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無限の書  作者: まる
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婚約者

【婚約者】


大公家の血筋は古く、建国王まで遡る事が出来る。


人が生まれてより、魔族が存在し共有の敵であった。

勇者や英雄、聖者と呼ばれる人々が現れ、神器、秘宝、聖具と呼ばれるアイテムで封印した。


世界から共有の敵が消えると、人々が増え始める。

いくつもの村が出来、村が集まって町となり、町が集まって国となっていく。

その過程で多くの人々の血が、人々によって流されると言う悲しい結果が起こる。


一つの国が興り、更に人々が増え広がると、各地に新たな村が出来る。

村は新しい町へと至り、そして新しい国が生まれる。


「余の他に王はいらぬ、余の国の他に国はいらぬ」


最初の国は他の国を許せるはずもなく、新しい国へ攻撃を開始する。

魔族に向けられた武力が、同じ人間に向けられるとはなんと言う皮肉であろうか・・


しかし同時にいくつもの国が名乗りを上げる。

そのため最初の国は、それぞれの国に十分な戦力を送る事が出来ず、5つの国が建国する事になった。


最初の国は大陸の中央に位置し、央国を名乗る。

央国の四方に出来た国は、それぞれ北国、南国、西国、東国と名乗る。




エールデは東国を興した建国王の末裔である。


建国王は多くの血の上に国を興したため、いつ戦争が再び起きてもおかしくは無かった。


「また戦さが起きるだろう。王家の血を絶やさぬ方法は無いものか・・」


王家の血筋を守るために、一番末の息子に大公家を与え代々血脈を守る様に命じる。


「お呼びでしょうか、父上」

「そなたを呼んだのはほかでもない。王家の血を守護を命じる」

「王家の血の守護ですか?」

「そうだ。そなたに大公の地位を与える。常に王家の血を取り入れ、王家の血を絶やさぬようにせよ」

「畏まりました」


建国王は、大公家が王家の血筋を守るために、あらゆる事を優先させる特権を与えた。


初代大公はその命を忠実に守り、王家の血筋に連なる者、可能なら現国王の血を自分の一族に取り入れる様に、子々孫々に役目を厳命する。




現大公であるエールデの母親は、現在の国王の兄弟と先代大公である祖母との間に生まれた。

その母親と王太子の兄弟の間に生まれたのがエールデである。




現国王のプライベートルームに、国王の長女とその伴侶であるザトゥルン公爵が呼ばれる。


「ザトゥルン公。そなたの娘は幾つになる?」

「今年で12歳となります」

「そうか、ならばちょうど良かろう」

「何がでございましょうか?」

「大公家の跡取りと婚約をさせたいと考えておる」

「なっ!?」


王家の血筋を取り込もうと貴族は躍起であり、近親婚もざらである。

とは言え、いきなり自分の娘に白羽の矢が当たれば驚くのは当然である。


「不服か?」

「いいえ。突然の事でしたので・・」


貴族同士の婚姻など、所詮は権力争いの一つの手段にすぎない。

ましてや国王の命に逆らえるはずもなく、一瞬だけ表情を変え、その場は了承する。


「近日中に二人を合わせる席を設ける」

「畏まりました」


大公家に更に王家の血筋を入れる計画が始まる。






エールデが8歳の頃から、領地を回ったのには理由がある。

母である現大公より、命があったからだ。


「エールデ。先日8歳の誕生日を迎え、国王にも目通りを済ませました」

「はい」

「そろそろ、次期大公として勤めの一部を受け持つべきでしょう」

「畏まりました、母上」


素直に従う息子に、微笑むと頭を撫でる。


「そなたはまだ幼く、大公を継ぐには早く、周りの反対も大きいでしょう。

まずは次期大公として、大公代理、領主代理として領地を回りなさい。

自分の存在を領民に示し、民の必要を聞き取り、より良い関係を築きなさい」

「はい。是非とも領地を見て、そこに住む人々の声を聞いてみたいです」


エールデにとって、母の言葉は渡りに船である。


