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脱力系推理小説 無題02

作者: ジェニファ

C01

この世には『宗教』が存在する

それでは、なぜ人間は交換をするのであろう

その理由は宗教にある。宗教は情報を交換する機関だからである

まったく異なるものを交換し、等値化できるアナロジーを有する

「金の匂いがする」とは、食物と金が交換され、代替できなければ成り立たない

アナロジーを利用して、対象世界をシュミレートするということは、実のところ人間の大きくなって余剰になった宗教に由来するのである


一つの信号に対する一つの反応の回路が余分にあるために、喩えるものと、喩えられるものとか生まれ、代替が起こり、シュミレートを試みる

かくして、この余剰が比喩となり、抽象化を生み、オブジェクト指向の考え方になったのである


※この物語は、前作無題01とは時間平面上での連続性はありませんが、深い関連性を持っています。先に、無題01を読むことをおすすめします


C02

石井環(たまき)の豪邸、通称石井御殿

その一室に死体が転がっていた

死んでいるのは、石井家の長男・石井康夫だった

死体の様子を見るに、どうやら撲殺されたらしい事が伺えた

しかし、その部屋には他に誰もいなかった。ドアも窓もしっかりと鍵が掛かっていた

これは紛れも無い密室。ただ、気がかりなのは床に一冊の冊子が無造作に転がっている事だった

この部屋でいったい何が起こったのだろうか・・・


C03

木々の緑が視覚的に鮮やかな好季節

モンスーンが屏風のように、そして鳩時計の秒針のように零れ落ちる早春の午後

サイドワインダー桜井は、新学期に現を抜かす愚かな学生達の希望に満ち溢れた瞳をみて、自分の優位性をまた実感していた

彼は探偵である。昨夜起こった石井御殿での殺人事件の調査のために、警察の依頼の下やってきたのだ

どうやらこの難事件に警察はお手上げのようである


桜井は、新世界の神を自負していた。「私に逆らう者は倍数比例の法則に則り、射殺の刑に処する!」

そう、彼はノートを持っている

その、世にも恐ろしいノートは日々の退屈な出来事を取り留めもなく書き綴る、殺人日記帳なのだ

【今日は友達の笹原君がカレーを作ってくれたよ。そのあと、麺の達人を食べました】


C04

石井御殿は一見してとても住宅とは思えないような、感慨深さを放射状にはなっていた

邸内はまるで迷路のような複雑な構造をしており、素人が一度迷い込んだら白骨死体となって発見されるという逸話も、あながち大袈裟過ぎるともいえない

桜井は、七転八倒しながらも、なんとか主人・石井環の元にたどり着く事ができた

「あなたが泣く子も黙る名探偵・サイドワインダー桜井さんですね。わたしがこの屋敷の主人の環です」

「いやはや、泣く子も黙るだなんて・・。それは過小評価ですよ。石井さん」


C05

挨拶も早々に石井は事件のさわりを話始めた

石井の話を要約すると、大体こんな内容だった

彼の長男、石井康夫が昨夜何者かに殺されたか、あるいは自殺した

警察も自殺と殺人の両方の線から捜査を行っている


しかし、彼は信じられなかった

なぜなら、康夫は誰からも好かれる心優しいさわやかな好青年で、誰かに恨まれるなどということは物理的にありえないという

また、彼が最近なんらかの精神的ストレスを抱えていたようにはアフィン幾何学の面からみてもとても見えず、自殺というのも運命的にありえないという

また、通り魔的犯行も邸内環境をインディへニスモ文学の面から鑑みても暫定的にありえないという

また、病死の可能性も規範経済学の面から観測しても感動的にありえないという


桜井はその依頼内容を聞き慄然とした

「これでは、康夫が死ねる可能性すら・・・」

しかし、こんな障子に穴を空けたような状況下でこそ、その卓越した能力を発揮させるのが名探偵サイドワインダー桜井という人物だそうである


C06

桜井は早速、康夫の部屋の調査に乗り出した

その部屋は何の変哲も無い、くたびれた邸内の隅ある

部屋の中は、康夫が生前に暮らしていた時の状態がそのままに保たれていた。ずいぶん豪勢な部屋ですこと

「いったいこの部屋で何が・・」

そんなスリルと不安をつぶやきつつ調査を進めていくと、彼はある一つの結論に達した

「犯人は、あの男だ。第一に彼が犯人であると推奨される証拠が、この部屋には多く残され過ぎている。いったいどういう事だ?彼が犯人だなんて・・。私は何か大切なことを見落としているのだろうか? ・・・現場の状況からみて、殺したのは彼。これはもう間違いない。しかし、問題は動機だ。これが、全く持って無い。絶無なのだ・・」


彼は、その場に硬直し殺しの動機を考えあぐねて閉口していると、床の上に無造作に置いてある小汚い一冊の冊子が目に留まった

その瞬間、妙な感覚が桜井の全身を駆け巡った。

「なるほど。そういう事か」


石井環の部屋に飛び込むや否や、桜井は口を開いた

「石井さん。犯人が解りました。今から×××の部屋に邸内の人間全員を集めてください」


C07

豪邸だというのにずいぶんみすぼらしい、とある部屋に、主人・石井環、妻、石井薫、次男・石井高志、三男・石井健二、長女・石井美智子、弁護士・鈴木太郎が次々に入ってきた

桜井は、環、薫、高志、健二、美智子、鈴木太郎に一人一人に丁寧にアリバイを尋ねた。その結果、その全員に完璧なアリバイが存在した


環は薫と共に屋台軒並み早く食い勝負をしていた

高志は健二と共にヤン・ミルズ方程式と質量ギャップ問題を解き明かしていた

美智子は枕投げをしていた

そして、鈴木はグーグー寝ていた

実にに完璧っぽいアリバイである

しかし、桜井は全てを悟ったかのように重い口を開いた

「確かに、今聞いた皆さんには完璧と思われるアリバイがありました。しかし、一人だけいるんですよ。犯行当時、間違いなく現場にいた人物が。そして、その人物が犯人である証拠も見つけました。部屋に転がっていたんですよ。これが!」

桜井が取り出したのは法務真理教機関紙じょいふる・はぴねすであった

「犯人はあなたですね?」









桜井の人差し指がわたしに向けられた

「あなたがやったんですね?山下吾郎さん!」



わたしは絶叫した






※この物語はフィクションであり実在する人物、団体、事件、その他の固有名詞や現象などとは何の関係もありません。嘘っぱちです。どっか似ていたとしてもそれはたまたま偶然です。他人のそら似です







一応解説

三人称俯瞰視点で語られていたのではなく、じつは山下吾郎の一人称視点だったというオチです

当然、事件現場にいたという事になります

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