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「よし、じゃあ今日はこれにて解散!」
一通り会議を終え、秋人が高らかにそう宣言する。
後輩二人と秋人の楓ちゃん懐柔作戦(結局効果無し)と部活の今後についての会議が終わると終わらせると、もうすっかり夕方だった。
本題であった「楓ちゃん懐柔作戦」は一旦俺の預かりとなった。
アリスさんなら、なんとかしてくれるかもしれない。
「あー、黒田、相田。お前ら片付け手伝え」
秋人は後輩二人にそう告げて、俺に目くばせする。
「そうだ、秋山さん。この後予定無いなら、少し付き合ってほしいんだけど、いいかな?会わせたい人が居るんだ」
なるべく柔和に、そして少し高めのトーンで話しかける。
警戒心を解くために効果的に思えることはすべてやるべきだろう。
楓ちゃんは少し怪訝な顔をしたものの、コクリとうなずき了承してくれた。
三月とは言え、夕方ともなるとまだ寒い。
逢魔が刻、黄昏時。そんな言葉が似合う夕焼け空の下、最寄り駅からアリスさんの店までの移動中、楓ちゃんはどこかイライラしつつも、問いかけには反応してくれている。
警戒心は解けただろうか、そろそろ本題に入ろう。
「秋山さん、単刀直入に聞くけど、俺のこと苦手だったりする?」
普通、いくら相手が自分に無愛想でもこんなことを直接聞いたりはしないだろう。
少し逡巡した後、楓ちゃんは口を開いた。
「……別に、苦手ってわけじゃないですよ」
ほんのちょっとだけ、嬉しくなってしまう。
「そっかそっか、いやあ良かった~。てっきり苦手意識持たれてるのかなーって、心配だったんだよねぇ。こういうの聞くに聞けないしさ」
「すみません、私あまり人と関わりたくないので」
「……どうしてか、聞いてもいいかな」
いきなり核心に迫れた。これはアリスさんの出る幕はないかもしれない。
「……先輩には、関係ありませんから」
やはり心の壁は、まだ看破できそうにない。
そしてそれっきり、店に着くまでの間ずっと楓ちゃんは黙ってしまった。
俺が何か問いかけても適当に相槌を打つだけで、会話のキャッチボールが成り立たなくなった。
「ここだよ、ようやく着いた」
一階部分のテラス席越しに、店内の様子を伺う。
アリスさんは眼鏡をかけて視線を下げている、読書でもしているのだろうか。
「ここは……喫茶店、ですか?」
胡散臭そうに店内を見つめ、こちらに顔を向けずに聞いてくる。
まあ、外観だけでは分かりづらいだろうし、この反応は仕方ないだろう。
「そうだよ、会わせたいのがあの銀髪眼鏡の女の人ね」
そう言って店に入る。
ドアを開けると、ドアベルが心地よい音を響かせる。
その音に反応したアリスさんは眠たげな瞳をこちらに向け、そして俺の後ろからついてくる楓ちゃんを訝しげに睨んだ。