『一万字で綴る愛の唄』
『一万字で綴る愛の唄 』
これは、恋文です。
と、書いて恋文を書き始める人は居るのだろうか?
昔、某大手広告代理店で『三行で綴る愛の歌』と云う、
キャッチコピー募集の広告を見た事があるけれど、
三行で一体どうやって想いを告げるのか、僕にはそれが分からなかった。
君への想いを、たった三行で綴る事など、僕には不可能だよ。
使用する文字を厳選して、
文章を何度も推敲して、幾度と書き記しても、
とても無理だった。
俳句にしかならないんだ。
ごめん。
だから、僕は君に一万字の恋文を送りたい。
今、驚いてる顔か、あきれてる顔が見えたよ。
それと、俳句の方が良いって呟く姿も。
そうだよね。
一万字の恋文なんて貰っても嬉しくなんかないよね。
うん。判ってるんだ。迷惑だって。
突然、こんな手紙を貰ってもどうしていいか分かんないよね。
原稿用紙25枚分の手紙なんてね。
焼き芋の燃料にならない事だけ願いながら続きを書くよ。
文字が多ければ良いって思ってるかって?
それはないよ。一万字でも足らないんじゃないかって思ってるよ。
あれ、やっぱ思ってるのかな。
ただ、同じ言葉を何度も書き記すつもりは無いよ。
好きです。好きです。好きです。好きです。
愛してる。愛してる。愛してる。愛してる。
書いちゃったけどね。
でも、こんな陳腐な言葉をただ並べるだけじゃ、到底、僕の想いは表せないんだ。
どんなに良い言葉でも、連記すると意味が軽くなってる様に思うのは僕だけかな?
だから、君の名前もあまり呼ばないようにしているんだ。
心の中では大連呼しているんだけどね。
初めて見たのは、入学式だったんだ。知らないと思うけれど。
周りの女の子より少し背の低い君は、校長先生の話を背伸びしながら聞いていたね。
僕は見てたんだ。
みんなが退屈そうに校長先生の話を聞いているのに、君は真剣に聞いていたのを。
その横顔に、一目ぼれしたんだ。
そう、あの日からずっと君の事を追っかけてた。
来る日も、来る日も君を想い続けたんだ。
雨の日は、君が傘を忘れて居ないかと思って、
毎回二本持っていってたんだよ。
一回だけ、君が傘を忘れた日があったね。
その日も僕は二本持って来て居たんだ。
でも、声が掛けられなくて。
君は、僕の知らない男の人の傘に入って帰って行っちゃったんだ。
僕はとても悲しくてその日は一人でずっと部屋で泣いてたんだ。
でも、次の日、目が腫れてる事を気遣ってくれたね。
すごく嬉しかったんだ。
ちゃんと見てくれてたんだなって。
泣いて良かったと思ったよ。
一番記憶に残ってるのは修学旅行かな。
同じグループで色んな所を廻ったね。
二人きりだとどんなに嬉しいと思った事か。
おみくじを引いた時、君は大吉で僕は吉だったのを覚えてる?
その時君は、僕らしいおみくじだねって言ってくれたんだ。
可もなく不可もなく。その時、僕はいつか告白しようと決心したんだ。
それから暫くして、君はあまり学校に来なくなったね。
お母さんの容態が悪いと聞いていたから、心配していたんだ。
君が泣いている所を見つけたときは、胸が痛かった。
でも、勇気が無くて、その時もまた声が掛けられなかったんだ。
すぐに君は、元気な不利をしていたのかな?
元気そうに振舞っているのを見て、強い人だなってさらに、好きになったんだ。
卒業式の練習の時に、リズム感が悪い僕に付きっ切りで教えてくれたね。
時には手を取り、僕は心臓がどきどきして何も覚えられなかったんだ。
だから、たぶんこの手紙を読んでいる頃には、僕の無様な格好が見れたと思う。
恥ずかしいな。
卒業したら逢えなくなっちゃうけど、家が近いからまた、どこかで出会えると良いな。
いつも、逢えたら最高なんだけど。
さぁ、もうすぐフィナーレだよ。
やっと、ここまで来れたよ。長い道のりだったけど。
やっと一万字に届きそうなんだ。だから、言わせて頂きます。
山本先生、あなたの事が好きで好きで堪りません。
「よくここまで書けたね、はい次、田中君読んでくださ…」
「先生!! ほ、本気です! 僕はあなたの事が大好きです」
シーンと静まるクラス中。
「ありがとう。でも、先生と生徒は恋しちゃ……そんな決まりは無いね」
「え、じゃぁ…先生」
「でもなぁ、先生、男だぞ。いくら生徒と先生の恋は許せても男と男は先生はちょっとなぁ…あはは」
「それと~、先生の事を君って言うな~判ったかぁ? 」
「やっぱり……」
どっと沸くクラス中。
僕は生き恥を晒した。
「ところで、この余ってる20枚の原稿用紙どうすんだ? 」
「焼き芋の燃料にでもして下さい。」
二千字すら行ってません。ごめんなさい。
「あほっ宿題は原稿用紙25枚だ。お前補習決定な。」
まさか、作文を読まされるとは…
でも、ちょっと嬉しかったりして…
おしまい