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2話 メリーゴーランド


 電車を2本ほど乗り継ぎ、僕らは隣県であるN県までやってきた。大体30分程かかっただろうか。


 電車での移動だったため、道中帆ノ美とあまり話せなかったのが辛かった。だがさすがに徒歩では行けない距離のため、致し方なかったわけだが。


 ──しかし……と僕は思い直す。

 仮に徒歩で移動した場合、逆に会話が続かず気まずい空気が流れた可能性も十分にあった。というか絶対そうなっていた。

 帆ノ美はコミュ力高い陽キャだが、僕はコミュ力低い陰キャである。そんなので会話続くか? 否、続かない。


 さっきはああ思ったが電車よ、ありがとう。お陰で遊園地へたどり着く前に、気まずい空気になるという事態は免れた──!


「ほらほらどうしたの? 早く行こう」


 感嘆に浸り立ち止まっていた僕の背中に、小さな衝撃が走る。


「?!」


 僕は、反射的に肩を震わせてしまった。

 衝撃の原因は、帆ノ美が僕の背中を叩いたせいだったようだ。


「?!」


 原因を知り、僕は再度驚く。

 年頃の男子は、女子にタッチされるだけでもかなり驚く生き物なのである。まったく、小さな生き物だ。

 なんて、自分で嘲笑ってみる。


 僕が歩き出さないため、帆ノ美は入り口付近でこちらをチラチラ見てきていた。

 僕は小走りに帆ノ美の元に駆け寄る。


「大丈夫? 心ここにあらずって感じだったけど」


「ご、ごめん。少しぼーっとしてた。えっと、じゃあ行こうか」


「──うん!」


 嬉しそうな満面の笑みを見せられ、僕の鼓動はもう心臓が潰れそうな程速まっている。帆ノ美に心臓の音が届いてないか心配になる程だ。


 そんな僕の心情にはまったく気づいていない帆ノ美は、軽やかな足取りで遊園地内へ入っていき、その後を、僕はロボットのような動きになりながらついていった。


 こんな調子で告白なんて、僕はできるのだろうか……


  ◇◇◇


 僕は、休日の遊園地というのを侮っていたようだ……


 どこもかしこも人、人、人!


 ろくに遊園地へ来たことのない僕にとって、その光景は砂糖に群がる蟻の集団のように見えた。(その場合、僕らもその蟻集団の中に入っていることになるが)


 しかし僕が、帆ノ美の姿を見失うことはない。伊達に、普段から帆ノ美を目で追っているわけではないということである。えっへん!(誇れることじゃない気がする)


「優真優真、あれ乗ろう♪」


「ん、あれ?」


 無邪気に帆ノ美が指差しているのは、遊園地の定番、メリーゴーランドだった。女子というのはこういうのが好きなのか?


「いいかな?」


 帆ノ美が上目遣いにお願いしてくる。

 ──そんな可愛く言われたら、断ることなんてできないじゃないか! まあ、元より断るつもりもないが。


「もちろんいいよ。少し並ぶけどいいか?」


「うん!」


 帆ノ美の元気な返事を聞き、僕らは列の最後尾に並んだ。メリーゴーランドの列は結構長い。看板には、待ち時間5分と書かれていた。


「5分なら早いほうだね」


「えっそうなのか?」


 帆ノ美の感じ方に、僕は驚く。


「そうだよ。メリーゴーランドって、人気アトラクションの一つだから。普通なら、10分くらいかかってもおかしくないよ」


「そんなにかかるのか……」


 確かにそう考えると、ここのメリーゴーランドは普通の半分の時間で乗れるということになる。帆ノ美が早いと感じたのにも納得がいった。


 僕の家は、僕が4歳の時に父親が事故で死んでしまったため、僕と母親の二人、つまり母子家庭で育った。だから僕の記憶に、父親と過ごした記憶はない。あるのは、母親が僕のために朝から晩まで働いてくれている姿だ。

