~4~ 人魚姫と感情失くしの王子様
見ていて、いつもありがとうございます。一月・二月忙しくなるので、三月に小説を再開になるかと思います
カランッ・・・とベルの音が響いた
「いらっしゃいませ」
ペコリとお辞儀をしたいつものお客様の少女は手に何かを持っているようだ
「おや・・・?」
ヴィヴィアンは少女の匂いがいつもと違うことに気になったようだ
???
「お客様、海に行ったのですか?」
コクン 嬉しそうに拾った色とりどりの貝をヴィヴィアンに見せた
「楽しかったんですね。いいバケーションを過ごしましたね」
ニコニコ 余程海が気に入ったようだ
そんな小さなお客様の様子を見てヴィヴィアンはある物語を思い出した
「人魚姫を、ご存知ですか?」
コクリと少女が頷くのを見るとこう続けて言った
「元は人魚姫が王子に恋をし、その思いは報われず泡に成り果てた悲恋物語です。今は様々な結末等アレンジが加わっているものもあるんですよ」
興味を抱いた少女はヴィヴィアンにその話を聞かせて欲しいとせがんだ
「はいはい、わかりました」
ヴィヴィアンが話しながら本を開くと静かに聞く体勢をとった
「いつもありがとうございますね。では・・・むかぁーし、むかぁーし」
昔々、深海に人魚の王国がありました そこにいる人魚の王様の子供の数は十三人という子だくさん
美しい姉妹の中でも、奥方の忘れ形見であるセシリアは美しい人魚でした
海が光を浴びた時の眩しく輝いたスカイブルーの髪、サファイア色の瞳を持つ美女でしたがこの国では忌避される『魔力無し』で実の父から蔑まれ嫌われていました
セシリアを生んだのを最期に王様にとって最愛の人を失くしたので王様はセシリアを一目見ることさえ嫌います
自分を愛してくれないことに嘆き悲しんでいました そんな様子のセシリアを見て姉たちは陰で王の父を嫌いになっていきました
「お父様ったら、またセシリアのことを・・・」と一番目のお姉さんが愚痴をこぼすと、他のお姉さんたちも同意をします
セシリアはそんなお姉さんたちを見ていると、自分の居場所はここなのにと不安に募ります
陰でついた溜め息はぎゃいぎゃいと父である王様の陰口を言い始めるお姉さんたちの声で消えたとか・・・・・・
―所変わってセシリアと同じ気持ちに苛まれている若者が地上にいました
地上の国の若き王であるユリウスです 彼は太古昔の『人魚姫の王子』の血を継いでいる彼は嫌いなのにその気持ちを隠して好意的に接してくる周囲にうんざりしていました
というのもユリウスは人間でありながら『海の魔法』が使える魔力持ちだからです
なってしまった発端はユリウスとセシリアが生まれるずっーとずっーと遠い過去に遡ります
人魚姫が王子に思いを伝えられず、泡になって消えた原因と共に人魚姫が王子を助けた事実を自分がしたことだと言い成り済ました、王子と婚姻を結んだ娘は・・・
実は悪名高い海の魔女が人間に成りすましていた姿なのです
たまたま、海の近くの建物に来ていた王子を水晶玉越しに見ていた魔女は征服欲を刺激され王子を助けた後人間になりたいと訪ねてきた人魚姫を助けるフリをして声を奪いました
人魚姫が地上に来る前、王子の命を助けた恩人探しで騒がしい王宮に行き、王国の人たちにこう言いました
『あたしは昔王子を助けた女です』・・・と
女の虚言に踊らされた王子はその女の言葉一つで意のままに動く便利な道具と化したのです
その女を娶った数年後、王子は些細なことがきっかけで魔女の本当の姿を知り魔女に対する愛情が薄まったのと同時に最期まで自分を好きという気持ちを変えず泡になった人魚姫のことを思い後悔しはじめてきました
魔女は本当の姿を王子に知られたという事実を知らないまま熱烈に、猛烈に王子に好意を伝えその生涯を閉じたそう・・・
