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無限の書  作者: まる
12/19

魔族との取引

【魔族との取引】


ザトゥルン公爵は、内々に国王陛下との謁見を望む。


「ザトゥルンよ。極秘での話とは何じゃ?」

「是非ともお話ししておかなければと思い・・」

「ふむ・・、それで?」

「大公エールデ殿についてでございます」


エールデの話と聞いた途端、国王の表情が冷たい物へと変わる。


「ザトゥルン、いい加減にせよ・・。どれほどエールデに迷惑をかけてきたか・・」

「国王陛下・・。陛下は不思議に思われませんでしたか?」

「んん? 何の事じゃ?」

「大公が自領を治めてより、目覚ましい発展がありました。東の果ての地もそうです」

「ひとえに大公の手腕によるものであろう」

「それなのに、大公が去った領地は呪われたかの様な有り様となっております」

「後任となった領主の不手際であろう」


いい加減にせよと言う表情がありありと分かる国王に、冤罪の種を植え付ける。


「大公は上位魔族を何らかの力で操っていると思われます」

「ザトゥルン! 何を根拠にその様な戯言を!」


国王の怒りにも負ける事無く、逆に国王を見据えて話を続ける。


「敢えて申し上げます。大公は上位魔族について知っておりました」

「古き血筋ゆえに、魔族ついて研究しておったのであろう」

「更には東の果ての地の領民たちに、石板について詳細に説明しております」

「それらはエールデの研究の・・」

「魔族の研究は確かかもしれません。しかし、あまりにも人間離れをした偉業・・」

「・・何が良いたいのだ、ザトゥルン公爵」

「敢えて申します。大公は魔族の力を使って自領を豊かにしているのではないかと」

「公爵! 口にして良い事ではないと知れ!」


あまりの怒りに立ちあがった国王に、ザトゥルンは最後の切り札を使う。


「どうか密かに大公をお呼びになり、魔族封印の書を提出させてくださいませ」

「・・・・今、何と申した?」

「東の果ての地に住む領民たちから、しかと聞いてまいりました。

大公は魔族を封印するための書物を持っていると」

「魔族封印の書・・、それはどのような物なのだ?」

「詳しくは私も分かりませぬ。石版が見つかれば、大公に連絡する様にときつく命じられていたとの事でございます」

「・・・・その名の示す通り、単に封印するだけではないのか?」

「封印するだけならば問題ありません。ですが・・」


ザトゥルンは敢えて深く頭を下げ、その奥の表情を隠す。醜く歪んだ笑顔を・・


「国王陛下。公爵家をかけてお願いいたします。

どうか大公が魔族と取引をしていないかご確認下さいませ」


ドカッと座る国王に、ザトゥルンは巧みに煽り始める。


「他の事ならばいざ知らず、魔族に関しましては、些細な事さえ見逃せば国は滅びます!」

「・・・」

「どうか国王陛下! 今この場で公爵家を返上しても構いませぬ。どうかご決断を!」

「・・・」


国王は玉座でまんじりともせず、公爵の言葉を黙考する。


「陛下! どうか・・」


エールデの忠誠忠義を疑うつもりはない。

しかし大公家の血筋と思うあまりに、誤って魔族との取引を・・


万が一何かあれば世界そのものが危うくなる。


『息子・・が、道を違えば・・、大公・・領を封じ・・て』


死に際の姪の言葉が思い出される。


苦汁を背負わせて来た孫・・

だが国王にとっては、東国に住む国民の一人ひとりが我が子、我が孫とも言える・・


「・・大公を呼べ」


国王は、国王として静かに決断を下す。






隣国との関係と言えば、大きな戦争は和平により収まっている。

しかしながら国境付近では常に小競り合いが続いている。


そのため国交という物は殆どないに等しい。


民に国内外の安定と平和をアピールするために、交換留学や他国間交流といった物は存在する。

その交流には時として裏の一面を持っている場合がある。


「央国に東国の王家の血筋を持つ方を一人、二国間交流として送りたいのだが?」


国王との謁見の後すぐにザトゥルン公爵は単身、隣国の貴族の所へ乗り込む。


「おいおい正気か? 交流なんて名ばかりって分かっているだろう?」


