主人公くん、一目惚れする。女勇者ちゃん、承諾する。魔法使いちゃん、観察する。
サブタイで内容のネタバレをしていくスタイル。
大猪を持ち帰ると、すぐさま猟師全員による解体が行われ、その日の内に大量の肉が村人中へと行き渡った。
久々に贅沢出来ると、世紀末ひゃっはー状態となる友人知人達にドン引きしつつも、レストは満更でもないという微笑みを浮かべ、ぶっ倒れた。幾度も休憩を重ねたとはいえ、それだけで肉体に掛かった負担を誤魔化せる訳もなく、彼は全身を苛む激痛に苦しむ事となっている。
触られると痛みが増す為、しばらく放っておいて欲しいと伝えると、本当に誰一人としてレストを気に掛ける者が居なくなった。
村の貢献人、主役である筈なのに、レストは村の入り口に一人ぽつんと放置されている。ひゅー、と冷たい風が彼の肌を励ますように撫でた。
地面つめたー、と呆けていたが、二種類の足音を聞き取り、彼は内心で警戒度を上げた。
「あの、大丈夫ですか?」
優しく、気遣うような声音だった。
どうにかこうにか顔を持ち上げて、声の主を拝むと、なんとも可愛らしい少女だった。
クリーム色のベリーショートに、可愛らしい目鼻立ち、騎士然とした佇まいだが、今は困惑している為か凛とした雰囲気は皆無である。
エレメレストは人生で初めて一目惚れをした。
気付けば、彼は全身の激痛を完全シャットアウトして可愛らしい少女の手を取っていた。
「え? あのっ?」
レストの突然の行いに、彼女は驚き一歩足を退いたが、彼が立ち上がり、その華奢な腰を抱き寄せる方が早かった。
「一目惚れした、結婚しよう」
一目惚れからの迷いのないプロポーズ。まさに電撃的な告白である。
彼の腕の中に収まっている少女は言葉の意味を理解すると、ぼんっ、と顔どころか耳まで真っ赤にした。
赤毛の少女は黄色い歓声をあげるのを必死で抑え込んでいた。
騎士然とした少女は女神の神託により選ばれた勇者の一人。当然、国の貴族は彼女を取り込もうと、あるいは気に入られようと手を尽くしている。金銀財宝、貢ぎ物、時には容姿の整った男も宛がっていたが、彼女は顔色一つ変えずに拒絶の姿勢を崩さないで居た。
難攻不落の鉄仮面。
旅の道中で愛を囁かれる経験は数知れず、そんな男達をばっさりと切り捨てて来たのが彼女である。
それが、それがっ!
――面白い事になってきたぁー!
赤毛の少女はわくわくドキドキしながら二人の様子を見つめている。まさに一瞬たりとも目を離してなるものか、という意気込みが見えた。
鉄壁の少女、勇者ちゃんは混乱のあまりに目をぐるぐると回している。普段は毅然に振る舞っているが、思えば彼女に男性経験はない。町で待たせているパーティーに男は居るが、彼女に取っては仲間という枠組みで、異性としては見ていないのだ。
つまりこれが、勇者の中でも最優と呼ばれている勇者ちゃん初のラブロマンス!
「えと、あの、は、はぃ……」
勇者ちゃんは真っ赤になりながら蚊の鳴くような声で頷いた。
――まさかの了承!? そして一発攻略っ! アリサちゃんちょろッ!?
これを受けて筋肉質な彼のテンションは有頂天となった。
満面の笑みを浮かべて勇者ちゃんを横抱きに、所謂お姫様抱っこをした。
「よっし! それじゃ村のみんなに紹介すっぞ!」
「ええっ!? ま、待ってください! まだお互いの名前も知りませんし、こ、こういうのはもっと段階を踏んでですね――」
――否定しないんかい、そのまま受け入れるんかい!
実は勇者ちゃんって、かなり流されやすいのでは? という疑念の眼差しに気が付いたのか、勇者ちゃんははっとしてこちらを見た。そして見開いた。
「その反応ぅ、完全にわたしの存在を忘れていた反応と見えるぅ」
なんだか凄く泣きたい気分になった。
「えとあのその、違うんですよ? 決して、突然の告白にときめいて彼以外目に入らなかったとか、なんだか胸が暖かくなって彼ともっとくっつきたいとか、そんな事は有りませんよ?」
「本当ですよ?」と念を押す勇者ちゃんに赤毛の少女はしらーっとした眼差しを向けた。二人共々一目惚れの上べた惚れである。今なら口から砂糖を吐けそうだ。
「それもそうだな。なら、まずは恋人から始めようか!」
「こいっ!? は、はいぃ」
「そこは友達からじゃないんかい……」
頬が弛んで乙女な顔を晒す勇者ちゃんは感極まったように彼の肩へ頭を押し付けた。ここまで来れば赤毛の少女でも分かる。この二人バカだ。
「ほらぁ、イチャイチャラブラブするのは後にして、わたし達は人を探しに来たんでしょぉ?」
「む? そうだったのか。ならば! この運命的な出逢いに感謝をしながらその人探し、手伝ってやろうじゃないか! ところできみ、結婚式は何処でやりたい?」
「貴方となら何処へでも……」
「あぁー、もう! アリサちゃん、ちょぉーっと乙女回路停めようかぁ? 話が進まないよぉ? そこの彼も! 変にアリサちゃんを蕩けさせない!」
「ぐっ! 仕方がない、我慢しよう」
苦虫を潰したような口調だった。
「ライネ、変な言い掛かりをしないでください。わたしは勇者として幼少の頃から教会で訓練を重ねて来たのです。これしきの事で蕩ける筈がありません」
と、筋肉質な彼の首へ腕を回し、その肩へ頬を押し当てながら勇者ちゃんはお姫様抱っこをされたままキリッ、と表情を引き締めつつ宣う。全く説得力がない。
「よし、なら自己紹介だ。……自己紹介、自己紹介かぁ。なんか不思議な感じだな自己紹介。本能がこのまま自己紹介をせず話を進めろと囁く」
「ヘンテコな事言ってないで、簡単にでいいから自己紹介するよぉ? わたしはライネ・ヘレ・ヘブン」
「アリサです」
「エレメレスト・ディ・ギャップだ」
「ん?」
「それは奇遇ですね。わたし達が探している人もエレメレストという名前です」
「そうか。ならそのエレメレストに感謝しないとな。そいつのお陰で俺はアリサ、お前とこうして出逢えた」
「んん?」
「それは違いますよ。この出逢いが運命であるなら、わたし達はいつか必ず、巡り会えたのですから」
「アリサ……」
「エレメレストさん……」
間近で見つめ合う二人にライネはうんざりとした眼差しを向けた。
「つっこまないぞぉー、わたしはつっこまないぞぉー」
仲間内からは頭のネジが数本どっか行っていると評されているライネだが、今現在、一番まともなのは彼女である。
めんどうくさい二人が出逢ってしまったと思いつつも、ライネは二人の未来に興味が湧いた。決して仲間を異性として認識しない勇者ちゃん。なら、仲間になる前に異性として意識しているなら、その後の関係はどうなるのか。彼女の知的好奇心は疼いている。
「楽しい旅になりそうだねぇ」
と、鼻歌混じりにそう呟き、ライネは大真面目にエレメレストを探し始める二人の後を追った。
使ってるスマフォの問題なのか、書いたものがきちんと保存されずに虚無の彼方へ消えるとモチベが下がる(悲しみ)。