人魚姫のことを後悔している王子に、王子様を想ったままこの世を去った人魚姫、偽者を演じたまま愛に溺れた魔女
―昔会ったことのある王子様は元気かしら・・・? 人間と関わることは掟を破ることになるけれど
八年前助けて貰ったあの娘に会いたい・・・父上と母上を失った日だけれどと思う日々をいくつにのもこえたある日
ユリウス王子の十八歳を祝う船上パーティーで海上は賑わっていました
たかが一つ年が上になったくらいで・・・ うんざりしているユリウス王子
苛立った王子を見る人影が一つ・・・
「これが誕生日パーティー・・・ すごいわね」と藍色のレースが編みこまれているドレスを着てきょろきょろしている女の子
「親切な魔女さんに三回だけ人間になれる薬を貰えるなんて。でも王子様、何故仏頂面なのかしら・・・?」
なんとセシリアです
パーティー開催数日前人間の集まりに興味を持った魔女の末裔の女・アディはどうにかそこに入りたい衝動にかられてしまいました
悩みに悩んでいると、セシリアが近くにいます ある悪だくみを思いついたアディはセシリアを言葉巧みにパーティーに誘いました
共に行き、皇子を見つけ次第惚れ薬入りお菓子を食べさせようというアディの下心に気付かず
「・・・そうね。ついていこうかしら」と承諾してしまったのです
パーティーに来て、ユリウス王子に声をかけたアディはというと・・・
「あたくし、アディといいますわ。以後y「よろしくしないからな」」
「わたくし、月を見るのが大好きなんですの。よければ「一人で見るといい」」
と次々と自身に声をかけてくれた女性方を傷つけていました
そんな状況を見かねて真かは王子にある提案をします
「ユリウス王子っ!!」
「・・・なんだ」
不機嫌のまま臣下に対応をします
「あちらの姫様方たちに謝罪は「しないからな」」
バッサリと切り捨てた後、ユリウス王子はスタスタと庭に行ってしまいました 気になったセシリアは王子を追いかけていきました
王子が居なくなった場所でこんな話が聞こえてきます
「聞いたか? ユリウス王子の噂」
「なんなのかしら?」
「此処の王子は代々人魚しか使えない魔法が使える魔力を持っているとか」
「本当なの? でもだったら納得だわ。あの日王子だけが助かったのも・・・」
「はぁ・・・」
「何を溜め息ついているの?」
声をかけてきたセシリアにむっつり顔のまま聞いてきました
「・・・馬鹿馬鹿しいと思わんか」
「・・・?」
「親族がいない誕生日パーティーをするのも、次から次へと王位継承者は私になるから贅沢暮らしも大国としての特権を手に入れるかもしれないと、分かりやすい手を使う女共も」
「・・・・・・」
「たかが一つ年を重ねたくらい「黙って聞いていれば傲慢にもほどがあるわ」」
「なん・・・だとっ!」
セシリアのその言葉に激昂し、怒りに任せ頬を叩こうとしたユリウス王子
けど、セシリアの次の言葉を聞いて行動をやめました
「私は父様と国の部下の人たち以外誕生日を祝われたことはないの。十二人の姉様たちに祝われたけれど・・・ 父様は決まって『アイツが居なければ・・・っ!!』って部屋に引きこもってヒステリーを起こしていたわ、部下の人たちは私に関わりたくないと避けてきた。十六歳の誕生日になった日も」
今までの誕生日だって そう小さく呟くとユリウスは先程の態度を改めました
「・・・すまない」
「・・・いいんです、どうせこれからだって変わらない事実だから」
そう吐き捨てアディの元へ行こうとしたセシリアの背中にユリウス王子は
「パーティー後の数日間は城の出入りは自由だ。 来るといい・・・」と声をかけていきました
「・・・リア様」
あの人、なんで再度来ることを催促したんでしょう・・・?