国交が断絶して多少の諍いがあったとしても、隣り合った領地では若干の交流がある。


「だからこそだ。貴殿の領地が最終目的地になる」

「・・つまり不用人物だが、国内では色々と問題があると言う事か?」

「その通り。こちらとしては万が一が起こる事を期待したい」

「勘弁してくれよぉ・・」


二国間交流の使者が、本当に交流先の民に殺されては大問題になる。

小競り合いどころでは無く、相手に攻め入る大儀を与えてしまう。


「勿論、こちらから追手を差し向けるがね」

「悪いが手を出さんぞ。当然失敗しても何もせん」

「それで構わん。国境付近であやふやに、という事にする」


隣国の貴族は、心に浮かんだ言葉を思わず口にする。


「本当に万が一、うちの者がやってしまったらどうなる?」

「そうだな、報奨金を出してやろう」

「・・よっぽど恨まれているのか。まあいい、一切こちらでは責任は持たん」

「ああ、場所を借りるだけで十分だ」


隣国の貴族は再三再四確認の上、二国間交流を受け入れる。






あらゆる策が講じられた王宮へと、エールデは召還を受ける。


「急に呼び出して悪かったな大公」

「いいえ、国王陛下の命あらばいかなることよりも優先して馳せ参じます」


大公の忠義修正に満足げに頷く国王は本題へと入る。


「さて、そなたを呼びだした理由じゃが・・」

「何なりと」

「・・魔族封印の書を差し出すよう命じる」


顔を伏せていたため表情は分からない。

ただしばしの間の沈黙と、珍しく大公からの問いがあった。


「お尋ねしたき儀がございます」

「聞こう、申せ」

「国王陛下は何処で、魔族封印の書についてお知りになりましたか?」

「ザトゥルン公爵より・・な」

「今一つ、魔族封印の書はその名の通り、魔族を封じるための物です。

中には今までに封じてきた魔物が存在し、資格無き物には非常に危険な物にございます」

「魔族を封印とは聞いておったが、その様なものであったか・・」

「陛下はどの様な事に、お使いになるのですか?」


国王の命には絶対服従。されど国王のためにならぬのであれば・・


「魔族封印の書と言われておるが、実は魔族との契約書ではないかとの声がある」

「誰も魔族を行使する事など出来ませぬ」

「しかし真偽が分からぬ」

「お疑いを晴らすために、魔族封印の書をお使いになると?」


エールデがここまで食い下がる程危険・・。尚の事、真偽を確かめておく必要がある。


「一つの提案として、大公と魔族封印の書、大公領から分けても繁栄が続くのか、魔族が現れぬのかを確かめたい」

「お待ち下さい。日々領地を巡り、領民の声に耳を傾ける事で発展いたします。

一日でも止まれば荒れ廃っていきます」

「分かっておる。少し、ほんの少しの期間で良い」


領地を離れるのは良い。ただ気がかりなのは・・


「魔族封印の書は?」

「王宮の宝物庫で厳重に管理する事を誓おう」


国王が誓われる。これに是非を問う事は出来ない・・


「どちらへ行けばよろしいでしょうか?」

「央国と二国間交流の話がある。それに参加してもらいたい」

「拝命、承りました。魔族封印の書は、出立の際に王宮へ持参いたします」

「うむ・・」


この話し合いは秘密裏に行われ、央国とのスケジュール調整もスムーズに進む。


王宮にて国王に魔族封印の書を渡すと、そのままエールデは央国へと旅立つ。






ザトゥルン公爵は、エールデ暗殺に2枚のカードを使う。


先ずは地下牢へと向かい、一つの牢屋の前で立ち止まる。


「剣将とまで言われたお前が、上官である貴族を殴って牢屋に繋がれるとはな」

「・・・」


牢屋の中の闇からは、沈黙しか返ってこない。


「連帯責任で、仲間や部下の処刑待ちの状態を分かっているのか?」

「殴ったのは俺だ! 俺だけ罰すれば!」


ガシャーンと鎖が伸びきる音と共に、怒声が上がる。


「お前・・、いやお前らにチャンスをやろう」

「・・チャンスだと?」

「剣将の力をもってすれば容易い仕事だ。受けるだけで仲間や部下は解放しよう」

「・・・」


沈黙を了承と受け取ったのか仕事を伝える。


「お前の大嫌いな貴族様を・・、殴るのではなく・・殺せ」

「殺す? お前ら何考えてやがる・・」

