闘いの幕開け
【闘いの幕開け】
真っ白な空間で、エールデに神と名乗った世界の管理者が考え込んでいる。
「ふむ・・。魔族に関しては何とかなったか」
左手を顎に持っていき、何処か遠くを見ながら独り言を呟く。
「当時の英雄や勇者といった者達も、折角与えられた能力なんだから、魔族封印なんかで終わりにしないで滅していてくれたら良かったものを。
私が作った武器や防具は単なるお飾りでは無かったんだけどね・・」
英雄達は人々を纏める為に魔族を残したのかもしれないが、結局は国は割れてしまった。
「世の中ままならない物だ・・」
軽く溜息を吐くと、首を振って気持ちを切り替える。
「エールデが領地経営で超巨大魔力精製炉を使ってくれたおかげで、備蓄分がどんどん消費されている」
右手を掻くる振ると目の前に透明な板が現れ、色々な情報が表示される。
「しかし魔族との戦闘は期待はずれだった・・」
指で板に触れては、引き出された情報に眉をひそめる。
もっと大量に魔力を消費してくれると期待したし、消費して欲しかったのだ。
「やはりあの三人に、期待するしかないか」
振り返りながら左手を大きく振ると、3枚の透明な板が現れ3人の男性が映っていた。
北国の国王は謁見の間で、家臣と話している時に光と共に一人の男が現れる。
「き、きさま何者だ」
「一体どこから紛れ込んだ」
衛兵たちがいきり立つ中、慌てた様子も無く声をかける。
「ちょっと待てって。先ずは話を・・」
衛兵たちが雪崩れ込んできて、男の周りを囲む。
「おいおい。俺はこの世界を創った神様から選ばれた者なんだぜ?
俺の能力を使って、一応国を守れって言われてきたんだけど?」
「何をふざけた事を!」
男の説得?も虚しく、国王は首を黙って切る仕草をする。
そのニュアンスに殺せを感じた男は、懐から前の世界で言う一丁の拳銃を出す。
「仕方ねぇな・・、スタンバイ」
この拳銃こそ、神たる管理者の元で作った『大いなる力』の鍵であり、彼の周囲に無数の重火器が現れる。
「何だその剣、いや槍か?」
「隠し持っていたのか? 何故浮いている?」
「ああ、銃を知らないのか。剣と魔法の世界って言ってたな。バレット」
キーワードと一緒に、鍵である拳銃のトリガーを引く。
トリガーを引いている間、轟音が続き銃口から無数の弾丸が放たれる。
「こんなもんか」
国王と側近以外が単なる肉塊になったのを確認して、トリガーから指を離すと銃声も止む。
男の視線が国王を剥くと、合わせる様に全ての重火器の銃口が国王に向けられる。
「国王。俺は何だっけ?」
「そ、それは・・」
国王は突如現れた不届き者の事など、歯牙にもかけず、話など聞いても覚えても居ない。
「俺は慈悲深い、もう一度だけ言ってやる。俺は神に選ばれた者だ」
「わ、分かった・・」
再び轟音と無数の弾丸が国王の周辺に打ち込まれる。
「すまねぇな、煩くて聞こえなかったわ」
「しょ、承知いたしました」
「ふん! そうだ。それで良い」
玉座から飛び降り跪いて、言葉を丁寧な物に言い直す。
「ついでに聞くが、お前は俺の味方か? それとも敵か?」
「も、もちろん味方でございます。神に選ばれた者よ」
「そうか? さっき衛兵に囲まれて、殺される様なサインが見えたんだけど?」
「め、滅相もありません」
「それなら、まあ良いか。環境や文化の違いってやつだろう・・な」
そう言って軽く睨むと、国王は平伏する。
その姿を鼻で嗤うと、周辺の重火器が一瞬で消え失せる。
「国王、俺を丁重に扱え。味方である限り力を貸してやる」
「分かった・・」
立て続けに銃声による轟音と、無数の銃弾が王の周辺に打ち込まれる。
「言い忘れてたけどさ。機関銃2、3丁程度だったら直ぐ出せるから。
あと勘違いするなよ? 面倒臭いから、お前に国王をさせてやってるんだ」
自分の周りに開いた無数の穴を見ながら、茫然とつぶやく。
「あ、有りがたき幸せ」
「うんうん、それで良い」
北国に転生した男は、王国内でその地位を確立した。
南国の門番は変な男に、冷静に対応していた。