 だから、遊園地になんて連れていってもらう時間もお金もなかった。それに、仕事で疲れている母親に、遊園地に行きたいなんて言えなかった。

 そのため、僕は学校の校外学習くらいでしか、遊園地に来たことはない。


 幼なじみである帆ノ美は、そのことを知っていてくれているため、僕の浅すぎる知識に深く突っ込まないでくれている。


 今日は、帆ノ美に遊園地についてレクチャーしてもらうことにしよう。


「……ねぇ、優真」


「うん?」


 突如話しかけてきた帆ノ美に、僕は首を捻る。


「……誘ってくれて、ありがとう」


「……えっ?」


 予想外の言葉に驚いた僕の表情は、さぞかし間抜けになっていることだろう。

 慌てたように、帆ノ美は体の前で両手を振る。


「えっあ、いや、その、ほら、中学になったぐらいから優真、私とあんまり話してくれなくなったでしょ? だから……嫌われちゃったのかなって思ってて」


「そっ、そんなことない!」


 僕はそれを全力で否定した。少し声が大きくなってしまったが気にするが、気にしている心の余裕もない。


 僕がいきなり大声で否定したため、帆ノ美は大きな目をさらに大きく見開いている。


「嫌ったことなんてない。ただ……僕も年頃になって、どう女子と接すればいいのかわからなくなって。それで……」


 必死で弁解の言葉を探す僕を見て、帆ノ美はクスリと笑った。


「そんなに必死にならなくていいよ。大丈夫。優真の気持ちは伝わったから。ふふ、そっか~優真そんなこと思ってたんだぁ」


 そう言って、再度笑う帆ノ美。


「そ、そんなに笑うかぁ?」


「ふふふ、だって~」


 帆ノ美が言葉を紡ごうとした途端


「次のお客様、どうぞー」


 おっと、丁度順番が回ってきたようだ。気がつけば、最後尾から最前列まで移動していたようで。


「行こっか、優真」


「ああ」


 帆ノ美の言葉の続きも気になったが、それよりも、メリーゴーランドを待ち望みにしていた今の帆ノ美の笑顔を、僕は大切にすることにした。


 帆ノ美は白馬に、僕はその隣の黒い馬に乗った。

 帆ノ美と白馬の組み合わせが、めちゃくちゃ似合っている。まるで雪のお姫様のようだ。


 僕が帆ノ美の姿に見とれていると、ビーというブザー音が聞こえ、馬の乗り物がガクンと動いた。

 不意をつかれた僕は、一瞬馬から落ちそうになりヒヤッとした。


 陽気な音楽が鳴り響き、馬が回りだす。

 おお、結構面白い。この上下に揺れるリズムに、なんとも言えない心地よさがある。


 ちらりと視線を、帆ノ美の方へ向けた。横から見える帆ノ美の顔は、無邪気な子供のような純粋な目をし、今この瞬間を楽しんでいるように思えた。

 そんなにメリーゴーランドが好きだったのか……


 そうこうしているうちに、音楽が止まり馬も止まった。結構あっという間なんだな。


 僕の馬は上の方で止まったため、降りる時に少しヒヤッとするくらいの高さがあった。これ、小さい子供とか怖くて泣くんじゃないか?


 帆ノ美もぴょんと降りて、僕らは並んで出口を抜けた。


「は~楽しかったぁ♪」


 帆ノ美が満足そうな笑みを浮かべる。

 喜んでもらえたようなら何よりだ。早くも誘って良かったと思えてくる。


「優真はどうだった? メリーゴーランド。楽しかった?」


「うん、面白かった。初めて乗ったけど、あのリズム感が結構心地よかったな」


「それなら良かった。優真、動き出す時馬から落ちそうになってたよねぇ」


「あ~あれなぁ……って見てたのか?!」


「ふふ、バッチリ見てたよ~」


 帆ノ美がイタズラっぽく笑う。


 うわぁ~恥ずかしい……

 この遊園地デートで、男らしいところを見せようと息巻いてたが、早速マヌケなところを見られてしまった。


「さあさあ! 次のアトラクションに行こう!」


 しかし帆ノ美は特に気にしている様子はなさそうだ。

 なら、僕ばかり気にしていても仕方がないな。僕はそう決め


「ああ!」


 と、力強く返事をした。

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