「ワシは不要な奴が処分され、お前は仲間が助けられる。それ以外に理由が必要か?」

「・・・・」


下卑た笑みを浮かべる目の前の貴族こそ、殺しておくべきと思えてしまう。


「約束を守ってくれるのか? 失敗したら?」

「ふむ・・、ワシは憐れみ深い。先に仲間たちを解放してやろう」

「俺は逃げるかもしれんぜ」

「何もお前一人に行かせる訳ではない」

「監視付きという訳か。まあ良い、約束は守れよ」

「兵士は駒として貴重だ。無駄にするつもりはない」


形ばかりの約束を取り付けると、次の準備するために地下牢を出る。




自分の執務室に戻ると、一人の侍女を呼び寄せる。


「何故呼ばれたのかは分かっているな?」

「っ!?」


侍女は悲愴な表情を浮かべる。


「仕事だ」

「私に与えられた仕事は・・、侍女で・・」

「建前だ。本来は人殺しだろう、狂戦士?」


ビックっと体を震わせる。


「こう言う時のためにお前を養っていたのだ、忘れるな」

「拾っていただき、食事や寝床を与えて下さったご恩は忘れません。

でも・・人殺しは・・人殺しはもう嫌なんです・・」

「ならば一人で外で生きれるのか、狂戦士?」


目に涙を浮かべるが、歯を食いしばり零れ落ちるのを堪える。


「護衛役として一人付けてやる。一緒に行くが良い」


そう言うと準備をする様に告げると、出て行くように手で指示する。


侍女は一礼して部屋を出て、自分の部屋に駆け戻ると声を殺して涙する。




剣将は地下牢から出され、身を整える様に指示される。


そして仲間や部下の所へと連れて行かれる。


「隊長! 良くぞご無事で!」

「悪いな俺のせいで、お前たちまで巻き込んで」


感動的な再開シーンを、ザトゥルン公爵がぶち壊す様に割り込む。


「どの様な理由であれ、上官であり貴族を殴る事は、軍規違反であり大罪である」


その声に兵士たちの怒りと憎しみの混じった視線が集まる。


「しかしながら剣将という兵を失うには非常に惜しい。

一兵士として最前線で戦う事を条件に、お前たちの釈放が決まった」

「隊長・・」

「まあ、達者でな」

「お前たちは新たな上官が待っている。さっさと行くが良い」


公爵は顎で行き先を示すと、剣将を連れて建物の中に戻る。




公爵の執務室へと戻ると、剣将に仕事の話をする。


「見ていただろう? ワシはちゃんと約束を守ったぞ」

「言われなくたって分かってる」


仏頂面で言葉を返す剣将に、鼻で笑うザトゥルン。


「さて、入れ」


そう言うと一人の侍女が入ってくる。


「この侍女にターゲットの情報を伝えてある。一緒に連れて行くが良い」

「なっ!? てめぇ・・そう言う事かよ」


この侍女を置いて逃げれば、女性ひとりでは無事に戻ってくる事は出来ない。

監視役にしても、足かせとしては最適な人選である。


「(しかも仕事を無事に終わらせて、連れて帰って来なくちゃならないって言うオマケ付きか・・

まあ、秘密を知っている俺を逃がすはずはないわなぁ)」


成功しても失敗しても、剣将には死にがチラつくが2人で戻らなければならない。

やっぱりこいつを殺しておいた方が、世のため人のためになるんじゃないかと思えてしまう。


「ユピテと申します。ご迷惑をおかけすると思いますがよろしくお願いいたします」

「マルスだ。こっちこそ巻き込んで悪かったな」

「巻き込む? いいえ、貴方が巻き込まれたのです・・」


自嘲気味に笑う侍女に、マルスは何を言っているんだと不思議そうな顔をする。


「(きっとこの方は何も聞かされていない道中の守り役。

兵士である以上命令を忠実に果たそうとされて・・、巻き込んでしまう)」


そのためお互いがお互いの役目を知っていると思ってしまい、お互いを慮って、ぎこちなく接する。





二人は馬車で央国との国境まで連れて行かれ、央国の貴族の手引きで簡単に入国が出来た。


実際に戦争をしたがるのは、利権を求めた上の人間である。

平民たちは特に隣国の人間に憎しみも怒りもある訳ではない。

逆に人によっては、互いに哀れみさえ持っている者も居るだろう。


ピリピリしているのは関所の衛兵たちで、入国してさえしまえば特に問題となる事はない。

二人は不穏の空気を通り抜け、ターゲットの居る屋敷へと向かう。






