Ⅰ
いつものように教室で居残りしてバイト先のカフェである新メニューを考えていたのだけど。
「………っないっ!ないっ!ないっ!」
先程の授業で取った内容のルーズリーフをすべてひっくり返して探す。
なんで!何でないのっ!
確かに、書いてたのにっ!!
視界がぼやけてくるのはしょうがない。だって最近の中では結構いい出来だったのだ。予想予算も手頃な価格に収まって、これなら店長もOKを出してくると思って安心してしまって……居眠りしてしまったのだ。
「居眠りなんかするんじゃなかった……」
盗まれたとしても普通ならお財布とか色々危なかったものがあるのに、なんでデザイン画とレシピを持ってくのよー!
もう嫌すぎて思わずしゃがみこむ。すると見慣れたルーズリーフが一枚落ちてて見つけた瞬間に飛びついてあった!と叫んだのだがそこには私のデザインが書かれたものではなく誰かの電話番号が書かれていた。もしや……と思って携帯を手にとって番号を入力しようかなと迷う。もしこれが知らない人で大学外の人だったら……と少しだけ怖くなる。けれど!もう一回書き直すなんて出来ないっ!大まかにしか覚えてないし、何より試作品を何度も何度も作って出来たものだからもう一回1からやるのは私のお財布事情が大変なことになるのだ。店長が新しいメニューを気に入って採用されれば給料も弾むし何かと嬉しいことが多いのだ。くぅ……!
意を決してボタンを押す。変な人が出てきたら即座に切ろう。んでもって警察に被害届を出そう。動いてくれるかわからないけど使えるものは使ってやる。
『……もしもし』
「もしもし……?」
相手が電話にでた瞬間少しだけ怯んでしまった。
だって、だって、雰囲気が!声が!なんか強いっ!
困惑して思わず切りそうになった私に非はないっ。そんな私にさらに衝撃の発言をかます。
『なぁ__あんたの名前ってなんて読むの?』
「……」
思わず、だ。思わず。
ツーツーと電話口から虚しい機械音が聞こえるのは断じて私のせいではない、はずだ。いやうん。そう。だって、普通は名前知らなかったり知ってたとしても“読み”のことなんて誰も初対面では聞かない。きちんと、手順を追って名を口頭で名乗るから漢字をイメージしても90%の確率で間違う。当たり前だ。だって……
「愛なんて普通読まないもの。」
自分としては気にいっている名を貶されたような気がしてしょぼくれる。でも、あの人だけだ。書面をみてなんて読むのってきいたひとは。だってみんな愛ってよむから。
「も、忘れよ。バイトいかなきゃ」
散らかしたルーズリーフをまとめてクリアファイルに突っ込んで鞄に入れる。最後に忘れ物がないか確認して少しだけ足早に教室を出た。
レシピは名残惜しいし、生活費が増えると確信していたから食材を買い込んでしまったのでお財布がちょっとつらい。
外にでると、春先だというのにまだ肌寒くて思わず上着の前をきつく閉める。桜の蕾がまだ開かない。
無くなった、というか盗られたレシピに少しだけ未練を残しながらバイト先へと向かったのだ。
そんな私を後ろからだれかかみてるなんて思いもしなかった。




