暗殺者たち
【暗殺者たち】
二人は暗殺するターゲットの屋敷の前まで来ると、今更ながら相談を始めている。
「どうやって中に入りましょうか?」
「そうだなぁ・・」
ユピテが頭の天辺から、足のつま先までジロジロと見られると、恥ずかしそうに言う。
「な、何か変な所がありますか?」
「いや、普通の侍女だよなーと思って。うん、決めた」
「えっ!? な、何を?」
そう言うなりユピテの手を引いて門番の所へ行く。
「ちょっと悪いんだけどさ、東国のザトゥルン公爵の使いで来たんだ。
話を通してもらえねぇかな?」
「東国のザトゥルン公爵様の使い!? 少々お待ちを・・」
門番の一人が敷地内に入り、多分上司に話をしに行ったのだろう。
「マルス様! 一体何を考えて・・」
「俺たちが静かに侵入できるとは思えねぇから、正面から入る事にした」
「入る事にしたって・・。いやいやいや無理無理、捕まっちゃいますよ」
「やっぱ、そうなるかな?」
「・・何も考えてなかったんですか!」
門番の目を盗んで、二人はコソコソと話をしていると、門番の一人が戻ってくる。
「どうぞ。お会いになられるそうです」
「ほら! どうするんですか・・、えっ!? 会って・・下さる?」
「おお、何とかなったみたいだぞ!」
茫然とするユピテを、ドヤ顔のマルスが背中を押しして門番に付いていく。
「とは言った物の幾ら東国の公爵の使いと言って、こんなに簡単に通して大丈夫か?」
「武器の携帯すら何も言われませんでしたよ?」
おかしい・・。それほど公爵を信じているのか、それとも罠か・・
明らかに罠と踏んで、ユピテだけは助けるための手段を考える。
門番に案内され、部屋に入ると20歳ぐらいの貴族らしき人物が待っていた。
「お初にお目にかかります。ザトゥルン公爵より命を受けたマルスと申します」
「遠路遥々ようこそ。エールデだ。ザトゥルン公爵よりの使いと聞いたが?」
「エールデ様にザトゥルン公爵様より、この侍女ユピテを、身の回りのお世話にと預かってまいりました」
ユピテは混乱していた。何故自分を侍女として紹介したのか? いや間違ってはいないのだが・・
「長旅で汚れてはおりますが、一度湯浴みさせていただければ」
「そうかでは風呂の用意をさせよう」
何故、湯浴み?
それでは目的が達成できなくなってしまうし、わざわざ自分を遠ざける理由が分からない。
「マルス、君も疲れているだろうから、2、3日疲れを癒すと良い。
と言っても私自身が仮住まいなんだけどね」
ハハハと笑うエールデは、とても気さくな貴族に見える。
「ありがとうございます。後ほどお届けした証を頂きたく・・」
「なる程・・、私の首が欲しいと言う訳だね」
「ッ!?」
バレていると思った瞬間、悪いと思いつつもマルスが抜刀してエールデに飛びかかる。
ガチィィ・・
手を抜いたつもりも無ければ、完全に不意打ちだったはず。
しかし自分の剣は、エールデの首に触れるか触れないかの所で止まっている。
「ちっ! どういう事だ!?」
一旦下がってユピテの前に庇うように立ち、ユピテがエールデに質問する。
「いつ気が付いたのですか?」
「えっ!? もしかして気付いてないの君たちだけ・・かな?