『大いなる力』を領民や領地のために使うためには、何が必要なのかを知る必要がある。


「そなたに大公代理にして領主代理として、一切の権利と特権を与えます」

「ありがとうございます、母上」


そして領地を巡り、祝福をして回る事になる。




祝福の効果が領民や、領地に及んでいる事を確認してしばらくすると、母である大公から、その件について尋ねられる。


「エールデ。そなた領地の使用権について、色々と変更している様ですね」

「申し訳ありません。勝手に・・」

「構いませんよ、エールデ。別に怒っている訳ではありません」

「えっ!?」


謝罪の言葉に被せる様に、エールデの考えを否定する。


「私はそなたに、代理として一切の権利と特権を与えました。

そなたが実際に目で見て、耳で聞いて、必要と感じて行った事にとやかく言うつもりはありません」

「母上・・」

「逆に、そなたが母の言葉を重く受け止め、代理としての責務を果たしてくれている事を、喜ばしく思っているのですよ」

「ありがとうございます」


怒られると思っていた所に、褒められ子供らしい笑顔で喜びを表す。


「これからも自分の思った通りに、好きに行いなさい」

「畏まりました」


大公家は、大公領からの税収の他に、観光地や湖、森、牧草地、畑の使用料など、莫大な収益があるので、余程のしくじりが無ければ問題ない。


それよりも金を出し渋る方に注意すれば良く、それ故注意の言葉を伝える。

土地や金品よりも、大公の血筋の重要性をことある事に伝えていく。


「ただし大公家は王家の血筋を守るためだけに存在します。

そのための領民であり領地であると言う事を努々忘れない様に」

「分かっております、母上」


母の教えを守り、領民の声を聞き、『大いなる力』を使い領地を豊かにする。

12歳を迎える頃には、他に類を見ない程、豊かになった大公領があった。






大公家の存在価値は、王家の血筋、王家そのものを守る事にある。


そのため公の場に出席したり、公務を持つ事は極力避けている。

何故か? 血筋ゆえに自分たちを担ぎあげ、国を混乱させる事のない様にである。


王家の血筋を持っているが故に、王宮に出向く際、ましてや国王に謁見する際には細心の注意を払う。

合せて王家や貴族たちも、逆臣とされる事を恐れ大公家と接する事を控える。




エールデが12歳を迎える日が近づいて来ると、母である大公は、国王に生誕の目通りを願うため書状を作成していると、国王より王宮への召還の書状が届いた。


「国王陛下から? 直々にお呼びがかかるなんて・・、もしや!」


国王からの手紙の意図が分からず、いぶかしんでいると、ハッと思い当たり歓喜の表情となる。


「多分、間違いないでしょう」


いくら抑えても抑えきれず湧き出る笑みを堪え、直ぐに侍女にエールデを呼びに行かせる。




「お呼びでしょうか、母上。何かありましたか?」

「エールデ、良くお聞きなさい。国王陛下よりお呼びがかかりました」

「えっ!? 陛下から?」


息子の驚きも無理はない。

王家の側も大公家の存在に配慮しており、滅多な事、誕生の祝いでさえ呼ぶ事は無い。


大公である母は、国王からの手紙の趣旨に隠されている事を伝えない。


もし違えばガッカリさせるし、無ければ無いでその場で願い出れば良い。

本当なら特大のサプライズとなるだろう。


「国王陛下直々のお呼び出しです、失礼のない様に十分準備する様に」

「分かりました。・・何か特別な準備が必要でしょうか?」


国王からの直々の呼び出しには、普段とは違う用意が必要かもと思い母に尋ねる。


「特に何か必要な物と言うのはありません。今までの謁見と同じです」

「畏まりました」


そこまで言うと、ふと自分の予想通りならばと考えて助言する。


「エールデ。今度の謁見は12歳の生誕の報告もあるでしょう。

もう少々、装身具を身に付けた方が良いかもしれませんね」

「装身具・・ですか。例えばどうの様な物が良いと思いますか?」

「そうですね。指輪が良いでしょう」

「・・指輪ですか?」


