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無限の書  作者: まる
18/19

和平へ

【和平へ】


エールデは南国との戦いを切り上げて、単身北国軍と対峙する部隊に合流する。

しかし北国軍との戦いは、三国戦で一番短時間で終結する事となった。


「アクティブモード。

苦難に立ち向かいし者に、聖なる城壁を与えたまえ。天蓋」


エールデと東国軍の前に、黄金の輝きを放つ透明な壁が出来上がる。


それを見つめていた北国軍の勇者バレットは、誰ともなく問いかける。


「ありゃ、何だ?」

「さあ、我々も初めて見る物です」


自分に付けられた副官たちが、お互いに目配せして首を横に振る。


「何、訳の分からねぇ事してんだ? 向こうさんはよぉ・・」


自分の名と同じである能力のバレットに、絶対の自信を持っている。

強すぎる自信が故に、自分の能力を防げるとは考えもしない。


「前に出て来てくれたって思えば・・、罠か? まあ、いっちょ蹂躙してみっか」

「はっ!」

「一応挟み撃ちには注意しておけよ? 後ろから撃たれたくないだろう?」


自分たちの味方であるはずの男の一言に、副官たちは青ざめる。

北国の勇者バレットのすぐ後ろを、北国軍が警戒しながら付いて来る。


「スタンバイ」


声を発すると同時に、ズラリと重火器が並ぶ。


「バレット」


その一言で全てが終わった。




この世界の魔法使いたちは、国と国との戦争の兵士であり、攻撃特化の魔法しか使えない。

回復魔法は元より、防御魔法、結界魔法といった物さえ廃れ、忘れ去られていた。


故に、勇者バレットの能力も無敵であると過信していた。


「・・えっ!?」


自分の体中に奔る灼熱の痛みと、喉の奥から湧き出る鉄錆の味・・

吐血しながら自分の体を見れば、穴だらけとなっていた。


「何だ? 何で? ・・何が?」


倒れながら、視界に後方の自軍の兵も倒れて行くのが見える。


彼に魔法の造形があれば・・、周囲の人間に防御魔法の知識があれば・・。

この様な結末はあり得なかったかもしれない。


天蓋とは、物理攻撃を反射する魔法である。

どの様な小さな魔法であっても、簡単に打ち破れてしまう防御魔法である。


エールデも防御魔法に深い知識があった訳ではない。

ただ前の世界で銃弾を跳ね返す装甲を知っており、魔法でイメージしただけである。


物理攻撃に対しては、弓矢や投石、投げ槍などの飛んでくる物は跳ね返す。

それが無数の重火器から放たれる銃弾であればどうなるか?