んー・・、違う・・か、何も知らされていないんだね」
驚きの表情から、困った様な笑顔になる。
「何がでしょうか? お教えいただきたく・・」
「うん、じゃあ質問返しで」
ユピテの問いに対して、エールデは質問で答える。
「いつ戦争が起きるか分からない隣国に、大切な人を交流とは言え送り込むかな?」
二人は考える。自分だったら戦地に大切な人を送るのかと・・
「あっ、ちなみに私を央国へ行くように仕向けたのは、ザトゥルン公爵だよ」
そんな所へ行かせた人物からの贈り物・・
「つまり最初から、ですね?」
「正解」
自分で答えに辿り着いた侍女を褒める。と、再びマルスの斬撃がエールデを襲う。
ガキンッ
「くっ!? 一体何だって言うんだ?」
再び自慢の一太刀が、薄皮一枚で防がれた事に驚きを隠せない。
「ふむ、じゃあ今度はこちらの番だね。
パッシブ:武神 我に戦う力と技術と勝機を。」
エールデの体から、突然何かが湧きあがる。
「アクティブモード。魔力を断ち切る刃を、我が手に。魔断手刀」
マルスは思わず体を後ろへと跳ばし逃がそうとするが、全身に手刀を撃ち込まれ床に倒れ伏す。
「な、何だとぉ・・」
マルスが床に倒れた時、ユピテは彼を助けなければと激しい感情を爆発させる。
「ん? へぇ・・君も、なのか」
エールデの言葉を、その通りに取ったマルスは叫ぶ。
「馬鹿、お前何する気だ。とっとと逃げろ!」
「隙を作りますから、マルス、貴方は逃げて下さい! あ、貴方を守・・ぐぅおぉぉあぁあ!」
「はぁ!? お、お前・・?」
ユピテは狂戦士の力を解放して、エールデに突っ込むが彼を見失う。
「アクティブモード。魔力を断ち切る刃を、我が手に。魔断手刀」
マルスの時と同じ言葉が聞こえ、首筋に手を感じると、ユピテの体も崩れおちる。
床に寝ころぶ2人に静かに宣言する。
「大人しく話を聞くのであれば、今の所は命を助けるけど?」
生き延びるチャンスがあるのであれば、そちらを選ぶべきだろう。
気を失っているユピテを抱え頷くマルスに、エールデは満面の笑みを浮かべる。
国王はザトゥルン公爵と宰相が、至急目通り願いたいと玉座で待つ。
入ってきた二人の様子にただならぬものを感じる。
「して、如何した二人とも」
「国王陛下は先程の地震にお気づきになられましたでしょうか?」
「地震? そういえば何やら揺れていたようじゃな? それが如何した?」
宰相が、公爵を突っついて促す。
「その揺れですが・・、東の果てで感じた物と同じ様なのです・・」
「・・何じゃと? 真か!?」
「確かにございます。また揺れの長さより・・、複数の可能性も・・」
「良くぞ知らせてくれた! 衛兵。急ぎ各地に伝令を飛ばし調査させよ」
「「「はっ!」」」
常に傍に待機させている衛兵たちが飛びたしていく。
入ってきた時の宰相の焦燥感、公爵の魂の抜けた如きの様子に合点がいく。
「二人には疲れている所すまぬが、エールデを呼びもどして欲しい」
「大公を・・?」
「何故でしょうか?」
「魔族を封じてきたというのであれば、いざという時に助けとなろう」
「畏まりました、至急手配いたします」
二人は謁見の間を出て、宰相はエールデを呼び戻すため早馬を手配をする。
通信魔法はエールデが現在居る館には、仕掛けられていなかった。
「エールデか・・」
薄笑いを浮かべるザトゥルン公爵に、違和感を覚えて尋ねる。
「お気持ちは分かりますが、どうされたのです?」
「手遅れなのだよ・・、全てが手遅れなのだ」
「何を・・、おっしゃっているのですか?」
「大公は、エールデは生きていまい・・」
「な、何ですと! 一体何をなされたのですか!?」
宰相は自分の失態に、眩暈を覚える。
魔族封印の書の調査に心捉えられており、ザトゥルン公爵の動向を探らず、エールデの護衛を送っていなかっ事を悔やむ。
「クックックッ・・、剣将と狂戦士だ」
「公爵・・」
公爵の最強の二駒に愕然としながらも、打てる手段は全て打たねばと奔走する。
マルスとユピテの二人は、一応捕えられた者として正座をさせられている。
エールデは二人を見下ろす形で、椅子に座っている。
「なる程・・。お互いがお互いの情報を知っていると思っていた、と」
「はい・・」
「故に、お互いの事を慮って、探る事は避けて今まで過ごしてきた、と」
「そうだ・・」
ユピテとマルスに、一連の話を聞くと、顎に手を当てて難しい顔をする。
「じゃあいくつか質問するから応えてもらえるかな?」
「はい」
「おう」
「魔法とは何だい?」
唐突な軽い感じの質問にマルスとユピテルは顔を見合わせた後、マルスが答える。
「魔法って言えば、火とか雷とかで攻撃する能力だろう」
「その通り」
「では、・・魔法とは何か?」
同じ質問であるはずなのに・・、にこやかな雰囲気とは打って変わって、まるで心の奥を射抜くように問うてくる。
「だからよぉ、火とか雷とか・・」
