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第一話 夢破れてさいはての星へ(1)

 お待たせしました。いよいよ本編スタートです。楽しんでもらえたら嬉しいです。


自 1990年10月14日

至 1990年11月6日


 その日、ゴウはすっかり意気消沈して宇宙空港へやって来た。空港はいつもの様に賑わっている。いつもならここに来るだけで心が弾むのだが、今日ばかりはそうもいかなかった。意にそわない仕事に向かおうとしているゴウには、却ってそのざわめきが恨めしかった。が、そんなゴウの気持ちとは裏腹に待合室の中は楽しそうな笑い声に満ちあふれている。溜息を一つついてゴウはその片隅にあるソファーに腰を降ろした。何ということなくあたりを見回す。少し離れたところに見覚えのある二人連れがいる。同じ研修センターにいた仲間だ。あの二人は確か天王星行きだったと思う。外縁惑星行きの船はすべて第三ステーションから出る筈だから、あの二人もおそらく同じシャトルに乗るのだろう。その他には見知った顔は見当たらない。同じ冥王星へ行く他の二人はまだ来ていない様だった。もっともこの人混みではいたとしても気づかないかも知れない。ちょうど配転の時期に当たるせいもあるのだろうが、いつもよりごった返しているのだから。ゴウはあたりを見回すのを止め、深々とソファーに身を沈めた。

「ご案内を申し上げます。第三ステーション行きのシャトルをご利用のお客様、八番ゲートよりシャトル行きのバスが出ますのでお乗り下さい。繰り返します。第三ステーションへのお客様は八番ゲートのバスにお乗り下さい」

 待合室の中にアナウンスが流れ、ゴウは重い腰を上げ、のろのろと八番ゲートに向かった。一歩ごとに足が重くなる気がする。まるでぐずぐずしていればいかなくてもすむように…。でもいかないわけにはいかない。いくら何でも赴任先が気に入らないというだけの理由で、会社を辞めてしまうなど出来る筈がなかった。何より二十数倍という倍率をくぐり抜けて、やっと採用されたのであるし、研修が終わったばかりの新人が勤務地を自由に選べる筈もない。もうあとは配転に期待するしかあるまい。バスに乗り一番手近の席に座り込んだ。後ろの方に同じ冥王星行きの仲間の姿がちらりと見えたが、今は誰とも話したくなかった。いちべつした限りではバスの乗客は自分を含めて六人だけである。天王星行きの二人と冥王星行きの自分達三人の他にあと一人、これは見覚えのない相手だった。第三ステーションの人間だろうか? 少なくとも観光客には見えなかった。第三ステーションは外縁惑星行きの輸送船の専用ターミナルであり、シャトルの利用客は他のステーション行きに比べて極端に少ない。その為シャトルも三日に一便しかなかった。利用客の大半はステーションそのものか、あるいは外縁惑星の勤務者である。もちろん第三ステーションにも、他のステーションと同様に観光客向けの宿泊施設等は存在しているのだが、ここからどこかへ観光へ行こうという場所ではないため、一般の観光客はまず寄りつかない。むしろ静かで落ち着いたところで仕事をしたいというものたち(小説家とか漫画家等)の利用が多いようである。

 バスは空港の外れに留まっているシャトルの脇で止まった。手荷物を携えて乗客はそれぞれシャトルへと乗り込む。中は思いの外、狭かった。座席はちょうど六人分しかない。残りはすべて貨物室になっているらしい。六人以上乗客がいたらどうするのだろう。もっとも、そんなに乗客がいることはないのかも知れない。そもそも…。

「失礼。よろしいですかな?」

 ふいに頭の上から声が掛かり、ゴウの思考を中断する。顔を上げると先程バスで見かけた見覚えのない相手が立っていた。

「あっ…ええ、どうぞ」

「では…」

 相手はそう言ってゴウのかたわらに腰を降ろした。見たところゴウたちより、五つか六つぐらい年上の感じだ。

「私はカーター・グロウズといいます。よろしく」

「えっと、僕はゴウ・キタノです。こちらこそよろしく」

「今年の新人さんでしょう? 私は今度、海王星へ転任することになりましてね。君は天王星と冥王星、どちらへ行かれるのかな?」

「冥王星です」

 憮然とした表情で答え返す。とにかく面白くないのだ。

「おや、そりゃあ大変ですなあ…、新人さんじゃあねえ…」

 ゴウの答えを聞いた相手は妙に意味あり気な笑みを浮かべてそう言い、更にたずねかける。

「で、部門はどこです? 今回は確か三部門、移動があった筈ですが…」

 わずらわしいとは思ったが、どうやら同じ宇宙管制局の先輩らしい相手を無視する訳にもいかない。下手に評判を落としでもしたら、二度と表舞台に立てなくなるかも知れない。

「技術部です」

 それでもつい素っ気ない答えになってしまうのは抑えられなかった。が、相手はそんなことには気づかなかった様である。

「ほう」

 と驚きの声を上げ、君がねえと言いながらゴウのことを上から下まで眺め回す。まるで値踏みでもしているかの様だ。一体、何だというのだろう。

「あのノダチーフの下ですか、成程ねえ…。いやうらやましい」

 うらやましい? 何がだろう。が、それを問い返す前に相手の方が言葉を続けた。

「まあ、せいぜい頑張んなさいよ。見捨てられないようにね」

 妙なことを言う。何だか訳がわからなくなってきた。

「あのう…一体…」

 とにかく事情をもう少し詳しくと思って、問い掛けしかける。そのゴウの様子を見て相手は破顔一笑した。

「はっはあ、その様子じゃ何も知らんようですな。まあ行ってみれば判りますよ」

 と、そこへ出発を知らせるアナウンスが入り、会話は一時中断した。宇宙へ出てからは、カーターが何やら書類を取り出して読み始めてしまったので、それ以上ゴウは何も聞くことができなかった。仕方なく窓の外へと視線を走らせる。遥かな日から憧れていた宇宙がそこにあった。けれど、それは幼い日、初めて見たあの宇宙に比べて、何と色褪せて見えることだろうか。いつかこれがまたあの頃の様に輝いて見えることがあるのだろうか。深い溜息を一つついてゴウは目を閉じた。それに気づいたカーターは書類から顔を上げ、その方へちらりと視線を投げて大きくうなずいた。

「ゴウ・キタノか。覚えていて損はなかろう。あのノダチーフの下に入るのならな」

 ゴウに聞こえないように小声でつぶやいた。それにしてもこのカーターという男が、二度も口にしたあの〈・・〉という表現は何なのだろう。技術部のノダチーフにはそう呼ばれる何かがあるらしいが…一体それは…。


 新作のスタートです。銀河戦争ものと異なり、こちらは近未来の地球が舞台です。


 宇宙管制局の新人、ゴウはこれからどう成長するのでしょうか?


 次話から同期の仲間たちも登場しますので、乞うご期待!


入力 2013年5月17日


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