「馬鹿な事を言っていないで、とっとと家に帰れ」
「ふぅーむ。国王に会わせるだけで良いんだって」
「得体の知れぬ者を、王宮に入れられるはずがあるまい」
「俺は神から選ばれし者だって」
もう何度目か分からないやり取りに、辟易していた。
「いい加減にしないと、地下牢にぶち込むぞ!」
「はぁー、仕方ねぇか」
そう言うと、振り返り町の外へと向かって歩きはじめる。
「まあ、こうなるだろうとは神様も言っていたから、王宮の外に転生させてもらった訳だしな」
しばらく進んで、足元が土から砂へと変わる。
目の前には広大な砂漠が広がっている。
「この辺りで良いか。出て来い、我が僕。ドール」
懐から何やら馬用の鞭の様な物を取り出し、ヒュンと柔らかく一度振る。
地響きと共に、目の前の砂漠から、王宮程の大きさの砂人形が現れる。
「さて、もう一度挨拶に行こうか」
砂人形の掌に乗り、王宮へと向かい、それを見た王宮の人々は慌てふためく。
「おう! 神に選ばれし者だ。国王を呼んで来い」
「た、只今!」
先程自分をあしらった門番に声をかけると、真っ青になって王宮内に転がり込んでいく。
周囲の住民や衛兵たちが、ただ茫然と見守る中、一人の人物が現れる。
「お前が国王か?」
「いいえ。この国の宰相でございます、神に選ばれし者よ」
「俺は国王を出せと言ったんだが?」
そう言うと砂人形の左手の一振りで、城壁が轟音と共にあっさりと破壊される。
「じゅ、重々承知しております! せ、せめて御用向きをお聞かせいただけませぬか」
砂人形の一振りに腰を抜かすが、それでも何とか言葉を絞り出す。
「ちっ! 使えねぇな・・」
舌打ちをすると、砂人形の手を宰相の傍まで下げさせる。
「俺は見ての通り色々な素材を使って、命無き兵士を作り出す事が出来る。
好条件でで迎えてくれる国を探している」
「も、もちろん、我が国は最高待遇でお迎えさせていただきます。神に選ばれし者なのですから、南国最高権力者として」
「国王に相談しなくていいのかよ?」
「この会談に全権を預かっておりますゆえ問題ございません」
嘘である。しかしこの場を乗り切らねば未来はない。
辻褄など後で合わせれば良いと宰相は考えていた。
「分かった。言葉を違えれば・・、お前ら殺すから」
「承知いたしました」
男はそう言うと、砂人形の手の上から下り鞭を振う。
ドサッと音がしたかと思うと、砂人形は単なる砂山と化していた。
「まあ何だ、神に選ばれし者をどうこうしようとする奴は居ねえだろうけど?」
「め、滅相もございません!」
砂人形が無くなって暗殺を仄めかすが、宰相は全力で否定する。
「じゃあ国王の所へ行こうか」
「ご、ご案内いたします。どうぞこちらへ」
南国の転生者は、国王との謁見を経て、確固たる地位を確立する。
央国の謁見の間でも光の中からあらわれる男が居た。
「貴様! 何奴!」
「何処から? いやそれよりも直ぐ取り押さえよ!」
慌てふためく衛兵たちをグルっと見渡して、玉座に座る人物に問う。
「あんたが国王か?」
「無礼な!」
周囲の衛兵たちの殺気が膨れ上がる。
国王は冷めた目で男を見下ろす。
「俺は神に選ばれし者だ」
その一声に、国王の眉が僅かに動く。
まるでその言葉を確かめる様に、衛兵たちに手で指示を出す。
「やれやれ・・」
男は胸にぶら下げていたマスク、前の世界で言うガスマスクを被る。
初めてみる物に、衛兵や家臣は元より、国王もいぶかしむ。
男がマスクを付けた瞬間、空気の色が赤く染まった様な感じがした。
次々と倒れ、目や耳、鼻と言った所から血を流し、悶え苦しむ者を見て確信する。
確かに空気が変わったのだと、そして正しく神に選ばれし者なのだと。
国王が玉座から立ち上がり、男の方へ歩みを進めようとするのを制する。
「ちょっと待ちな」
目の前の空気から色が消えたような錯覚を受ける。
「いいぜ」
自分のマスクを外し、国王に声をかける。
国王は男の前に進み出て跪く。
「神に選ばれし者よ、ご無礼を致しました」
「やっぱり試しやがったのか・・、部下を使って。良い趣味してるぜ」
