2巻 友情譚
迅雷の逆襲譚 第2巻
疾風と迅雷の友情譚 前編 《再会と胎動》
《プロローグ 彼らの友情譚》~《エピローグ 激戦、そして……》
刃堂ジンヤには、大切な約束が二つある。
一つは、雷崎ライカとの頂点を目指すというもの。
そしてもう一つは、ライカと離れ離れになっている間、宿敵を倒すために牙を研いでいる時期に出会った
少年と交わしたものだ。
彼の名は風狩ハヤテ。
刃堂ジンヤの、生涯で最高の友になる男だ。
◇
騎士と魂装者は、強くなるために二人の仲を深めることも肝要だ。
そんな訳で、休日、ジンヤとライカの二人はデートに出かけることになった。
しかし、そこで事件が起きる。
ライカが一人のところを、何者かに狙われ、拐われてしまう。
救出に向かうジンヤだが、複数の相手に囲まれ、さらに透明化の能力を持った騎士まで現れ、窮地に陥る
。
そこへ颯爽と駆けつけたのは、風狩ハヤテ。
ジンヤがライカと離れている間、共に過ごし、高め合った親友だった。
「負ける気がしないね」「負ける気がしねえ」
共闘により、周囲の敵を一蹴。
二人は再会を果たしたのだった。
◇
ハヤテとジンヤは、とても良く似た境遇だった。
ジンヤがライカのために強くならなければならなかったように。
ハヤテもまた、最愛の魂装者であるナギという少女のために、強くならなければならなかった
。
二人は、《剣聖の弟子》である叢雲オロチのもとで、修行の日々を過ごした。
ジンヤ、ハヤテ、オロチ、そしてとある事情からオロチのもとで暮らす少女、アンナを加えた4人での生
活は、今でもジンヤの大切な思い出だ。
ジンヤにとって、ハヤテは憧れの存在だった。
自分よりも強い騎士で。
自分とは違って、明るく、誰とでも親しくできて、いつも誰かに囲まれている。
そんな存在が、戦う時だけは、対等に向き合ってくれる。
しかし、ジンヤの実力はハヤテには及ばない。
そのことで、彼を失望させてしまった。
ジンヤはそれがずっと悔しかった。
だから必死になった。
ライカのため。それ以外にも、強くなりたい理由が増えた。
そして二年の月日が流れて、ハヤテがオロチのもとを去る時。
ジンヤはハヤテと戦い、《迅雷一閃》を初めて放って勝利した。
そして約束をした。
いつか二人が魂装者と共に戦えるようになった時。
その時、再び全力で、最高の戦いをしようと。
◇
ジンヤとハヤテの再会の裏で、ある組織が動き出していた。
組織の名は《炎獄の使徒》。
都市内の治安維持を司る組織からも最も危険視される集団だ。
《使徒》の騎士である空噛レイガは、《彩神剣祭》への出場を決めていた
騎士、夕凪シエンを襲う。
他にも同様な事件は複数起きており、ライカが狙われた件もこれに連なるものと予想された。
対するガーディアンは、判明している《使徒》の拠点へ攻勢をかける。
その作戦への参加の誘いを受けるジンヤ。
参加に迷っている所へ、オロチから『アンナが拐われた』という知らせが入り、迷いは消えた。
作戦開始。
《使徒》の拠点で待ち受けていたのは、空噛レイガだった。
遠距離攻撃への対抗策をほとんど持たないジンヤに対し、双銃を操るレイガは鬼門だった。
窮地に陥るジンヤ――――そこへ現れたのは、ミヅキだった。
レイガをミヅキに任せ、奥へ進むジンヤ。
そこで邂逅したのは、《使徒》を統べる男、赫世アグニと囚われていたアンナだ。
圧倒的な力を誇るアグニを前に絶望するも、そこに駆けつけるハヤテ。
ジンヤとハヤテ、二人がかりでもなお余裕を見せるアグニ。
さらにハヤテが事前に情報を伝えていたことにより、オロチが参戦。
オロチが《剣聖》であるという事実が明かされ、その場はアグニ達《使徒》側が退いた。
疾風と迅雷の友情譚 後編 《本当の友情譚》
《断章 もしも彼女たちが運命という舞台において光が当たらぬ存在だとしても》~《本当のエピローグ
