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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

声劇用台本置き場

勇者という称号(台本)

作者: 結衣

★登場人物

レオン(♂)……魔王を倒すために旅だった勇者。正義感が強く、楽観的。仲間思い。

アリス(♀)……勇者レオンの仲間。

ミーナ(♀)……アリスに助けられた少女。その直後レオンとアリスが対立し、落ち着かない状況。一応回復魔法が使えるが、新米なのであまり強くない。

ナレー(♂♀)……ナレーション

男1:女2:不問1の計4人の脚本です。


ナレー「深い森の中。一人の少女が、モンスターに襲われそうになっている」


ミーナ「や、やだ……あっち行って!」


ナレー「怯える少女――ミーナの哀願も虚しく、モンスターはじわりじわりと近づく」


ミーナ「いやぁぁ!!」

アリス「サンダーアロー!」


ナレー「どこからか放たれた雷の矢がモンスターを貫き、モンスターはその場に倒れこんだ。呆然とするミーナの前に、一人の女が姿を現す」


アリス「大丈夫か?」

ミーナ「は、はい……ありがとうございます。すごいですね」

アリス「すごい?」

ミーナ「あんな強くて大きいモンスターを一撃で倒すなんて! すごいですよ」

アリス「たいしたことはない」

ミーナ「あなたは私の命の恩人です。もしよければお名前をーー」

レオン「アリス! やっと見つけた! ん? その子は?」

アリス「モンスターに襲われていた」

レオン「で、かっこよく助けたと。さすがだな」

ミーナ「初めまして。ミーナといいます。あの……お二人は?」

レオン「俺はレオン」

ミーナ「レオン……? 魔王退治を託されたという勇者と同じ名前ですね」

レオン「(照れたように)ははは」

ミーナ「もしかして、本当に勇者!?」

レオン「ま、まあな」

ミーナ「レオン! じゃあ一緒にいるこの人はアリスさんですか?」

アリス「(意外そうに)……私がわかるのか? 珍しいな」

ミーナ「勇者レオンさんと、勇者の仲間であるアリスさん……こんなところで会えるなんて、嬉しい! 勇者もアリスさんも剣、魔法の両方が使えるんですよね! すごいです!一度お会いしてみたかったんですよ」

レオン「そんなこと言われると照れるよ。なあ? アリス」

アリス「……仲間、か」

レオン「あ、こんなとこにマルムーのツノがある」

ミーナ「さっきのモンスターについていたやつですね……」

レオン「これ、砕いて飲ませるとやばいんだよ」

ミーナ「聞いたこと有ります。飲んじゃうと、一時間以内に薬とか魔法を使わないと助からないんですよね!」

レオン「ああ。悪用されないように、俺が持っとくか」

アリス「私は、『勇者の仲間』でしかないのか」

レオン「ん? どうした?」

アリス「誰を助けても何をしても、結局は勇者の手柄。私はそのおまけでしかない」

レオン「アリス?」

ミーナ「アリスさん?」

アリス「……私は何をしても勇者のおまけだ。勇者と一緒に旅をする人間、名前すら認識されないこともある」

ミーナ「わ、私は知ってましたよ。レオンさんのことも、アリスさんのことも。特にアリスさんは同じ女性としてすっごく憧れてて!」

アリス「お前は特殊だな。普通の人間は、そこまで覚えていない。勇者に仲間がいる、その程度の認識だ。……何かあれば、頼られるのは勇者。私ではない」


ナレー「アリスは鞘から剣を抜くと、剣先をレオンに向ける」


ミーナ「え!? 急にどうしたんですか!?」

レオン「……ああ。修行か。(ミーナに)よくやるんだよ。修行っていって、手合わせっていうの? 本気出してやるとすごいぞ」

アリス「修行などではない」


ナレー「アリスは突如斬りかかる。油断していたレオンは、避けきれず二の腕に鋭い痛みを感じた」


レオン「アリス……?」

アリス「昨晩、魔王の部下が私の元にやってきた。魔王の部下になる気はないかと。今日の夜、答えを聞きに来るらしい」

レオン「何企んでるんだ魔王のやつ」

アリス「さあな」

レオン「俺とアリスを敵対させて、俺を孤立させる気か?」

ミーナ「でもアリスさんはもちろん断るんですよね? だって勇者の仲間なんだから」

アリス「これが断るように見えるか?」

レオン「まさか、受けるのか? 魔王の部下にって話を」

アリス「そのつもりだ」

レオン「どうして……」

アリス「私は最初からお前が憎かった。お前さえいなければって、何度も思った。お前がいる限り、私はお前のおまけでしかない」

レオン「でも一緒に魔王を倒し、世界を救うって決めただろ! 言ってたじゃないか! 傷つく人を無視することはできないって。魔王の部下になるということは、人を傷つけるために動くということだぞ」

