12
「ここ、椅子とかなかったっけ……」
アリスさんと別行動になってから10分ほど経った。
ずっと同じ場所で立っていると、正直人目が気になる。
堂々と人を待つなら(できれば待ち人には現れてほしくないが)、やはり椅子だとかに座って堂々と待っていたい。
「しかし、移動して大丈夫なんだろうか……」
アリスさんの事だ、きっと遠くからこっちの様子を見ているのだろう、遮蔽物があったりすると支障が出そうだ。
そんなわけで、結局すぐそばにあった自販機に寄りかかると、電車を待つ列の先頭に見知った姿を見つけた。
心臓がいやに高鳴る。
鼓動が早まり、頭が上手く回らない。
電車を待っている楓ちゃんは、俺が視たイメージ通りに虚ろな目をしていて、そしてどこか疲れた表情だ。
「楓ちゃんっ……!」
列の先頭に小走りで駆け寄り、声をかける。
『間もなく……番線に各駅停車……線直通……』
アナウンスが耳に入ってこない、が、おそらくこれに飛び込む気なのだろう。
楓ちゃんは俺を一瞥し、表情だけで笑って一歩前へ出た。
楓ちゃんの腕をつかんで、引っ張ろうとするもふり払われる。
尻もちをついて楓ちゃんを見上げる。
その表情には一切の未練も、恐怖も無く。
ただ安堵したという言葉が一番似合う表情だった。
轟音とともにスピードを緩め始めた電車が見える。
楓ちゃんは一歩、また一歩と踏み出す。
一瞬こちらを振り返って、再び俺に微笑みかけると、彼女はそのままホームから飛び降りた。