第二話 前途多難の着任(2)
ゴウたちはようやく第二管制船に着きます。まずは管制船の司令に会い、辞令を受け取りますが…。
自 2004年4月9日
至 2005年5月23日
宙港まで戻るとそこには小型のパトロール艇が泊まっていた。第二管制船の搭載機と思われる。船腹に管制局と冥王星のマークが描かれ、2という数字も見える。
「形式はパトロール艇だけど、もっぱら基地との連絡用に使っているわ。本来のパトロール艇の予備機でもあるの」
物問い顔の三人にドリーはそう説明して、個人の荷物はもう積んであるからとつけ加えた。
「あの…調達した資材は?」
「ああ、それはあと。あなたたちと資材と両方一度には運べないもの」
「でも、遅れているんじゃ…」
「まあね、でも資材を先にしたら、あなたたちの着任が遅れちゃうでしょ。既に転任者は出ちゃってるし、着任が遅れると困るのよましてあなたたちは新人さんだし…」
「新人じゃいけないんですか?」
まして…という言葉にカチンときたゴウが突っかかる。慌ててチェンがフォローに入った。
「おい、キタノ、よせよ」
リジーもかばうようにゴウとドリーの間に割り込む。
「気にしなくていいわよ、ここは冥王星宙域だもの」
そんな三人を面白そうに見やってドリーがそう言った。えっという顔で見返すゴウたちに更に言葉を続ける。
「ここでは誰も、上司に対する口のききかたに、文句を言う人間はいないってことよ。その変わり、他所〈よそ〉へ行ったら、まわりから袋叩きでしょうけど…」
つまり、ここでは上司に突っかかろうが、タメ口をきこうが構わないが、外へ出たら直せと言っているのだ。
「で、さっきの質問だけど…新人だからいけないのじゃなくて、覚えなきゃいけない事が沢山あるからってことなのよ。例えば、他の宙域ならまず今の言葉遣いを直されるわね。ここでは違うけど…。で、もちろん知ってると思うけど、新人は配属されてから一定期間は研修生でしょ」
研修生、この言葉の持つ意味は大きい。何せ研修期間中は本来の意味で言う給料はまだ出ないのである。つまり研修生はまだ正社員としては扱われていないということなのだ。当然、責任が伴う業務を単独で任されることはない。どれほど優秀であっても…だ。逆を言えば、研修期間中、新人には常にサポートが必要ということになる。人手が足りない上に、更に人手をとられるのであれば、できるだけ早く着任して、より早く研修期間を終えて欲しいというのが、第二管制船全体の本音ということだろう。
「さっ、わかったらさっさと乗って、乗ったらすぐ出発よ」
黙り込んでしまった三人をうながしてドリーも艇に乗り込む。手際よく計器を操作して艇を発進させた。
「ここから半日はかかるんですよね」
チェンがたずねた。
「そうね、そのくらいかかるわ。でもここまで来ればあとちょっとよ」
確かにここまでかかった日数を考えれば、あとちょっとには違いない。でも、こんな小型艇に座りっぱなしの半日というのは、とても長いものである。席を立つことすらままならないのだから…。
「さてと、これでOK」
小型艇が冥王星を離れるとすぐ、ドリーは操縦を自動に切り替えた。
「この宙域まで船が来ることは滅多にないから、管制船といっても実際に管制業務を行うことは少ないけど、せっかくだからこのあたりの状況を良く見ておいてね」
ドリーはそう言って周囲の状況を簡単に説明して行く。軌道上には格別問題となるような障害物はないのだが、状況によっては彗星や特異小惑星などが軌道上に入り込んだり、軌道に接近することなどもあるのだ。そんな説明を聞きながら周囲を観察する。何の変哲もないような宇宙もそうして見ると変化に富んでいるのだと思わせられる。そうこうしているうちにようやく行く手に第二管制船が見えてきた。
船に着くとすぐに司令室へ案内される。そこで引き合わされたのは、司令というにはまだ若過ぎるくらいの青年だった。見たところ、ゴウたち新人とたいして変わらない様にさえ見える。どう多く見積もってもまだ三十代前半だろう。この若さで、いくら辺境とは言え、よくもまあ司令になれたものだと感心する。第二管制船には若手が多いとは聞いていたがこれ程とは思わなかった。いや、もちろんまだ司令にしか会っていないのだから断定的なことは何も言えないが、司令からしてこの若さならあとは推して知るべしであろう。でもまあいいか、どうせそう長くいるわけじゃなし…とゴウは思い直した。親父に頼み込んで、さっさとこんな辺境は離れちまおう。どこでドジったかわからないが、自分にはもっとふさわしい舞台がある筈だとゴウはそう信じていた。
「やあ、よく来てくれた。遠路はるばるごくろうさん。私がこの船の司令、セイイチ・ロクキ。皆にはロッキーと呼ばれている。これからよろしく頼む」
司令はそう言って、一人一人と握手をした。副司令が三人に辞令を手渡す。
「それからこれは艦内見取図。この管制船の内部はかなり入り組んでいるから、まず艦内で道に迷わない様になって欲しい。新人に限らず、ここに初めて来る者は大抵、一度は道に迷うものだからね。まあ道に迷ったらその辺にいる人間をつかまえて聞いてくれればいい」
「はあ…」
道に迷う? こんなちっぽけな管制船の中で? へっと思う。まあちっぽけとはいっても、それなりの広さはもちろんあるが、大きな基地とかじゃあるまいし…。ゴウはそう思ったが、実のところ他の二人も似た様な事を考えてはいた。
「ロッキー、技術部だけ迎え出せないって、誰も手が離せないらしいわ」
辞令を渡したあと、それぞれの配属先に連絡を取っていたドリーが、ロッキーを振り返って言った。
「やれやれ、しょうがないな。まっあそこは仕事が仕事だからな。じゃ悪いが君が行ってくれ」
「OK、じゃキタノ君、行きましょうか」
「あの…、見取図もありますし、一人で大丈夫です」
この際、いいところを見せておいて損はないとゴウは思った。いくら入り組んでいるとはいえ、ちゃんと艦内見取図だってあるのだ。何とかなるに違いない。
「そうか、それなら行って見るといい」
ロッキーはちらりっとドリーの方を振り返り、そう言った。この時、二人の目がいたづらっぽく輝いたのには、三人とも気づかなかった様だった。
さて道に迷うと言われたゴウは無事に技術部にたどり着けるのでしょうか? ドリーとロッキーの目がいたづらっぽく輝いたのは何故?
入力 2013年6月27日