アリス「わかっている」

ミーナ「で、でも……アリスさんは私を助けてくれたじゃないですか」

アリス「それもこれが最後だ。私は今ここでレオンを殺し、魔王の部下になる。ミーナ、お前は見逃してやるからさっさとどこか行け」

ミーナ「で、でも……」

レオン「ミーナ。家は近いのか?」

ミーナ「はい。森を出てすぐのところです」

レオン「アリス。俺はこの子を家に連れて帰るよ。さすがに一人で行かせるのも心配だからな。俺を倒したいなら、それからだ」

アリス「逃げるのか?」

レオン「逃げはしない。だがお前はまだ正式に魔王側についたわけじゃない。なら、誰かが危険な目にあわないように護衛することぐらい構わないだろ? お前はそこにいればいい。俺が一人で、この子を連れて帰るからさ」

アリス「そうやって人に恩を売るんだな」

レオン「恩を売るって……誰かを守りたい、それだけだ。お前だって、わかるだろ?」

アリス「……お前が逃げないとは限らないからな。連れて帰るまでは一緒に行こう。その後、お前を倒す」

レオン「……」

ミーナ「あ、あの……」

レオン「(無理した感じで笑う)心配しなくていいよ。ミーナはただ、道案内してくれればいいから」

ミーナ「は、はい……」


ナレー「二人はミーナの案内のもと、森を抜け村に向かった。その途中でアリスは立ち止まり、ここで待つからと二人から離れた。そしてレオンとミーナは村に到着する。」


レオン「じゃ、俺は行くよ」

ミーナ「……どうするんですか?」

レオン「説得するよ。あいつだって、誰かを守りたいって気持ちはあるはずなんだ」

ミーナ「それはわかります。けど――」

レオン「大丈夫。説得してさ、元気な姿見せにくるから。はいこれ」

ミーナ「……お金?」

レオン「宿とっといてよ。二人部屋」

ミーナ「ふたーー? 男女一緒に泊まるんですか!?」

レオン「前からそうしてるけど、変か?」

ミーナ「いえ……お気をつけて」

レオン「ああ」


ナレー「心配そうな眼差しを向けるミーナを村に残し、レオンはアリスの元へ戻る。そして崖の近くまで歩いて行く。断崖絶壁。落ちたら無事ではすまなそうだ」


レオン「すっごい景色だな。遠くまで見える」

アリス「……」

レオン「覚えてるか? 前、俺、崖から落ちそうになって、お前が助けてくれたんだ。気をつけろって、かなり怒ってたよな」

アリス「……」

レオン「どうしても……戻れないのか?」

アリス「……」

レオン「お前は……本気で魔王の側につくのか?」

アリス「そうだ」

レオン「どうして!?」

アリス「……」


ナレー「アリスは剣先をレオンに向ける。レオンは鞘から剣を抜き(やいば)をアリスに向けるが、その剣は震えている」


レオン「……まじなのか?」

アリス「お前さえ、お前さえいなければ!」


ナレー「アリスはレオンに斬りかかる。レオンはぎりぎりのところで避けるがバランスを崩す」


レオン「うっ」

アリス「フレイムボンバー!」


ナレー「放たれる炎の玉。レオンはそれを剣ではじき、体勢を立て直す」


アリス「……お前も攻撃してくればいい。魔王の仲間、は倒すべき敵だろ?」

レオン「お前は敵じゃない。大事な仲間だ」

アリス「……そんなの昔の話だ」

ミーナ「レオンさんとアリスさん! 見つけた! こんなところにいたんですね」


ナレー「ミーナが息を切らしながら走ってくる」


レオン「ミーナ!? なんで……」

ミーナ「二人のことが気になって……それで」

アリス「雷の精霊よ、我が剣に宿れ……サンダーソード!」


ナレー「アリスは剣に雷をまとわせ、レオン目掛けて剣を振る。ミーナに気を取られていたレオンは、右腕から血を垂らし、さらに雷のせいで身体が痺れ、その場にしゃがみこむ」


