「ザルだよ。かなり酷い位に」
【秋宮桔梗】アキミヤキキョウ
ミュータント。動植物の言葉を認識し、代弁する事が出来る。ただし、思考まで読み取る事は出来ない。二つ名は『代弁者』
普段は落ち着いており、敵意を抱く者を除けば、基本的には誰に対しても優しい性格。外国人と旧式は肯定派で、エリー、甕覗とは友達である。ヤマトとは今は知り合い程度の関係。
肩に鳥が乗っている。名前は無いらしいがそれなりに可愛がっており、鳥の餌を携帯していたりもする。また、捨てられた動物を見捨てられず、ついつい拾っては友人達に「どうしよう」と問う始末。
外国人とは何らかの関係性があるようで、エリーを見る目はヤマトのそれとも違う。外国人を敵視する現代人に対して、非常に複雑な気持ちを抱いているとか。ちなみに目の色素が少し薄く、焦げ茶色。
ヤマトにとって学校とは、勉強をする場所という印象は薄い。単なる人付き合いの場と言われた方がしっくり来るとか。正直、私も同感だ。
しかし、言って何だが人付き合いは得意ではないというヤマト。話に混ざる事も無く、ただゲームを続けるのが日常となっている。じゃあ学校の意味って……
そんなヤマトだろうが誰だろうが、返事を貰うまで話しかける冬樹だったから、この真っ黒な紙のような奴に白を塗り直し、自分の紺青色を付け加えられたのだろう。
そんなヤマトに、それ以外の方法で友人と言わせる方法とは何か……
「……どうも」
「ん? うん」
ずばり、縁だろう。
この短期間に二度目の顔合わせ、一応挨拶を交わす。元々あまり話すような二人ではないし、これでも進歩じゃないだろうか。
案外馬が合うのか、会話が弾みはせずとも行動は合うみたいだ。ただ何かに没頭しているだけだがな……
図書室でひたすら本を読む翠と、向かい合う場所でイヤホンを付けてゲームをするヤマト。見る者によっては様々な解釈が可能に見える。先に言うが、恋愛感情なんぞ考えぬよう。
さてさて、縁だけでは限界という物がある。場を和ませるようなムードメイカーか、二人の仲介人のような人物が必要だろう。
「おお、ヤマトか」
「ん?」
ここでヤマトにかかる声があり、その主を見る。
「誰かと思えば」
「出会って早速だが、図書室でゲームをしているのは何故か? 没収が嫌なら納得させてみろ」
お待ちかね仲介人、左手に本を一冊持ったヤマトの教師だ。ここらでやっとまともに紹介しようと思うが、この人物は『一銀火矢』という名である。いちぎんひのや、と読む。
卍といい躑躅といい、変わった名前が多いように見えるだろうか? かく言う私の友人にも数人、読みにくい名の奴が居る。卍ほどではないが。
分かりやすく言うと、『こうじ』や『あけみ』というような、それが名前だとすぐに認識出来るような名前は、あらかた使われている為同名の人物が増えてきているのだ。その差別化の為に、自然とこうなったのだろう。ヤマトが片仮名表記なのも、他人との差別化という理由だと思われる。
だが、外国人以外に横文字の名前が居ないのは、それだけ日本の外国人嫌いが根付いているのだろう。
さて、ヤマトの言い訳は……
「……本は読み飽き」
「嘘を言うなら、もう少し捻るんだな。没収」
さよならゲーム機、放課後また会おう。
「で、先生は何故ここに?」
「やるべき仕事が思いの外早く片付いたからな、個人的に寄った」
隣貰うぞ、と言いつつ翠の隣を陣取り手に持っていた本を読み始めた。本の題名は『教師に贈る、居眠り生徒の対処法』……なんて題名だ。
「で、お前ら。調子はどうだ?」
本を読みながらも話しかけてくる火矢。
「普通です」
すかさず翠の返事。普通の基準がよく分からないのだが……
「ゲーム取られて寂しいです」
ヤマト、それはただの自業自得だ。