自らを貫いても止まる事の無かった銃弾は、北国軍を蹂躙するのに十分であった。




北国軍は、自国の勇者と大半の兵たちの哀れな骸を前に混乱を極める。


「い、一体何が起きた!?」

「何で前の部隊が・・、何でバレット様が・・?」

「お、おい!? どう、どうすれば・・」


その様子を冷静に眺めていたエールデが行動を起こす。


「アクティブモード。

敵を切り裂く、光の咆哮よ 皇斬」


乱れた軍隊の手前を、展開する軍よりさらに長く、光の剣が水平に薙ぎ払われる。

前の方に居た兵士が、土煙りを全身に浴びる出来事に静まり返る。


「このまま死を迎えるか? それとも降伏か?」


エールデの声が残りの兵に響き渡るが、沈黙したままである。

再びエールデが皇斬を放つ。


「死か? 降伏か?」


生き残った兵士の中で階級の高い者たちが前に進み出て降伏を告げる。




そのまま北国領にある対東国用の砦へと向かう。


しかし殆どの兵力を東国に向けており、砦には少数の兵のみ。

捕虜を加え膨れ上がった東国軍を前に、あっさりと降伏し明け渡してしまう。


砦の中に北軍の兵士を集め、閉じ込めてからエールデは告げる。


「降伏したからには、君たちの命は保証しよう。また砦の中では自由にして良い」


グルっと敵兵を見渡す。


「但し必要な物資の要求以外で、この砦から出る事は許さない」


捕虜となった者たちは、自国の勇者を倒し、巨大かつ強力な魔法を使えるエールデに恐怖を抱き、反抗の素振りすら見せなかった。




東国軍は北国の王都へ向かう事無く、北の海への玄関口となる町へ向かう。


他国と隣接しない領地は兵士を置いてある事が少なく、城壁も後回しになりがちである。

それもあって南国では、砂漠の玄関口であるオアシスの町を狙ったのである。






北国の王は、勇者の能力であるバレットで脅されていた。


ひたすら勇者に頭を下げ続け、忍耐に忍耐を続け笑顔を保ち続けた。

そこへ東国の内乱を聞きつけ、絶対に勝てると家臣の言葉を聞いた。

更に央国や南国までもが東国へと進軍するとの噂があった。


「このままバレット様の言いなりでよろしいのですか?」

「ぬぬぅ・・」

「勇者は、陛下のために働いてこそかと・・」

「そうじゃな!」


家臣の甘言に乗り、不可侵条約の破棄を決意し、勇者を炊き付けて進軍を開始する。




しかし今、早馬で知らされた事実に驚愕する。


「対東国の砦が陥落したじゃと? 北の海への町もか?」

「・・はっ」


その場に居た家臣たちも戸惑いを隠せない。


「何故じゃ!? 勇者は如何した? 

東国は混乱し、他国との同時進行に手も足も出ないのでは無かったのか!」


そう叫ばずにはいられない。


「国王陛下に申し上げます・・」

「何じゃ!」

「東国にも勇者が居た様で、バレット様は殉死されました。

バレット様と同様な能力でわが軍は瓦解、さらに強力な魔法で砦も落とされた模様です」


若干の情報の食い違いは起きているが、エールデの魔法の前に破れたのは事実。


「なっ・・なんじゃと?」


国王は、玉座から体がずり落ちるに任せる。


「こうなれば、一刻も早く和平を結ばれる方がよろしいかと・・」

「こちらから不可侵条約を破って、戦を仕掛けておいてか? バレットに任せておけば勝てると言っていた戦に負けてか?」


国王の言葉に重鎮たちは、視線を逸らす様に顔を背ける。

誰だって負け戦の責任を取らされたくはないのだ、言いだしっぺが自分たちであっても・・


「くっくっくっくっくっ・・わっはっはっはぁぁ・・。直ちに和平の使者を立てよ」

「・・はっ」


笑うしかない・・ 笑いしか出てこない。

王たる立場の自分が、周りに振り回された結果に自嘲する。






央国の王は、北国と南国の知らせが届くや否や、和平の使者を出すように指示する。


「全軍を引き上げ、国境で待機させよ。東国へ至急、和平の使者を送る手筈を」

「国王! 未だ戦況は有利。今引く事はありませぬ」

「そうです。勇者殿であれば・・」


家臣や軍関係者は口を揃えて、戦争の継続を具申する。


「北国と南国の勇者を倒した者たちを軽んじてはならない」


国王の一言に一同が黙る。


「早ければ早い程、被害や損害も少なかろう」

「しかしながら、和平を破っての侵攻である以上、簡単には纏まらぬかと」

「分かっておる・・」


国王の言葉が、駆け込んできた伝令によって遮られる。


「対東国の砦が落とされました!」

「なっ! 勇者様は? 軍は如何したのだ!?」

「勇者ポイズン様および東国討伐軍の消息は不明です」

「な、何だと・・」


驚きの声を上げる家臣たちに対して、冷静に国王は告げる。


「直ちに和平の使者を」


国王の冷静沈着な決定に、口を挟める者は誰一人としていなかった。






少し時間を遡る。


エールデは北国の主要個所を落とした後、央国との主戦場へと足を運んでいた。


央国軍の策略は、敵部隊を釣り出してからの毒の罠であった。


毒の罠を警戒して、最近は釣り出し部隊が撤退すると、東国軍も引いていた。

そのためお互いが、次の一手を打てず膠着状態であった。


何時もの様に釣り出し部隊で、エールデと大公軍を引き出してくる。


「はっ! 久しぶりにお馬鹿な部隊が出てきやがった」


運悪く毒の魔法を発動させる直前にに風が、央国軍に向かって吹き始める。


「ちっ!? 急いでもっと下がれ。巻き込まれるぞ!」


央国の勇者ポイズンは、自軍に指示を出す。

多少の被害は仕方なしと考え、毒を撒き散らす。


「ふん! これで終わりだ・・、ん?」


大公軍は意に介する事無く、こちらへ向かってくる。


「どう言う事だ? ・・風で毒が吹き散らされているのか?」


味方諸共巻き込む範囲で、さらに強力な毒を再度撒き散らす。

しかし進軍の速度は緩む事は無かった。


「何が起きている? 何で俺の毒が効かないんだ・・?」


東国側は元より、風下となっている央国の部隊にも毒の影響がまったく見られない。


「馬鹿な!? 確かに毒の魔法は発動している! それなのに何で・・!?」


幾ら風が強かろうと、全く影響が出てこない事はあり得ない。


エールデと対峙した時に、風がエールデから発せられている事に気付く、。


「風の魔法ってやつか? 自分の部隊を丸ごと覆っているのか?」


風で覆われているからといって、完全に毒が打ち散らされる物だろうか?