「・・・シリア様」
不思議、不思議に思えるわ・・・
「セシリア姫様」
「っ、何かしら?アディ」
「姫様は、あの後どちらにいらしたんですか? 心配したんですよ」
アディの説教を聞き流し、ぼんやりと次の日になるまで過ごした翌日・・・
「そういえば、名を聞いていなかったな」
「セシリアといいますわ」
二回目の人間になった姿で、初めてのお茶会を楽しんでいる
初めて飲む紅茶、お菓子の味には吃驚した こちらの方だと、こういった習慣はないからだ
「しかし、キミはまるで人魚の人のようだね。セシリア。ティータイムの作法も、手土産のチョイスも」
チラリと見た色とりどりの貝殻を見て、ユリウス王子は苦笑いをした
その言葉に冷や汗をかいているセシリアにユリウス王子は気付かず・・・
そして、もう一人招かれてもいないのに来ている客人が一人・・・
「・・・・・・」
「新人、何モタモタしているのよ。早く来なさい」
「・・・分かりました」
メイドたちの中に紛れて変身をした海の魔女・アディのことを・・・
「・・・・・・どういうことか説明してもらいましょうか? セシリア姫」
眉間に皺を寄せ、声色を低くしたアディにバレてしまいました
「そ、それはその~・・・」
「隠さないでくださいっ!! ユリウス王子様に気に入られて、お茶をしていたじゃないですか!?
羨ましい・・・っ!!」
恨めしそうにセシリアを見つめるとセシリアはアディのその視線に罪悪感に苛まれます
そのセシリアの心を利用して、アディはある取引を持ちかけます
「セシリア様、アディのお願い聞いてください」
「何かしら?」
「この手作り菓子をユリウス王子様に渡してくださいませんか?」
実は惚れ薬入りのこのお菓子、食べるとお菓子の製作者に惚れ、虜になるのです
そんなことを露知らず、セシリアは承諾してしまいました
人間になれる最後の日、セシリアは月下の元ユリウス王子を待っていました
此処の花園、綺麗だなあ・・・とセシリアがぼんやり思っている頃、ユリウス王子はその月光に照らされたセシリアに見とれて、声をかけるのを忘れてしまいました
「・・・ユリウス王子様?」
「な、なんだね!?セシリア」
「いや、来たのに反応がないからどうかしたのかしらと思って」
「べ、別になんでもない!!」
「・・・変な王子様」
見とれていたことに気付かないセシリアは
「あっ、そうだ」
「?なんだ??それは???」
セシリアの懐から出されたのは、アディ特製の惚れ薬入りお菓子と色鮮やかな花束
「お菓子は、私が作ったわけじゃないんだけど」
「・・・甘いものは得意じゃない。たけど・・・この花は大切にとっておく」
花を愛おしそうに見ているユリウス王子にセシリアは照れてしまいます
「にしても、コレなんか青くもなる桃色の光を放っていないか?? -・・・!!?」
急にセシリアが見られない場所に隠れてしまいました
目の前で隠れたのですぐ見つかるのですが、様子のおかしいユリウス王子に行動を躊躇います
「ユリウス王子様!!?」
「―・・・私は、海の魔法が使える者の血を継いでいる男なんだ。それで、王位しか人は見て、「私はそんな風に見られないわ」・・・え?」
ユリウス王子が隠れているすぐ近くにセシリアは近づき、ユリウス王子に優しくこう語りました
「ユリウス王子様、貴方は私に色んなことを教えてくださいました。お茶会のマナーに、持っている辛さ、外の世界のことをたくさん・・・ 私は秘密を持ったまま接したのに、貴方はそんな私のことを優しくしてくれた人」
・・・この秘密を、言わなくちゃ だってこれが最後で、もう会えないんだから
「私はそんなあなたに会えるのは、今日で最後なの。だって・・・ 私はあなたに秘密を明かさないまま、去るのはイヤだから。私はね―・・・人魚の国の十三番目の姫・セシリアなの」
真実を聞かされ知ったユリウス王子は戸惑いを隠せません