「へい、本調子と」
「あれ、僕はゲームが無いと本調子じゃないんだけど……」
「俺が知っている本調子のお前は、基本的にゲームを所持していない」
「それ、先生が一々取ってるだ」
「君が悪い」
翠に言われ、反論をやめるヤマト。味方が居ない。
「で、何故いきなり調子の確認を?」
「最近物騒な事件が続くからな、たまに憔悴したような顔をしている生徒が居るのさ。ま、ちょっとした確認だ」
ヤマトは軽くあしらったが、あの犯罪者の起こしていた事件は結構世間に広まっている。それを心配する生徒が居ないわけではないだろう。
「まぁ、その物騒な事件に巻き込まれた奴に言うのは少しおかしいか」
「……そんな事、してたの?」
ヤマトは口を閉ざした。
「してたな。というか、一度はコイツが解決した」
「は?」
翠にしては珍しく声を上げた。まあ、人間である以上驚かない事は無いだろう。
「詳細についてはあえて伏せる。興味が出たなら自分で調べてくれ」
お前が他人に興味を持つとは思わんがな……と呟く火矢。どうも翠、交友関係は広いが人付き合いは悪いらしい。
「さて、そろそろ授業の時間だ。切り上げて教室に来いよ」
「「はい、先生」」
「良し」
では、授業を見学しに行こうか。少し重要な内容を勉強すると呟いていたので、聞く価値が無くはないだろう。
「さて、授業を開始したいと思うが……まずは紺青。そのトランプは何だ」
「しまい忘れました」
「授業開始までに時間はあった。しまう時間は充分だったよな? アウトだ」
早くも撃沈。
「全く、お前らはそんなに俺に怒られたいのか?」
「というか、先生から勝ちを拾いたいんじゃ?」
特に関係性も無い他の生徒からの声。
「それは授業外でやれよ。授業中にやられて進行が遅れるのは勘弁したい」
ここで禁止しないのがらしいというか……
「改めて、授業を始める。さて、本来なら次回のテスト範囲でもやりたい所だが……」
ちょっとだけ間が開く。
「今回はちょっと特別授業だ。だから、端末はしまって聞いてくれ、テストには出ない」
それを聞いた生徒の反応はまちまちだ。ヤマトはどうでも良さげ、冬樹は居眠り寸前、翠は割と真剣に聞いている。
「日本国が太陽系を支配下にしているのは周知の事実だが、惑星それぞれで具体的に何をしているのかは意外にも知られてない。今回はこれをネタに授業を進める」
ネタ言うな。
「まず地球。大半の人間はここを生活圏にしている。つまりはメイン生活圏だな。特に覚える必要のある事は無い」
「なら何で言ったんですか」
「一応だ。質問は良いが黒江、友人は起こさないのか?」
「起きません」
「耳たぶを両サイドから引っ張れば起きる」
やった。
「あだだだだだだ!?」
「起きたな? では再開する」
何気に酷いが、大丈夫か?
「水星は主に、食品を筆頭に様々な物を生産する場所として使われている。ごく一部の人間も済んでいるが、あまり見ない。水星は元々は人が住める環境ではなかったが、とあるミュータントの能力を応用した機械を稼動させているので、今は生活云々には問題無い環境になっている。その機械が水星のどこにあるかは秘匿情報だがな」
そりゃあ、その機械が破壊されたら水星からのあらゆる供給ラインがストップする。ミュータント能力さえあれば大丈夫だろうが、水星の供給ラインを無くすのは流石に痛い。
「ちなみに、水星の供給ラインがストップしたら約三年で地球が食糧難に陥るらしいな。おお、こえぇこえぇ」
生徒から感心するような声が上がる。少し興味が出たのか、ヤマトも耳を傾ける。
「次に金星だが、こちらも水星と同じ機械が使われている。地球のように生活圏として利用されるが、ノーマルがほとんど居ないミュータント達の星だ。ただ……」
……どうした?