貴族として当然シーリングリングは身に付けてはいたが、その他の装飾品としては経験が無く、自分の指を不思議そうに見ては動かす。


「ええ。大公領から得られた真珠や、宝石で作った物が良いでしょう」

「分かりました。準備いたします」




母の前を退席すると、どの様な指輪が良いか考える。


「真珠も良いけれど、湖の上流で見つかった翡翠はどうかな? 森で見つかった琥珀はどうだろう?」


宝石が欲しいと願って祝福した訳ではないが、湖や、森、大地を祝福した副産物なのか、ごく稀に輝石を産出しているのが見つかっているのだ。


「宝石職人の皆に相談してみよう」


結局迷いに迷い、両方お持ちになられれば、との言葉に従う事にする。






後日、母である大公に連れられて王宮に赴くと、本来であれば控えの間に通され待機。

しかる後に謁見の間へと呼ばれるのが通例である。


この日ばかりは違い、普段足を踏み入れた事のない別室へと誘われる。


「母上、どう言う事でしょうか?」

「全ては国王陛下のお考えあっての事、大公家は黙って従えば良いのです」

「出過ぎた事を。申し訳ありません」


いつもと違う事を尋ねるが、一瞥する事無く言いきられてしまう。


「努々忘れてはなりませんよ。大公家は全ては陛下、ひいて王家の血ために存在する。

陛下が是とするのであれば、大公家も是なのです」

「畏まりました」


エーデルがこの世界に生まれ変わってより、常々言い聞かされてきた言葉だ。




エールデ達が案内されたのは、国王のプライベートルームであった。


そこには国王と、その妃、二人の長女と夫のザトゥルン公爵、そして一人の少女であった。


「お呼びにより、馳せ参じました国王陛下」

「良く来たな二人とも。さあ座るが良い」


国王の言葉に一度で従い、指示されたソファへと腰かける。

しかし背もたれに体を預ける事無く、背筋を伸ばしたまま、国王の言葉を待つ。


「大公、近年の大公領の発展は目覚ましいものがあると聞く。

素晴らしい大公牛も、珍しい果実も、魚でさえ届けてくれる。

軍属たちは無償で提供されるポーションに感謝をしておるぞ」

「全ては次期大公として、勉強中の愚息に一任している事です」


大公は自領の成果を、息子の物であることを告げる。


「そうか良き働きをしておるな、エールデ」

「いいえ、全ては大公領を守ってきた先祖の行いをなぞっているにすぎません。

代々築き上げてきた賜物であり、領民たちの良き働きの成果と思っております」

「うむ」


自分を決してあげる事のない答えに、満足げに頷く国王。


「どうじゃ?」

「申し分ないかと」


自分の長女に声をかけると、父でもある国王に了承の返答をする。


「エールデ、近々12歳の誕生日を迎えるのであったな?」

「はい、国王陛下」

「そなたたちを呼びたしたのは他でもない。エールデ、そなたの事じゃ」


エールデ達から視線を外すと、ザトゥルン公爵家の人々の紹介をする。


「余の長女と、その夫であるザトゥルン公爵じゃ」

「エールデと申します。以後お見知りおきを」


大公家は他者との関係を疑われる事を極力避けるため、会う人会う人すべてが初対面と言うスタンスを貫いている。


しかし国王の紹介となれば話は別で、国王自らがその関係を認めているからである。


「お初にお目にかかります、大公、エールデ殿。

こちらにおりますのは、我が娘ヴェーヌスと申します。さあご挨拶を」

「ヴェーヌスと申します。お見知りおきを」


母親がブロンドの髪に対して、父親譲りの赤毛を腰まで真っ直ぐに伸ばし、頬をほんのり赤く染めている。

幼くあどけないながらも、将来の美しさを確約されている少女である。


きちんと公爵家で教えられているのだろう、幼いながらも堂にいった礼である。


一通り挨拶が済むと、国王が口を開く。


「エールデ。そなたは大公家に連なる物として、そろそろ相手を見つけるべきじゃ。

しかし大公家と言う立場上、それも難しかろうと思って、余が直々に探してやった」


エールデから一度視線を外し、ヴェーヌスを見る。


