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すっかり夜の帳も下りた頃、俺とアリスさんは二人してボブの店に来ていた。
薄暗い店内はいかにもバーそのもので、昼間秋人に連れられて行った店とは時間のせいかどこか違って、疲れ切った大人たちの安息の場所という表現がしっくりくる。
オシャレなのはどちらの店も同じなのだが、あっちの店は若者向けで、こちらはダンディーなオジサマ向けというのだろうか、実際俺たちのほかに来ている客も、スーツの似合う白髪のおじさんや葉巻の似合うおじさんで、完全に俺とアリスさんは場違いだ。
「何か飲むかい?」
ボブは親しげに訊ねてくる。
「ターキー、ダブルで」
どこか上の空で告げるアリスさん。
「じゃあ、えーと、カルアミルクで……」
下戸の俺は弱めのお酒だ。
二人とも俺があまり飲めないのは知っている、最初にここで同じ注文をした時のからかわれようといったら本当に酷いものだった。
「さて、準一よ、お前は何を視た」
唐突にアリスさんが切り出す。
楓ちゃんを連れて行っても、アリスさんが俺に深く聞かなかったのは、その辺を分かっていたからなのだろう。
俺が持つ、未来が視えるという能力。
そしてその能力を持ってしても、回避できない未来。
未来に起こる出来事をイメージで捉えることができる俺は楓ちゃんの『死』を視た。
渋谷の駅のホームで、電車を待つ人々の成す列の先頭に立ち、空虚な目で、そしてどこか安堵したような表情の彼女は、電車がスピードを緩めつつホームに進入してきた瞬間、飛び込んだのだった。
そして、これは感覚的にわかるのだが、彼女が飛び込むのはおそらく明後日の朝だ。
「なるほどね、そういうことか、アレは」
俺の説明にどこか納得したような態度だ。
「楓ちゃん、何か言ってたの?」
俺がそう聞くと、アリスさんは頬杖をつき、つまらなそうに言う。
「べつに、ただあの子が知ってる、方法ってのは、そんなどうしようもないものだったんだな、って」
「なんだそれ……、俺にもわかるように説明してよ」
「……じゃあ、私が聞いたことをそのまま伝えるから、まずお前が考えてみろ」
説明する気はないようだ。
「お待たせ、二人とも。長話になりそうだし、飲み物があった方がいいだろう?」
いままで酒を出すタイミングを見計らっていたのか、ボブは気の利いた一言とともに注文の品を差し出した。