「荒くれ者が多く、能力による事件が多発。これを上層部の偉い奴らが見て見ぬ振りをしているのが現状だ。ミュータントが多いから、迂闊に手出し出来ないのは分かるがなぁ」
曰わく、そんな荒くれ者が地球で犯罪を起こす事も多いらしい。迷惑な話だ。
「特に用事が無ければ、好き好んで行きたい場所じゃないな。あそこに放り出されたらどうなるか、想像したくもない」
「先生、気持ちを吐露したいのは分かりますが今は続けて下さい」
翠の注意。火矢がハッとし、切り替えるように次の話にした。
「そうだな、次は火星だ。水星と金星に使われているような機械が以下略。ここも生活圏だが、居るのは階級の非常に低い奴らがほとんどだな。具体的には、奴隷身分の奴、孤児、そして外国人だ。それぞれの扱いは大いに違うが、基本的には奴隷は貴族階級の奴に売られ、孤児は後で説明する天王星の施設で教育される。外国人は基本的に奴隷でも最も底辺の扱いをされるな」
最後辺りに非人道的な事が聞こえたが、それを『当たり前』と感じる奴らが多いのが悲しくなる。ただ、彼らに責任は無いので、貶さぬように。
ところで、説明が面倒だからといって『以下略』を口で言うのはどうなんだろうか。
「木星はガス惑星なので、木星内部の空気の層の中に巨大な施設を作っている感じになるな。主に貴族階級の人物、または上層部の偉い奴らの生活圏だ。古い物と外国人を嫌う性格が特に顕著な場所でもあり、施設の機械は常に最先端。外国人は奴隷として買われた奴以外は出入りを許されない場所でもある。規制や法律が最も厳しく、最も緩い場所だ」
「……先生、それ矛盾してませんか?」
「残念ながら、していない。偉い人達は法律をねじ曲げる事も容易でな。後は分かるな?」
あまり分かりたくはなかった。ちなみに、警察関係の人達も偉い人物相手には動けないでいるらしい。非常に嫌々ながら、証拠をもみ消してしまっているという話も聞かなくはないのが、悲しい。
「土星にはミュータント達御用である、例の彗星が保管されている。行く途中に何度かテレポーターを使ったり歩いたりするが、あれは詳しい場所を把握させない為だと。記憶力の良い奴相手には無駄だろうにな」
目隠しして歩かせりゃ良いのにな、と呟いているが、言い終わったらすぐに思考を変えて話を進める。呟いていたと言ったが、生徒には丸々聞こえていたがな。
「彗星が保管されている以外には、特筆するような施設などは無い。ただ、テレポーターや別れ道などが非常に多い。分かりやすく言うと、土星丸々迷路になってる。防犯には良いが、分かってなけりゃ永遠に出れないだろうな……」
どうしてそうなった。
「ちなみに、この迷路には正確な地図が無い。右に四回曲がっても上下にずれている事があるし、いつまでたっても変わらない光景が進んでいるという感覚を無くす。軽い気持ちで入って、干からびても知らんぞ?」
ゾッとする事をサラッと言う。実際、土星の迷路は極稀に干からびた死体に出会う事があるので、その怖さが分かるだろう。
……何故知ってるか、だと?
……………………
「さて、土星はもう良いか。天王星は主に教育施設に力を入れていてな、エリート校とかも随分ある。普通の所もあるから安心しろよ。成熟していない小児や孤児専用の教育施設もあるし、それらを更に高める優秀な人材が教師として投入されている。より高みを目指すなら、ここを目指すといい。余談だが、基本的にテレポーターでの移動になる」
土星の危険性を充分伝えた所で、素早話題を切り替えた。ただ、その恐怖は抜けきらない様子。ただしヤマトを除く。
「海王星の情報は秘匿情報だそうで、俺は知らされていない。知ってるといえば、ほとんどが四次元空間という事だけだな」
待て、何故それを知っている。
「いや、これは友人がポロッと漏らしただけで、確証は無いがな……さて、冥王星だな。ここは簡単に言えば牢獄だ。電子の世界の管理もここでやっていて、人口知能の犯罪の取り締まりをしているらしいが……」
ヤマトの懐の携帯に居る甕覗が反応したが……
「ザルだよ。かなり酷い位に」
呆れていた。
「ま、人間側の警備はやたら厳重だな。ミュータントには無力だが」
「それ、駄目じゃないっすか?」
「とある噂だが、警備の全てを一人のミュータントが支えていたらしいが、そのミュータントが行方不明なせいでザル警備になったらしいぞ?」
……ん、そうなのか?
