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「…………」
宮間先輩に連れられてきたバーは、いかにもといった雰囲気の、オシャレで女性受けしそうなお店だった。
開店前だというのに、宮間先輩は「俺の身内の店だから気にしなくていい」と、平然とカギを開けて中に入った。
唯一の二年生同士仲がいいのは当然で、以前にも来たことがあるのだろうか、御門先輩はいつも通り物怖じせずに宮間先輩の後に続く。
他の一年生部員二人も、そんな御門先輩に続いて恐る恐るといった風に入っていく。
私はと言えば、「どうせ何か言われても宮間先輩の責任だ」と高を括って堂々と入る。
小洒落た店内は、木製のバーカウンター前にしか椅子はなく、隠れ家的バーとでも言うのか、あまり多くの客が来ることを想定していないようだ。
ここまではよかった、ここまでは。
私がほかの部員たちと距離をとるのはいつものことだし、皆私があまり馴れ合うのを好まないというのをわかっているのだろう。
私は部活の会議とやらが始まるまでスマホの画面を見つめていたが、他二人の一年生部員たちは緊張しているのか、普段の部室での様子とは大違いで、まさしく借りてきた猫のようだ。
「準一、飲み物の買い出し行くぞ、手伝え」
唐突に宮間先輩が切り出す。
「えっ!?ここはバーとはいえノンアルコールが一切ないわけじゃないでしょ?」
驚いた様子で反応する御門先輩。
未成年である一年生に対する配慮だろうが、親戚に薦められるとかして真面目に二十歳までお酒を飲んだことがないなんて人は、あまり多くないのではなかろうか。
「いいから、来い」
「っちょっ!?わかったから襟つかまないでよ!」
「あ、あのう……」
御門先輩が連行されつつある中で、一年の女子部員、黒田咲良が遠慮がちに挙手して声を発した。
「どうした?」
御門先輩の襟首を掴んだまま急に立ち止まり、宮間先輩は黒田さんに反応した。
「先輩たちが買い出ししてる間、私たちはどうすれば?」
「雑談でもしてるといい、四月から二年なんだ、現一年生同士親睦を深めてみるといい」
「はーい」
淡々と告げた宮間先輩に対し、待ってましたと言わんばかりの黒田さんの笑みは、私にはどこか不気味に映った。