レオン「うっ……」

ミーナ「レオンさん!」

アリス「他のやつと話している場合か?」

ミーナ「わ、私のせい?」

レオン「違うよ……俺の、ミスだ」

ミーナ「……癒しの精霊よ。我が魔力を以って()の者を癒やしたまえ……ヒールライト」


ナレー「ミーナの手のひらから淡い光が発せられ、レオンの傷を覆っていく。痺れも完全ではないが、和らいだ」


レオン「……魔法、使えるんだ」

ミーナ「まだまだ新米だから、何度も使えませんけど……」

レオン「サンキュ」

ミーナ「アリスさん……やめてください」

アリス「無駄なことを。少し傷を癒やしたところで、死ぬことに変わりはない」

ミーナ「魔王の仲間になって、何がしたいんですか? レオンさんもアリスさんも、人々を守るという気持ちに溢れてるって、私聞いてたのに……」

レオン「そうだ。魔王について、お前に何の得があるんだ?」

アリス「……魔王軍につく人間もいる、それは知ってるだろ?」

ミーナ「え? そうなんですか?」

レオン「ああ。俺達も何度か戦った」

アリス「……魔王軍は完全な実力社会だ。今まで戦ってきて、それを強く感じた」

レオン「それがどうした?」

アリス「あそこなら、例え無様な結果になろうと自分自身で納得できる。そう思ったんだ」

レオン「どういう、ことだ?」

アリス「ミーナ、勇者はどうやって選ばれたか知ってるか?」

ミーナ「え、確か国王と一部の兵士が候補を決めて、そこから選ばれるんですよね」

アリス「……勇者候補は私とお前の二人だった。魔法も剣も、私のほうが上だった。なのに勇者に選ばれたのはお前だった」

レオン「そうだな。正直俺も驚いたよ。お前が勇者に選ばれるとばかり思ってたからさ」

アリス「しかし私はどうにか自分を納得させようとした。レオンには私にはない何かがあり、それが認められたのだと。しかし……違った」

レオン「え?」

アリス「勇者を選んだ人間たちが話しているのを聞いたんだ。『勇者にふさわしいのは男だ。女を勇者にしたところで、誰も認めない』ってな」

レオン「……そんな」

アリス「そのくせなぜ私が候補に選ばれたかというと、勇者候補が一人しかいないと思われたら魔王に馬鹿にされるかもしれないからだとも言っていた」

レオン「……」

アリス「悔しかった! 実力、もしくは将来の見込みで勇者になれなかったのなら諦めもつく。でも、女だから、ただそれだけで私は……私は!」


ナレー「アリスは再び斬りかかる。それをレオンは剣で受け止める」


レオン「落ち着け」

アリス「勇者になったお前にはわからないだろうな。私の屈辱は」

レオン「それは……とにかく、お前を魔王の仲間になんてさせない!」


ナレー「レオンはアリスの攻撃を防ぐばかりで、積極的に攻撃をしようとしない。アリスの一方的な戦いが続く。離れた場所から不安げに二人の戦いを見つめるミーナ。それからどのくらい時が経っただろうか、アリスはまだ余裕を見せているが、レオンの顔に疲労の色が浮かび始める」


アリス「私はお前が気に入らない。ここで倒し、私は魔王軍へつく」


ナレー「ミーナが二人に近づく。アリスはミーナを見ることもなく、じっとレオンを睨みつけている」


ミーナ「……アリスさんはなぜ、勇者になりたかったんですか?」

アリス「人々を守るためだ」

ミーナ「それは勇者でなくてもできます。事実アリスさんは、私を助けてくれたじゃないですか。勇者という国から与えられる称号に、何の意味があるんです?」

アリス「勇者というだけで皆認めてくれる。何の疑いもなくだ。それに勇者というだけで人は安心してくれる。平和の象徴として、人々を救う希望として」

ミーナ「でも、今のアリスさんは魔王の仲間になろうとしているんですよね? もう、人助けはどうでもいいってことですか?」

アリス「……そうだ。女というだけで勇者だと認めない人々など、どうでもいい」

ミーナ「私はアリスさんが勇者でもいいと思います。どっちが勇者かなんてどうでもいい、むしろ両方勇者でもいいんじゃないかって思います」

アリス「……そんなこと言ったの、お前が初めてだ。だけど多くの人間に認められなければ意味がない。私は決めたんだ。実力がものをいう魔王軍で、自分の存在を認めてもらおうと」

ミーナ「認めてもらわなければ意味が無い……?」

アリス「私は昔から強さに憧れた。しかし剣術を習いたいと言ったら周りの男からは馬鹿にされ、女からは変わり者扱い。『女の子らしくしなさい』『そういうのは男の子の仕事だ』って言われるばかり。そう言われるたび、私は否定されているような気がしてならなかった。人を救う勇者に憧れた時もそうだ。『勇者は男の仕事だから無理だ』って馬鹿にされた。だから何が何でも勇者になろうと思った。だが、無理だった。剣術や魔法は学ばせてもらえたが、それだけだ」

