんやりと今見ているものが天井だとわかった。
……どうして僕は寝ているんだ?
一先ず、首を動かし、周りを視認することにした。
そこは、目立つ家具が無く白が多い部屋だった。
……“病室”。恐らくそうだ。
「ん…………優真!?」
左の足元から、聞き覚えのある声が聞こえる。……帆ノ美?!
「……帆ノ美?!」
驚いた僕は、さっきまでの無気力さが嘘のように飛び起きた。
「──った!?」
同時に頭へ、耐え難い激痛が走る。
思わず僕は顔を歪め、頭を押さえた。その時に、頭に巻かれた何かが指に触る。
「わっわ優真、駄目だよいきなり起きちゃ。まだ怪我が癒えてないんだから」
「……怪我?」
言われて意識してみると、頭に巻かれた物は包帯だということがわかった。
しかしまだ、記憶の整理がついていない。
なぜ僕は病室にいる? なぜ僕は怪我をしている?
最後の記憶は──そうだ、帆ノ美に告白をしたんだ。そして、告白は成功して、帆ノ美の思いを聞いて、一緒に帰った。そしてその途中──
暴走して突っ込んできた、車のヘッドライトと、けたたましいクラクションの音が、頭の中にフラッシュバッグした。
「優真が、引かれそうになった私を庇ってくれたの。……本当にごめんなさい……そして、本当にありがとう」
涙目になりながら言う帆ノ美に、僕は精一杯の笑顔を浮かべ
「帆ノ美が無事でいてくれて、本当に良かったよ。僕も無事だし、結果オーライだな」
僕は、できるだけ軽い口調を心がけて言う。しんみりした空気は、今の僕も帆ノ美も嫌いだ。
「……ありがとう、優真。やっぱり優真は優しいね。流石私の大好きな人」
「はは、随分良い評価じゃないか。素直に嬉しいな。──そうだ、母さんは来てたりするのか?」
あの人は、息子が病院にいるのを、黙って放っておくような母親ではない。知らせを聞きつければ、飛んで駆けつけてくるだろう。
「美琴さんなら、連絡してから飛んで駆けつけてきたよ。優真が起きる少し前に、仕事場からの連絡で席を外したところ」
「そうだったのか」
タイミングがいいのか悪いのか。
「なあ、僕は入院中ってことでいいんだよな?」
「当たり前だよ! 足の骨折れてるんだから! ……でも安心して、遅くても2週間くらいで退院だってさ」
「おっ、それは良かった……って、僕足の骨折れてるのか?! ってて……」
言われて気づいた。確かに足が痛い。
「も~気づいてなかったの? ふふ、優真らしいけどね」
「僕らしいって……馬鹿にしてるか?」
「あはは、どうだろうねぇ」
あ~まさか、帆ノ美とこうやってたわいもない話ができる日がこうくるとはな。
「あっそういえばあの時優真、どうして立ち止まってたの? 顔が真っ青だったからびっくりしたよ~」
「ああ、あれか」
僕は言葉を紡ごうと口を開ける。けれど──
「……あれ? 思い出せない……」
自分があの時立ち止まっていたことは鮮明に覚えている。でも──自分はあの時、何考えていた?
何かに疑問を抱いていたような……それも、尋常じゃない……
「忘れちまったな」
「あらら、んまあじゃあ無理して思い出さなくてもいいよ?」
「ああ、そうさせてもらうよ」
思い出すと、何か嫌なことも同時に思い出してしまいそうだ。
と、その時
「優真!」
扉の方向へ目をやると、そこには髪が乱れまくった母さんがいた。
目の下にはクマもできているように見える。きっと、昨晩は一睡もしていないのだろう。
「母さん。ごめん、心配かけて」
「ううん、いいのよ……あなたが無事でいてくれれば……」
僕は抱きしめられた。
流石に帆ノ美の前だというのが恥ずかしかったが、それはとても心地いい温もりだった──
【ハッピーエンドの夢】 ~END~
最終話はあと一つあります。
最後の一行で、驚いていたもらえたかな?