「その行方不明さえどうにかなれば、ザル警備やらも全てどうにかなるんじゃないか? あくまで噂だがな。さて……」
惑星それぞれの話が終わり、次の話題を思案する。
「悪い、次の話題が思い付かん。興味が出たなら復習して、他の奴らにでも喋っとけよ」
「え?」
「授業終わり、他のクラスに迷惑をかけない程度に自由にしとけ」
え、終わり? と疑問を持つ前に、本当に終わってしまった。若干呆気にとられる生徒は置き去りにし、火矢は黒板に書いた物を消していく。ちなみに、黒板も端末機を使っているので、数秒後には真っ白……いや、真っ黒。
「さて最後に」
ここで急に振り向き、火矢が問う。
「今の話を真面目に聞いていた奴だけ、手を上げろ。正直にな」
いきなり何だ。ちなみに、翠と他数名のみが手を上げていた。一応、私も上げているが……
ヤマト? 当然手を下ろしている。
冬樹? 寝ている。
「…………ふむ」
怒るかと思えば、案外表情は柔らかい。
「少し退屈だったか。次から直す」
そう言って冬樹に目線を向け……
「寝るな、馬鹿者!」
拳による制裁が入った所で、退出しようか。
結構面白い教師だと私は思うが、君達はどう思った? 今回の事は勉強になったかな?
私も、新しい情報が手に入って満足したよ。手に入るとは思わなかったが……
さて、今回は解散するか。ではまた。
ふむぅ、次回は誰を見るかな……?
先生、しっかりして下さい。
中学生の時は英語と理科の先生が好きだった空椿です。しかし、成績は……
序盤のみ話題になった翠。あの子はあまり目立たない方向で進めて行きます。冬樹が目立つからそうなって行くなぁ。
そんな風に、影の中から出て来ない翠を引っ張り出すのが、今回名前が明らかになった一銀火矢先生。生徒が放っておけない性格してますので、根暗だろうが人嫌いだろうが馬鹿者だろうが、平等の位置に立たせようとします。存在がまだ謎めいてる翠を、しっかりなんとかしてくれるでしょう。
実は南柊の隠れ名物の、火矢への言い訳。納得さえ出来る理由ならば、ゲームでもズル休みでも解放してくれます。ただし難易度は高い。本当に駄目な事は言い訳無用ですよ。
名物みたいなのは一つあると学校が楽しいと思います。私の知っている学校にはありませんでしたが……
水金地火木土天海冥の詳細が出ましたね。冥王星だけ準惑星ですが、気にしない方向性で。
まとめると、水星は食品関係、金星はならず者ミュータントの居住地、火星は身分の低い者の居住地、木星はお偉いさんの居住地、土星は彗星を管理してる超巨大迷路、天王星は教育施設の聖地、海王星は『KEEP OUT KEEP OUT』、冥王星は牢獄と電子の世界の管理。地球は基本居住地で、他の惑星の良い所を真似てます。
舞台は地球が主ですが、何かの拍子に金星とか土星とか行っちゃいます。フハハハ、アクシデントが目に浮かぶようだ!
戯れ言はさておき。今回はここまでとします。今後とも、暴走劇をよろしくお願いします。ではノシ
※このページは一部、一般人への公開が禁じられている情報があった為、修正がされてあります※