「どうして、」
「多分、あなたが見たお菓子には魔法が仕込んであったんだと思う・・・ 私は魔力無しだから、
分からないの」
人魚の国では忌み子だから、お姉さまたち以外に優しくされたことがないから
そう力無く笑うと、霧に包まれるかのように消えてしましました
「・・・あの女っ・・・!!!」
その光景を、水晶越しに憎々しげに見ている女の隣にセシリアは現れました
「え」
「あたしが呼び出ししたのよ!どうしてくれるの!!台無しになったじゃない!!?」
怒り狂うアディに、セシリアは困り果てます
「それはっ・・・」
「・・・アンタなんて」
怒りながら、本を片手に頁をめくりある頁に目がつくと破り捨てました
捨てた先には、セシリアの足元です
足元についた途端、ポウッ・・・ 魔法陣が出没しました
「・・・っ・・・!!?」
何コレ・・・と声に出したつもりが、出ていません
どうやら、アディは魔法でセシリアの声を奪ったようです
「大事な『モノ』を盗られてしまうのがお似合いよ
最初は声、次は体の機能で・・・最終的には、生まれ育った地の者・知り合った人の記憶から
『無かった』ことになるの」
死んだら、誰も悲しんだりしないから安心して『殺されて』???
狂気に歪んだ笑顔がセシリアに迫ります
身体の機能が奪われ始めているからでしょうか
手に力が入らず、足が動けません
「セシリア姫、貴女は「終わりだと言いたいのか?薄汚い雌猫が」・・・ぇ」
足元に発動していた魔法が、不意の来訪者に強制解除されました
「セシリアにしか、海の魔法が使えるということは知らぬから、当然の反応だが・・・」
アディの方をギラッと睨むと
「・・・さて覚悟は「ヒイイイイィィィッ!!!」おいっ!!」
床に這いつくばると、どこかに逃亡してしまいました
「「・・・・・・・・・・」」
二人して無言のまま、この場に居座ります
「・・・何も知らなかったとはいえ、ユリウス王子様に毒を盛ろうとした女。罰は甘んじて受け・・・-「顔を上げよ、セシリア」・・・え」
セシリアの方に身体を下し、両手で顔を包み込みました
「・・・-私と、結婚してくれないか?」
プロポーズをすると
「えっ!?なんで・・・」
「・・・昔、どこかで見たことがあるかと思えば私の命の恩人ではないか。あの八年前のこと、
覚えていないのか?」
「!?まさか・・・」
「ああ」
「・・・人魚の人と人間の恋仲は決して良くない。災いがたちまち来―「それは太古の人魚姫たちの
話だろう?そんな歴史、塗り替えてしまえればいいのだ」・・・」
「・・・セシリア姫、」
「!」
「私はお前と共に生を歩み、終わりまで傍に居たいのだ」
「・・・っ、ゅす王子様、私は貴方に相応しくないです。ですが・・・
こんな私でよければ、頂いてください」
泣きそうになりながら、セシリア姫はユリウス王子のプロポーズを受けました
こうして、徐々に人魚と人間の仲がよくなっていきました
その数年後ユリウス王子に見つけられたアディは許す条件にセシリア姫を人間になれるように、
お願い(脅迫)をすると快諾(青ざめて了承)し、魔法をセシリアにかけました
「ユリウス王子様」
「なんだ?セシリア?」
「雰囲気が柔らかくなったわね」
いつまでも二人は陽だまりのように、ポカポカで温かい居場所をお互い作っているとか・・・
めでたし、めでたし・・・
♪♪♪ 話を聞き終え、上機嫌になっている少女はふと落ち込みました
「どうしたんですか? えっ・・・明日からの九日間家族旅行で忙しくなるから、行けられない・・・
そうですか・・・ この店に愛着を持ってくれて嬉しいです。九日間後待っていますからね」
扉を開けかけのまま、寂しそうに家路に急ぐ少女の背中はどこか切ない雰囲気を纏っていたとか・・・
次回は赤ずきん!でもその赤ずきんは変わっている風貌だそうで・・・?