レオン「……そうだったのか」

アリス「だが魔王軍ならそういうことはない。例え女であっても実力があれば認めてもらえる」

ミーナ「……周りに認めてもらう、それが勇者になりたい理由だったんですか?」

アリス「違う。勇者になりたかったのは、人を救うためだ」

ミーナ「ですが話を聞いてると……自分を認めてもらいたくて勇者になりたいと言っているように聞こえるんです」

アリス「人を助けられる人になりたい、そういった時母さんは喜んだよ。『素敵なことね。イザベル先生に頼んで、看護師目指してみる?』って。私も最初はそれでいいと思った。でも勇者の話を聞いてから気持ちは変わった。人々を不安から救う、それに憧れたんだ。強くなって、それで誰かを助けられるなら、そんな素敵なことはないって」

レオン「そうだな。勇者になりたい理由を国王の前で話した時も、誰かを助けたいって言ってたよな」

アリス「だがその思いは届かなかった」

レオン「俺には届いた。お前が本気で人を守りたいって気持ち。俺なんかよりずっと勇者に対する気持ちが強くて……」

アリス「……黙れ」

レオン「俺は、あの時の言葉が嘘とは思ってない。かなりその気持ちが伝わったよ。俺は信じてる」


ナレー「アリスの剣が再びレオンを狙う。それを防いだかと思うと、続けて魔法が放たれる。避けるので精一杯、そんな様子がレオンから見てとれた。アリスの放った風の刃がレオンの右脚を斬り、血が流れ落ちる。同時にアリスの剣がレオンの左肩をとらえた。その場に背中から倒れこむレオン。背後には崖」


アリス「(勝ち誇った顔で)ココで終わりだな。お前だけはこの手で殺す」


ナレー「アリスは仰向けになったレオンを突き刺そうとする」


レオン「お前に俺は殺せない……」

アリス「何を言う。すでにぼろぼろじゃないか」

レオン「でも、お前に俺は殺せないさ」

アリス「なぜだ? もう動くことすらできないくせに……強がりか?」

レオン「なぜ? それはお前に殺されない秘策があるからだ」

アリス「秘策……?」

レオン「そう。自ら死ねば、自分を殺したのは俺自身。お前じゃないってことさ」

ミーナ「どういうことですか? それじゃまるで死のうと思ってるみたいじゃ――」

レオン「死のうとしてるんだよ。運良く後ろは崖。どうにか落ちることはできそうだ」

ミーナ「何言ってるんですか!? そんなの……」

アリス「くだらないな。落ちたところで死ぬとは限らないぞ?」

レオン「それはちゃんと考えてるさ」


ナレー「レオンはポケットからマルム―の角を取り出した。それを魔法で砕くと、いっきに飲み込む。その瞬間、レオンの顔が青くなり、呼吸も荒くなる」


ミーナ「レオンさん!?」

アリス「!?……本気で死ぬつもりか?」

レオン「ああ」

ミーナ「どうしよ……こういう時の回復魔法、私使えないし。かといってこのままじゃ……」

アリス「……くだらない。秘策というから何かと思えば。これではお前が死ぬという運命は変わらないじゃないか」

レオン「いいんだよ……お前が手を汚しさえしなければ、な」

アリス「……無責任なやつだな。お前が死んだら、勇者はいなくなるぞ?」

レオン「お前がやればいいよ」

アリス「何を言う。そんなこと誰も認めーー」

レオン「女だからとか男だからとか、そういうのは俺には分からない。だけどさすがに魔王倒せばさ、嫌でも勇者って認めるよ」

アリス「……」

レオン「俺さ、勇者になった時、お前を仲間に誘っただろ? あれ、お前のほうが勇者にふさわしいと思ったからなんだ。俺に何かあったら、お前に勇者をやってもらおうって、ずっと決めてた」