「申し訳ありません。念には念をと」
国王は悪びれる様子も無く、自分が仕える値するかどうかを試したと自白する。
男も唇を吊り上げて微笑み、国王の自白を仕方ねぇかと受け入れる。
「ふん。俺が神からもらった能力はポイズン、毒使いだ。見て分かる通り、密室であれば最強だろうな」
「畏まりました」
「ああ、マスクを付けなくても発動は可能だし、屋外だってそれ相応の効果は出るぜ。上手く使え」
「ははっ・・」
「お前が俺の手足である間は、この国に力を貸してやる」
「ありがたき幸せ」
三番目の転生者も、王国内で絶対的な地位を手に入れる。
央国の歴史は古く、神より選ばれた人々の存在を知っていた。
正確には、勇者や英雄と呼ばれる人間が、実際に居た事を。
神に選ばれたからなのか不明だが、人外の能力を持っている者たち。
国王は頭の中で計算し答えを出す。
深々と頭を下げ、相手から見えない顔に、薄い笑みを浮かべる。
世界の管理者は、自分が撒いた三つの種が、芽を出し始めた結果を見て唖然とする。
「彼らには確か国を好きに守れと言ったはずだが?
一から育てる時間がもったいないから、成人のままで転生させて、能力も持たせたのだが・・」
おかしい、自分が予想していたのよりも遥かに斜め上に向かっている。
「単純に生きるだけで、あの能力は必要なないとは考えはしたけど・・」
エールデと同じ世界から適当に、その方が信仰ポイントが安いから選択した。
「少し無理をしてでも、エールデの様な人物を用意してもらった方が良かったか・・」
あの三人の能力は、決して平和的に国を守る事に適さない代物だ。
気付いていては居たが、本人の希望通りの能力を渡した方が、魔力をどんどん使用してくれる様な気がしたのも確かだ。
「まあ、戦争っていうのは物資の消費が半端無いからなぁ」
超巨大魔力精製炉の検証に役立つだろうと、無理やり思いこみ監視を続ける事にする。
「人間のための趙巨大魔力生成炉のために、人間を傷つけ合わせてしまっている。
世界の管理者たる自分たちに、制限が多い理由を今になって気付かされるとは・・」
首を振り、深く溜息を吐き出す。
「傷ついた人々を癒すための手段を講じるべきだろうか?
彼女と相談して、念のためもう一人送ってもらえる様に準備を進めておくか・・」
更に最悪のケースを考えて、次の一手の用意を始める。
エールデが国王との謁見の最中、馬車で待機する様に言われていたマルスとユピテ。
「良いのかね? こんなもの貰っちまって」
マルスは漆黒のフルプレートに、自分の身長を越える大剣を手元に置いている。
「戦うためには必要と言う事で、ご用意して下さったのですから」
ユピテはメイド服の上から、純白の胸当てと籠手に、レイピアを装備している。
「しっかし魔族との戦いねぇ・・。ヤバい事に首を突っ込んじまったなぁ」
「マルスは付き合う必要はなかったのではありませんか?」
「まあ、借りを作っちまったままっていうのもなぁ。そう言うユピテは?」
「私は人間にしていただいた恩を、お返ししなければなりません」
そんな二人の話の中、馬車の扉が開きエールデが入ってくる。
「二人とも装備に不具合とかないかい?」
「着た感じは全く問題ないが、いきなり実戦って言うのが不安ちゃ不安だ」
時として使い慣れた装備との差は、極僅かでも命取りになりかねない。
「私の方は、特に問題はありません」
両掌を握ったり開いたりの繰り返しや、レイピアを握って見たりする。
エールデと、マルス、ユピテの三人は、王宮に向かう馬車の中で準備をしていた。
2人の持ち味を聞きだたエールデは、それに見合った装備を創造し与える。
「先ほどマルスが言っていたが、いきなりの実戦投入は申し訳ないと思う」
「しかたねぇだろう、時間がねぇんだから」
「問題ありません。常に狂戦士として戦う時は意識がありませんでしたから」
エールデの言葉に2人は首を振る。
直前まで暗殺者、とんぼ返りで魔族討伐・・、誰にも余裕なんかない。
「二人に渡した装備に付与されている能力を、一応説明して置く」
