月桃
挿絵が入っています。
私が咲く頃
この島の空気は 少しずつ変わっていく
密かな悲哀
そして 強固な願い
あの遠い過去に
あの哀しい記憶に
それぞれに思いを馳せる
過ぎた日々は戻らず
散ったものは還らない
それでも
幸福な日々のただ中に
今を生きる人々は あの日の跡を宿す
空をいく轟音と
張り巡らされた金網と
何が変わった?
何を変えられた?
あの夏と 少しは何かを
人々は私を見る
そうして 私を唄う
あの日いなくなったものを
それぞれに思いながら
どうか 後の世を生きるものが
自分達より幸福であれ
そう願いながら 私を唄う
ゲットウ(英名:pink porcelain lily、shellflower、shell ginger、ginger lily)
ショウガ科アルピニア属の花。別名、ハナミョウガ、ジンジャーリリー。六月から七月にかけて、白と黄に赤斑の入った花を咲かせる。原産地は、インド。花言葉は、さわやかな愛。
以上、第十四回「月桃」の説明でした。今回の詩は、いつもと趣向が違います。
私の故郷である沖縄県には、慰霊の日というものがあります。毎年六月二十三日にやってくるこの日は、「沖縄における組織的戦争の終わった日」とされています。司令官の自害により、「最後の一人まで戦え」という彼の最後の命令だけが一人歩きし、結果多くの死者を出しました。
慰霊の日は、そんな戦で命を落とした方の霊を慰めるための日です。
そんな慰霊の日に唄う歌の一つに、「月桃」があります。それを思い浮かべながら、ちょうどゲットウが咲き始めたので書きました。それに、今日五月二十三日は、慰霊の日まで一ヶ月ですし。
戦後何年といいつつも、沖縄からは米軍基地が消えていません。生まれたときから身近すぎて、何とも思わなくなっている私は、もしかしたらおかしいのかもしれません。
基地が不要なのか、なんてことは私にはわかりません。基地で働いている県民もいることは事実です。
それでも、この日、人々は哀しみの情と共に平和を願います。きっと今年もそうでしょう。
経験者じゃない私には、何も偉そうなことは言えません。だから、拙い言葉でこれだけ書くのが精一杯です。
どうか、この先ずっと平和であるように。戦争なんて知らなくていい、そんな世界になるように。
そう願わずにはいられません。
読んでいただき、感謝です。
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改稿情報
二〇二〇年六月二十三日、挿絵を入れました。絵は、「SKIMA」様で依頼した御奈良井ハシル様が描いてくださいました。転載・使用はご遠慮ください。七十五年目の慰霊の日に、あの戦争で亡くなった多くの命を想いながら。
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参考資料
・浜田豊著『花の名前 —由来でわかる 花屋さんの花・身近な花522種—』、婦人生活社、[二〇〇〇年]
・金田初代文、金田洋一郎写真『持ち歩き! 花の事典970種 知りたい花の名前がわかる』、西東社、[二〇一五年]




