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リクエスト イン ザ ホール!(特に意味はない)  作者: KKSY
第一部 勇者パーティー加入から追放まで。
5/11

主人公くん、要求する。勇者ちゃん、応える。

 勧誘をはっきりと断られ、アリサは内心でやっぱり、と嘆息する。


 異形の生物、魔物。神秘の力、魔法。女神の加護、技能。

 この世は摩訶不思議に溢れている。

 努力だけでは覆せないそれは、時に人類に牙を向ける。


 所謂差別だ。


 肉体面や知識面は努力でどうにかなる。けれど、魔法や技能はそうではない。魔法は素質だし、技能は加護によって決定される。明確な優劣は残酷な格差社会を生み出していた。


 教会で共に勉学へ励んでいた同年代の子ども達はそうだった。魔法一つ、技能一つでバカにし、バカにされ。傷つき、傷つけられていた。

 何度も仲介に入った経験を持つが、どれも例外なく、助けた筈のその子から憎悪の視線を浴びせられた。


 勇者として各地を巡っている時もそうだ。表では愛想よく振る舞われても、その裏に薄汚く醜いものがある事をアリサは知っている。


 だから、この村も同様なのだと思った。


 加護のない彼がどれ程の努力を重ね、功績を重ね、村に貢献し、どうやって受け入れられたのか、アリサには分からない。想像すら出来ない。それでもきっと、相応の苦労は有った筈だ。


 苦労への見返りが、気のいい村人であり、村全体からの信頼である。


「なぁんでぇ? 勇者パーティーだよ? 入るだけでも教会や国から支援を受け入れられるんだよ? なんで断れるのさぁ」


 赤毛の少女、ライネがとんがり帽子を揺らしながら純粋な疑問を投げた。


 それに受けて彼は、服越しからでも分かる逞しい胸筋を誇らしげに張り、得意気に答えた。


「自慢だが、俺には今日までこの村を護ってきた自負がある」


 大胸筋、上腕二頭筋。アリサの視線はその二つを行ったり来たりしている。心なしか頬が紅潮していた。


「そこは自慢じゃないがぁ、じゃぁないのぉ?」


「客観的な事実を誇って何が悪い」


「悪くはないけどさぁ。ねぇ、アリサちゃんはどう思う?」


「はい、鍛えられた筋肉に囚われたいと思います」


「なんの話ぃ!?」


 しまった、と口をつぐむ。思わず現在の願望を声に出してしまった。


 これ見よがしに咳払いをしてから佇まいを正す。


「エレメレストさんがナイス筋肉である事は置いておくとして」


「アリサちゃん、実は筋肉フェチなのぉ? そうだったのぉ?」


「あの、あまりそこには触れないで頂けると助かるのですが……」


 エレメレストが立ち上がり、ぐいっと筋肉を膨らませてポーズを取る。鼻血が出た。


「くっ! これ程の破壊力とは」


「……なんだか男女の役割が逆な気がするんだよねぇ。そこはアリサちゃんがセクシーポー……ご免なさい」


「別に、気にしていませんよ。えぇ、エレメレストさんに出逢うまでは気にしていませんでしたとも!」


「安心しろ、揉めば膨らむ」


「がはっ!?」


「吐血ぅ!? じゃ、ないっ。水属性魔法で色つけてるだけだこれぇ!」


 「ちょう無駄な技術!」と騒ぐライネを尻目に、アリサは口元を拭う。勧誘している手前、先日や先程のようにときめく訳にはいかない。血ヘドを吐いてでも断固阻止である。


「話を戻しましょう。断る理由を詳しくお伺いしても?」


「あぁ。確か自負があるとまで言ったな」


 思い出すように呟いて、彼は断る理由を語っていく。


 まず第一に不安である事を伝えられた。彼がこの村を去った後、滅ぶ事なくやっていけるのかが心配であると。


「勇者の旅に同行する、て事は死ぬ可能性は高い訳だ。特に加護のない俺はな」


 死んでしまえば、村へ帰還する事も出来ない。だから彼は要求する。


「都の狩人でもなんでも連れてこい。そいつの知識や技術、そして経験を徹底的に他の奴等に叩き込んで欲しい」


 辺境の村であるが故に、都からの援助は期待できない。エレメレストの村は殆んど自給自足で歴史を重ねており、時折立ち寄る行商人から自給自足では賄えない品を購入する程度である。それも絶対必要という訳ではなく、無くてもいいけど有った方が何かと役に立つ細々とした物だ。


 このスタンスを変えるには根本的に村を改革しなければならない。具体的には発展だが、そんな要素は何処にもない。だからこそ、村単体でやっていく為の経験が必要らしかった。


「これまでやって来た事が大きいだけに、抜けていいものかと悩むんだよなー」


「不安が解消されれば、加入を断る理由が無くなると?」


「そうだ。現状のままじゃ、後ろが気になって気になって仕方がねぇ」


「見たところ、魔物や野盗などの被害は見えませんが……」


「そういう分かりやすい脅威なら、町とかに助けを求めやすいんだがなぁ」


 アリサは分からず小首を傾げた。


「この村の主だった被害は野性動物によるものだ。畑を踏み荒らされれば作物は獲れねぇ。山にデカイ動物が出れば、他の奴等は怖がって山菜や木の実を採りに入らねぇ。こんな事で、町の騎士団は動くと思うか?」


「……思えません」


 騎士団からすれば、そんなものは些事であり、後回しにする事もなくまず相手にされないだろう。相手にされても、現地住民で十分対応可能と判断されるか、見捨てられるかのどちらかだ。


 何をするにしてもお金が掛かる。そして騎士団が使える資金は限られている。こんな事で軍資金を圧迫する指揮官など居ないだろう。


「だから、俺達の事は俺達で解決してきたし、解決しなきゃならねぇ。俺が居なくても問題ないかもしれないが、不安材料は少ない方がいいだろ? 精神衛生的に」


 エレメレストは最後にそう締め括った。


 そして、アリサが首都から腕利きの狩人を連れて来るのが二週間後であり、更にその一ヶ月後、エレメレストはようやく腰を上げるのだった。

 某友人から「これじゃない感が半端ない」と文句を言われたので、先の展開を話したら「お前って奴は、お前って奴はぁ!」とか言われながら叩かれました。解せぬ。ちゃんとハッピーエンドタグ入れてるのに……。

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