まったく雰囲気を察しないマルスの口をユピテが塞ぐ。
エールデを見ながら、彼が求めている物をよくよく考えて答える。
「・・分かりません」
マルスと同じで、使えるから使う程度であって、魔法とは何か?など考えた事など無い。
これが正解とは思えないが、こう答えるしかなかった。
「まあ、普通はそうだよね」
再びエールデの雰囲気が柔らかい物に変わる。どうやら及第点をもらえた様だ。
「魔法とはある言葉を省略した言葉だと思っている」
「ある・・言葉ですか?」
「そう。魔力の法則、魔導の法則、魔術の法則といった風にね」
「考えた事も無かったです」
「うんうん、そう言う物だよね」
驚いた様に首を横に振るユピテに、頷いてにこやかに頷いている。
「私は魔力の法則を推すんだけどね」
「何故でしょうか?」
「先ほどマルスが言った能力を使うには、どうしても必要な物があるよね?」
「はい、魔力と言われています」
「魔力を一定の法則に従って変化させる能力という事で」
「なる程、それで魔力の法則で魔法と」
そこまで聞いていたマルスが、ユピテの手を引き剥がす。
「だから何が言いたいんだエールデ様は?」
マルスが叫んだ口を、今度は両手でしっかりと押さえ、とても怖い顔で、貴方は少し黙っててと威嚇する。
「失礼いたしました。どうぞお続け下さい」
「じゃあ、話を進めるね」
二人のやり取りを温かく見守っていたエーデルも、ちょっと怖かった。
「魔法には知識はもちろんの事、才能や資質、素質といった物が必要なんだ」
「例えばどんな物があるのでしょうか?」
「魔力の有無、量、強弱から、相性と言った物までね」
「相性とは何でしょうか?」
「才能を持っているのに、使っている魔法と合致していない。
例えば水の才能を持っていても、火の魔法しか使えないみたいな感じかな」
「どの様な影響がありますか?」
「そりゃあ、ピッタリ合えば、少ない力で大きな効果が出るし、打ち消し合っちゃえば、大きな力でも小さな効果しか出せないよね」
「そういう事があるのですね」
ユピテはエールデの説明に頷いている。
「とは言え、自分の才能ってなかなか分からない物だし、才能とやりたい事が一致するのが一番良いんだけど難しいよね」
「分かります・・」
狂戦士の自分が、穏やかな生活など望むべく無い事と同じ・・
「私も回復魔法を勉強しているんだけど、中々上手くいかなくてね」
「回復魔法・・とは何でしょうか?」
「傷ついた人々を治す事の出来る魔法の事だよ」
「凄い! そんな魔法が存在するのですね」
「うーん、かなり昔に廃れてしまった魔法だからね。
どうやらマルスは軍に籍を置いていた関係で、少しは知っている様だね」
エールデの話しかけに、マルスは首を縦に振って応える。
「それからアイテムを作り出す魔法も出来るんだよ」
「えっ!?」
膝の上に『大いなる力』の鍵を乗せ、その上に両手を乗せる。
「アクティブモード。魔力の暴走を制御するチョーカーを創造」
エールデの手の周りを、金色の幾何学模様が取り囲む。
光が両掌の上に集まり収まると、黒色のチョーカーが残されていた。
「むんがむがぁー!?」
「何だそりゃー・・でしょうか? 確かに何が起きたのでしょう?」
「これは錬金魔法という。無から金を生み出すという錬金術を魔法で行った」
「無から金を生み出す・・。その魔法があれば、誰も貧しさから抜けられるのでは?」
飢えや寒さに苦しむ人たちを、どれだけ救えるかを考える。
「世の中が金で満ち溢れたら、金の価値はどうなるかな? 食べ物は買える? 服は? 家は? 黄金の都に住む人々に、金と一切れのパンのどちらが価値があるだろうか?」
「そうですね・・」
世に満ち溢れた物より、希少性にわざわざ人々は価値を見出すのだ。
「働かなくても食べ物が得られるとしたら、この世界はどうなってしまうだろうか?」
「・・・それは」
貧しいから働かなくて良いという理由ではありえない。
必要なときに必要なだけ頼る事が出来る強さを、人が持ちえているだろうか。
「後は一握りの金を生み出すのに、どれだけの犠牲を払えば良いかを除けばね」
「リスクもしくはデメリットがあると?」
「それもあるし、かなりの才能が必要だろうね」
「そう・・ですよね」
何か思いつめているユピテの手は、マルスの口を塞いでいる・・
「えっ!?」
エールデは手にしたチョーカーを、無造作にユピテの首に巻いてしまう。
「むむぅー!」
「ダメ待って!」
まあマルスがチョーカーの存在を知らなくて、首に紐を巻かれたと思えば・・
「くっそぉ!? これは何なんだよ!」
掴みかかるが、やはり薄皮一枚の所で手が止まる。
「ちょうど良い。
アクティブモード。我が敵を打ち据えし無敵の力よ、金剛力」
エールデの右手が、マルスの首を握り、そのまま持ちあげる。
「ぐぅがっ!?」
「っ!? マルス!」
マルスが死ぬ!という驚愕の思いが感情を爆発させ、狂戦士に・・ならない!
