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1話 この無理ゲーを


 ついに、この日がきてしまった……


 僕の名前は龍興(たつおき)優真(ゆうま)

 名字だけはいっちょまえに勇ましくかっこいいが、中身は気弱でヘタレな高校2年生である。あぁ……自分で思ってて虚しくなってきた……


 そんな僕は今、人生最大の大勝負に出ようとしていた。

 それは何か、ズバリ────告白だ。


 気弱でヘタレなこの僕が、誰かに告白をするなんて、生涯で絶対にないと思って今まで生きてきた。だって臆病者ですし?

 しかし、好きになってしまったのだから仕方がない。そうやって開き直ることにする。


 告白をする相手は、僕の幼なじみとも呼べる子、小桜(こざくら) 帆ノ美(ほのみ)である。

 名前からして可愛い! そして実際可愛い!

 その可愛いのレベルといったら、学校のマドンナと呼ばれ、高校の校外学習先で訪れた東京ではアイドルプロデューサーだという人にスカウトされた程だ。


 そして彼女を言い表すとすれば──“完璧少女”──この一言に尽きる。


 彼女は本当に完璧だ。


 テストでは常に学年1位。運動神経もクラストップ。料理は上手いし裁縫もできる。楽器の演奏もパーフェクト。画力だってある。

 その他で言えば、性格良い子だし、コミュ力あるし、友達思いだし、笑顔が可愛いし、声も可愛い。さらにはリーダーシップやカリスマ性もあり、生徒会では書記を務めている。


 これを完璧と言わずして何と言う。


 こんな僕が彼女の幼なじみだということを、時々自分でも不思議に思うものだ。


 では、そんな彼女に告白をしようとしている、僕の特徴を挙げるとしよう。


 僕の特徴は──無い。


 まったくと言っていいほど無い。

 マジで無い。

 The普通である。

 普通過ぎて、逆にそれが特徴とも言えるだろう。


 テストはいつも平均点。運動神経もそこそこ。料理はあんまり作らないし、裁縫は縫えるっちゃ縫えるが、縫い目がガタガタになる。楽器も、ドレミファソラシドがわかるくらいで演奏技術は普通だ。画力も、立体が少し描ける程度である。

 ……うむ、我ながら普通だ。

 強いて言うなら、折り紙が得意といったところか。しかし、日常生活や学校生活じゃああまり役に立たないスキルである。

 折り紙が得意だからといって、特別手先が器用なわけじゃないし……だって裁縫は得意じゃないもん。


 まあ──そんなウジウジ言ってないで、気持ちを切り替えよう。


 僕は今日、その完璧少女であり幼なじみの帆ノ美と遊園地へ行く約束をしている。そして現在、待ち合わせ場所である公園のベンチに腰かけているところだ。

 約束の時間まで後1時間。……とてつもなく早く来すぎてしまったというわけである。


 だってしょうがないじゃないか。告白するしないはともかく、帆ノ美と二人で出かけるのだ。これはデート以外の何ものでもない。


 ちなみに、これを誘ったのは僕だ。……驚いただろ? 俺も自分のことながら驚きだよ。


 経緯を説明すると──僕が商店街で行われているくじ引きを、ポケットティッシュ目的でなんとなく引いた。すると、なんと遊園地のペアチケットが当たってしまったのだ! なぜかこういう時に限って、特賞とか引いちゃうんだよなぁ……

 しかし悲しいことに、僕には二人きりで遊園地へ行けるような、特別仲の良い男友達もいなかった。そもそも、折角の遊園地を男2人で回るとか、それもそれで悲しいじゃん空しいじゃん。

 しかし折角の遊園地ペアチケットを、無駄にもしたくなかった僕は、悩みに悩んだ末──閃いたんだ。


 帆ノ美を誘って、そこで告白をするというのはどうだろう?


 その時は、我ながらナイスアイディアだと自分を褒め称えた。

 そしてそのハイテンションに身を任せるまま、帆ノ美を遊園地デートに誘ったというわけです。


 しかしもちろん、気分が落ち着いてすぐに後悔した……


 何がナイスアイディアだ。こんなステータスthe普通のヘタレ男子が、学校1のマドンナである完璧少女に告白したところで、成功するわけがないじゃないか。川から大きな桃が、どんぶらこどんぶらこと流れてくるくらいの確率だろ。


 それどころかこれから先、友達としてすら付き合えなくなるかもしれない。それが、僕の一番恐れていること。


 帆ノ美も、よくこの誘いをOKしてくれたものだ。心広すぎ、良い子すぎかよ。


 まぁそして現在、今更になって怖気づいているというわけで……


 ……それでも、ここまで来たからには、僕も男だ。腹を決め、今日僕は帆ノ美に告白するつもりである。


 しかし、どのように告白するのかというプランは、まったくない。

 考えようとはしたのだが、考えるとあまりに空しく、そして自分のことながら恥ずかしくなり、気付けばいつも夢の中へ行ってしまっていたのだ。


 そんなこんなで、完全に運に身を任せるという結果になってしまった……


 だが、流石に何も準備をしていないというわけではない。

 毎朝見ている朝のニュース番組の占いコーナーで、僕の星座は今日1位という結果だった。しかも恋愛運がマックスときた。これは神様が僕の告白を応援してくれているのではないか?