そもそも、そんな事が出来るのか?

よしんば出来たとして、何故風下に居る人間に影響がない?


「お前・・、一体何者だ?」

「アクティブモード」

「・・はぁ!? アクティブ・・モード?」


自分の前に立ちふさがる人影に問いかける。

エールデは央国の勇者の言葉に、詠唱を持って応える。


「千刃を纏いし風よ、烈牙」


反応をする事さえ許されず、切り刻まれ屍を晒す。

べらべらと喋って、敵にヒントを与える程お人好しでは無い。


勇者の死に浮足立つ央国軍に、追撃を開始する。


「大公様。こちらの被害は全くありません」

「それは何よりです。このまま砦を落としてしまいましょう」

「はっ!」


散り散りに逃げだしていく央国軍を追いながら砦を目指す。


対央国の部隊の司令官は、エールデの傍に寄ってきて話しかける。


「大公様、風の魔法で毒を飛ばしたのですか?」

「風だけでは周囲に散らすだけで、敵味方関係なく被害が出ていました」

「では、どの様に?」


敵の毒の罠に阻まれて、中々進軍で聞かなかったのだから聞きたくもなる。


「失われて久しい回復魔法には、毒を解毒したり、浄化する魔法があります」

「回復魔法を身に付けておられるのですか!?」

「まだまだ研究段階ですけどね」


攻撃魔法が主流であり、誰も忘れている回復魔法を使える事に驚嘆する。


エールデの使った魔法は、聖風と名づけられていた。

あらゆる毒を浄化する魔法を、風と言う形で放つのである。


この風をパッシブで自軍全体を包み込み進軍すれば、どの様な毒も意味を成さない。




敗走した央国軍は砦に立てこもる。


「如何いたしましょうか、大公様?」

「央国の勇者の能力は、密閉空間だと絶対的な効力を発揮しますから」


そう言うと、砦の上空に禍々しい紫色の雲が出来上がる。


「(金色の幾何学模様から、紫の雲が出来るのか・・。不思議な物だな)」


場違いな感想を心の中で思い浮かべながら、ゆっくりと砦の中へ降ろして行く。

尤も死ぬほどの毒ではなく、体が麻痺して動けなくなる程度はあるが・・。




エールデはほぼ一人で、三国を撃退し、和平への筋道を作ったのである。






東国の完全勝利・・。即ち、央国、北国、南国の敗北の知らせを西国の王は玉座で聞く。


「南国、北国に引き続き央国も敗北するとは・・」

「しかしこの機会を逃すべきではありません」

「確かに! 三国の内一国に絞って進軍すれば」

「他の2国も敗戦でこちらに軍を送る余裕もありますまい」


家臣たちは絶好のチャンスと、国王に具申してくる。


「国王、今こそ千載一遇の時! 進軍のお言葉お頂きたく!」

「三国は弱体化しており、容易に領土拡大なるかと思われます!」


目を瞑り、一人静かに聞いていた西国の王が口を開く。


「どの国にも攻め入らん」

「何故ですか!」


ここにきて弱腰の国王に、家臣一同がここぞとばかりに畳みかける。


「国王は、我らでは、我が軍では勝てぬと申されるのですか!?」

「三国には西国の盾となってもらう」

「・・えっ!? 盾・・とはどう言う意味で・・?」


国王から出た言葉の真意を問う。


「東国の強さの秘密を探れ。我が国が愚かな三国の二の足を踏まぬようにな」

「なる程・・」

「少なくとも、魔族を倒し、勇者と呼ばれる者を3人も打ち破っての勝利だ」

「仰る通り、情報が不足しておりますな・・」


今であれば西国は央国、北国、南国のどの国とでも勝てるだろう。

しかし次は・・と考えれば東国と事を構えるには時期尚早である。


「東国の隠者の数を増やせ。徹底的に情報を集めよ」

「直ちに!」


西国の王は一切動く事無く、情報収集に専念する。




しばらくして集められた情報から、西国の王が懸念したことが明らかになる。


「東国に勇者もしくは英雄が居ると?」

「その可能性が限りなく高いかと」

「魔族・・、三国戦争の勝利・・、もしかしたら一人ではないかも知れんな」

「そ、それは・・」


勇者は一国に一人と言う決まりは無い。東国には複数の勇者・・


「このまま継続して情報収集を行え」

「はっ!」


