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翌日、俺とアリスさんは早朝から件の駅のホームに居た。
簡素な照明に照らされるホームに溢れる人々は皆どこか疲れた顔で、一種病的な物すら感じさせる。
幸か不幸か、そんな人々の中に楓ちゃんの姿は無い。
「未来が視えるなら、きちんと時間を確認しといてほしいもんだ……」
欠伸を噛み殺しながら不満を漏らすアリスさんは、寝癖だらけでひどい有様だ。
「ごめんごめん……いやでも、直感だけど朝ってことはなんとなくわかったんだし、それで大目に見てもらえたり……しないかな」
「直感が当たればね……」
やはり耐えきれなくなったのか、アリスさんは人目もはばからずに大きく口を開けて長い欠伸をした。
「……せめて口元に手を当てるとかしようよ」
「んー……」
俺の指摘も気にした様子は無いようで、近くにあった自販機でコーヒーを買ったりなんてしている。
なんてマイペースな人なのだろう。
アリスさんは缶コーヒーのふたを開け、ゆっくりと周りを見渡すと、小さくため息をついた。
「ところで、一つ確認なんだが」
「ん、何?」
「お前の視た未来に、私は映っていたか?」
「……そういえば居なかった気がする」
「……なるほど、なら良かった」
「?」
楓ちゃんがあらわれて、その場で説得することができるとしたら、現状一番その可能性があるのはアリスさんだし、もし失敗しても無傷で救出できるのもアリスさんだ。
だから念には念をと思って連れてきたのだが、この時点で俺の視た未来は少し変化したのかもしれない。
「ってことは、楓ちゃんが自殺する未来は回避できた?」
「楽観視にもほどがあるな」
そんな俺の淡い期待を一蹴された。どうやらまだ気は抜けないらしい。
「ま、いいや。私が居ると現れないってことかもしれないし、少し距離を開けよう。なに、準一から見えない場所に居ればいいんだ、私は何かあればすぐ来るから安心しろ」
「……大丈夫だろうか」
俺の肩にポンと手を置くと、有能な魔法使いは甘い香りと不安を俺に残してその場から消えてしまった。