「えっ!? 何で? どうして?」
赤から赤黒く顔色が変色するマルスを見ても、狂戦士になれない。
「マルスが死んじゃう! 狂戦士よ出て! お願い!」
いくら感情を高ぶらせても狂戦士にならない。
今までに求めた事のない力が応えず、無力な自分に涙があふれる。
「ふむ、成功だね」
手を離すと、どさっと床に落ちる。
咳き込むマルスを介抱するユピテ。
「この様に暴走を抑え込む力を付与する魔法もある」
驚いて首に巻きついたチョーカーに手をやるユピテ。
「ゲホゲホ・・ッ。暴走を・・抑え込むだぁ・・」
「ありがとうございます。これがあれば人を殺さなくても・・」
マルスはそう言う事は先に言えと思うが、ユピテの滂沱の感謝の言葉に尻つぼみになる。
ユピテは椅子に座らせ、マルスは正座のまま話を続けて行く。
「で、チョーカーの件で何が分かったかな?」
「「・・えっ!?」」
驚いている二人に、優しく語りかける様に説明する。
「魔法を使うには知識の他に、才能、素質、資質、相性があると言うのは覚えてる?」
「はい」
「さっきも言ったけど、才能や素質、資質があり、相性があれば、知識はなくても魔法は使える事がある」
「はい、先程お聞きしました」
「それからもう一つ」
近くの机からナイフを持って来て傍に置く。
「アクティブモード。握力強化、皮膚硬質化」
その後、ナイフの刃の方を握っていくと、紙を握りつぶす様にナイフの刃が潰れる。
「馬鹿な!」
マルスは驚いて、思わず立ち上がる。
「このように魔法には、体を強化する事も出来る。これらから導きだされる事は?」
「「・・えっ!?」」
「君たちは、身体強化魔法を無意識で使っていると言う事だね」
「「えっ!? えっええぇぇぇ・・!?」」
質問をしているはずなのに、2人の答えを待たない。
2人のリアクションに満足して、答えを教えてしまった形だ。
「まずマルスの場合だけど、さっきも言った様に無意識で身体強化魔法を使っている典型的な例だ」
「うむー、自分では分からんなぁ」
「例えば、剣気、覇気、闘気と言った物を聞いた事はあるかい?」
「そりゃ、多少なりとも剣を齧ってりゃあなぁ」
「それと同じだ。気と呼ばれる物を使って身体を強化する術があるだろう?
気を魔力に、身体強化の術を魔法と置き換えて考えれば良い」
「ははぁーん、そう言う事か」
単純に地域や環境によって呼び方が変わっていると思えば良いだけの話だ。
ちなみに脳筋のマルスは、全く分かっておらず、分かった振りをしているだけだが。
「次にユピテの場合は・・」
「・・違います。私は呪われた化け物です、狂戦士と言う名の」
自嘲気味に語る言葉に、エールデは頷いている。
「狂戦士か。実に興味深いね」
「・・えっ!?」
「君は・・、どうして生きているんだい?」
「分かりません。生き延びる狂戦士故に拾われたのですから」
自分の呪われた血故に、自分の事は考えない様にしてきた。
「狂戦士の定義をとしては、感情の暴走により超人的な力を使う事が出来る」
「その通りです」
「反面、制御不可の状態で限界以上の酷使により、筋肉、骨、皮膚はもちろん、内臓も深刻なダメージを受け、死して活動が停止する」
「間違いありません」
本来は生き残る狂戦士はあり得ない。故に自分は拾われたのだ。
「結果生きていると言う事は、疑似狂戦士化、狂戦士に似た状態と思われる。
感情暴走を鍵として、身体強化魔法が発動する。
そのため体は壊れず、魔力切れで動けなくなるだけ、と考えてるんだけどね」
「そ、それは・・」
ユピテの状況を、そっくりそのまま指摘され口籠る。
「魔法であれば当然、魔力を封じるアイテムによって、先ほどの様に狂戦士の状態は発動できない」
「あっ!?」
エールデは、ユピテの首にあるチョーカーを指さす。
先ほど幾ら感情を高めようとしても、狂戦士化しなかった事を思い出す。
「良かったじゃねぇか」
「はい!」
人体実験されたマルスも、結果オーライと笑っている。
ユピテも涙でぬれた笑顔で何度も、首のチョーカーを撫でる。
「さあこれで私の話は終わりだ。
続けて君たちの扱いについて決めるとしようか」
喜ぶ二人に水を差し、冷たい宣告をする。