国王はエールデより、魔族封印の書を受け取ると厳重に保管する様に命じる。


「あのエールデが、大公が、余に問い質す程の代物。厳重に管理保管せよ」

「畏まりました」


宰相は拝命を受けても、宝物庫ではなく自宅へと持ち帰ってしまう。


本の大きさは、大の大人が一抱えもするほど大きいもので、厚さは一掴みという程度。

中身が見えない様に、かなり細い鎖で何重にも巻かれていた。


「大公の力の源の可能性・・、入念に調べねばな」


いきなり鎖を切る様な愚行は出来ない。

とは言っても、外側を幾ら舐めるように見ても得られる情報はたかが知れている。


「中身を調べないと意味はないな・・。一度ザトゥルン公にも聞いてみるか」




魔族封印の書について調べるため、ザトゥルン公爵に声をかける。


「急なお呼び立て申し訳ありません、公爵」

「構わん。こちらも色々あって遅くなったがな。で何用か?」


書斎とは違う、私兵たちに守られた地下の部屋へと通される。

二人で部屋に入ると、更に隠し金庫から取り出された物に驚く。


「国王より厳重に保管を命じられていたのではないか!?」

「勿論、厳重に保管しておりますよ。宝物庫には後ほどですが」


公爵が驚きの声を上げると、宰相は意味深な笑顔で返す。

その笑みに対して苦々しげに魔族封印の書を睨みつける。


「ふん、それらしく作ってあるではないか」

「この魔族封印の書を調べたのですが、行き詰っておりまして。

ザトゥルン公なら何かご存じではないかと」

「ワシも東の果ての領民どもが、大公が石板を封したと言う程度の話を聞いただけで、実物を手にするのはこれが初めてだ」

「そうでしたか・・」


宰相は予想はしていたとは言え、思ったとおりの答えにガッカリする。

ザトゥルンも繁々と、魔族封印の書を調べる。


「厭味ったらしく表には、力無きもの触るな、だと」

「裏表紙には、汝力を示せ、とありましたな」


表紙に書かれた文字をせせら笑うと、身に付けた剣の一太刀で鎖が切れる。


「ザトゥルン公!」

「騒ぐな」


公爵のいきなりの暴挙に、宰相も声を荒げる。


「文字通り力を示したまでよ。これで中身も見れるであろう?」

「それは・・、そうですが」

「役立たずと分かれば、適当に直して宝物庫に放り込んでおけば・・」


公爵の言葉が途中で止まり、動きも止まったのをいぶかしむ。


「どうされました、公爵?」


茫然とした視線の先を見ると、鎖を切られた魔族封印の書が、独りでにページが捲られていた。


「・・えっ!? こ、これは一体?」

「っ!?」


宰相の声にザトゥルンは、弾かれた様に魔族封印の書に飛び付く。

しかし何か見えない幕の様な物のため、触ることすらできない。


パタンと本が閉まると、ご丁寧に、汝力を示せ、の文字が目に入る。


「そ、そんな、まさか・・」


本から金色の幾何学模様が溢れ出し、中から石板が一枚、また一枚と現れて・・


「ザトゥルン公、ザトゥルン公! 何が起きているのですか!」


外に逃げ出そうかとする様に飛び出し、頑強な壁や天井に激突し砕ける。


「・・魔族の復活だ」

「えっ!?」

「あの石板は魔族を封印した物だ・・。東の果ての地で見た物と同じ・・」

「そ、それでは・・、本当に?」

「石板が3枚、上位魔族が3体・・、東国は・・世界は終わりだ」

「す、直ぐに国王陛下へご報告を。東国の魔法使いたちも封印に成功しています」

「ふっ・・、何と申し開きするつもりだ? 極刑は免れぬ・・」


以前感じた事と同じ振動を感じる。

どのような違いがあるの分からないが、前回より地震が起こるまでの時間が短い。


「こ、これは?」

「魔族の石像が地上に現れる兆候だ・・」


何処にどう現れるか分からないが、もしかしたら石板の近くに石像が現れるのかもしれない。


宰相はザトゥルン公の言葉を聞いて、膝をポンと一叩きする。


「そうです、それです! 前回、石像が現れたと同じ現象であると訴えるのです!」

「・・そう・・だな」


魂が抜けたかのような公爵を抱えて、宰相は急ぎ王宮へと向かう。





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