 さらにはラッキーアイテムのこけしも持ってきて、これだけは準備万端である。……よく家にこけしがあったな。

 つか鞄にこけしとかホラーだよ。こけし入れてたこと忘れてて、出掛ける前に鞄の中見た時とか、真面目に心臓止まるかと思ったし。


 ──まぁとりあえずは後1時間、帆ノ美が来るまで、気長に待とうではないか。

 短気な男は嫌われるって、なんか昔見た昼ドラで言ってたし。


 そう思い僕は、空を見上げた。

 空を見つめ、浮かんでいる雲を何かに例えて暇をつぶすのは、僕の十八番だ。しかし生憎、今日の天気は雲一つない晴天の青空のようで。


「はは、いやこの天気、告白には持ってこいの素晴らしい空じゃないか。このままの天気なら、夜には綺麗な星空だな」


 僕はそう言葉を漏らす。

 もちろん独り言なため、もし誰かに聞かれていたらめちゃくちゃ恥ずかしいわけだが。

 とりあえず、辺りには誰もいないようで安堵した。


 しかし、ではどうするか……

 今、時期は丁度冬へ移り変わったくらいだ。

 結構肌寒い時期であるため、気を紛らすことがない中、小1時間北風の吹く外で待機というのは、かなりの苦行である。


 そんなことで、僕が首を捻っていると


「あっ優真、早かったね~。待たせちゃったかな?」


「──!?」


 待ちわびたその声に、僕は首がもげるのではないかという勢いで振り返った。


 そして、そこいた可愛いらしい女性の姿に、僕は頬が一瞬で熱くなったのを感じた。

 思わず、反射的に立ち上がる。


 ふわふわ真っ白なセーター、赤チェックのミニスカート、黒いタイツ、ベージュのブーツ。そして、透き通るような真っ白な肌。コーディネートの一つ一つが、彼女の可憐さを引き立たせているようだった。

 僕が彼女──帆ノ美の姿に見とれ、口をパクパクさせていると、帆ノ美は不思議そうに小さく首を傾けた。


「ん~~どうしたの?」


 僕はハッと我に返る。


「いっいやその、その……」


 帆ノ美が可愛すぎて見とれていた、そう素直に言えない。だって、恥ずかし過ぎるじゃないか。


 僕はまたその場であたふたする。こんなのだから、ヘタレだと思われるんだろうなぁ……


 帆ノ美はずっと、口元に可愛いらしい笑みを浮かべてこちらを見つめている。

 ……ん? ()()()()()()()()……?

 それを理解するのに、ピッタリ3秒かかった。そしてその瞬間、僕は頭から湯気が出ているのではないかというほど、全身が熱くなった。

 思わず視線を外しそうになる。しかし、それは駄目だ。そんなの、感じが悪すぎる。


 僕も帆ノ美の目を真っ直ぐ見て言う。

 最初の疑問に、まだ答えていなかった。


「いっいいや、全然待ってないよ。寧ろまだ待ち合わせの1時間前だし。帆ノ美こそ、随分早く来たんだな」


 僕の問いかけに、帆ノ美は照れくさそうな笑みを浮かべた。


「……優真と、久しぶりにお出掛けできるのが楽しみだったから、いてもたってもいられなくて……本当に久しぶりだよね。小学4年生の時以来かな?」


 ──帆ノ美が、そんな風に思っていてくれてたのがあまりにも予想外で、僕はかなり面を食らった。


「た、楽しみにしてくれてたのか?」


 驚きのあまり聞き返す。


「うん、そうだよ。……さっ! 早速遊園地に行こう!」


 話題を変え、帆ノ美が駅の方向へ向かいだす。

 なんだかはぐらかされたか? ……いや、そんなことはないか。




 ……完璧少女に凡人の僕が告白をするなんて、普通に考えて無理ゲーだ。

 だがアニメや漫画の主人公たちは、その無理ゲーを必ず突破する。


 僕は現実世界の住民だ。残念ながら、そんな主人公補正は持ち合わせてない。

 しかし、やってやろうではないか。この無理ゲーをクリアしてみせる!


「ちょっと待ってくれよ~!」


 そう決意し、僕は帆ノ美の小さな背中を追いかけるのだった。

初投稿です。

至らぬ部分があるかと思いますが、評価してくださればとても嬉しいです。

最後はかなり衝撃の結末になっていますので、よければラストまで見ていってください。


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