家臣たちは国王の判断に異を唱えることなく動き始める。


「領地が隣接する三国とは、引き続き小競り合いで削って領土を削っていけ。

万が一戦争になりそうなら・・、仮初の和平でもしておけ」

「畏まりました」


あくまでも東国に勝てると分かるまで動かない事。


国王の指示に、全ての家臣が一致して従った。






三国との和平交渉は、侵略の度合いによって、多少の差はあれど概ね同じであった。


和平の使者を、家臣と軍属に主だった貴族で取り囲む形で迎える。


「東国の国王陛下におかれましては、ご機嫌麗しく・・」

「機嫌が? 麗しい? 本当にそう思っておるのか?」

「い、いいえ・・」


もはや挨拶程度の会話すら交わせぬ程の状況である事を理解させる。


「良いか? 不可侵条約を破っての突如の侵攻、しかも三国同時とは・・。

東国を滅ぼす気であったとしか考えられぬ」

「お、お待ち下さいませ、国王陛下。この度の一件、我らが王も心を痛めており・・」


その言葉を聞き咎めた宰相が口を挟む。


「いい加減にするがいい! その様な戯言を聞くために集まった訳ではない!」


周囲に居た家臣たちも、あまりの怒りに黙っていられない。


「今さら和平など無視が良すぎるのではないか!」

「侵略してきた国の王が心を痛める? どの口が言うのだ!」


国王が周囲に手で合図して静める。


「時間を無駄にしたいならばそうするが良い。その間にそなたの帰る国は無くなるがな」

「お、お許しを! 我が国王より降伏するとの言葉を預かって参っております」


宰相はその言葉を聞いて、冷徹に声を発する。


「最初からそれを言うべきだったな」

「申し訳ありません・・」


初めて交渉の席に付いた状況に、国王が和平の条件を出す。


「不可侵の条約を破りし事、領土領民を傷つけて多大の被害を出した事を鑑みて、我が軍が押さえた領地は接収し、軍事費全てを賠償金として差し出すよう命じる」

「お、お待ち下さい。東国軍は主要な砦や町を抑えており、その上軍事費全てとは・・」


宰相が使者を睨みつける。


「国王陛下は命じられたのだ。その意味が分からぬ訳ではあるまい?」


和平はこちらから持ち込んでいる以上、嫌ならば戦争を続ける以外ない。


「お主らは、東国の全てを奪おうとしたのであろうが!」

「そ、それは・・」


宰相の厳しい言及に、身を丸め言い淀む使者。


「では、そちらが勝った場合は、どの程度毟り取るつもりだったのだ?」

「・・・」


国王の静かな問いに、使者として沈黙を守るしかない。

当然の如くそのまま自分たちに返ってくるからだ。


「良いか? 不可侵を破った責任としてお主らの領土を。

領土領民を傷つけた代償として、二度とこのような事をさせぬための軍事費なのじゃ」


まるで子供に説明するかのように、使者に語りかける。


「ち、誓って! その様な事は二度と・・」

「一度でも破って信を得られると思うな!」

「口では何とでも言えよう! 一介の使者ごときでは話しにならんぞ!」


再び宰相や周囲の家臣たちからの怒声が、使者に向けられる。


この状況に使者は確信する。


東国はギリギリで勝った訳ではない。

この強気、いや余裕・・。魔族と勇者を簡単に倒し、軍を退けるだけの力がある。


即ち・・、東国にも勇者が存在する。同じ勇者であっても3人と戦って勝てる程の・・

もしかしたら一人一国・・、3人で魔族の撃退・・


「・・承りました。一度本国に戻ってからの回答でよろしいでしょうか?」

「成らぬ。即答せよ・・」


国王は冷酷に告げた。


戦は始めるのは容易でも、終わらせるのはとても難しい。

無駄に長引かせ、無益な血を流させるべきではない。


「・・と言いたい所ではあるが、特に許す」

「ありがたき幸せ!」


土下座をして、額をこすりつける使者へ、国王は警告を発する。


「ただし、次は和平はない」


どちらが滅びるまで・・


「か、畏まりました・・」


後日、三国は奪い取られた領土と、多額の賠償金を支払う事で和平を結ぶ事になる。





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