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「う……ん……-っ……」
見慣れた天井が視界に映る、思考が追いつかないがここはどうやら自室のベッドの上らしい。
「アリスさん、先輩起きたみたいですよ」
「あ……、じゃあ少し状況の説明するから席を外しといてくれないか、楓」
「はーい」
楓ちゃんはパタパタとスリッパの音をたてて景気よくドアを閉める。
「……アリスさん、いったいこれはどういう事なの」
俺は夢でも見ていたということなのだろうか。
ベッドの上、俺に背を向けて座る彼女に問いかける。
「私を誰だと思っている」
自信満々にそう言う魔法使いはどこか疲れた様子だ。
「まあ結論から話すなら、お前に幻覚を見せていたんだ、お前の視たイメージの再現をな」
「…………」
「お前の未来視はあくまでお前の主観だ、なら全く同じイメージをお前に見せたら、お前の未来視はどうなると思う?」
寝起きの思考で無理矢理答えを絞り出してみる。
彼女が言いたいのはつまり、すり替えってことだろうか。
俺が本来現実で見るはずだった映像を彼女が幻覚で見せる。
「……ってことは、俺が最初に視た自殺のイメージはもともとアリスさんが見せた幻覚だったってこと?」
満足げに彼女は頷く。
「流石、私と一年一緒に居ただけはあるじゃないか」
「そりゃあ、この変な超能力を身に着けてからずっとこんなことばっかりだったし、嫌でも慣れるよ……」
「まあなんだ、お前の能力は……いや、未来視だとか予知能力だとか、そういうの全般に対して言えることなんだが、結局は高度な情報処理能力なんだよ」
ここに越してきてから一年間知らされなかった真実を告げられ、ただただ茫然とする。
「だからお前の知らない事象、例えば見ず知らずの他人が一秒後どうなるかなんてのは全く分からない筈だ」
「まあ、やろうと思えば、今回の事、私がお前をハメたってのも、実は予知できたんだ。そこがまだまだ検討の余地があるな、うん」
勝手に納得してるし、この人は。
「……でもでも、楓ちゃんが自殺をするってのが俺のイメージに出てきたなら、楓ちゃんは本当に死にたがってたってこと……?」
「だろうな」
「……じゃあまた自殺しようと思うってことは」
「それはないな、私がなんとかしたさ、それは」
「はあ……、結局彼女の抱えてる問題は解決できたってことで、いいのかな……?」
「そう思っとくといい。いや、なんだ、朝から早起きなんてするもんじゃないな、疲れた、寝る。うん、今日は店は休みだ、お前もゆっくり休め、それじゃあな」
言いたいことは全部言ったのか、アリスさんは立ち上がってさっさと部屋を出た。
なんだか釈然としないが、解決したのならいいか……。アリスさんの事なかれ主義が伝染したのかもしれない。
……寝よう。
そうして俺は再び微睡に落ちた。