彼らは必ず》
・断章 もしも彼女たちが運命という舞台において光が当たらぬ存在だとしても
最後の一つとなった、黄閃学園内の剣祭出場枠。
それを賭けて激突するのは、龍上キララと雨谷ヤクモ。
逆襲譚や友情譚を抱えた少年達に比べれば、彼女達は取るに足らない存在だ。
だとしても、彼女達にも譲れないものがあるのだ。
ヤクモにとって、彼女が受けるジンヤからの憧れは残酷なものだった。
ジンヤは既に、ヤクモを越えてしまった。
だと言うのに、かつての憧憬だけが残ってしまっている。
それはもはや呪い。
それでも、ヤクモは止まれない。
かつての憧憬に相応しい騎士になりたいから。
キララは天才だった。
彼女は、負けず嫌いだった。
負けず嫌いの気質が悪い方向へ作用して、なんの努力もしなければ、敗北しても傷つかないという言い訳の
理屈に縋っていた。
本気で努力して負けたら、本気で悔しい。
それでも彼女は進む。
ジンヤに負けた。
オウカに負けた。
悔しくても、それでも進むと誓った。
ぶつかり合う譲れぬ想い。
キララはヤクモに教わった技で、ヤクモを越えて、剣祭の出場を勝ち取った。
・断章2 風雷激突/もう一人の逆襲譚
「「――アイツに勝つのは、このオレだッ!」」
龍上ミヅキには、
風狩ハヤテには、
刃堂ジンヤに負けられない理由がある。
だから、同じモノを抱えた男に、負ける訳にはいかなかった。
自分こそが、あの男の好敵手だという確信を激突させ――――そして、ハヤテが勝利した。
ハヤテに敗北したミヅキ。
ジンヤとの戦い、そしてハヤテとの戦い。
二つの敗北を通して、ミヅキの魂装者である少女めるくは、これまでに見せたことのない意志を
見せた。
悔しさに泣き崩れる少女を前に、ミヅキは再び誓う。
二人でこの敗北を背負い。
もう二度と、誰にも負けないと。
・本当の友情譚
剣祭の一回戦、第一試合の組み合わせは、ジンヤ対ハヤテ。
待ち望んだ約束の決戦。
しかし、その決定を知ったハヤテの様子はおかしかった。
ハヤテの真実を知ってしまったジンヤは、彼にその事を問いただす。
ハヤテの真実。
彼には残された時間が少ないということ。
だから最後は、ジンヤとの約束を果たしたい。
それが彼の願いだった。
激怒するジンヤ。
自身の命を諦めているハヤテに、ジンヤは可能性を提示する。
それは剣祭優勝の特典を使って、彼の体を治すというものだった。
だが、ハヤテは『赫世アグニに敵うはずがない』と言う。
それでもジンヤは諦めなかった。
これまでもずっとそうしてきたように、彼は努力の可能性を信じ続けている。
そして何もなかったジンヤにとって、たった一人の親友であるハヤテは絶対に諦めきれるものではなかった
のだ。
想いを握りしめた拳をぶつけ合い、ジンヤはハヤテの諦めを砕いた。
そして――――ついに迎えた、約束の決戦。
ハヤテの魂装者である翠竜寺ナギは、生まれた時からずっと孤独だった。
病気により外に出ることもできない、鳥籠に囚われていた少女。
彼女を救ったのは、ハヤテだった。
だが、ナギは、彼を殺すことになった。
共に戦う騎士の命も奪うという未知の病。
その責任を感じたナギは、残りの短い命を全てハヤテのために使うと誓う。
そして始まった決戦。
ジンヤもハヤテも、これまでの人生で最高の戦いを繰り広げた。
天秤がジンヤへ傾いた理由は、彼がずっとハヤテとの戦いを思い描き続けていたからだった。
戦いの後、ナギへと友になることを提案し、手を差し伸べるライカ。
誰にも記憶されずに消えていくことに怯えていた。
誰とも友になれずに死んでいくのだと思っていた。
友情譚は、ジンヤとハヤテだけのものではなかった。
かくして、鳥籠の少女は全ての願いを叶え、疾風と迅雷の友情譚は幕を下ろした。