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第二話 前途多難の着任(1)

 お待たせしました。第二話いよいよスタートです。


 タイトルを見ていただいてわかる通り、着任からトラブルの予感。とはいえ、まだ第二管制船にはついていませんが…。話が切れなかったので、ちょっと長めです。それではどうぞ。


自 2004年4月3日

至 2004年4月9日


 遠くに見えていた冥王星が次第に近づいてくるのを、船の窓から眺めてゴウはまた一つ溜息をついた。とうとうこんな最果ての地まで来てしまったのだ。すぐ隣でリシェンヌとチェンも同じ光景を見ていた。溜息こそつきはしなかったが、おそらく似た様な思いでいるに違いない。

「流石に遠いわね、ここまでは」

リジー(リシェンヌ)がポツリとそうつぶやいたことが、そのことを物語っている。ここは太陽から最も遠い惑星なのだ。だが、ゴウたちが配属されるのは、この冥王星基地ではない。ここで更に船を乗り換えて第二管制船に向かうのである。冥王星には現在、第一と第二の二つの管制船しかない。ここと星の基地にある管制センターとで、この宙域の管制を行っているのだが、もちろんこの三点だけで、冥王星の軌道すべてを管制できるわけではない。冥王星は太陽系の外縁部に属し、その軌道半径は100億kmにも達する。軌道のすべてを管制しようとすれば、膨大な数の管制船が必要になる。だが実際には、この宙域まで一般の宇宙船がやってくることはほとんどない。それも大部分は冥王星そのものを目指してくるものだから、それ程、多くの管制船は現状では必要ではないのだ。


 冥王星の基地について定期船を降りる。めったに基地に来ることはないから、少しその辺を見物してくるといいわと副司令に言われて、三人はまず展望タワーに昇ってみることにした。

「意外に広いな」

 眼下を見下ろしてゴウがつぶやいた。配属先への不満が解消された訳ではないのだろうが、当初よりは少し落ち着いて来たらしい。

「そうね、もう少し小さいかと思ったけど」

 確かに辺境にしては広いと言えるかも知れない。が、この大部分は農地である。ここまで地球から離れてしまうと、食料に関しては自給自足が原則になってくる。無論、何から何までというわけにはいかない。殊に加工食品などは工場施設が必要になるし、保存もきくので、定期船で運んだ方が逆にコストは低くなる。そのことはもちろんゴウたちとて知ってはいたが、それでもやはり広いような気がする。上から見る限りではどこからどこまでが農地なのか判別は難しい。そもそも軍の基地と管制局の基地との境界すらはっきりしない。これがもっと大きな基地であれば、当然、軍の基地は他の施設とは独立に存在する。軍の性格上、どうしてもそうならざるを得ない。が、こうした辺境の地では、独立して施設を作ることはいたずらにコストを上げるだけのことが多い。この冥王星にしても、宇宙港それ自体を民間と共有している。利用度の極端に少ない地域では、民間用と軍用の港を分けることは、かえって双方の維持費の増大を招く。そして宇宙港が一つしかない以上、基地の建物を独立させることもないのだ。従って、天王星や海王星でも外観は似た様なものである。ただ冥王星の場合は、他の地域と決定的に違う点があった。他の地域においては、同じ建物をいくつかの施設が共有する場合、内部はセクションごとに分けられており、特に軍の使用する部分は完全に壁で仕切られ、他のセクションから軍のセクションに行こうとする場合、一旦建物の外へ出ないとならない。しかし、ここではそうした区切りは一切ない。セクションごとに区切ることさえ行われていないし、食堂の様なものは軍も民間もいっしょくたである。軍と他の施設とを明確に分けるのは、つまりは機密の問題があるからなのだが、ここではそうした配慮はなされていない。明らかに軍事機密と思われる様なことをしゃべっている軍人たちのすぐ脇で、農場のおじさんたちが食事をしていたりするなんてのは、ここでは当たり前に見られる光景である。ここでは本当にセオリーは通用しないのだ。無論、初めてここにやって来たゴウたちにそこまで判る筈はない。それ程あちこちを見て歩いたわけでもないし、そもそも地球外のそうした施設の内情について知ってはいないのだから…。だが基地内を歩きまわれば、何となく他とは違うある種の自由さが感じとれる。神経をとがらせなくてもいいという雰囲気があるのだ。それがゴウたちの落ち込みをかなり和らげたのだろう。三人とも久し振りに陽気になり、互いによくしゃべった。「何か、ここって変わってんな。うまく言えないけど…」

「そうね。よその基地へ行ったことないから比べようがないけど…」

 ゴウの言葉にリジーが答える。

「でもさ、居心地は悪くないぜ」

 チェンはそう言ってしまってからしまったと思った。冥王星行きを頑なまでに拒んでいるゴウにあてつけたみたいだからだ。

「そうだな、確かに…」

 だがゴウは意に反して、あっさりと自分でもそのことを認めた。いや、だからといって自身の配置に納得したわけではない。ただ確かにここにいると気持ちが落ち着いてくるのがわかるのだ。第二管制船もこんな感じなのだろうか。ぶらりと基地やその周辺を見てまわって、三人は喫茶ルームに腰を落ち着けた。「出発、いつだって言ってたっけ?」