「それがヴェーヌスじゃ。歳も同じで、もうすぐ12歳を迎える」


再び視線をエールデに戻す国王に対し、一瞬の躊躇もなく応える。


「ありがたき幸せ。謹んでお受けいたします」

「二人ともまだ12歳。婚約と言う形になるが仲良くせよ」

「「畏まりました」」


エールデはヴェーヌスを、ヴェーヌスもエーデルを見て、国王に頭を下げる。


国王は自分が結んだ二人をにこやかに見つめ、退席の許可を出す。


「大公、エールデ。今日はご苦労であった、下がって良いぞ」

「またお会いできる日を、楽しみにしております」


その場に居る面々に挨拶をして、退席しようとすると、母に思いっきりわき腹を抓られる。

良く声を出さなかったものだと、自分で自分を褒めてやりたくなる。


母の方を向き直ると、視線と顎で何やら合図をしてくる。


「(はて? 何か忘れた事があっただろうか?)」


まず視線の先を追って見る。


「(視線の先は・・指輪?)」


続いて顎が指し示す方を見る。


「(顎の先には・・ヴェーヌス嬢?)」


その時、指輪を用意させた母の意図を知る。


「ヴェーヌス嬢」

「な、何でございましょうか、エールデ様?」


退席の合図が出ている状況で、自分に声が掛けられるとは思わなかったのだろう。

少し驚いた様子で返事をしてくる。


「大公家の身の上故に、自ら会いに行く事はできません」

「承知しております」

「また王宮に上がる事は元より、国元を出ることさえままなりません」

「はい、存じ上げております」


貴族同士の結婚など、結婚当日に初顔合わせなどザラである。


ヴェーヌス嬢を見つめたまま、どちらの指輪を贈るべきか悩む。

結局、両方の指輪を外し、彼女の手をそっと取り乗せる。


「この指輪は大公領で得られた石で作った物です。会えぬ間、せめてもの慰めと思っていただければ」

「まぁ!?」


ダイヤモンドなどの様な宝石とはまた違った、柔らかな温かみの輝きを持った石がはめ込まれている。


「ありがたく、頂戴いたします」


そっと両の手で包み込むと、感謝の言葉を伝える。


ヴェーヌスの母親も、国王の妃も興味深々とその指輪を見ている。


「柔らかな美しさですわね」

「確かに今まで見た事は御座いませぬ」


流石に二人は取り上げる事はしないが、手を開かせてじっくりと鑑賞している。


ヴェーヌスと言えば、二人に取られるのではないかと、内心ビクビクしていた。

幼いながらも、2人の女性の、宝石に対する熱意を十分に感じ取っているのだろう。






帰りの馬車の中で、エーデルは母である大公に詰め寄る。


「母上は、ヴェーヌス嬢の事をご存じだったのですね?」

「誰とまでは知りませんでした。そもそも婚約者の話かどうかも存じませんでしたよ?」

「しかし指輪に関しては・・」

「もしやと思い、一応用意させ手にすぎません」


確かな経験に基づくカンと言うやつだろうか。

母・・、いや女性とは恐ろしいものである。


「会えぬ寂しさを紛らわしていただけるように、定期的な手紙や贈り物が肝要ですよ、エールデ?」

「心得ました」


正直な事を言えば、大公は国王の命とはいえ今回の婚約はガッカリしていた。


現国王より血筋が遠く感じるのだ。

とは言え、エールデに歳が近く王家に近い血筋となると、他に見当たらない事も確かなのだ。


ならばせめてエーデルの子、孫にはより王に近い血筋をと願う。


「それから、あの2種類の石の事を母に黙っていました・・ね?」

「・・えっ!? いや・・あ、あれは、偶然見つけた物で、必ず大公領から産出する物では無くてでして・・」

「母も一人の女として、宝石には目がないのですよ?」

「そんな事は・・、今の今まで知りませんでしたが・・?」


今まで感じた事のない、圧倒的な威圧感を持った笑みに冷や汗が流れ出る。

正にヴェーヌスが祖母と母に感じたものと同一のものであった。


馬車での帰り道・・、母との2人っきりの時間は、まだまだターップリとあった。





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