ミーナ「私、村に戻ります! もしかしたら薬が……」

レオン「ミーナ」

ミーナ「なんですか?」

レオン「何か聞かれたら、勇者は魔王の手下に倒されたって言ってくれ」

ミーナ「何言ってるんですか!」


ナレー「ミーナは村目掛けて走りだす」


アリス「お前は馬鹿だ」

レオン「ん?」

アリス「せっかく勇者として旅立てたのに、こんなところで終わりにしようだなんて」

レオン「アリスが魔王の手下になったって噂が流れるよりマシさ。それに……俺はアリスのこと信じてるから、さ」

アリス「何を信じると言うんだ」

レオン「誰かを守りたいって気持ち。今はちょっと反抗期かもしれないけど、本当は違う。お前の本当の気持ちを邪魔してるのが勇者である俺なら、俺は消えるよ」

アリス「せっかく勇者になれたのに、愚かなものだな」

レオン「俺は勇者とかどうでもいいんだよ。誰かを守るのに、勇者って肩書はいらない。勇者って肩書のせいで、お前も苦しいんだしな」

アリス「レオン……」

レオン「魔王、倒してくれよ。そうすりゃ世界は平和になる」

アリス「私は……」

レオン「アリス、勇者だって認めてもらえればいいな。大丈夫だよ、だってお前は――」


ナレー「レオンは苦しみつつ出来る限りの笑みを浮かべると、懐に忍ばせていた短剣を胸に突き刺し、崖から飛び降りた。アリスはとっさに手を伸ばすが、レオンには届かない」


アリス「……最後まで私のことを気にかけるなんて、お前は馬鹿だよ。……」


ナレー「アリスは崖の底を覗き込む。レオンの姿は見えない。どこまで落ちたのだろうか」


アリス「お前は仮に女だったとしても、気にせず誰かを守るために戦ったんだろうな。勇者になれなくても……」


ナレー「三十分以上、アリスはその場に立ち尽くした。やがてミーナが戻ってくる。その手には小瓶が握られている」


ミーナ「薬が1つだけありました! 倉庫とか棚とか全部確認して、大変でしたよ。はや――あれ? レオンさんは?」

アリス「落ちたよ……ここから」

ミーナ「そんな……止めなかったんですか!?」

アリス「……」

ミーナ「私、あなたに憧れてました。同じ女として、人々のために戦うところに。確かにあまりアリスさんの噂は聞かなかったけど、だからこそ聞けた時は嬉しかった」

アリス「……」

ミーナ「……でも、今は……悲しいです」

アリス「……私は魔王を倒しに行くよ」

ミーナ「今更? 魔王の手下になるって言ったじゃないですか。それとも勇者になれるかもしれないって思った途端、考えを変えるんですか? レオンさんを犠牲にしてまで……」

アリス「女とか関係なしに、勇者にふさわしいのはあいつだったんだ。肩書にこだわらず、純粋に何かを守るために戦う、そんなあいつだから、勇者になれたんだろうな。今思えばあいつは一言も『勇者になりたい』とは言ってなかった」

ミーナ「そうなんですか?」

アリス「ああ。あいつは『世界を、皆を守りたい』って言ってた」

ミーナ「……」

アリス「私が言ったのは『勇者になって人々を守りたい。勇者として、皆の希望になれるような存在になりたい。世界を守るために、人を守るために、勇者になりたい』だった。……あいつは自分を犠牲にしてまで、私の願いを叶えようとしてくれた。……あいつを倒したら魔王の手下になるつもりだったが、なれないな。だってそしたら、それこそあいつは無駄死にだ。お前は納得いかないかもしれないが、私は魔王を倒すよ。皆のために」

ミーナ「そして勇者になるんですね」

アリス「(首を横にふる)私は勇者を名乗る気はないよ。きちんと事情を説明して、裁きを受けるさ。あいつを死なせたのは私だ……勇者殺しは大罪だからな。……崖の下に行く道はあるか?」

ミーナ「はい……」


ナレー「アリスはミーナに案内され、崖の下へたどり着いた。少しばかり時間はかかったが、息一つしていないレオンをやがて発見した」


ミーナ「ひどい……」

アリス「……村まで送ってくよ。あいつの代わりだ」


ナレー「ミーナはためらっていたが、やがてゆっくりとアリスの後ろを歩き始めた。ミーナを村に送り、村で一泊することにしたアリス。すでに予約されていた二人部屋にはベッドが二つ。もちろん一つは誰も使わない。片方のベッドがあいたまま、アリスは朝を迎えた……」


アリス「さて、いくか」


ナレー「アリスは身支度を整え、崖の下――レオンがいる場所へ向かった。彼を魔法で焼き、灰となった彼を地面に埋める」


アリス「……よし」


ナレー「アリスは深呼吸を一つすると、その場を後にした。雨が降り始める中、彼女は歩き続けるーー」


ーーーーーENDーーーー

これは相手に手を汚してほしくないがために自ら命を絶つ、そんな場面を書きたくて書きました。

勇者って何なんでしょうね。

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