「まだ決まってないとか言ってなかった?」

「そうそう、確かここの司令と話があるからって」

「第二管制船までここからどれぐらいかな?」

「副司令の話だと半日ぐらいらしいわ」

「まだそんなにかかるのかあ、ホントに辺境なんだなぁ」

「別に辺境じゃなくても、基地から管制船まではそのくらいかかりますよ」

 急にそう脇から声を掛けられて三人はびっくりした。そちらの方へ振り向くとそれは四十代ぐらいの女の人だった。すぐ横のテーブルでコーヒーとケーキを前にしている。

「あの、急に何ですか?」

「あら、ごめんなさい、余計な口をはさんじゃって…。あなたたち管制局の今年の新人さんでしょ?」

「はっはい、そうですが…。あなたは?」

「私はクレア。クレア・ラズフィールド。ここの基地の管理部で働いてるのよ」

「えっじゃあ、管制局の方ですか?」

「ブーっ、はずれ。管理部っていうとかっこいいけど、要はただの掃除のおばさんよ。管制局とも軍とも関係なし、民間の管理会社の社員よ」

「で、そんな人が何でそんなこと知ってるんですか?」

 管制船はすべて管制局の管理下にあり、どこの地域でも民間人が普通に出入りできるところではない。管制船までどれくらいかかるかなんて何故わかるのだろう。

「あら、だってちょっと考えれば判るでしょ。基地と管制船とは管制宙域が重ならない様になっているものよ。それを考えたら大体そのぐらい離れてるものじゃあないの?」

 言われて見れば確かにそうだが、一介の(管制業務も知らない様な)民間人にそれを指摘されるというのは、いくら新人とは言え、ちょっと情けないかも知れない。でもつまり冥王星とはそういうところなのだ。民間人も軍人も公務員も役人も明確な区別のない――無論、それぞれ立場上の区別というものはある。でもそれは冥王星外の人間に対するものであって、この宙域内の人間同士の関係とは異なるものなのである。もっともそのことをゴウたちがきちんと認識するのは、もっとずっと後のことになる。まあそれはともかく、こんな風に言われてゴウは少しムッとした。何だか自分達の無知を馬鹿にされた様な気がする。チェンの言った辺境という言葉が気に入らなかったのだろうか?

「僕らを馬鹿にしてるんですか?」

 つい声を荒げてしまったのだが、相手は別に気にもしなかった様だ。

「あら、ごめんなさい、そう聞こえちゃった? そんなつもり全然ないのよ。だってあなたたち初めて現場に出たんでしょ。知らなくて当然なのよ」

「でも管制局の職員でもないのによく知ってらっしゃるんですね」

 リジーが疑問を投げかける。

「そうね、確かに。でもここは冥王星だから…」

「どういう意味です?」

「ここでは他の地域…宙域と言いかえてもいいかしら…。そこでのセオリーは通用しないってことよ」

「セオリーが通用しない?」

 どういうことだろうとゴウは首を傾げた。その思いをそのまま相手にぶつける。既にそのことについて、いくらか聞き及んでいたリジーとチェンも、更に詳しい情報を聞き出そうと身を乗り出す。

「そうね、ひとことで言っちゃえば、ここでは軍とか管制局とか民間人とかっていう区別がないってことかな」

「区別がない?」

「ああ、もちろん仕事は仕事よ。みんなそれぞれ自分の仕事にはプロとしての誇りがあるから、他人の仕事に口は挟まない。でも、口は挟まなくても知っているってこと」

 何だか判ったような判らないような話だ。知っているというのはどのレベルまでだろう。各自が専門レベルまで知っているのなら、専門家は必要ない。だがどんな仕事をしているかというだけなら、口は挟まなくても知っているなどと言うことはあるまい。(その場合は挟みたくとも挟めないだろう)きつねにつままれた様な顔の三人にクレアはくすくすしながら、

「まあ、いずれわかる時がくるわ。あなたたちもここの仲間になるんだから…」

と、例によって例のごとく、どこか謎めいた言い方で話を締めくくる。

「それより、ほらお迎えが来たみたいよ」

 指し示す方を見やれば、確かに向こうから副司令が歩いてくるのが見える。

「ドリー、こっちよ、おたくの新人さん」

「あら、クレア、久し振り。元気してた?」

「ええ、もう戻っちゃうんでしょ?」

「そうなの。今回、資材調達に手間取っちゃって…」

「トラブルがあったって聞いたけど…」

 言いながらクレアはちらりっとゴウたちを見やる。新人の前で口に出していいかをためらったのだろうと思われる。

「ま…ね。んで、もう時間なくてさ」

 ゆっくりおしゃべりもできないとこぼし、ドリーはゴウたちを振り返った。

「冥王星の見物はすんだ? もうすぐ出発だから宙港の方へ移動するわよ」

 そう言ってドリーはスタスタと歩き出した。あわててゴウたちも後を追う。それにしても、ことあるごとに出会う謎めいた言葉――というかほのめかし――ここには一体、何があると言うのだろう。


 さて、冥王星基地での一幕を終え、一行は一路、第二管制船を目指します。


 次話ではまず、第二管制船の司令と出会います。ノダチーフとは多分、まだ会わないかと……。


入力 2013年6月20日


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