「・・付与? ちょっと待て! この装備に何かあるのか!?」
「当たり前だろう、僅かでも勝機を上げなくちゃ。先ずはマルスから」
肉の盾であれば、別に高価な装備は必要ない。ましてや付与されていると言う。
「フルプレートには、魔法防御と身体強化魔法のブーストだ」
「・・・はぁ!?」
「大剣の方は、攻撃力ブーストがかかっている」
「ちょっと待てぇやぁぁぁ!?」
「何か問題が?」
「大有りだ! 魔法防御と身体魔法ブーストに攻撃力ブーストって、何じゃそりゃ!?」
エールデがあまりにもサラッと当たり前の様に流すのを、大声で止める。
「エールデ、お前一体何者だ?」
「すまない、時間が本当にないんだ。その話は生き延びた機会に」
「うっ!? そうか、そうだな。こっちこそすまん、続けてくれ」
確かにエールデの言うとおり、過去の話をしている場合では無い。
「付与魔法には、掛ける対象物の性能によって上限が存在する」
「そうなのか?」
魔法との親和性と呼ばれる物で、当然上限値が高い物ほど高価になる。
「マルスは超攻撃型と判断して、殆どを身体強化魔法のブーストに割り振っている」
「ふむふむ」
「物理防御はそのフルプレートの金属の強度、魔法防御も魔族の攻撃にどれほど有効かは分からない程度になってしまった」
「まあ、欲しい物言ってたら切りがねぇ」
「反面、大剣の攻撃力ブーストと合わせれば、爆発的な破壊力は約束する」
「ヒットアンドウェイってところか」
万能の装備など求めたらきりがない。自分の能力と装備を上手く調和させるのが鍵だ。
「続いてユピテの方だが」
「はい」
「部分鎧には、物理防御と魔法防御を最大限まで振ってあり、鎧のない所も見えない膜が覆うようになっている。レイピアの方は最大限の硬度化をかけてある」
「分かりました」
「おいおい・・、ちょっと質問いいか?」
「時間が無いが・・何かな?」
盲目的に受け入れるユピテを心配して、マルスが質問をする。
「ユピテの装備に、防御と硬質化の付与をかけた理由は?」
「彼女自身に戦闘経験がない事が一番の理由だ」
「ああ、なる程・・」
狂戦士は無意識下での戦いである。
戦いなれているマルスと同じ仕様は意味がない。ならば・・
「じゃあ、どうしてレイピア何だ? 弓とかの遠距離ではなく?」
「狂戦士の特性上、どうしても前衛と言うタイプになる」
「そうか・・、弓で殴り合われても困るな」
シュールな戦闘シーンを思い浮かべながら遠い目となる。
狂戦士化する前は普通の女性、重い武器を持っては歩けないからのレイピアだろう。
「注意して欲しいのだが、その性能が発揮されるのは、狂戦士状態のみだ」
「どう言う事でしょうか?」
「そりゃあ、お前さん専用って事だろ?」
狂戦士としての辛い思い出があるからこそ、正しく使えると考えて、とんでもない性能なのだ。
「ありがとう・・ございます」
「狂戦士モードのやり方はこれから教えるから」
「お願いいたします」
「先程も言ったけど狂戦士状態のみ有効。魔力切れを起こせば一般人と何ら変わらない」
「畏まりました」
戦地に向かいながら着々と準備を進める。
エールデも魔族との実戦に備えて、効果的な魔法を事前に幾つか準備して置く。
勿論その場で作りだす事も可能だが、幾つかプランを用意する事で心に余裕が生まれる。
「エールデ様。魔族が有視界に入ったと連絡がありました」
「分かった」
時間ぎりぎりまで、お互いがの出来る事を頭の中でイメージする。
「ユピテ、マルス、先に謝っておく。連携の訓練をしている余裕はない。
最悪、君たちを僕の魔法に巻き込む可能性がある」
「それぞれのタイミングで動くしかねぇだろうなぁ」
「お気遣いなく」
相手は世界を滅ぼせる程の力を持ちうる魔族である。
誰かが命がけで隙を作るしかない。味方からの攻撃を逃げる余裕のないぐらいの・・
自分たち罪人の命二つで魔族を倒せるのなら安いものである。
エールデの元に戻り、一緒に来てくれと言われた時、2人は覚悟を決めていた。
「行こう」
「「はい!」」
エールデ、ユピテ、マルスは戦場へと足を向ける。




