118:もう一つの神話
まだ太陽と月、荒野と海しか存在しなかったはるか昔、荒野には3人の姉妹が住んでいました。
慈愛に満ちた、輝く金の髪の長女、エミリア。
気高き誇りと情熱を持つ、燃えるような赤い髪の次女、ロザリア。
自由奔放で笑顔がまぶしい、艶やかな黒い髪の三女、サーリア。
性格の違う3人は、しかし、サーリアが無邪気に走り回り、ロザリアがそれをたしなめ、その二人の様子をエミリアが笑顔で見守るという、とても幸せな毎日を送っていました。
ある時、家の周りの荒野を見たエミリアが言いました。
「家の周りが寂しいわね。もっと賑やかにしましょう」
そうつぶやいたエミリアは、自分の髪の毛を数本抜き、地面に埋めました。
するとエミリアの髪の毛はどんどん大きくなり、大きな木となって、鮮やかな緑に彩られました。
続けてエミリアは自分の指を切り、血を数滴地面に垂らしました。
するとエミリアの血はどんどん大きくなり、犬、鹿、熊、鳥となって、森は賑やかになりました。
ある時、熊が木を傷つけ、枝を折っているのを見たロザリアが言いました。
「熊が悪いことをしないよう、見張りを立てよう」
そうつぶやいたロザリアは、自分の指を切り、血を数滴地面に垂らしました。
するとロザリアの血はどんどん大きくなり、人族の男と女となって、森を見張るようになりました。
ある時、人族の男と熊が喧嘩をしているのを見たサーリアが言いました。
「喧嘩はダメだよ、みんな仲よくしようよ」
そうつぶやいたサーリアは、自分の指を切り、血を数滴地面に垂らしました。
するとサーリアの血はどんどん大きくなり、獣人、エルフとなって、人族と熊をなだめ、仲直りさせました。
こうして3姉妹の家は森に囲まれ、賑やかで幸せな生活を送る事ができました。
ある時3姉妹の住む森の近くに、白髪の男、ガリエルが来ました。
ガリエルは3人の住む森を見て羨ましくなり、自分の髪の毛を抜き、指を切って、髪の毛と血を地面に埋めました。
するとガリエルの髪の毛と血はどんどん大きくなりましたが、しかし、枯れ木と、白い毛皮を持ったハヌマーンとなったのです。
ガリエルは嘆き悲しんでハヌマーンを家から追い出し、ハヌマーンは雪の積もった寒空の中、一人膝を抱えて震えていました。
すると一人の少女がハヌマーンを見つけ、彼に服を被せて言いました。
「大丈夫、あなたは何も悪くない。一緒にガリエルの所に戻ろう」
サーリアはハヌマーンの手を引き、ガリエルの許へと向かいました。
サーリアはガリエルの許へ赴くと、ガリエルを叱りました。
「ダメだよ、この子の毛皮はこんなに綺麗なのに。仲よくしようよ」
サーリアの言葉にガリエルは謝り、やがて3人は、ガリエルの家で幸せに暮らしました。
しかし、そんな3人を見たエルフは嫉妬に駆られ、サーリアを取り戻そうとガリエルの家へと向かいます。そして、サーリアの膝の上に座るハヌマーンに向けて、矢を放ったのです。
「ハヌマーン、危ない」
エルフの矢に気づいたサーリアはハヌマーンを庇い、エルフの矢はサーリアの心臓を貫いてしまいました。
サーリアを誤って射抜いてしまったエルフは逃げ帰り、サーリアがハヌマーンに殺されたと、エミリアに嘘を言いました。エミリアは悲しみのあまり倒れ、ロザリアは怒り狂って、人族、エルフ、獣人とともに、ガリエルの許へと押し寄せてきます。
心臓を射抜かれたサーリアは、涙を流すガリエルとハヌマーンに対し、こう言い残して息を引き取りました。
「エルフの心臓を抉って、私の体に埋め込んで。そうすれば、私は生き返る。再び3人で幸せに暮らそう」
こうしてガリエルとハヌマーンは、サーリアを生き返らせるため、ロザリアと永遠の戦いを繰り広げる事になったのです。